軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

依頼完了

満月花を採取して村に戻った俺は、一番にポダンさんの雑貨屋に入る。

「いらっしゃいませ。あら、見ない顔ね。もしかして、あなたが最近村にいらっしゃったシュウさんかしら?」

いつものように店に入ると受付にいたのはポダンさんではなく、柔和な笑みを浮かべたどこか品のいい女性だった。

「はいそうです。はじめまして、シュウといいます。もしかして、ポダンさんの奥様でしょうか?」

「はい、サナリアといいます」

やはり、そうだった。サナリアさんはポダンさんの奥さんだ。

ポダンさんと同じくらいの年齢のはずだが、とても若く見える。ポダンさんが満月花を贈りたくなるのもわかる気がするな。

「おや、シュウさん。今日はどうされましたか?」

なんて思っていると、奥の部屋からポダンさんが出てきた。

さすがに誕生日に贈りたい人の目の前で、満月花の話をするわけにはいかない。

「この間仮払いさせてもらった魔道コンロなんですけど、思いのほか気に入ってしまって。他にも種類があれば、ゆっくり見たいなーと」

「ああ、なるほど。それなら奥の部屋に他の種類があるのでどうぞ」

仮払いした魔道コンロという部分を強調して話すと、ポダンさんは察しがついたのか奥に促してくれた。

案内された部屋は、ちょっとした談話室のようでソファーやカーペットが敷かれておりゆったりとした雰囲気。

ポダンさんに促されて俺はソファーに座る。

しかし、ポダンさんはソファーにつかず、何やら棚に置いてあるものをゴソゴソと。

「少々お待ちを。多分、妻がお茶を準備していると思いますので」

なるほど、お茶を持ってくる可能性があるのでそれが終わってからだな。

ポダンさんがテーブルの上に魔道コンロらしきものを置いているのは、サナリアさんが入ってきた時のカモフラージュだろう。

それでも他にも魔道コンロがあれば気になってしまうもの。

「よければ、他の魔道コンロもご覧になってください」

「では、遠慮なく」

テーブルの上にはこの間と同じ魔道コンロや、少し頑丈そうになっているもの、携帯しやすいように小さいものもあった。

小さいものなどはちょっとしたお湯を沸かすのに便利そうだが、マジックバッグを持っている以上コンパクトという点にはさほど興味がないな。

やはり、どうせなら同じタイプのコンロをもう一つ買うのがいいだろうか。

いつもなら商品を見ていると、オススメや解説をしてくれるポダンさんであるが、今日はソワソワしており落ち着きがない。

誕生日に満月花が渡せるのかどうか。その結果を知りたいのはポダンさんだろうからな。

「失礼します、お茶を持ってきました」

しばらく魔道コンロを眺めていると、扉がノックされたサナリアさんが入ってきた。

入って早々に満月花のやり取りをしていたら、ここでバレていただろうな。

差し出されたのは、緑茶のような色合いをしたお茶。

「ほのかにミントのような爽やかな香りがしますね」

「ええ、ミントの葉を乾燥させて煮出したものなんです」

なるほど。ミントティーのような感じか。

一口飲んでみると、意外にも清涼感は柔らかなものであった。

「あっ、これ思っていたよりも飲みやすいですね」

「そのまま齧ってしまうと辛いのですが、乾燥させて煮出すと柔らかくなるんですよ」

へー、それは知らなかったな。意識して鑑定すれば、そのような情報も出てくるのかもしれないが、常日頃そういう風に考えたりしないからな。

素材でも、人によって様々な効果を発揮するというわけか。

「それを利用してミントの葉で肉の臭みをとることができたり――」

ミントの葉の話題に食いついたからか、サナリアさんがどこか嬉しそうに語り出す。

俺としてはミントの茶を作る方法が聞けたり、料理にハーブとして使える方法が聞けたりと有用なのだが、ポダンさんは満月花の話がお預けになっているので可哀想だった。

「では、ごゆっくりしていってくださいね」

ひとしきり、ミントの葉について話すと満足したのか、サナリアさんは上機嫌に退出した。

「すいません、妻は一度話すと止まらなくなる面がありまして……」

「構いませんよ。俺もミントの葉の使い方を知れてとても参考になりました」

「そう言ってもらえると助かります。さて、それで例の品なのですが、どうです?」

「見つけましたよ、満月花」

おそるおそる尋ねてくるポダンさんに、俺はニヤリと笑みを浮かべながらバッグから満月花を取り出した。

それを驚愕の眼差しでじっくりと観察するポダンさん。

「おお、これはまさしく満月花! シュウさん、本当にありがとうございます! これで妻に素敵な贈り物をしてやれます!」

満月花を大切そうに持ちながら、深く頭を下げてくるポダンさん。

想像していたよりも大袈裟な反応に、思わずこちらが恐縮してしまう。

「いえ、こちらも高額な魔道具を値引きしていただいたので」

「たとえそうであっても、これはお金をかければ見つかる代物ではないのです。だから、本当にシュウさんには感謝しております」

まあ、あれだけ調査をしたのに見つからないくらいだったからな。普通の人が探せばもっと時間がかかるだろう。

ここで俺がするべき態度は謙遜ではなく、依頼をやり抜いた採取者の返答だな。

「どういたしまして」

「おかえりー、シュウさん。今日はどうだった?」

ポダンさんから報酬である金貨三枚を貰い、雑貨屋から宿に戻るとニコが笑顔で迎えてくれた。

「バッチリだったよ。ちゃんと見つけてポダンさんに渡してきたよ」

「そうなんだ! おめでとう! でも、もう渡してきちゃったんだぁ」

少し残念そうにするニコ。

その様子を見て、彼女も満月花を見たかったのは一目瞭然。

あの場にはニコも居合わせていたし、見せてあげるべきだったかな。

どうしたものかと困っていると、アンナさんがやってきたニコの頭を撫でる。

「まあ、そうしょげるんじゃないよ。後でサナリアさんから見せてもらえばいいだろう?」

「うん、そうする!」

ニコは元気に頷くと、食堂のテーブルを拭いていく。

まあ、満月花は別になくなったわけではない。

サナリアさんの誕生日の後に雑貨屋にいけば、きっとしばらくは飾ってあるだろう。

満月花の光は一週間保つらしいので、美しさが損なわれることはない。

「すまないね、困らせちゃって」

「いえ、こちらこそ配慮が足りなかったですから」

雑貨屋でニコが満月花に強い興味を示していたのは明らかだったからな。ポダンさんに渡す前に寄ってみせてあげることもできたのだから。

「さて、帰ってきてお腹も空いただろう。今日は何が食べたい? シュウが採取してきた素材を料理してやってもいいよ!」

「あっ、それなら料理してもらいたい肉があるんです!」

「肉かい?」

偶然とはいえ、手に入れることができた食材だ。

俺はアンナさんを中庭に連れ出して、マジックバックからブルーグリズリーの氷像を取り出した。

「ぎゃあああああっ!? ちょ、ちょっとシュウ! あんたっ!」

その瞬間、アンナさんが大きな声で悲鳴を上げた。

あ、あれ? これってそんなに驚くことなのか?

「ど、どうした! アンナ!」

「お母さん!? って、うわああっ! でっかいブルーグリズリーだ!」

アンナさんの騒ぎを聞きつけて厨房からローランが、食堂の方からニコがやってきて声を上げる。

「なんだなんだ?」

「まさか、ブルーグリズリーが出たのか!?」

あっ、これ思ったよりも大事になるやつだ。そう悟った時にはもう遅い。

そんな三人の悲鳴が響き渡ったせいか、近隣の村人たちもわらわらとやってくる。

長閑な村に似つかわしくもない悲鳴が上がれば、気になってきちゃうよね。

小一時間かけて説明して収拾はついたけど、アンナさんとローランにこんなものを気軽に出すなと怒られてしまった。