軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ルーカスの依頼

リンドブルムの領主? そんな人と挨拶をするなんて聞かされていない。

「どうして、そんな人がクラウスさんの屋敷に? たまたま客人として滞在しているのですか?」

「いや、お前に頼みたいことがあるらしい」

そうであって欲しいと希望を込める意味でも尋ねたが、残念ながらそうでないらしい。

というより、最悪の返答がきてしまった。

リンドブルムの領主が俺に頼みたいこと。それって十中八九仕事じゃない?

「……クラウスさん、こっちでも仕事があるなんて聞いてないんですけど」

「言ってないからな」

恨みがましい視線を向けるも、クラウスは気にした風もなくきっぱりと告げた。

「騙したな! 弱っている人の心に付け込んで厄介な仕事を押し付けるなんて!」

「騙したとは人聞きが悪い。別に私は屋敷に招待すると言っただけだ。そこに偶然、リンドブルムの領主がやってきて、頼み事をしたいとおっしゃられているんだ」

「ぐぬぬぬぬぬぬッ!」

白々しい言い方であるが、確かにクラウスは屋敷に招待すると言っただけだ。

特に俺に仕事をしないでゆっくり休めなどといった言葉はかけていない。

かけていないが、あんなに疲れた時に優しい提案をされたら癒しの旅だと思うじゃないか。

偶然リンドブルムの領主が押しかけて、頼み事がしたいなんて言うはずがないだろう。

恐らく、クラウスが事前に俺の情報を流して、招き入れたに違いない。

「くそ、道理でクラウスが俺に優しかったわけだ!」

「おい、言葉遣いが荒れているぞ」

「だまし討ち紛いのことをしてくる相手に敬語はいらない」

今まで依頼人だし線引きは必要かと思っていたが、こちらで過ごす以上毎日のように顔を合わせることになるのでずっとかしこまっていては気が休まらない。

とはいえ、クラウスは一応貴族だし、そういうところはうるさいものか?

「……フン、まあいいが領主の前ではいつも通りにしろ」

と思ったが、ちょっとクラウスが嬉しそうだった気がする。

そもそもクラウスはグランテルで一般市民として生活していたわけだから、砕けた会話をするのも問題ないのだろう。

しかし、妙にクラウスが話しかけてきたり、気遣いをしてみせたりと、彼の行動を振り返れば怪しさしかなかった。

どうして前の俺はもっと裏があると怪しまなかったのか。少し前の俺を引っ叩いてやりたい。

そんなことを考えていると、クラウスが扉の前で止まった。

「着いたぞ。相手は領主だ。気を引き締めろ」

「わかりました。もう大丈夫です」

クラウスに半ば騙されるような形であるが、領主を相手に引きずるわけにはいかない。

俺は心を切り替えて、いつもの冒険者モードに切り替わる。

「ルーカス殿、クラウスだ」

「どうぞ、お入りください」

クラウスがノックすると、扉が勝手に開いた。

どうやら中にいるメイドさんが開けてくれたらしい。

「クラウス様、この度はお忙しい中、私のために時間を割いて頂き誠にありがとうございます」

「気にするなルーカス殿。アステロス家にはこの別荘を用意してもらった恩がある。ルーカス殿の訪問とあれば、私が会うのは当然だ」

ソファーから立って上がって恐縮した様子の金髪の男性と綺麗な笑みを貼り付けたクラウス。

隣にいた俺は一瞬、この人は誰だと言ってしまいそうになった。

というか、領主よりもクラウスの方が上のような感じだ。

エキシオール家についてちゃんと聞いた方がいいかもしれない。もしかすると、俺が思っていた以上にクラウスは爵位が高いのかもしれない。

しかも、この屋敷で別荘か。

どうしよう、さっき思いっきりため口でいいよな? みたいなやり取りしちゃったよ。

「クラウス様、そちらにいらっしゃるのが?」

心の中で頭を抱えていると、チラリと領主からの視線が飛んでくる。

「紹介しよう。私が日ごろ世話になっている採取を専門とするBランク冒険者だ」

「はじめまして、ルーカス様。グランテルで冒険者をやっております、シュウと申します」

「ほぉ! その若さであり、採取を専門としながらBランクとは……っ! 失礼、名乗るのが遅れました、リンドブルムの領主をしておりますルーカス=アステロスといいます」

ふむ、どうやらルーカスはクラウスに比べて人当りのいい青年って感じだ。

クラウスと関係がある貴族というから、不遜な人がくるかもしれないというイメージがどうしてもあるな。

しかし、これだけ上手く擬態しているのであれば、そういう心配はなさそうだな。

日頃の振る舞いもそれくらい丁寧にしてくれればいいのに。

「まずは席に座ろうではないか」

「それでは失礼して」

クラウスに促されて、ルーカスと俺はゆっくりとソファーの腰を下ろす。

控えていたメイドがクラウスと俺の分の紅茶を出してくれて、一口だけ飲む。

すると、早速とばかりにクラウスが口を開いた。

「さて、ルーカス殿にはシュウに頼み事があるのであったな?」

「はい、実はリンドブルムから少し離れた海の底に、沈没してしまった祖父の船があるんです。その中にある祖父の遺品などをシュウさんに探してきてもらいたいのです」

沈没してしまった船から物品を引き上げる作業。いわばサルベージみたいなものか。

船と一緒に沈んでしまったであろうルーカスの祖父の遺品探し。

「依頼したい内容は理解しましたが、私は海の専門家ではなく陸地にある素材採取を主にやっています。どうして私に依頼したいのでしょうか?」

依頼の趣旨は理解できたが、どうして俺に頼んできたのかがわからない。

普通に素材採取や落とし物であれば、俺のスキルでどうとでもなる。

が、場所は海の中だ。潜って探すのには無理がある。

俺には海での活動経験などないので、俺に頼むより海に慣れている地元の冒険者や漁師の方がよいのではないだろうか。

適任者が他にいるのではないかという意味合いを持たせて尋ねてみると、ルーカスは懐から青い腕輪を取り出した。

「こちらは海守の腕輪というアイテムで、魔力を流すことで魔力の膜が全身を覆い、水中でも地上と同じように活動ができるのです」

「海の中でも普通に活動がっ!?」

ルーカスの持ち出してきたアイテムの効果に戦慄を覚えざるを得ない。

ということは、その腕輪をつけていれば海でも活動し放題。

海の中にある素材を思う存分採取できるということではないか。

欲しい!

「まあ、そのようなことができるのはお前のようにバカげた魔力を持った者だけだ。普通の者では、よくて数分が限度であろう」

「なるほど、それで問題なく活動できる私に頼まれたというわけですか」

「それだけでなく、シュウさんが難易度の高い採取依頼をこなしているときいたからですよ」

魔力だけでなく技術も認めていると爽やかな笑顔で言ってくれるルーカス。

クラウスもこういう気遣いを見習ってほしい。

「ちなみに遺品というのは具体的な何かであったりするのでしょうか?」

遺品を探してくれといわれても、明確な物を指定してくれないとわからない。他の船員の物であったり、漂流物である可能性がある。

どうしても探してきて欲しい大事な品があるのではないだろうか。

「……実は、祖父が無類のアイテムコレクターでして、恐らく船の中には大量のアイテムが積まれているのだと思います。主にそれらを……後、もはや五年前のことなのであるかもわかりませんが、可能でしたら遺骨も……」

なるほど、貴重なアイテムが船の中にあるのか。アイテムは物によっては破格の値段がつく。

それをルーカスが取り戻したいと思うのも当然だ。それに祖父の遺骨もそこにあるのだというのだし。

だけど、せっかく仕事を休むためにリンドブルムにやってきたのに、ここでも仕事を受けていたら旅の意味が……。

「報酬はきちんとお支払いします。遺品を持ち帰ってくれた数だけ上乗せしますし、よろしければ海守の腕輪もお譲りします」

「わかりました。その依頼、お引き受けしましょう!」

「ありがとうございます!」

気が付けば俺とルーカスは硬い握手を交わしていた。

「フン、結局は自分から餌に食いつくのだな」

そんな光景を見て、クラウスが滑稽だとばかりに笑う。

仕方がないじゃん。こんな素敵なアイテムをくれるって言うんなら、サルベージくらい引き受けちゃうよ。

さすがに俺も海での素材採取は初めてだなぁ。

海の底を歩くっていうのはどんな感覚なのだろう。

俺はまだ見ぬリンドブルムの海に想いを馳せるのであった。