軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そんなつもりじゃなかったけど、なんて言わない。④

「…………」

朝霞は、何かを話しだそうとしたのだけど、一瞬声を詰まらせ、上を向いたまま黙っていた。

俺から何か言うべきだったのかもしれないけど、朝霞のワンピースをぎゅっと強く握った拳を見ると、俺も何も言えなくなった。

風はまだ冷たく、朝霞の黒髪と上着を揺らす。

楽しそうな声が遠くで聞こえる。

ぼとり、と朝霞のカチューシャが落ちる。

俺は慌てて手を伸ばすけど届かない。

そして、目の前に白い布が揺れていた。

「あ……」

見上げれば朝霞がいた。

ぽとっと俺の頬に涙が落ちる。朝霞が、泣いていた。一緒に帰ったあの日みたいなわんわんと泣きながら流した涙ではなく、二粒だけの涙。

「あの……あのね、わたしは……」

朝霞の目には黒が残って、

「わたしはやな子だ」

小さくかなしそうにわらった。

「あさ……」

「やな子、かもしれないけど、あの日八雲君に助けられてよかった」

朝霞はそこから堰を切ったように涙を流し始める。ぎゅっとワンピースを握ったまま。

「八雲君が、大怪我して、三か月も学校に行けなくなって、そのあともギブスも松葉杖も……わたしのせいで。なのに、だけど、わたしは八雲君に救われて、八雲君と一緒に帰れて、八雲君といっぱいお話して、八雲君といろんなところいって、八雲君がたくさん笑わせてくれて、一緒にいない時も八雲君のこと考えて、お部屋は八雲君ばっかりで、八雲君と明日何が出来るか考えるだけでほんとに、ほんとにきらきらしてて……」

途中よくわかんない言葉があったせいで冷静になれたけど、今、言うべきことじゃないな。

だって、朝霞は真剣だ。だから、ちょっと怖いんだけど。

でも、本当に朝霞は真っすぐに俺を見ている。涙いっぱいの目で俺を。

「だ、だけど、だけどね、だから、わたしが八雲君とずっと一緒にいていいのかなって思った。や、八雲君は、かっこいいから。その、イケメンとかじゃないけど内面的なものが」

うん、ひっかかることはあるけど、気にしない。だって、朝霞は真剣だ。

「だからね、本当に本当に本当に本当に……」

朝霞の呼吸が荒くなって苦しそうな顔をする。

「八雲君は、や、やさしいからずっとわたしにやさしくしてくれた。で、でも、それは、きっと、わ、わたしが弱いから」

違う、と言いたかった。でも、俺も弱くて、朝霞がやさしいから。

「わ、わたしは八雲君のやさしさに、あ、甘えて」

それは俺も同じで。いや、俺の方が甘えていた。

だって、朝霞は学校の太陽だったから。

朝霞の声が震える。それは俺のせいで。

「でも、だ、だから、だ、だからって、だけど、わた、わたしは……」

朝霞の身体がぶるぶると震えだす。それでも、朝霞は自分の言葉で、

「わたしは! ……わたしは、君が」

自分で、

一度深呼吸をし、朝霞の唇の震えが止まる。今更気づいたけど朝霞の唇は何か塗ってるみたいできれいだった。

朝霞が俺を真っすぐ見て、そして、

「す……」

どん

と、花火の音が鳴り響く。そして、勢いよく次々と花火が上がり、みんなの歓声。

俺達は呆気にとられながらその光景を見る。

きれいだ。けど、今の俺達には邪魔者でしかない。

茫然と俺も朝霞もやたらきらきらしてる夜空を見上げる。そして、静かに終わりを迎える。

俺が朝霞を見ると、朝霞も俺を見て、そして、朝霞は小さく笑う。

「あ、あの……かえろっか……あ、あはは……」

朝霞がそう言いながら歩き出す。不自然に振られた細い白い腕を俺は掴む。白い細腕なのにめっちゃ熱い。それだけ朝霞は……。

聞こえなかったから、聞くのが怖いから、聞かなかったふりをして、誤魔化す。そして、二人にピンチが訪れて、それを乗り越えて二人が結ばれる。それがラブコメだって、俺は知ってんだ。いっぱい読んだからな! だけど、俺はそんな主人公じゃない。顔もイケメンじゃないしな! だから、俺は朝霞の悲しい顔をスルーしない。絶対に。

言い訳なんてしない。

俺は、朝霞を見つめる。じっと。

「俺は……松葉杖はかっこいいと思うし、ギブスは響きがいいと思ってる」

「……え?」

みんなが一斉に帰り始める音がする。だけど、俺は、俺達はまだ終わりじゃない。

「だから、俺は朝霞の為に落ちたことに後悔はないし、俺の方が! 俺の! 方が! 朝霞と仲良くなれて、ほんとにほんとにほんとにほんとにうれしかった!」

これが周りの空気なのか、評価なのか、罪悪感なのか、依存なのか。そんなの分からん。

「わ、わたしのほうが、ほんとにほんとにほんとにほんとにほんとにうれしかった……小谷君が、いてくれて、ほんとうに」

だって、こんな曖昧でめちゃくちゃなもん分かるはずがあるか。大人だって天才だってわかんないんだ。

「いーや! 俺の方がほんとにほんとにほんとにほんとにほんとにほんとにほんとにほんとに、朝霞のことが」

「だめ! わたしのほうが小谷君のことが」

だから、俺達で決めるしかない。

「「すき(だ)」」

俺達の声が夜空に吸い込まれる。真っ黒な空に。花火が上がることもない。

俺達には。

だけど、それでいい。だって、周りが決めることじゃないから。

俺は朝霞が好きで、朝霞は俺が好きでいてくれた。

朝霞がふっと力が抜けたみたいで後ろに倒れ込もうとする。

俺は慌てて手を伸ばす。

朝霞の細くて熱い腕を掴む。

しっかりと。

そして、思い切り引っ張る。

今度は絶対に俺も朝霞も守る。

と、思った瞬間朝霞が思い切り俺の腕を掴んで俺に向かって飛び込んでくる。

瞳には、いつもの黒。

にちゃっとわらう朝霞。

抱き合う俺達。

闇を纏った朝霞だけど、身体はすごい熱を持っていて。

朝霞の黒い瞳に俺が映る。うるんだ瞳に俺が。

返事を伝えなきゃ……俺が……俺が……!

かっこつけて「そんなつもりじゃなかったけど」なんて俺は言わない。

「ああああああああああああああああああああああ! うれしぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」

ああ、めっちゃ涙が溢れてきた。

だけど、隠さない。

だって、元太陽が、もう太陽じゃなくなった君が、間近できらきらわらってくれてるから。

うん、かわいい。