軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

商売人の顔

談話室に入ってきたのは金髪の優しげな顔立ちをした男性。明らかに高級とわかるような仕立ての良い貴族の法衣を纏っていた。

「グランテルを統治しているカルロイド=エノープスだ。この度は私の招待に応じてくれてありがとう」

どうやらこの人が領主のようだ。

爽やかな笑顔と身に纏う風格に圧倒されそうになるが何とか堪えて挨拶をする。

「冒険者のシュウと申します」

「ルミアと申します」

「領主であるカルロイド様にご招待いただき光栄でございます。これはほんの手土産でございます」

領主に対して手土産を渡すタイミングがまったくわからないが、ビジネス的な作法では今のはず。

「わ、私も! 以前から依頼を受けていたポーションやアイテムをお持ちしました!」

俺がそれとなく手土産を取り出すと、ルミアも慌てて取り出した。

とりあえず、領主に直接渡すようなことはせず、ベルダンに渡そうとすると、いつの間にか傍にきていた。

「ありがたくちょうだいいたします」

これができる執事というやつか。動作が自然過ぎて気付かなかった。

「あと、こちらは私の師匠であるサフィー・フル・サーシェスから領主様への手紙です」

「サフィー殿からのか。この場で拝見させてもらおう」

領主はルミアがおずおずと差し出した手紙を手にして、その場で開きだした。

サフィーからの手紙だと聞いた瞬間、ちょっとだけ笑顔が引き攣っていた。

絶対あの人はこの人にロクなことをしていない気がする。

領主がサフィーからの手紙に目を通している間、メイドがティーセットやお茶菓子を載せたワゴンを押して入室し、テーブルに用意していく。

手紙を読みながら領主に促されたので、俺とルミアは遠慮なく紅茶やお茶菓子に手をつける。

香り高い風味が鼻孔を通り抜ける。街のカフェでもあまり提供されていない上品な味だ。

ルミアの淹れてくれる柔らかい風味の紅茶とはまったく違うタイプだ。

お茶菓子はスコーンだ。綺麗な皿に盛りつけられ、傍にはブルーベリー、イチゴなどのジャムが添えられている。

スコーン自体の甘さは控えめだが、ジャムの甘みが強いのでちょうどいい感じだ。

口の中が甘くなったら紅茶を飲んでやると、程よい甘さで美味しく頂ける。

あまり香り高い紅茶は呑み慣れていないが、スコーンと一緒に食べることでバランスよく呑める。いい組み合わせだな。

「ああ、こういう香りのいい紅茶もいいですね。でも、街では高いですし……」

自ら紅茶を淹れ、お菓子を作るルミアは真剣に紅茶とスコーンを味わっていた。

同じ作り手として、やはり気になるようだ。

そうやってホッとした時間を過ごしていると、領主が手紙を読み終わったようだ。

なんだか少し疲れた顔をしている。

「すいません、また師匠が変なことでも……?」

「いや、今回は比較的マシな部類だ。可愛い弟子と贔屓にしている冒険者から無理矢理素材を買い上げるような真似はするなという忠告だな……もし、それをすれば二度と上級ポーションとアイテムも卸さないし、怪我をしたときは知らんと」

領主に手紙で口添えしてくれるとは言ったが、まさかそこまで過激なことをするとは思わなかった。錬金術師が領主を脅しちゃってるよ。

これにはルミアも領主も苦笑いといった様子だ。

領主は紅茶を一口飲むと心が落ち着いたのか、リラックスした表情で口を開いた。

「さて、本題に入る前に二人には礼を言う。グランテルの近郊に現れたレッドドラゴンを討伐してくれて感謝する」

「いえ、領主様にお礼を言われるようなことでは……」

「レッドドラゴンは通常Aランクの冒険者がパーティーで挑んで討伐するものだ。それをたった二人で討伐したことを偉業と言わずなんと言おうか。それに山火事が起きぬように消火活動もしてくれたお陰で領地の資源も守れたのだぞ」

「そのように言ってもらえて恐縮です」

俺としては討伐しようというつもりでやったわけでなく、貴重な資源のある森を守ろうとしていただけなので、そのように言ってもらえると少し嬉しい。

「それで討伐したレッドドラゴンの素材なのだが、買い取らせてほしいのだ」

「つかぬことを窺いますが、どうして領主様はドラゴンの素材を……?」

これだけ立派な屋敷に住んでいる貴族だ。お金にはそれほど困っていなさそうに見えるのだが。

「今年は魔物による被害が多くてな。街や村への補填、私兵や騎士を派遣したりと費用がかさんでいてな。レッドドラゴンの素材を売り捌くことで、補填したいのだ」

それって、もしかして神様が俺を媒介にしてこの世界に魔力を浸透させたせいでは。

フェルミ村でも魔物が活発化しており、ブルーグリズリーが普段出現しない場所にいた。

世界を維持するための仕方のないことだとわかってはいるが、そうだとすると少し申し訳なさがある。

「私はシュウさんのお手伝いをした程度ですので、研究用に少しあれば十分です」

正直、俺はルミアの貢献度は大きなものだと思っているが、ここにきてそれを今更言い合っている場合ではない。

交渉の大半の権利は俺にあるということになってしまった。

「ふむ、シュウ殿はどうだろうか?」

領主の涼しげな翡翠色の瞳がこちらを向く。

「私としては領主様に売却するのは構いませんが、素材をそれぞれ一種類は確保させてもらいたいです」

「一種類となると稀少な眼球や魔石も含まれるわけだな。理由を尋ねてもいいか?」

「それは私が素材を集めるのが大好きだからです」

「素材を集めるのが?」

「はい、コレクター品として所持しておきたいのです」

魔物の活性化が神様の魔力による影響だとしても、それは世界を維持するのに仕方のないこと。困っている人々や領主の力にはなるが、ここだけは譲れない。

レッドドラゴンの素材は稀少なようだし、次にいつゲットできるかわからない。

苦労の末に素材として手に入れたのならば、やはり一種類は収集しておきたいじゃないか。

俺の真剣な言葉を聞いて、領主は肩を震わせた。

「ハハハハ! レッドドラゴンを倒すほどの猛者と聞いていたが、素材集めが好きなマニアだったとは!」

領主にとっては面白かったのか、楽しそうに笑っている。

「元々は素材採取が主で討伐は専門外なので……」

討伐依頼など一度も受けたことがない。俺は素材採取専門なのだ。

「では、コレクター品とするもの以上の素材は望まないと?」

「はい、後はルミアさんが研究に使える量を残しておいてくださり、適正な値段で買い取ってもらえるならば構いません」

レッドドラゴンの素材を上手く売り捌くことができれば、きっと領主のいうように莫大な富を得ることができるだろう。しかし、俺にはその伝手もないし、レッドドラゴンの素材を高く売り払うために大きな労を払いたいと思わない。

正直、今は鉱山の採掘にハマっているからそっちに時間を使いたいし、お金にはそこまで困っていないからな。

「君は面白いな。私と専属契約を結んで雇ってしまいたいくらいだが、レッドドラゴンを売り払って得るお金や、冒険者ギルドでの稼ぎを考えると魅力でもないか……」

さすがに招待するにあたって俺のことは調べていたのだろう。

領主に雇われるということは生活を保障されるだけでなく、後ろ盾を得ることにもなって素晴らしいことだ。

しかし、領主の事情や都合に振り回されることになるので、俺としては遠慮したい。

「申し訳ありませんが、私は自由でいたいのでこのままでお願いします。何かお困りであれば、ギルドを通して指名依頼を出して頂ければできるだけお力になります」

「わかった。そう、させてもらおう」

やんわりとお断りをすると、領主もわかっていたのか素直に引き下がってくれた。

「それにしても、レッドドラゴンの素材の半分は売らないと言われると思ったのだがな」

「あまり所持していても持て余すだけなので……」

あの大きさで半分となると、相当なものだ。資産として所持しておくのも悪くないが、領主が困っているので無駄にマジックバッグのこやしにするよりもいいと思う。

「そうか。だが、これでは私が強引に権力を使って買い上げたようにも思われる上に、これだけ譲歩してもらうのは個人的にも心苦しい。何か私が力になれることはないか? できるものであれば便宜を図ろう」

「いや、別にそこまでお気遣いしなくても」

「それくらいのことはしないとサフィー殿に依頼を受けてもらえなくなりそうだ」

恐れ多くて遠慮したが、領主は真剣な声音でそう語った。

口利きを頼んでしまったことにちょっと罪悪感。いや、俺が実際に頼まなくてもしただろうけど。

「というわけで、なにか望みを言ってもらえると助かる」

「で、では、この紅茶の茶葉を頂けたらと」

あっ、ルミアってば上手い。なんだかいい感じのレベルのお願いじゃないか。

「わかった。十分な数を用意しよう。シュウ殿はいかがかな?」

んー、領主に頼みたいことか。紅茶とお茶菓子は確かに美味しいが、俺はルミアの淹れてくれた紅茶や、クッキーの方が好きだしな。

未知の素材には興味があるが、だからといって譲ってほしいとは思わない。なぜなら自分で採取をしたいからな。

今の俺の欲しいもの。そういえば、先日採掘をしているとツルハシが壊れてしまったな。

いい素材を使った頑丈なものを作ってもらおうと思っているが、いい鍛冶師を知らない。

「では、グランテルにいる腕のいい鍛冶師を紹介してもらえないでしょうか?」

「……鍛冶師か? それは可能だが何故だ?」

「デミオ鉱山で採掘をする際に、ツルハシを壊してしまったもので」

「ああ、あそこの岩盤は硬く、採掘の名人でも道具の消耗が早いと聞くしな。それならば、私がツルハシを用意させてもいいが?」

「大変ありがたいですが、他にも細々と頼みたいものもあるので紹介していただくだけで十分ですよ」

「わかった。ならば、ドロガンに紹介状を書いておこう。偏屈だが腕は確かだ。忙しくて新規の客を追い返すことが多いが、私からの紹介状を渡せば注文は受けてくれるはずだ」

「ありがとうございます」

ベルダンが紹介状の紙とペンを持ってきて、領主がさらりと書いて渡してくれた。

これでドロガンという人にツルハシを作ってもらえる。他にも採取用のナイフや鋏、ピンセットなんかも頼んでしまおう。

新しい道具が手に入ることを考えるだけでワクワクする。

「後はレッドドラゴンの素材の買い取り額だな」

「こちらがレッドドラゴンの素材の買い取り額を掲示したものになります」

ベルダンが差し出してきた紙には、レッドドラゴンの素材の買い取り額が一覧となって書かれていた。

「す、すごい値段ですね」

取引される金額を見て、ルミアが見事に固まる。

レッドドラゴンの鱗一枚で金貨十枚。戦闘によって劣化してマイナスされているものもあるが、それは何百枚とあるのだ。これだけでもひと財産だ。

稀少な眼球なんかは一つで金貨百枚の値段がついている。

どれも事前に鑑定で調べた市場価値の範囲に収まる値段だな。前々から値段を把握していたので、ルミアのように動揺はしないが、改めて数字としてみると凄い額だ。

「どれも市場価値に収まる値段ですね。こちらとしては問題ないのですが、大丈夫なのでしょうか?」

ただでさえ、魔物の被害によって出費がかさんでいると聞いた。

「なに、そこは私たちの腕の見せどころさ。これの二倍以上の利益を出してみせるよ」

自信のある笑みを浮かべる領主の顔は、完全に商売人のものであった。

サフィーに振り回されているイメージであったが、この人もこの人でやることはやっているのかもしれないな。