軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

千本タマネギ

カニカマキリの解体と収納が終わると、俺たちは保護区を進むことにした。

カニカマキリの鋏や脚は本当に身がカニのような感じだった。

まだ食べていないので味まではわからないが、多分普通に調理したらカニみたいに美味しいと思う。しっかりと風味がカニだったし。

カマキリなのにカニ。不思議な魔物だ。

壁付近は開けた平地の地面だったが、離れていくと大きな森へと差し掛かった。

恐らくはここからが本番で保護区内にある数多の動植物がひしめいているのだろう。

魔石調査をすると、半径二百メートルの範囲にたくさんの魔物がいるのがわかった。

知らない魔物ばかりでシルエットを見ただけでは、どんな魔物かまるで予想がつかない。

今回はフランリューレという守るべき対象がいるので、いつも以上に気を張らないと。

「うわっ! 素材がたくさんだ!」

そう思っていたのだが調査スキルで引っかかった数多の素材の煌めきによって霧散してしまう。

いや、だって視界を埋め尽くすほどの素材の輝きがあるんだ。身体がすぐに動いてしまうのは採取家として仕方がないと思う。

「なんだか長細い茎がたくさん生えてる!」

「千本タマネギですわね。一つの群生地帯で千本ほどタマネギが自生していますわ」

「千本も!?」

確かに改めて見てみると、軽く千本はありそうだ。正確に数えたわけじゃないけど、多分千本はあるに違いない。

「採取しても?」

「ええ、構いませんわ」

フランリューレからお墨付きもいただけたところで、俺は千本タマネギを引っこ抜く。

ズボッと地中から丸々としたタマネギが出てきた。

細長い茎とは裏腹に球根の方はとても大きい。

「生で食べてみてもいいですか?」

「構いませんわ」

土をしっかりと水で洗い流すと、採取用ナイフで食べやすい大きさにカット。

フランリューレも食べたそうにしていたので彼女の分も渡してあげる。

綺麗な曲線を描いたタマネギの白い身を俺たちは食べてみる。

歯を突き立てるとシャクシャクと小気味のいい音が鳴った。それと同時に千本タマネギに含まれる甘みと旨みが一気に口内に広がる。

「甘みが強くて美味しい!」

特筆すべきはその圧倒的な甘みの強さだ。

果物かと思ってしまうほどの瑞々しさ。

後からほんのりと漂う辛さは、爽快さすら感じさせるほど。

「やっぱり食卓に上がってきたのを食べるのとでは、新鮮さが段違いですわね」

小さな口で噛み締めるように味わっているフランリューレ。

彼女は既に食べたことがある様子だが、やはり採取したてのものは味が違うらしい。

こんな希少な素材を採取してすぐに食べられるなんて本当に幸せだ。

パクリパクリと夢中になって二人で食べていると、あっという間に一つの千本タマネギを平らげた。

「では、採取をしていきましょうか」

「千本タマネギは買い取り額が銅貨五枚と低いですが、よろしいのですか?」

味見を終えて採取に取り掛かろうとすると、フランリューレが尋ねてくる。

「俺はお金稼ぎが目的で採取をしているわけじゃないので。採取したいものや面白いものがあれば、なんでも採取して楽しみたいんです」

確かに生きていく上でお金は大事だが、俺はこの世界で大金持ちになりたいわけではない。

ただ思う存分に採取をして、好きな素材を収集したいだけだ。

お金を目的として稼ぐなら、きっと採取以外に効率のいいものがたくさんあるだろう。

お金が欲しければ、そっちで稼げばいい。

稼ぐことを目的として採取を楽しまないなんて生き方は、俺には到底考えられない。

だから、俺は買い取り額が低くても、許される限り採取する。

「シュウさんはそういうお方でしたわね。無粋な質問をしてしまいましたわ」

考えを述べると、フランリューレはクスリと笑った。

それから次々と千本タマネギを引っこ抜いてマジックバッグに詰め込んでいく。

なにせ一つの群生地帯だけで千本も生えているのだから大量だ。

ライラート家が把握しているだけで保護区内にそれが百か所はあるようだ。

つまり、最低でも十万本あるわけで、数百本採取しようがまったく影響はないとのこと。

取りつくすつもりはまったくないけど、遠慮なく採取して楽しむ。

「それにしても一つの群生地帯でこれほど生えているとは、すごい繁殖力ですね。畑で栽培すれば、安定した生産が見込めるのでは?」

「残念ですが肥沃な栄養と魔力がなければ、すぐに枯れてしまうのです」

「そうなのですか」

俺が咄嗟に思いつくくらいのことは、ライラート家も考えついているみたいだ。

普通に農業として栽培できればと思ったが、そうは上手くいかないらしい。

成育環境が厳しいから、こうやってライラート家が保護区で管理、栽培しているのだろうな。

「ですが、ライラート家も外で栽培ができないか試行錯誤中です。現在、マスタークラスの錬金術師の方に依頼を出しているのですが、忙しいせいか中々引き受けていただけなくて……」

「それってもしかして、サフィーさんとかだったりします?」

マスタークラスの錬金術師と聞いて真っ先に思い出すのは、面倒くさがりでお酒が大好きな彼女だ。

サフィーの名前を出すと、フランリューレが勢いよくこちらを振り返る。

「サフィーさんをご存知なのですか!?」

「ご存知といいますか、仕事やプライベートなどでよく絡む間柄といいますか……」

依頼人、友人、呑み仲間……サフィーとの関係性を一言で表すのは難しいが、これまでの付き合いからして親しい部類には入るだろう。

相手は俺のことをどう思っているかわからないけど。

「でしたら、当家の依頼をぜひとも引き受けてくださるようにお願いできませんか!?」

ヒシッと俺の手を包み込みながら、上目遣いでお願いしてくるフランリューレ。

庇護欲をそそる表情と可愛らしい容姿も相まって全力で答えたくなるが、彼女の性格を考えると安受けはできないものだった。

「引き受けてくださるかはわかりませんが、それとなく言ってみます」

「是非、お願いしますわ!」

フランリューレの必死さから千本タマネギ以外にも、たくさんの食材の品種改良を頼まれていそうだな。

グランテルに帰ったら、一つくらい受けるように言ってみよう。

保護区内だけでなく、グランテルでも千本タマネギとか食べたいし。