作品タイトル不明
そんなつもりじゃなかったけど、なんて言わない。①
『夢の国にいこう』
朝霞からそんなメッセージが来たのは、終業式直前の夜だった。
親父と兄貴のことが決着ついたとはいえ、俺は現実に疲れ果てていた。
それに、きららと分かり合えた今、朝霞としっかりと話がしたかった。
同じように疲れ果てているだろう母さんに伝えるのは気が引けたけど、答えはあまりにもあっさりだった。
「ええ!? いいじゃん! 行ってきな! 行ってきな! ついでにチューの一つでもしてきな」
これである。
我が母ながらタフだ。これが大人になるってことなんだろうか。すごい、とは思うけどまだそうなりたくない自分もいる。それをうまく言葉には出来ない。俺は、ガキだから。
俺の顔をのぞき込む母さんはにやっと笑う。
「今、楽しみな。色んなことがあって引っ張っちゃう気持ちは分かるけどさ、全部力に変えて、そんで、今を精一杯楽しむスパイスにしなきゃさ! 誰かの悪意で人生楽しめないなんていやじゃん?」
それでも。俺は考えてしまう。母さんは、しあわせだったのかって。
いや、だからこそ、それを噛みしめて俺は俺をしあわせにして、母さんみたいに母さんに笑いかけれるようにならなきゃいけない。
俺は、母さんを真似してにやっと笑う。
「おう。母さんが悔しがるくらい楽しんでくるわ」
「はん。残念だったね。あたしはあたしで、その日朝霞さんとこのお母さんときららちゃんママとトラんとこのあの子と一緒に温泉でも行ってくるから」
は?
ま、まさか……チーム母親の方が予定先に決まってた、だと……?
「いやー、朝霞ちゃんとこのお母さんが大分気を遣ってくれたみたいでね。で、あそこも大分お父さんがやわらなくなったからさ、旅行にいくって説得したみたいで。だから、あんたが行かないならあんた一人でさみしいかもって思ってたからよかったわー」
ほっとしている母さん。ていうか、そんな予定決まってたんならはよ教えろや!
という言葉を必死で呑み込む。なんせ、追加資金が頂けるかはこの人の機嫌次第。
俺もバイトを始めたし、多少の金はあるがそれでもやはり夢の国に行くのなら思い切り楽しみたい。
「よ、よかったね。うん、楽しんできて! あのー。それで、ですねー……」
「わかってる。皆まで言うな」
そう言って母さんは………………いや、超絶素敵で美人で最高のお母様は追加資金をくださった。おかあさまぁあああああああああああああ!
「これは、朝霞ちゃんの為のお金なんだからね。あの子、あんたの為に質屋とか行きかねないんだから、金は十分母親から貰ったっていうんだよ。そんで、最高に楽しませてきな」
「お、お、おかあさまぁあああああああああああ!」
やっぱり俺の母親はさいこうだぜ!
「そんで、チューのひとつでもぶちかましてこい」
「おかあさまぁあああああああああああああ!?」
そして、俺と朝霞の夢の国行きが決まったのだった。
『ありがとう。一緒にいこう』
朝霞をしあわせでいっぱいにする。いや、そうじゃない。そんなつもりじゃだめだ。
「俺は…………」
当日。
「お、おはよ……」
迎えに行った俺が出会ったのは、美少女でした。
恋愛ど素人の妄想みたいな白いワンピースの朝霞さん。ふわりと風に揺れている様も美しく涙が出そう。
「え? え? 八雲君? な、泣いてる?」
出てた。ありがとうございますありがとうございます! そんなライトノベルでしか見ねーよってトラの姉貴に笑い飛ばされた格好をありがとうございます!
「あ、あの……日野君のお姉さんが相談に乗ってくれて、着てみたんだけど、どう、かな」
ありがとうございますありがとうございます! 姉御、あんた最高です! ありがとうございます! 俺は、ひとまず、声を出すとキモい声が出そうなので、震える手でサムズアップ。それを見た朝霞は胸に手を当ててほっと安心したような顔になる。
「よ、よかった。日野君のお姉さんが『こんな格好絶滅危惧種だけど、アイツのキモい夢だからかなえてあげな』って」
あのアマァアアアアアアアアアア! だが、ありがとうございます! その通りです!
そして、俺と目が合うと真っ赤な顔で俯く朝霞。んぎゃああああああああ! かわぃいいいいいいいいいいいいい!
だ、だが、ここは男としてキモくなく、しっかりエスコートせねば。朝霞が俯いている間に、素早く深呼吸し、心拍数を抑える。
「よし、じゃあ、行くか。朝霞」
俺は全力の爽やか紳士スマイルで朝霞に出発を促す。だが、朝霞が動かない。
なんでぇええええ!?
見ると朝霞が曇っている。なんで?
「や、約束したよね? 小春たちをあだ名で呼ぶんだったら、わたしも雑に名前呼びにしてって」
言われました。何故か親父事件の報酬としてね。あの時も思わず下の名前で呼んじゃったけどさ、やっぱりそのなんかさ、朝霞には言いづらいジャン! こっちの事情ですけど!
「でも、よ、呼べないなら、いい、よ。小谷君を困らせたくないし」
朝霞チャンが小谷呼びに戻ってるぅうううう! 心なしか、空も曇り始めた気がするネ!
俺は薄曇りの空を見上げ、深呼吸を一回すると、朝霞の肩を掴む。あ、YABE。ガチで緊張しすぎて気合入りすぎてやっちゃった。だけど、もう後に戻れない。俺は黒髪ロング白ワンピース目鼻ぱっちり美少女を見つめ、口を開く。
「い、いくぞ……ひかり」
無音。
いや、俺の心臓の音だけがめっちゃバクバク聞こえてよくわかんねえええええええ!
汗がだらだら流れ、体中が熱い!
特に手!
いや、違う……!
これは、朝霞の身体も……?
見れば、朝霞がマグマみたいに真っ赤になっている。そして、相変わらずニチャアと不器用に笑う。
「えへえ……う、うん。ついていくから、八雲君に」
かわいい。が、今日の朝霞の目力はなんか半端ない! なに!?
「どこまでも、ね?」
闇も深い。そんな朝霞との夢の国デートが始まるのであった。