軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

事情説明

「親方、ただいまっす!」

「ただいま戻りました、ドロガンさん」

「ちょっと待て。お前たち、何いつも通りみたいな雰囲気で戻ってきてるんだ」

いつも通りの雰囲気を醸し出しながら戻ってみたが、ドロガンは誤魔化されてはくれなかった。

「すいません、ちょっと鉱山内にあった縦穴に落ちてしまいまして、すぐに戻ることができませんでした」

「親方には心配をかけてしまって申し訳ないっす」

俺とロスカは二人そろって頭を下げる。

事情はあったにしろドロガンに大きな心配をかけたことに変わりはない。

「……どこも怪我はしてねえんだな?」

「擦り傷程度で怪我らしい怪我もないっす!」

「俺も同じです」

「そうか。無事ならいい」

ロスカと俺がそう答えると、ドロガンは満足したように頷いた。

「捜索依頼を出していたが、自力で戻ってきたのならギルドに報告しねえといけねえな」

「あっ、それなら捜索してくれた冒険者が工房の前にいるので問題ないっす」

「ちょっと待て。お前たちはギルドに報告もなしにここに戻ってきたのか?」

「ロスカさんに素材を渡したらすぐに俺が報告に行きますから! 俺が無理を言ったんで、あまり強く言わないであげてください」

ロスカの作業時間確保のために強引な方法を選択したのは俺だ。

ロスカは責められるべきではない。

「はぁ……お前さんがすぐに報告に行くならいい。ただ、どんな事が起ころうとも期限が伸びることはない。それでもロスカは装飾ができるのか?」

「勿論、やってやるっす! 親方がくれたチャンスっすから」

「……そうか。なら、好きにやってみろ」

「はいっす!」

ロスカの真っすぐな眼差しを受けて、ドロガンは奥の部屋へと引っ込んだ。

「それじゃあ、素材を出しますね」

「お願いするっす!」

店内のテーブルにマジックバッグから取り出したドボルザークの水晶や青水晶を置いていく。

マイマイの素材は重くて、店内を圧迫すること間違いないので地下の鍛冶場の方で取り出すことにした。

「それじゃあ、俺はギルドに報告に行ってきますね」

「シュウさんだけにお任せして申し訳ないっす」

「いいんですよ。その代わり、ロスカさんは試作品の装飾を完成させてください」

「ありがとうございますっす! 力になってくれたシュウさんのためにも必ず完成させてみせるっす!」

ここまで来ると、俺にできることは何もない。

後はロスカの腕を信じて装飾が完成するのを待つだけだ。

マイマイの素材やドボルザークの素材がどんな風に使われるのだろうか。

そして、あの大剣がどのようになるのだろうか。

完成がとても楽しみだった。

工房を出た俺は、外で待っていてくれたレオナたちと一緒に冒険者ギルドにやってきた。

「シュウさん、ご無事でよかったです!」

受付に向かうと、ラビスが潤んだ瞳で俺の手を握ってくれた。

「ご心配をおかけしてすいません、ラビスさん」

こ、これはもしかして、俺の命が危険ということを知って、ラビスの中にある恋心が火を灯した的な……

「シュウさんがいなくなってしまうと、この街にある素材採取の依頼が滞ってしまうんですからね!?」

「そこはもうちょっと俺の心配をしてくださいよ」

違った。俺の心配じゃなくてギルド全体の心配だった。俺に対する恋心的なところは微塵もないらしい。

別にそんなことはわかっていたことだ。俺からラビスに対してアクションをしたわけでもないし、相手からあったわけでもない

俺とラビスの関係はあくまでギルド職員と冒険者。それだけだからな。

「心配といっても、レッドドラゴンを倒しちゃうような猛者ですからねー」

「いやいや、今回は地下六階から一気に十二階まで落ちて大変だったんですから」

ラビスがあまりにも心配してくれなかったので、大変さの一部を語ってみせる。

「え? 六階から十二階に繋がる縦穴? そんなのがあったの?」

「というか、そこまで落ちてよく無事だったな」

「……デミオ鉱山の最高到達階層は地下九階。それよりも三層も深くにいたのか」

すると、話を聞いていたレオナやラッゾ、エリクから驚きの声が上がり、周りでそれを聞いていた冒険者がざわつく。

あ、あれ? 思っていたよりも騒ぎになっていないだろうか。

最高到達階層が九階って本当?

「シュウさん、ちょっと詳しい話をお願いします」

軽い態度でいたラビスも、かなりの真剣みを帯びたギルド職員の顔になっている。

「あ、あれ、急にどうしたんですか?」

「そんな危険な場所があるならば、他の冒険者のためにも調査をしなければいけません。もし、他にも同様の場所があれば、大変危険ですから」

確かに六階から十二階に落ちる縦穴だなんて、即死トラップもいいところだ。

偶然で出来上がった穴とはいえ、そんな物騒な穴があっては危険極まりない。

他の冒険者も潜る場所でもあるのだし、ちゃんと情報を提供した方がいいだろうな。

真剣な顔つきで尋ねてくるラビスに、俺は鉱山での出来事を話す。

「縦穴に真っ逆さまに落ちて、どうやって生き残ったんです」

「風魔法を思いっきり噴射して勢いを相殺しました」

「そんな適当な……」

「いやいや、本当ですから!」

自分でも力技だとは思っているが、そうやって生き残ることができたんだからそうとしか答えようがない。

「そ、そうですか。では、肝心なところですが地下十二階はどのような魔物がいましたか? 噂ではデミオ鉱山の深層には地竜のようなものがいるらしいんですが……」

「な、なにもいませんでしたよ?」

「あー! 今、シュウさんの目線が逸れました! なにか隠していますね!?」

俺の反応を見て、ラビスが耳をピンと立てた。

そんなドンピシャな噂があるのなら最初に教えてもらいたかった。

俺の中でドボルザーク討伐という出来事はあまりに大きすぎて、堂々と嘘をつくことができなかったのである。

「情報料ならきちんと出しますから、ギルドや冒険者の皆さんのためにもお願いします」

上目遣いをしながら頼み込んでくるラビス。

そんな言い方をされては誤魔化すことは難しいので卑怯だ。

俺から情報がもらえないとなると、ギルドはロスカの方に押し入って情報を聞き出すかもしれない。

ロスカにはただでさえ時間が少ないのに、装飾のこと以外の苦労をかけたくない。

真摯に頼み込んでくるラビスに、俺はドボルザークという魔物と遭遇して討伐したことを話す。

「討伐したってことは、その素材は?」

となると、当然そのような話題になることは確定であった。

最低限のもの以外、十二階層に置いてきたといってもいいが、それを取りにいく無謀な冒険者がいては寝覚めが悪い。

「俺が特別な方法で持っているとだけ……」

「持っているって、それって――いえ、わかりました」

なにかを言いかけたラビスであるが、そこは重要性を理解してくれたのか飲み込んでくれた。

クラウスにはできるだけ人に伝えない方がいいと忠告されたが、さすがに誤魔化し続けるのは限界だ。今のところグランテルの冒険者ギルドとは上手くやっているし、騒ぎを大きくしないためにもこれがいいだろう。

ラビスも誠実なギルド職員だし、無暗に広めたりはしないだろうし。

「素材は売るつもりはありますか?」

「今のところお金には困っていないですし売らないでおこうかなと――やっぱり少しだけ売ります。その代わり、例のことは秘密でお願いします」

「承知いたしました」

売らないと言った時のラビスの顔があまりに悲しそうだったので、少しだけ売ることにした。恩を大きくしておけば、マジックバッグを所持していることも秘密にしてくれるだろうしな。