軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ロスカの挑戦

ルミアと素材採取をし、指名依頼をいくつかこなした四日後。

俺はロスカに水晶と青水晶のカットを頼んでいたのを思い出し、その進捗を尋ねにドロガンの工房に向かった。

宿から西の職人通りを抜けて歩いていると、いつものように工房にたどり着いた。

この工房にも既に何度も通った身。工房自体は売り場でもあるので、ノックする必要もないので気楽な気持ちで中に入る。

「ダメだ!」

すると、突然ドロガンの一喝が入って、俺はビクリと身をすくめてしまう。

え、ええ? 俺が客として中に入るのはそんなにダメなことなのか? 一瞬、そう思ってしまったがドロガンの言葉は俺ではなく、向かいにいるロスカに向けられていた。

「なんでっすか!? 親方の武器に装飾するくらいいいじゃないっすか!」

「装飾するくらいって……お前がやるとどうせアクセサリーみたいなゴテゴテとした派手なものにするに決まってるだろ!」

「アクセサリーと剣の装飾は違うっすよ! あれは物に合わせた装飾をしているだけで、親方の剣は派手に装飾したりしないっす!」

「どうだかな。俺は自分の剣をそんな光物されるなんてごめんだぞ」

「逆に親方は見た目を気にしなさすぎっすよ。そんなんだから品評会でも見た目が美しくないとか言われて、三位になったりするんす」

「てめえ、下っ端の分際で言いやがったな!」

「それが事実っすから!」

なんだか込み入った事情があるみたいだな。ここは一度出直すことにしよう。

「あっ! シュウさん! ここまで聞いていて逃げるなんて薄情過ぎませんか? ちゃんと最後まで聞いていってくださいっすよ」

無言で退出しようとすると、ロスカが瞬時にやってきて俺の腕を掴んだ。

そうだよね。獣人さんだから俺の匂いや気配にも敏感で気付いていますよね。

「ええー」

「そんな嫌そうな顔をしないで聞いてほしいっす」

敢えて嫌そうな顔を作ってみるも、ロスカには通用せず室内に連行されてしまう。

そして、ロスカから怒涛のように経緯を説明された。

どうやら近々、剣の品評会があるらしい。

それは剣を作る鍛冶師にとって大きなもので、その品評会で入賞することができたり、審査員や投資家の目に留まるような物を作れれば、鍛冶師としての名が上がり一躍有名になれるらしい。

ドロガンは今回もその品評会に参加して剣を作るつもりで、ロスカはその剣の装飾をしたいと頼み込んだようだ。

それをドロガンが却下し、先程のような言い争いに発展したというのが大体のあらましだ。

「どう思うっすかシュウさん!」

「どうと言われましても……」

俺は鍛冶師でも装飾人でもないので口を挟みにくいのであるが、そんな曖昧な回答をロスカが求めていないことは当然わかる。

とりあえず、現状を把握して二人の意見を擦り合わさせよう。

「ドロガンさんはどうしてロスカさんに装飾をさせたくないんです?」

「……アクセサリーみたいに宝石をつけられるからだ」

「だから、剣とアクセサリーの装飾は別だって言ってるじゃないっすか!」

「そう言っていますけど?」

「ダメだ」

いや、そんな子供みたいにダメの一点張りをされても。

ロスカがイラっとして何かを言いそうになるが、それは静止させる。

「理由も言わずにダメと言ってもロスカさんは納得しないと思いますよ?」

「…………」

「ロスカの実力が足りないとか?」

「知らん。こいつには俺の剣を装飾させたことがないからな」

ロスカに一度も装飾をさせたことがないというのは驚きだが、そこに俺が突っ込んでも仕方がない。

「ロスカさんの実力も知らずにそう言うのは可哀想なのでは?」

「……大体、そいつは勝手に俺の工房に押しかけてきたんだ。装飾人になってくれと頼んだ覚えはない」

「確かに突然押しかけてきた上に装飾をさせろだなんて勝手ですね」

「だろ? 迷惑な話だ」

肩を持ってくれると思っていたのだろう。俺の言葉を聞いてロスカが耳や尻尾をしょぼんとさせる。

「ですが、それはロスカさんが何もせずにいた場合です」

「なんだと?」

「迷惑なのであればどうしてロスカさんを追い出さなかったのですか?」

「それはこいつの押しが強くてだな……」

巨大なハンマーすら持ち上げるドワーフの男性が、押しが強いからといって追い出せなかった理由にはならない。

「鍛冶の手伝いをさせ、従業員として働かせている以上、ロスカさんが装飾をしたいと主張するのは勝手ではないと思います」

「…………」

迷惑と言いながらドロガンはちゃっかりとロスカを従業員として働かせている。

そんな彼女が装飾をしたいと言い出したら、理由もなく却下するのは違うと思う。

それだったら最初から装飾をさせるつもりはないと言い放ち、工房で働かせないようにするのが筋というものだ。

「ロスカさんはこの工房で半年以上は従業員として働いていると聞きました。その間にドロガンさんの武器を装飾させてもらえないにも関わらずめげずに。それはドロガンさんの作り上げた剣を自分の手で装飾したいという強い想いがあってのことだと思います」

俺の言葉を聞いて、ドロガンが少し気まずそうにロスカに視線を向ける。

「お願いするっす親方! 却下する前に、一度でいいからあたしの実力を見てほしいっす! それでダメなら、その時は諦めるっすから」

「……ついてこい」

ロスカが頭を下げて頼み込むと、ドロガンはそう言って地下に降りていった。

それがどういう意味かはわからないが、続きは地下の鍛冶場で聞けるらしい。

ロスカと俺はドロガンに付いていって地下への階段を降りて行く。

そして、鍛冶場に入ると、そこには黒々とした大剣が壁に掛けられていた。

「品評会のために作った試作品だ。これにお前が装飾をしてみせろ。その出来栄えが良ければ、品評会のために作った大剣の装飾もさせてやる」

「ほ、本当っすか!」

「ああ」

ドロガンがはっきりと頷くと、ロスカは壁にかけられている大剣に近付いた。

「さすがは親方の剣。無駄のない綺麗な形をしているっす」

感心の声を漏らしながら、じっくりと大剣を観察するロスカ。

黒々とした色合いの中には青みらしいものも混じっている。

「もしかして、硬魔石を使っているんですか?」

「ああ、お前さんのように全部ってわけじゃないが少し混ぜ込んである」

全部硬魔石を使わなくても芯の部分だけに使用することで補強もできるしな。

意外と硬魔石は使い勝手がいいものなのかもしれないな。

「わかったっす。親方の試作品を綺麗に仕上げてみせるっす。そして、品評会にはあたしが装飾したもので優勝してもらうっすよ」

決意の込もった眼差しで告げるロスカ。

「フン、まずは俺を認めさせるだけの実力を示すことだな。品評会のことを考えると、期限は一週間だ。それまでにできるな?」

「言われなくてもやってやるっす!」

ドロガンの確かめるような言葉にロスカはハッキリと返事した。