軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

131 冷静と友情のあいだ

崩落した大穴。

あふれ出した魔獣の群れ。

対して、《精霊女王》の側近であるエステルとシンシアの判断は速かった。

(魔獣がなだれ込むこの経路さえ押さえ込めば)

大穴に最も近い最前線で魔獣の群れを押しとどめる。

放たれる水の轟砲と植物魔法の巨壁。

西方大陸屈指の力を持つ二人が仕留めた魔獣は十数秒の間に四百を超えた。

しかし問題は、あふれ出す魔獣の勢いが想定を超えるものだったこと。

古竜種と共に封印され超高濃度の魔素にさらされ続けた魔獣は、地上のそれとは異質の力を備えていた。

魔獣の波がその勢いを増す。

植物の巨壁を食い破り、水魔法の轟砲に身体をほとんど失いながらも動きを止めない。

理不尽なまでの数の暴力。

(厳しいことは理解していたけれど、これはあまりにも……!)

処理が追いつかない。

押し込まれる。

獰猛な牙が二人の眼前に迫る。

(防ぎきれない……!)

息を飲む二人。

眩い光が視界を塗りつぶしたのはそのときだった。

《 空間を創造する魔法(エア・フリューゲル) 》

魔獣の波を一瞬で蒸発させる破壊の光。

具現化した大森林と千を超える数の高位精霊が実現する規格外の破壊力。

「状況は極めて厳しい。私は試合後で消耗してる。でも、そんなことは関係ないの。遂にできた大切な友達を守るために戦える。その喜びに私はかつてないほど高揚している」

エヴァンジェリン・ルーンフォレストは言った。

「親友であるあの子を守るために、ここは一歩も通さないわ」

(この人はいったい何を言っているのだろう)

エヴァンジェリンの言葉に対して、シンシアの胸に去来したのはそんな戸惑いの気持ちだった。

「親友って、もしかしてあの子のことを言ってます?」

「そうだけど」

「いつの間にそんなに仲良く?」

「何を言っているの。まったく」

やれやれ、と息を吐きつつエヴァンジェリンは言う。

「先ほどの戦いを見たでしょう。私たちはお互いの全力をぶつけ合った。そして認め合い、わかりあったの。さながら、河原で喧嘩して拳を交わし合った二人が親友になるように。これこそ、古来から伝わる一般的な友達作りの作法なのよ」

(違う。絶対違う)

シンシアは内心頭を抱える。

(ダメだ。何を言っているのかまったくわからない。私はどうすれば……)

混乱。

しばしの逡巡のあと、ためらいがちにシンシアは言った。

「……あの、エヴァンジェリン様」

「何かしら?」

「親友だと思ってるのはエヴァンジェリン様だけだと思いますよ、多分」

「…………」

沈黙が流れた。

数千年の時を感じさせる長い沈黙だった。

「そん、な……」

肩を落とすエヴァンジェリン。

「ダメですシンシア。今現実を突きつけては、エヴァンジェリン様が消沈してこの場を凌ぎきることが不可能になってしまいます」

「しかし! 何もお伝えしないのは私の良心が!」

葛藤する二人。

「…………ん? あれ、ここは?」

そのとき、目を覚ましたその人物の姿に、シンシアとエステルは息を飲む。

ノエル・スプリングフィールド。

自分たちの女王が勝手に親友だと勘違いしている相手。

ここでの対応によっては、この状況下における敗北が決まってしまう。

(先手を打って、エヴァンジェリン様を友達だと言ってもらえるように誘導を――)

動こうとするシンシア。

しかし、エヴァンジェリンの動きは速かった。

すべてを置き去りにする空間転移魔法。

「その、私と貴方は……親友ではないのかしら?」

(しまった、この人めんどくさいだけじゃなくて速い――)

少しの沈黙。

小柄(ノエル・) な魔法使い(スプリングフィールド) はきょとんとした顔で答えた。

「親友? ではないと思いますけど」

(終わりましたね。この世に別れを告げる準備をしましょう)

(こんなわけのわからない理由で死ぬのですか私たちは!)

魔獣を押しとどめながら、小声で言い合う二人。

「そう……」

肩を落とすエヴァンジェリン。

しかし、ノエルの言葉はそこで終わってはいなかった。

「でも、私は親友になれたらうれしいです。魔法のこととかたくさん教えて欲しいですし」

(良い子! この子、良い子です!)

拳を握るシンシア。

「なるほど。つまり、私が世界一かっこよくて聡明であるが故に未来予知のような先読みをしてしまっていたということ。私たちは最初から親友になる運命だったわけね」

(なんでこんなに自信満々で言えるんだろう、この人)

白い目で見つめるシンシアの視線になどまったく気づかない様子で、エヴァンジェリンは言った。

「ここは親友である私に任せて。貴方は魔法薬を飲んで回復してきなさい」