軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

77 対策

私はルークと御前試合の対策を開始する。

「……この資料、全部読んだの?」

「これくらいしないとスタートラインにさえ立てない相手だよ。剣聖は」

ルークは現存している剣聖の戦闘記録をすべて分析して作戦を立ててくれた。

「剣聖は 聖宝(メイガス) 級魔術師と並ぶ王国最高戦力。個人戦闘七百戦無敗、王国史に名を刻む最強の騎士だ。一対一の戦闘では、力も経験もノエルよりはるかに上。何もできずに瞬殺されるというのが一般的な見方だし、準備をせずに臨めば間違いなくそうなると思う」

「だよね。私もそう思う」

王国を代表する英雄的存在の一人。

数々の高名な剣客や武人が彼に挑んで敗北を喫している。

それも、万に一つも望みが無いことを突きつけられるような、圧倒的な内容で。

「でも、ルークなら何か策を見つけられる。そうでしょ」

「当然」

当たり前のように言うルーク。

天才に見えて実は誰よりも努力と準備をしてるこの人は、対策を立てることにおいては多分王国魔法界の中でも随一。

相手を調べ上げて弱点を徹底的に突き、力を発揮させずに完封する。

性格の悪い戦い方をさせれば、右に出る者がいない腹黒野郎なのだ。

私もこいつの意地悪な戦い方にどれだけ苦しめられたか。

ほんと最初の頃は大嫌いだったことを思いだす。

でも、普通に戦っても勝てない格上との戦いのパートナーとして、こんなに頼りになる相手はいない。

「私は何をすればいい?」

「距離を取りながら、徹底的に攻撃を凌ぎ続ける。今回の御前試合は五分間耐え抜けばノエルが勝ちというルールだ。逃げに徹して、時間勝ちを狙うしかない」

ルークは言う。

「その上で重要なのは剣聖の攻撃に耐えられるだけの対応力を身につけること。特に最初の攻撃。そこさえなんとか凌げれば、一見絶望的なこの戦いにも可能性が出てくる。ノエルならそれができる。僕はそう思ってるし、信じてる」

その言葉は、私に勇気と力をくれるものだった。

前職ではずっと役立たず扱いだったからな。

できると言ってくれる。

信じてくれる。

それがどんなにありがたいか。

「剣聖の攻撃に対応するために、格上の相手に対応する練習をしていこう」

ルークが取り出したのは、独特の光沢を放つ腕輪だった。

「装備した者の魔力を半減させる二級遺物――『魔封じの腕輪』。ノエルにはこれをつけてトレーニングしてほしい」

「魔力が制限された状況で効果的に魔法を使うための練習法! これやってみたかったんだ!」

高負荷トレーニングのひとつとして、近年取り入れられたその練習法は、私が密かに憧れていたものだった。

魔力を制限する魔道具は希少で高価だから、私には手が届かないものだと思っていたのに、まさか体験できる日が来るなんて。

「おお! ほんとに魔力が半分に!」

初めての体験に胸を弾ませる私。

「それで、これをつけてどういう練習するの?」

やっぱりまずは初歩的なメニューかな?

高負荷トレーニングは初めてだし、まずは簡単なところから段階を上げて――

「これから、本番を想定して僕がノエルをボコボコにするから。がんばって五分耐え抜いて」

「…………」

私は少しの間言葉を失ってから言った。

「……………………え?」

それから、ルークは本当に私をボコボコにした。

ただでさえ王国史に名を残すレベルの天才であるルークを相手に、魔力が半減した状態でどう戦えというのか。

それはもはや戦いとさえ言えない一方的な蹂躙だった。

たしかに、力の差がある格上の相手に対し、逃げに徹して耐え凌ぐための練習としては、かなり効果的なものだったと思う。

最初は何もできなかったけど、少しずつどうやればいいのか掴めてきたし。

ただひとつ。

どうしても不満なのは、ルークに負けてるみたいな気持ちになること。

ムカついたので、練習の最後はルークに腕輪をつけてもらって、ボコボコにした。

とても気持ちよかった。

「見たか! 私の力を! わっはっは!」

「ほんと容赦ないよね、君……」

「だってムカつくんだもん。負けっぱなしはさ」

「負けじゃないって。ハンデつきなんだし」

「それはそうなんだけどね。でも、やっぱどうしてもルークだけには負けたくないというか」

「僕だけには……」

ルークは少しの間黙り込んでから、言った。

「……そういうことなら、これも悪くないかな」

…………え?

一方的にボコボコにされたのに?

もしかして、そういう趣味があったりするんだろうか。

衝撃の事実……。

でも、好みは人それぞれだもんな。

友達として、そんなルークも受け止めてあげようと思う。

そして始まった、御前試合に向け特訓する日々。

課題に向けて二人で協力して取り組む時間は、魔術学院時代のそれになんだか似ていた。

『ねえねえ、これどうやって解けばいいの?』

『自分で考えろよ。ったく。まずはこの式を――』

図書館で一緒に勉強して、

『もう怒った! 表出なさい。今日という今日はボコボコにしてやるわ!』

『こっちの台詞だ! 僕とお前の力の差を思い知らせてやる!』

何かあるとすぐに魔法戦闘で競い合って。

思いだすと頬がゆるんでしまう水色の時間。

二人でいると少しだけ、あの日の私に戻ってるような気がするんだ。

大人になってこんなの、ちょっと変かもしれないけれど。

でも今、目の前にあるのは定期試験なんて生やさしいものじゃなくて。

王国史上最強の騎士。

剣聖。

誰も私が超えられるとは思っていない途方もなく高い壁。

それでも、不思議なくらいに怖くはないんだ。

空も飛べるよ無敵だよって、あの頃の私たちが言ってるから。

「勝とう、ルーク」

「うん。やってやろう」

そして私たちは、御前試合の日を迎える。

◇ ◇ ◇

「あの子に言わなかったの? 負けたら貴方との 相棒(バディ) の関係もこれで最後になること」

「言えませんでした」

レティシアの言葉に、ルークは言った。

「あいつには、余計なことを考えずに戦ってほしかったので」

「貴方は、本当に……」

ため息をつくレティシア。

しかし、同時に彼らしいとも思う。

純粋さと計算。

やさしさと妄執。

相反する二つの中で揺れるひどく人間的な彼という存在。

待っているのは悲劇的な結末なのかもしれない。

王子殿下と剣聖。

立ち塞がる壁はあまりにも大きく、

何よりも大切なたったひとつは、彼の隣から遠ざかろうとしている。

立ち向かってもまず勝ち目なんてないのに、それでもこの子はまったくあきらめようとしないのだ。

本当に愚かでどうしようもなくて。

だからこそ放っておけない危なっかしい後輩。

「厳しい戦いになるわよ」

「わかっています」

彼はうなずく。

手に入れられるすべての資料に目を通し、剣聖の対策を立てた彼のことだ。

その圧倒的な強さを誰よりも理解しているのだろう。

聖宝(メイガス) 級――あるいはそれに匹敵する魔法使いでないとまず勝負にさえならない相手。

「ただ、今回あいつの特訓に付き合って気づいたことがあるんです」

不意に彼は言った。

「気づいたこと?」

「あいつ、魔力を制限された状態での戦いに適応する速さが異常だったんですよ。普通の魔法使いなら一ヶ月以上かかることを数日で。ありえないはずのことだったんです」

ルーク・ヴァルトシュタインは続けた。

「あいつは多分――底知れない何かを内に秘めている」