軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

80 変化

目にも留まらぬ速度で交差する二つの影。

異次元の攻防。

観覧席を守るために張られた特別製の魔術障壁を強烈な衝撃波が叩く。

揺れる王立騎士団第一演習場。

誰もがその常軌を逸した戦いに目を奪われる中、第一王子ミカエル・アーデンフェルドが見ていたのはノエル・スプリングフィールドの僅かな変化だった。

(また変わった)

それはほんの小さな変化。

驚異的な速さで交わされる攻防の中でその違いに気づいた者がどれだけいただろう。

おそらく、ほんの極一部。

そして、彼女の持つ異常性に本当の意味で気づいたのも彼らだけだった。

(まただ。今までと違う)

戦いの中で変容する動き。

相手に合わせ、急速に洗練されていくその姿に、ミカエルは黄金の瞳を輝かせる。

王国史上最強の騎士と称えられる剣聖。

圧倒的に見えたその力に、さらに先があったのも驚きだったが、それに一歩も退かずに追随する姿は最早狂気の域に到達している。

(素晴らしい……俺の想定を超えていくか、ノエル・スプリングフィールド……!)

それは彼にとって極めて希少で貴重な経験だった。

卓越した頭脳を持ち、未来視の力を持っているのではと噂されるほどにあらゆる物事を予見してきたミカエル・アーデンフェルド。

誰もがその傑出した才能を称える中で、しかし彼の中にあったのは決して満たされない退屈だった。

すべてが自身の予想を超えない日々。

そんな彼にとって、ノエル・スプリングフィールドの存在は極めて興味深いものだった。

未だ全容を計りきれない、底知れない才能と将来性。

(ルーク・ヴァルトシュタインにも感謝しなければいけないな。彼がいなければここまで剣聖の攻撃に耐え抜くことはできなかった)

歴代最速、最年少で 聖金(アダマンタイト) 級まで昇格した、一般には彼女以上にその将来を期待される天才。

彼が用意した高負荷トレーニングの成果は間違いなく出ている。

(誇っていい。君たちは本当に良く戦った)

ミカエル・アーデンフェルドは思う。

(だが、今の彼女では剣聖には届かない)

観覧席でルーク・ヴァルトシュタインは、じっと二人の戦いを見つめている。

目にも留まらぬ攻防。

ただ息を呑むことしかできない観衆たち。

「苦しいな」

つぶやいたのは隣に座ったガウェイン・スタークだった。

「今の剣聖とあの距離でやったら俺でもどうなるかわからん。あの異常な対応力でも、勝利条件の五分が経過するまで凌ぎきるのは不可能だろう」

「あいつの力に気づいてたんですね」

「最初にあいつと手合わせしたのは俺だ」

ガウェインは言う。

「さすがに、剣聖相手にここまでついていくとは思ってなかったけどな。王子殿下が評価するのもわかる。あと三年もすれば勝機もあっただろうが」

一見すれば互角に見える攻防。

しかし、ほんのわずかな精度の違いが埋められない力の差として二人を分けていた。

現段階で勝てる可能性は絶望的なまでに低い。

それはルーク・ヴァルトシュタインも戦う前から知っていることだった。

「そもそも、五分間という時間設定に無理があるんですよ。あのハイペースで持つわけがない。時間が経てば経つほど魔法使いが不利になる」

戦いの中で魔力を消耗する魔法使いは、魔法を使わない騎士に比べ持久戦において不利になりやすい。

体力を同じだけ消耗した場合、魔力が消耗する分魔法使いは戦闘開始時よりも力を制限された状態で戦うことになる。

そこまで見越しての魔封じの腕輪――高負荷トレーニングだったわけだが、しかしあまりにも相手が悪すぎた。

剣聖の動きは戦闘開始時から時間経過と共に鋭さを増している。

あれでは、制限時間まで凌ぎきることはまず不可能。

身体はついていけたとしても、失った魔力の差が埋められない。

「最初から勝たせる気なんてないんです。剣聖相手にある程度戦えればそれでいい。 王の盾(キングズガード) に選抜するだけの実力があると示すことがこの戦いの目的でしょうから」

「善戦して負けるのが王子殿下の用意した理想的なシナリオ、と」

「そういうことです。七百戦無敗の壁はあまりにも高い。普通に考えれば、まず勝てないのはわかりきっている」

ルークは言う。

「でも、生憎あきらめが悪いんですよ。僕も、あいつも」

その言葉に、ガウェインは口角を上げた。

「何か策があるわけか」

「時間での勝ちが望めない以上、正面から倒して勝つしかない。僕とあいつの持っている力を最大限活かして一度きりのチャンスにすべてを懸ける」

ルーク・ヴァルトシュタインは言った。

「ここからが本当の挑戦です」