軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

148 ひとつずつ

「クローゼさん、悔しいだろうな」

「四番隊からすると、自分たちの力が足りなかったと言っているようなものだからな」

小声で話す先輩たち。

話し合いの後、私は王宮の図書館で資料を漁っていた。

回復魔法を阻害する未知の魔法式。

無効化、あるいは無害化する方法を見つけなければ、第三王子殿下を救うことはできない。

(だけど、あまり得意じゃない魔法医学の分野。私の知識じゃ、四番隊の王宮魔術師さんが総出で解決できなかった難問の答えを出すのはまず不可能)

何せ、王国で最も優れた回復魔法の使い手である《救世の魔術師》と、王国一の魔法薬研究者である《人理の魔術師》が解決できなかった難問なのだ。

(とにかく、ヒントになりそうな本を片っ端から当たっていくしかない)

《 固有時間加速(スペルブースト) 》を起動する。

仕事の速さが私の一番の武器。

気になる項目に片っ端から目を通す。

(やばい。わかんない。全然頭に入ってこない)

沸騰しそうになる頭。

何を書いているのかまるでわからない。

(落ち着け。この状況を私は知っている)

王宮魔術師団に入って、初めて参加した技能研修。

王立魔法大学の先生の授業は本当に難しくて、まったくついていけなくて。

だけど、救ってくれたのは親友であるあいつに昔もらった言葉だった。

『問題を切り分けて考えろ。地道にひとつずつわかることを整理していけ。そうすれば、どんな難問でも必ず正解に近づける』

(丁寧にわかることを整理。焦らなくていい。少しずつ)

絡まった結び目を解きほぐすように、高度で複雑な事柄を丁寧に整理していく。

慌てるな、と自分に言い聞かせる。

一度に理解しようと考えない。

ひとつずつ、ひとつずつ、と自分に言い聞かせる。

ゆっくりと時間をかけて資料と向き合う。

その結果、見えてきたのは情報が頭に入ってこない原因だった。

(前提となる基礎知識が不足してること。曖昧な前提知識で高度な内容を理解しようとしてしまっていることが問題)

原因は理解できた。

次は、突破する方法を考える。

(わからないことは勉強すれば良い。総当たりで、全部徹底的に調べ尽くす)

全然スマートじゃない効率の悪いやり方。

だけど、行動速度の速さが長所の私にとっては、最も自分の強みが出せる戦い方だ。

(うん、いいね。泥臭くて、私らしい)

地道に文字を追う。

学習する。

積み上げる。

少しずつ。

ひとつずつ。

◇ ◇ ◇

(こいつはとんでもない難問だな)

王宮魔術師団六番隊から助っ人として派遣されたラウル・ナトルスティは、提示された課題がとてつもない難度のものであることに気づいていた。

王国で最も優れた回復魔法使いと魔法薬学博士が、未だにヒントを見つけることさえできずにいる異常事態。

その理由は、考慮しなければならない選択肢と可能性があまりにも膨大すぎるところにある。

(前例も何の手がかりもない。肝心の魔法式は、人間の目では認識することさえできない極小のサイズ。それが魔法式であることに気づけただけでも神業だ)

その上、問題の魔法式は王子殿下の体内にある。

分析することはおろか、直接目にすることさえできない。

(ここまで情報が制限されている状態で使用されている魔法式を解析するなんて現実的に考えればまず不可能。だが、それを可能にしなければ第三王子殿下は助からない)

王国の未来を左右する重圧。

王宮魔術師として、どんな手を使っても絶対に王子殿下を救わなければならない。

(しかし、いくらなんでも情報が少なすぎる)

あまりにも難しい状況。

何から始めるべきなのか。

王宮の大図書館で本をヒントを探しながら、頭を悩ませていたそのときだった。

(魔法式の残滓……?)

人気の少ない奥の棚。

薄暗いそこで、蛍の光みたいに魔法式の起動光が発光していた。

(いったい誰だ……?)

不思議に思いつつのぞき込んだラウルは、そこで見えた光景に絶句した。

そこにあったのは棚に並んだ魔法医学の研究書を目にも留まらぬ速さで読み進める小さな魔法使いの姿。

(《 固有時間加速(スペルブースト) 》を使っての超高密度の学習……)

原理的には可能なことではある。

だが、固有時間を変化させる魔法は補助魔法の中でも非常に難度が高く消耗も激しい。

(難度の高い補助魔法を連続で起動しながら知識を頭に入れる。そんなことが人間にできるのか……)

到底理解できない光景。

戸惑い。

無意識に後ずさった彼は、よろめいて棚の本を数冊落としてしまう。

静謐とした図書館に響く本が落ちる音。

「悪い、邪魔する気は――」

慌てて言いながら顔を上げた彼の視界に広がったのは、まったく予想していない光景だった。

(気づいて、ない……?)

あれだけ大きな音が聞こえないなんて、現実的にはありえないはずで。

しかし、彼女は気づきさえしない様子で黙々と学習を続けている。

本を拾うことも忘れて立ち尽くしていた。

驚異的な集中力と魔法に対する情熱。

背筋を冷たいものが伝う。

(これが、ノエル・スプリングフィールド……)