軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

54 エピローグ2

ギルド長と副ギルド長は、解雇した下っ端魔道具師が冒険者たちの輪の中にいるのを離れた場所から見ていた。

人間業とは思えない魔法の数々。

飛竜種を相手に対等に戦うその姿。

衝撃的な光景を、二人は今もうまく受け止められずにいた。

「まさか、あんな……」

隣で副ギルド長が呆然と言葉を漏らす。

「とんでもない実力の持ち主だった、なんて……」

ギルド長は言葉を返すこともできない。

とても現実とは思えなかった。

すべて夢だったと言われた方がずっと納得できるくらいだ。

膨大な量の仕事をこなしながら、現場の職人たちを魔法で支える。

その上で、オズワルド大公をうならせるレベルの魔道具を作ることも、たしかにあれだけの実力があるなら可能だろう。

王国魔法界でも間違いなく最高峰。

あまりに規格外すぎてその力を測ることさえ叶わない。

役立たず扱いしていた下っ端魔道具師が、あそこまで優秀な魔法使いだったなんて……。

呆然と立ち尽くす二人。

「声をかけてきましょうか?」

言った副ギルド長に、

「……無理だろう」

深く息を吐いてギルド長は言う。

「あれだけの腕を持っているんだ。今さらうちで働くとは思えない」

「本当に王宮魔術師として活躍しているみたいですしね……」

「あんな凄腕を役立たずと決めつけ、一方的に解雇してしまったなんて」

「追いだす前に気づいていれば……」

「成功は我が手にあるも同然だったのに……」

募る後悔。

その能力に気づき、うまく使えていれば、どんなものでも手にできていたことだろう。

どれだけ悔やんでも悔やみきれない。

掴めていたはずの成功は失われた。

輝かしい日々もすべて夢だったかのようだ。

二人は肩を落とし、去って行く。

◆ ◆ ◆

その日、アーデンフェルド王国に。

そして、近隣に位置する国々に激震が走った。

王国西部に、狂化状態の飛竜種が発見されたのだ。

西方大陸最強の生物種である飛竜種。

狂化状態のそれが現れたとなると、どれほどの被害が出るか想像もつかない。

近隣諸国は、即座に情報収集と警戒に動いた。

クラレス教国もそんな近隣国のひとつだ。

アーデンフェルド王国の南西に位置するこの国は、女神クラレスが遣わせたとされる聖女を中心とする宗教国家である。

絶大な力を持つ聖女は、奇跡とまで称えられる回復魔法で人々を癒やし、有事の際には最前線に立って様々な難局からこの国を救ってきた。

(また聖女様のお力を借りるしかないか……)

宰相を務めるメルクリウスは重い息を吐く。

動かしていた密偵が持ち帰った情報は、これから起きる悲惨な事態を示唆するものだった。

アーデンフェルド王国北部から爆発的な勢いで広がる伝染病。

霧の中から突如現れ、国を飲み込むゴブリンキング変異種の軍勢。

そして、西部地域を跡形もなく蹂躙する狂化状態の飛竜種。

そのすべてが、世界の裏側で蠢く国家間の策謀として、意図的に行われた事象だったことを示していたのだ。

(あの第一王子のことだ。手は打っているだろうが、しかしこれはあまりにも……)

どれだけ最善の手を尽くしても、甚大な被害が出ることは避けられない。

ほんの少しでも手を誤れば、国そのものの崩壊さえありえるように見える。

(何か……何かできないか)

メルクリウスはアーデンフェルド王国を救う手立てを考える。

(いや、ダメだ。狂化状態の飛竜種が南に侵攻しこの国を襲う可能性もある。私の仕事はこの国を守ることだ)

しかし彼の優れた頭脳は、これが最悪の事態を想定すべき難局であることを理解していた。

最優先はあくまで自国の民の生活を守ること。

他国を慮っている余裕はない。

(すまない……)

顔をしかめるメルクリウス。

執務室に、密偵として送った部下が入ってきたのはそのときだった。

「申し上げます。アーデンフェルド王国における最新の情報が入りました」

「そうか……」

話を聞くのに覚悟が必要だった。

いったいどれだけ悲惨な状況になっているのだろう。

しかし、受け止めなければ前には進めない。

「彼の国はどうなっている?」

「北部で発生した伝染病は収束。ゴブリンキング変異種も討伐された模様です。そして、狂化状態の飛竜種も撃退され竜の山に帰ったとのことで」

「………………は?」

いったい何を言っているのか、まるで理解できなかった。

困惑するメルクリウスに、部下は続ける。

「アーデンフェルド王国は被害をほとんど出すことなく事態を収拾した模様です」

「ありえない。そんなことがあるわけが」

「私も信じられないのですが……しかし事実のようでして」

メルクリウスは情報を精査する。

部下の言うとおりだった。

アーデンフェルド王国は、たしかにほとんど被害を出さずに事態を収拾している。

それも、王国最高戦力である 聖宝(メイガス) 級魔術師と剣聖を動かすことさえせずに。

(ミカエル・アーデンフェルドがやったのか? いや、だとしてもこれはあまりにも被害が少なすぎる。狂化状態の飛竜種だぞ。それをほとんど被害を出さずに追い返すなんて……)

彼が知る世界の常識ではありえないはずの出来事。

(何かが、いる……)

自身の想定を遥かに超えた何かが、王国にいる。

メルクリウスは首筋に冷たいものが伝うのを感じている。

◇ ◇ ◇

西部地域で起きた飛竜種による騒ぎから数日。

王都に戻った私は、自分へのご褒美としてのんびりだらだらした一日を過ごしていた。

最近の私、結構がんばってたからね。

一生懸命働いた後は、ちゃんとお休みするのも大切なこと。

「次はどれにしようかなー」

ベッドの上で大好きな魔法の本を堪能し、疲れたらお昼寝して、思う存分ごろごろする。

「あの方はあれのどこがいいのかしら……」

だらだらする私に、お母さんはあきれ顔で言っていたけど、そんなこと気にしてなんていられない。

ああ、ベッドの上最高!

なんてしあわせで満ち足りた休日!

寝転がりながらお菓子を食べて、アイスを食べて、プリンを食べて。

ごろごろしているうちに時間は過ぎる。

三度目のお昼寝から目覚めたのは、遠い彼方からドアベルの音が聞こえたからだった。

……ん?

あれ、お客さん?

まどろみの中から意識が戻ってくる。

間隔を置いて鳴り続けるドアベルの音。

どうやら、お母さんは出かけているらしい。

いったい誰だろう?

首をかしげつつ、玄関へ向かう。

窓から射す日差しは茜色に変わり始めていた。

「どちらさまですか?」

寝癖をおさえつけつつ、ドアを開ける。

そこにあったのは巨大な黒い山だった。

大きな何かが、空を覆っている。

――恩を返しに来たぞ。小さき者よ。

何かは、はるか頭上から私を見下ろして言った。

――なんでも言ってくれ。我が其方の願いを叶えよう。

思いだす。

あの日、黒い竜を操っていた特級遺物を破壊した後、

『――この礼はいつか必ず』

と言われたことを。

いや、お気持ちはありがたいし、義理堅いのはすごくいいことだと思うんだけど……。

ドラゴンさんに訪ねてこられても困ってしまうと言いますか……。

「ええええええええええ――――――――!?!?」

玄関前にいた山のように大きな黒竜に、何をどうしていいかわからなくて頭を抱える。

魔道具師ギルドを追放されて始まった新生活は、やっぱり私が想像もしていない方向へ進んでいっているみたいだった。