軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

133 邪竜

「すごい! すごいですドラゴンさん!」

大きな背中に乗せてもらった私は、大興奮で高いところからの景色を見ていた。

『当然だ。狂化状態だったあのときと違って今のコンディションは万全。何より、この日のために鍛練を積んでおったからな』

一部の魔物が使う念話という会話の方式。

状況を説明した私に、ドラゴンさんはうなずいた。

『目的はわかった。今こそ、あの日助けられた恩を返す時。我が力を貸そう』

「ありがとうございます!」

協力してもらうことに成功して頭を下げる。

「まさか、飛竜種を召喚するとは。君は本当に私の想像を超えてくるね」

微笑んで言うクロノス総長。

音もなく飛竜種に飛び乗った身のこなしと魔法制御力。

感心する私の背後から聞こえたのは、まったく予想していない人の声だった。

「当然よ。この世界の頂点に君臨する最強かっこいい私の親友なのだもの」

空間転移魔法の残滓。

びっくりして振り向いた私の反応をまったく気にすることなくエヴァンジェリンさんは澄まし顔で言った。

「ど、どうしてここに?」

「親友が困っているのなら力になるのは当然のこと。何より、友達が仲間と邪竜を殴り飛ばしに行こうとしてるのよ。こんな面白そうなイベント、指をくわえて見ているわけにはいかないわ」

エヴァンジェリンさんは瞳を輝かせて言う。

「さあ、みんな私についてきなさい。エヴァ&ノエル討伐隊出撃よ!」

「…………」

自由だ。

すごく自由だこの人。

「仕方ないね。落ち着いた年上のお兄さんな立ち位置として、隊長の座は君たちに譲ろう。その代わり、私のことはクロノスお兄さんと――」

「引きこもって研究ばかりしていたせいで、部下との距離感が遠くなっているのが寂しいからって、お兄さん呼びを求めて安易に打開しようとするのはやめた方が良いわよ。みんな困ってるから」

「…………困ってたんだ」

クロノス総長は傷ついた顔をしていた。

『困ってないですよ!』とたくさんフォローして元気を取り戻してもらうのに少し時間がかかった。

『仲間と一緒に邪竜の討伐……悪くない』

ドラゴンさんはなんだかうれしそうだった。

失礼かもしれないけど、ちょっとかわいかった。

「それじゃ、行きましょうか。時間を稼ぐために、魔獣を潰しながら最深部を目指すわよ」

『心得た』

瞬間、ドラゴンさんは音を置き去りにしている。

特性として生まれ持った《風よけの加護》が可能にする異次元の飛行速度。

ただ突進する、それだけで魔獣の群れは紙屑のようにちぎれ飛んでいく。

光の射さない深い穴の奥へ進む。

次第に濃くなっていく魔素濃度。

それに伴って魔獣の群れはさらに数を増す。

「なんて数……!」

息を呑む私の両隣から響く声。

「何も問題ないわ」

「その通り」

高速展開する無数の魔法式。

鮮やかな光が視界を染め上げたその瞬間、魔獣の群れは塵になって消し飛んでいる。

何よりすごいのは、その魔法がすべて飛行しているドラゴンさんへの反動を考慮して放たれていること。

力任せに見えて、全然力任せじゃない。

規格外の破壊力ゆえの反作用を考慮した上で、負担にならない範囲の出力で魔法を制御している。

塗りつぶしたような黒の中で幾重にも発光する魔法式のきらめき。

深く潜るにつれて、闇はさらに濃いものになった。

針の先ほどの光もない暗闇。

粘性を帯びた生暖かい空気とむせかえるような魔素の匂い。

自分の手の先さえ見えない漆黒の中では、明滅する魔法式の光も頼りなく映る。

嫌な感じがしたのは最深部が近づき始めた頃のことだった。

首筋を伝う冷たい汗。

息がうまく吸えない。

おかしい。

なんだ、この異常な魔素濃度。

『まずいぞ。封印が解ける速度が予想より速い』

ドラゴンさんの言葉に、私は相づちを返すことさえできなかった。

闇の奥に巣くう尋常な生物とはまったく違う何か。

悪寒。恐怖。畏れ。

本能的に私は感じている。

これは絶対に外に出してはいけない存在だ、と。

「いいじゃない。殴り甲斐があるわね」

拳を握るエヴァンジェリンさんに、クロノス総長は言う。

「問題は、あれを再封印できるところまで消耗させるには、攻撃を重ね合わせる必要があるということだ。しかし、私と君の魔法は威力があまりにも強すぎる。同時に放てば互いに干渉し合い、打ち消しあって術式の一部が機能不全を起こす可能性が高い。力をある程度抑えれば制御することもできるだろうが、その場合は出力が足りない」

「まどろっこしいわね。殴ってみてそれから考えましょう」

「ダメだ。それじゃ届かない」

唇を引き結ぶクロノス総長。

威力が強すぎる二人の魔法を重ね合わせることができれば、あの化物を再封印できる。

考えている時間は無かった。

先輩たちが逃げずに戦っているように、私も私の仕事を全うしないと。

自信を持て。

覚悟を決めろ。

私がやるんだ。

「やらせてください」

息を吸ってから、私は言った。

「私が、お二人の魔法を重ね合わせます」