軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

36 大図書館と新しいお仕事

「次はどれ読もうかなー」

王宮の大図書館。

天窓から射し込む光。

細かい埃が、それを反射してきらきらと瞬いている。

ダークウッドの書棚が整然と並ぶその一角には、他に比べ古く希少な本が並んでいた。

みんな新しい本の方が好きなのかあまり人気がないこの部屋。

だけど、私にとっては大王宮の中で一番好きな場所だった。

古書特有の乾いたような香ばしい香り。

どこかなつかしく落ち着くその香りが私は大好きだ。

分厚い古書の背表紙を眺めては、心をときめかせる一冊を探す。

長い時を越え、今も残っている洗練された本だからか、内容も深くてしっかりした作りのものが多いんだよね。

読んでいると、遠い昔の賢者さんとお話ししてるみたいで楽しくて。

何より、みんなが立ち寄らない書棚のすごく頭良さそうな本を読んでる私って、なんだかかっこいい感じがするし!

鼻歌を歌いながら、借りたい本を選んでいく。

同時に借りられるのは十冊まで。

限られているので、慎重に選ぶ必要がある。

あ! あの本面白そう!

高いところにある本に、背伸びして手を伸ばす。

よし、あとちょっと……。

しかし、その少しの距離がなかなか届かない。

つま先立ちになって格闘していた私の上を大きな影が遮る。

「取りたかったのはこれ?」

サファイアブルーの瞳。

うれしさよりも悔しさの方が強かった。

なんでこいつの身長は高いのか。

何故私の身長は低いのか。

不公平だ。

牛乳は毎日飲んできたはずなのに。

しかし、たとえ世界の理に不満があったとしても、何かしてもらったらお礼を言うのは大切なこと。

「ありがと」

唇をとがらせて言うと、ルークはくすりと微笑んだ。

なんか余裕そうでムカつく。

持っている者の余裕というやつか!

その身長半分私に寄こせ!

不条理を嘆かずにはいられない私だったけど、そんな怒りも腕の中に抱えた本たちの匂いを嗅いでいると、いつの間にかどこかへ行っていた。

貸出処理をした本を抱え、鼻歌を歌いながらルークと共に午後の庭園を歩く。

「ほんと魔法関係の本が好きだよね、君」

「大好きだよ。愛していると言っても過言じゃないね」

「高級お肉とどっちが好き?」

「むむ……それは難しい問題かも……」

本も大好きでお肉も大好き。

そこの順番って考えたことなかったな。

どっちだろう……?

「真剣に考えるからちょっと時間ちょうだい」

「お好きなだけどうぞ」

難題に挑む私。

不意に、ルークが小さな声で言う。

「――が一番になれたらいいのに」

「ん? なんか言った?」

「なんでもないよ」

ルークはそっぽを向いて、頬をかいてから言う。

「それで、君に少し相談したいことがあるんだけど」

「相談?」

「うん。次に僕らが担当する仕事について」

次の仕事……いったいどんな仕事だろう?

期待と不安を胸に見上げた私に、ルークは言った。

「王国北西部に面した『薄霧の森』。その実地調査なんだけど」

王国に隣接した未開拓地にある『薄霧の森』は魔物が生息する森として知られている。

と、言っても危険な魔物がいるわけではない。

難易度自体は低級の冒険者でも対応できる程度。

しかし、常に薄霧が立ちこめていて視界が悪く、冒険者たちにはあまり人気が無いって話だっけ。

「でも、どうして王宮魔術師団が調査を?」

王宮魔術師団が調査に行くような場所とは思えない。

難易度も危険度も全然高くないのに。

「ミカエル殿下のご指示らしい」

「王子殿下の?」

ミカエル・アーデンフェルド第一王子。

政治とかよくわからない私なので、その人について知っていることはあまり多くない。

優秀な人だという噂と、かっこよくて女の子たちに人気だという話くらい。

舞踏会で少しだけ見たけど、たしかに綺麗な顔立ちの人だったっけ。

「王立騎士団も動員されてるし、かなり本格的な調査をするつもりみたい。その上、僕と君についてはご指名があったとか」

「ご指名……?」

言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。

「あ、なるほど。ルークの 相棒(バディ) だから一緒にってことか。私までご指名があったんじゃないかって一瞬勘違いしちゃったよ」

納得して言った私に、ルークは首を振った。

「違う。君にもご指名があったんだ。絶対に参加させるようにって話だったらしい」

「………………マジですか」

いったいどうしてそんなことに……?

だけど、考えてみると思い当たる節もないわけではない。

多分、舞踏会でノインツェラの皇妃様を助けたのが大きかったのだろう。

『あの新人、なかなか見込みがある』

みたいな感じで評価してくれたのかもしれない。

王子殿下に有望株として期待されてるなんて……!

新人王宮魔術師として、こんなに名誉でありがたいことはない。

よし、良い仕事をして期待に応えるぞ!

抱えた本を落とさないように気をつけながら、拳を握る私だった。