軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人との繋がり

「これで盾とブレスレットは問題なく完成だな」

ドロガンはむくりと起き上がると、何事もなかったかのように壁にハンマーをかけた。

「報酬はブレスレットを二つでいいですね?」

「ああ、こんな貴重なものをくれるんだ。それで十分だ」

これらの製作報酬は極硬魔石のブレスレット二つということで事前に了承してもらっている。

俺としてはお世話になっているドロガンやロスカに無料であげてもよかったのだが、二人は頑なに首を縦に振らなかった。

「今日はこれを取りにきた感じっすかね?」

「いや、実は他にも用があるんです。前にカットを頼んでいた水晶はできてます?」

「できてるっすよ! ついでにドボルザークの水晶もカットしておいたっすよ!」

「おお、それは助かります! あと宝石も買いたいので見せてください」

「了解っす!」

宝石の話になるとドロガンの興味がなくなったのか、彼は奥の部屋に戻ろうとする。

「ああ、ちょっと待ってください。ドロガンさんに作ってもらいたいものがあるんです」

「……なんだ? あんまり時間がかかるのは無理だぞ?」

ドロガンはそう言いつつも、興味はあるのかすぐに引き返してきた。

そんな微笑ましいドロガンに俺はブラックアントルの遮光眼を渡す。

「ブラックアントルの遮光眼か……これで何を作って欲しいんだ?」

「眼鏡を作ってほしいんです。できれば四日で頼みたいんですけど可能だったりします?」

納期が短い仕事を頼むのは非常に申し訳ない。サングラスに関しては必需品というわけでもないので、厳しいようなら諦めるつもりだ。

「……まあ、このレンズみたいなのを眼鏡の形に整えてやるだけだからな。こんなの数時間もあればできる」

「本当ですか!」

「だが、こんなの何に使うんだ?」

「日差しの強い中でも快適に視界を確保するためです」

そう答えると、ドロガンは鼻を鳴らしながら遮光眼に目を落とした。

持ち上げて色々な角度から眺めたり、叩いてみたりしている。

「期限があったり、日差しの事といい、シュウさんはどこか行くんすか?」

妙な注文内容があれば、気になってしまうのも当然だ。

「実はリンドブルムに向かうことになりまして」

「ええっ! シュウさん、グランテルを出て行くんすか!?」

俺がそう言うと、ロスカが驚きの表情を浮かべて詰め寄ってくる。

「い、いえ、今回はただの観光というか休暇旅行みたいなものですよ」

慌てているロスカに俺はリンドブルムに向かうことになった経緯を軽く話す。

すると、ロスカはホッとしたように息を吐いた。

「なんだ、焦ったじゃないっすか。てっきり、もう出ていくのかと思ったっす」

「今後も街を離れることはあると思いますけど、しばらくはここを拠点にするつもりですよ。でも、場合によっては他の国や街に移ることもあるかもですが」

「えー! なんすかそれー。ずっとここにいたらいいじゃないっすかー」

「グランテルは居心地のいい街ですけど、俺の目的は色々な素材を採取することですから」

なんて言ってはみるが、ここにずっといて欲しいと言ってくれるロスカの言葉はとても嬉しかった。

別れを惜しんでくれる知り合いがいるのは幸せなことだ。

「まあ今すぐ出ていかないならいいっすよ。水晶と宝石を持ってくるっすから待ってるっす!」

ロスカはそう言うと、奥の部屋に入っていった。

フロアに残った俺は、ブラックアントルの遮光眼を見つめているドロガンにおそるおそる尋ねる。

「ドロガンさん、眼鏡の方はどうです?」

「面白いからやってやろう。眼鏡屋じゃないから完成度は劣るが文句は言うなよ?」

「勿論です。ありがとうございます!」

ドロガンはそう言うと、ブラックアントルの遮光眼を持って階段を降りていった。

そして、ドロガンと入れ替わるようにロスカが戻ってくる。

「じゃーん! これがドボルザークの水晶をカットしたものっすよ!」

ロスカが持ってきたのはいつもの宝石箱。

しかし、蓋を開けてみると、そこには大量にカットされた水晶が入っていた。

箱の収納ケースをいくつも占領している水晶の煌めき。

水晶や蒼水晶が完璧に球体になっていたり、小さな粒になっていたり、水晶の形を活かすようになっていたり、様々な形状にカットされていた。

「……これ、全部ドボルザークの水晶ですか?」

あまりの美しさと量に驚いてしまい、声が掠れてしまう。

「全部シュウさんの分っすよ! なにせサイズが桁違いっすから、まだまだカットされずに残っているのもあるっすよ?」

それもそうか。あのサイズの水晶がすぐに使い切れるはずもない。

思わず手に取ってみると、カットされた水晶には一点の曇りもない。

ドボルザークの背中に生えていた美しさは保たれたまま。いや、丁寧に形を整えられたお陰か、美しさがより増しているようだった。

「……カットされてより綺麗になっていますね」

「そこはあたしの腕前ってやつっすね!」

「素晴らしいですね」

「いや、そこを素直に褒められると恥ずかしいんっすけど」

俺が素直に褒めたからか、ロスカが照れ臭そうに耳を掻いた。

流れとしては自分で言うのかと突っ込みたいところであったが、これほどの技術を見せつけられると素直に称賛するしかなかった。

これはカット料金を上乗せして払わないとな。

「ありがとうございます。他の宝石も選ばせてもらいますね」

「はい、お好きにどうぞっす!」

「そうだ! 冒険者ギルドのラビスさんに出かけることを伝えておかないと!」

ドロガン工房でもろもろの用事を済ませた俺は、ふと思い出した。

前回、長くギルドに顔を出さないでいたら随分と指名依頼が貯まってラビスを困らせてしまったことがあった。

休暇を取るために依頼の受付も停止するように頼んではいるが、今回の旅は移動だけで二週間はかかるので、かなりグランテルにいないことになる。

ラビスもそこまで休むとは思っていなさそうだし、そもそも街にはいると思っているだろう。

これはきちんとラビスに伝えておいた方がいいな。

後は指名依頼を契約中のルミアやサフィーにも報告をしておいた方がいいだろう。

他にも心配されないように巡るべき人のことを考える。

ミーアやバンデルさん、猫の尻尾亭の皆さんや、東門の門番さん、いつも屋台でおまけをしてくれるおじさん……

意外と結構な数の人が浮かび上がった。

いつの間にか色々な人との繋がりができていたんだな。

そう思うと俺もこの街に馴染んできたのだろうと思えた。