軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔猿

「お父様からの依頼食材を一つ確保ですわ!」

フランリューレが満足げな表情で言った。

今までのような厳重に守られながらの採取ではなく、こうやって自由に動きながらの採取が本当に嬉しいのだろうな。

真っすぐな彼女の心意気は見ているだけで微笑ましく、応援したくなってくる。

警備人たちが慕っていた理由がよくわかるな。

「次の食材はどれが一番近いのでしょう?」

残っている食材は爆裂コーン、バイローンの肉、天空魚、巨大樹の実の四つだ。

「ここからですと爆裂コーンが近いですわ」

「では、そちらに向かってみましょうか」

「はい!」

爆裂コーンの大まかな生息地はフランリューレが知っているとのことなので、俺は彼女についていく。

シュワシュワの泉から離れて北上していくと、より一層と森が濃くなっていく。

大きな木が生え、あちこちで根や蔓が隆起している。

この辺りは植物の生命力がとても強いエリアなのだろう。

環境が変わると、がらりと魔物のタイプも変わることが多い。

思わぬ魔物が出てきて、想定外の奇襲を仕掛けられることも多いために警戒心をより強くする。

念入りに魔石調査で索敵をしていると、魔物が近づいてくるのがわかった。

方角は前方だが近づいてくるのは頭上からだ。

恐らく木から木へと延びる枝や蔦を利用して移動しているのだろう。

「フランリューレさん、魔物が近づいてきています」

「ッ! どのような魔物でしょうか?」

「腕が異様に発達した猿ですね」

遠目から確認できるシルエットからして、どう見ても猿だ。

毛深い体毛に地面につきそうなほどに長い手が特徴的。

「おそらく魔猿ですわ!」

「接敵を避けますか?」

スタンニードルを使えば無力化できるだろうが、保護区内では必要以上の戦闘はしない方がいい。

「いえ! 魔猿は保護区の生態系を乱す有害な魔物です! できれば、駆逐したいですわ!」

配慮しての提案だったが、フランリューレの返答は意外なほどに過激なものだった。

「そんなに有害なんですか?」

「はい! 育てている食材を盗むわ、希少な木の実を食い荒らすわ、本当に何でも食べてやりたい放題ですの!」

落ち着いたフランリューレにしては珍しく、頬を膨らませた憤慨を露わにしている。

その怒り具合から過去に何度も被害に遭っているのだろうな。

「そんな魔物がどうして保護区に?」

食材を保護し、管理するこの場所に、その魔物はあまりにも邪魔だと思うのだが。

「元々この森に棲んでいたのです。何度も駆逐してはいるのですが、繁殖力が強いのか逃げ延びた個体が瞬く間に数を増やしてといった具合でして……」

ゴブリンやゴキブリみたいだな。

これだけ広大になった今では駆逐するのもひと苦労だろう。

「でしたら、討伐してしまいましょうか」

「そうしてくださると助かります!」

というわけで、魔猿との戦闘は避けずに戦う方針へ。

俺たちが真っすぐに進んでいると、魔猿は徐々に近づいてくる。

こちらが既に気配を察知しているとは思いもしないだろう。

視界では真っ赤なシルエットが樹上を移動しているのがわかるが、目で追ってしまえば感知していることを悟られてしまうので我慢だ。

フランリューレも何気なく歩いているが準備は万端だ。

俺が合図を出せば、いつでも魔法を放てる。

相手の油断を誘うためにギリギリまで引き付ける。

俺たちの背後に回ろうとしたのか、魔猿たちが顔を見合わせて横に広がり出した。

意識が俺たちから完全に逸れたその瞬間に、フランリューレに魔法を飛ばす場所を指で示した。

「サンダーアロー!」

その瞬間、フランリューレの杖から雷の矢が迸った。

不意を打つタイミングでの高威力、高スピードの魔法を魔猿は避けることができない。

二体の魔猿が頭上から転げ落ちた。

真っ黒に焦げており長い舌をだらんとさせている。

レディオ火山ではリザードマンを一撃で倒すことこそできなかったが、魔猿には十分な一撃だったらしい。

俺もただ見ていたわけではない。合図を出した同時に右側にいた魔猿にアイスピラーを射出して三体を倒していた。

「合わせて五体。接近してきた魔猿の討伐は完了です」

「ふふふ、すばしっこい魔猿をこうも簡単に! 素晴らしいですわ!」

フランリューレの笑みがやや黒い。

やっぱり過去に相当痛い思いをさせられていうのだろう。などと気づきつつも、俺はそこには触れないことにした。

他に魔物が近づいてこないことを確認しつつ、魔猿を解体して使えそうな肉だけを回収する。

「シュウさん? 魔猿の肉は食べられたものではありませんわよ?」

「ええ、知っています。ですが、魔木で燻製すれば、結構美味しくなるらしいじゃないですか」

「魔猿の肉を燻製するより、他の食べられる肉を燻製してあげた方が良いかと思いますが?」

「マズいと言われた肉が、どれだけ美味しくなるか気になるじゃないですか」

フランリューレの言うことはもっとだ。美味しくないものを美味しくするより、元から美味しいものをさらに美味しくする方が良いに決まっている。

だけど、その前にマズいものが、どれだけ美味しくなるのか変化を体験してみたいじゃないか。

なんて楽しみから採取しているのだが、フランリューレにはちょっとわからない感覚らしく微妙な顔をされてしまった。まあ、これは道楽というか好奇心のようなものだ。

魔木で燻製にして食べる分は少しでいいので、肉の採取は速やかに終わった。

遺骸は森の魔物の餌となり、植物の栄養になるとのことなのでそのまま放置。

とはいえ、たった五体倒しただけでは根本的な解決にはならないだろう。

かといって、食材の採取を中段して魔猿退治というのは面白くない。

折衷案として俺は魔猿で検索して調査スキルを発動。

できるだけ広範囲に魔力の波動を飛ばすと、あちこちで魔猿の反応があった。

その中で一塊になっているのは恐らく魔猿の巣だろう。

「フランリューレさん、保護区の大まかな地図を見せてもらってもいいですか?」

「はい」

そう言うと、フランリューレが懐から取り出した地図を見せてくれる。

「ここから北にある大きな木の中と、西に行ったところの洞窟、東にある地中に恐らく魔猿の巣があります」

「そんなことまでわかるのですか!?」

「俺のスキルは結構便利なので。後で警備人に共有してあげてください」

「感謝しますわ。後でお父様にかけ合って報酬を上乗せしてもらいますわね」

「確定ではないので、きちんと討伐できてからで結構ですよ」

お金を貰っておいてやっぱりいませんでしたとかになったら怖いから。

「うふふ、これで奴らを駆逐できますわ!」

地図に印をつけながらフランリューレが笑う。

黒い笑みだな。

後に襲撃されるだろう魔猿がちょっと可哀想に思えたが、今まで好き勝手にやってきたみたいだし自業自得だと思おう。