軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

泥棒?

ネルジュ、ソランジュとの茶会を終えてゆっくりした後、夕食はリンドブルムの豪勢な海鮮料理を食べた。

リンドブルムの領主からサルベージの依頼をされるという予想外のことはあったが、一日目はのんびりと過ごすことができた。

そして、二日目の朝。

いつもの宿屋とベッドが違うからだろうか、比較的早くに目を覚ました。

むくりと上体を起こしてカーテン越しに窓の外を見ると、まだぼんやりと薄暗い。

しっかりと目が覚めてしまったので二度寝をすることは諦めて、ベッドから出て窓を開ける。

すると、白いカーテンがふわりと舞い上がり、少し潮気を孕んだ空気が部屋の中に入ってきた。港町独特の空気がいつもとは違う場所にきているんだと実感させてくれた。

窓からは薄暗いながらもリンドブルムの海が見えており、既に漁に出ているのか何隻かの船が見えていた。

微かに聞こえてくる波音に耳を澄ませていると、暗い海の向こうからオレンジ色の太陽が顔を覗かせた。

温かい色が空と海を明るく塗り上げていく光景はとても綺麗だった。

「朝早くに目が覚めたから見られた景色だな」

とりあえず風を浴びる為に窓を開けてみたが、こんな素敵な景色を見られるとは幸運だな。

「シュウ様、おはようございます。朝食のご用意ができております」

「わかりました。今行きます」

グランテルでは決して見られない景色を堪能しながら、部屋でのんびりしているとメイドに呼ばれたので支度をする。

寝間着から普段着に着替えて部屋を出ると、メイドに連れられてダイニングルームへ。

「おはようございます」

「おはようございます、シュウさん」

中に入るとエキシオール家が全員揃っており、ソランジュとネルジュが可憐な笑みを浮かべて挨拶をしてくれた。

いつもは食堂に行くと、ミーアをはじめとする可愛い獣人の店員が挨拶をしてくれるのだが、こういうお淑やかな女性に挨拶をされるのも悪くない。

なんだか朝からとても清々しい気分だ。自分も貴族の一員になったかのようである。

ちなみに、クラウスは席についてはいるものの本を読むのに夢中で返事はない。

「……クラウス」

「……お兄様」

「……ああ、おはよう」

ソランジュとネルジュが揃って窘める声を上げると、クラウスは本を閉じて仏頂面で返事をした。

まるで子供のような態度に笑ってしまいたくなるが、ここで笑うと睨まれるので我慢する。

まさに帰省した大人がだらしない姿を家族に注意される姿そのものだった。

全員が席に座ると、使用人たちが見計らったように食事を持ってくる。

さすがに昨日の昼から海鮮料理が続いているからか、朝食はパンやスクランブルエッグ、ベーコン、サラダ、フルーツといった軽いものであった。

しかし、盛り付け方がとにかく上品で、まるで高級フレンチのようだ。

料理が揃うと早速とばかりに皆が手をつける。

俺も前世の会食で覚えた、うろ覚えのテーブルマナーを思い出しながらナイフとフォークを動かす。

ソランジュやネルジュが無作法を気にしない人だと知っているが、それでもこういう場所での食事は少し緊張するな。

でも、料理は緊張感を吹き飛ばしてしまいそうなほどに美味しい。

パンに何かの木の実が練り込まれているのかとてもいい香りがして、ほどよい甘さだ。

「シュウさん、今日はどう過ごされるのですか?」

「はい、今日は魔道具の性能を試しに海に入ってみようかと」

微笑みながら尋ねてくるネルジュに俺は左腕に装備している海守の腕輪を見せる。

「ルーカスさんの依頼に早速とりかかるのですか?」

これを見て、その言葉が出てくるということはネルジュもルーカスの頼みとやらを知っているようだ。

「いえ、さすがに海での活動経験はないので、ひとまず海に慣れてからと思いまして」

「その魔道具を使えば海でも自由ですものね。海の世界、楽しそうですね。帰ってきたらぜひ、感想を聞かせてくださいね」

「はい、勿論です」

昨日も感じたがネルジュはこういった外の世界の話を聞くのが好きなようだ。

ネルジュを楽しませられるように面白いものをたくさん見つけないとな。

「気を付けていってらっしゃいませ」

「はい、行ってきまーす!」

ネルジュとお付きのメイドに見送られて、俺はエキシオール家の屋敷を出て行く。

リンドブルムはまだうろついたことがないので一人で歩き回るのは少し不安だが、目指すべき場所は海であり、帰るべき場所も高台の傍にある屋敷と非常にわかりやすいので大丈夫だろう。

そう判断して俺は海を目指して道を進み、人の行き交う街の方に降りていく。

街の中にはたくさんの裏道があるのだが、クラウスに忠告されたので無暗に入ったりはしない。

人は多いが堅実に大通りを歩いていく。

リンドブルムは漁業が盛んだからか、朝から人が多く賑わっている。

「さあさあ! 今日は新鮮なキングロブスターが入ったよ! 塩焼きにしてもいいし、煮込んで鍋にして美味いぜ!」

店には今朝獲れたであろう魚や貝や甲殻類などの食材がたくさん並んでおり、店員は威勢のいい声を張り上げていた。主婦や子供はそれらの食材を吟味している様子。

ビッグロブスターなら昨日塩焼きで食べたのだが、キングとなるとどれほどの大きさになるのか。

思わず覗き込むと、陳列棚には大きなエビが横たわっていた。

串に辛うじて刺さっていたビッグロブスターも中々のものだが、これは大きさの桁が違う。

一メートル以上だ。普段見慣れているエビとまったくサイズ感が違うので驚いてしまう。

こうやってまじまじと見つめてみると、エビも中々えぐい見た目をしている。

草むらでサササッと出てきたらビビッてしまいそうだ。

それでも美味しいとわかっているので気にならない部分があるんだよな。不思議だ。

「おっ、兄ちゃん。よかったら買っていくかい?」

まじまじと見つめていたからだろうか、店員に勧められてしまった。

「いえ、さすがに一人じゃ食べきれませんよ。逆にどういった方が買われるのですか?」

「家族がたくさんいる家がちょっとした祝い事の時に買ったり、食堂やレストランなんかの料理人が丸々買ってスープの出汁にしたり、切り分けて料理として出しているな」

「なるほど、そういう買い方をされるのですね」

確かにこいつを丸々と入れればいい出汁がとれそうだ。

他にも角の生えた大きな魚だったり、鮮やかな色をしている見たことのない魚がいて興味があったが、店員さんも忙しそうだったので適当に鑑定で調べて離れることにした。

「やっぱり、異世界の海だけあって不思議な生き物がたくさんいるみたいだなー」

今は陳列棚に並んでいるが、これが海の中でどのように動いているのか。

これから海に入ってみる身としては非常に楽しみだ。

「きゃっ! 泥棒っ!」

海の方を目指しながら歩いていると、前方から女の子らしきそんな悲鳴が上がった。

泥棒? どこかで誰かが物を盗んだのか?

「チッ、どきやがれっ!」

突然の出来事に驚いていると泥棒らしき男が俺のすぐ横をかき分けて走っていく。

その手には男には不相応な女物のバッグが掴まれており、チラリとポーション瓶のようなものが入っているのが見えた。