軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔力釜

「あっ、シュウさん! ちょうどいいところに!」

ルミアの店の近くにやってくると、ちょうど外に出てきたルミアと出会った。

扉かけてある看板をひっくり返していたので買い出しかと思いきや、別にそうでもないようだ。

ルミアは俺を見かけるなり、ホッとした顔をしていた。何やら俺に用事があるようだ。

「どうしました?」

「すみません、ちょっと付いてきてください」

駆け寄ってきたルミアは早口でそう言うと、俺の手を引っ張って歩き出す。

前世もそれなりに長く生きてきたので、手を繋ぐのが初めてというわけではないが急に手を繋がれるとドキドキするな。

それもルミアのような美少女となると尚更だ。やっぱり女の子の手だけあって柔らかい。

でも、こんな風に手を繋いでいるのにルミアは素知らぬ顔だった。

「……ルミアさんはあんまり気にしないんですね」

「何がですか?」

「こんな風に手を繋ぐことに」

俺がそのように言うと、振り返ったルミアの視線が手元に向かい、

「ひゃわっ! あ、ああ、あの、すみません! 慌てていたもので、つい!」

ルミアが顔を真っ赤にして手を離した。

俺としては残念なような、ちょっとホッとしているような複雑な気持ちだった。

別にルミアも異性ということを全く意識していないわけではなかったらしい。

「いえいえ、気にしていませんから。それよりも何があったんですか?」

何とも言えない空気だったので、お店に入る前に俺は尋ねる。

本題に入ると慌てふためいていたルミアは。すぐに落ち着きを取り戻した。

「実は錬金術で使う魔力釜が魔力切れになってしまって、シュウさんに魔力の注入をお願いできないかと」

「なるほど。今日は特に冒険に出る用事もないので構いませんよ」

「ありがとうございます! では、こちらに!」

ルミアに案内されて俺は店の奥の部屋に入る。

ルミアが普段使っている作業部屋は、営業スペースよりも広かった。

いくつもの試験管やビーカー、素材の入った瓶などがあり、見ただけでは全く用途がわからないような器具も多い。まるで学校の科学室を彷彿とさせるような雰囲気だ。

きちんと道具や素材が整理されているのは、ルミアの管理の賜物だろう。

そして、それらの奥には大きな釜が設置されていた。

艶のある黒い釜。いくつもの魔法文字が書かれており、金の装飾が施されている。

かなり大きくサイズは百二十センチくらいありそうだ。

「これが魔力釜なんですね。初めて見ました」

魔力釜と言えば、素材を合成したりするための道具であり、ゲームでも錬金術師が扱うお決まりの道具だ。実際にこうして目にすると何だか感動する。

しかし、そんなことを考えていた俺であるが、ふと思う。

「あれ? でも、魔力釜がなくても錬金術はできますよね?」

以前、ルミアは錬金術スキルで素材を錬金してみせた。

それは合成であったり、乾燥であったり、成分の抽出であったり。

そのようなスキルがあるというのに、この釜は何のために使うんだろう?

「勿論、錬金術師は自らの所持するスキルで錬金することができます。しかし、それだけでは大量生産をするには不向きなので、それを補うために魔力釜があるんです」

「なるほど、補助具みたいなものなのですね」

「はい、素材の調合から料理まで幅広く使えて便利です!」

「え?」

今、調合の他に料理も使うって言わなかった? まさか、この魔力釜でいつも料理やお菓子を作っていたり……いや、さすがにそれはないよな。きっと、聞き間違えだ。

【魔力釜 最高品質】

素材の合成、分離、加熱、冷却などなど、効率良く錬金術を行うことができる。

煮る、焼く、蒸すと全ての調理法が可能であり、万能な料理器具でもある。

錬金術師にとってかかせない道具。

サフィーの手によって作り出された。その価値は国宝クラス。

鑑定してみると、まさしくルミアの言うような説明が出てきた。

それと共に万能な料理器具でもあると……。

うん、別にどのように調理をしていようが美味しければそれでいいじゃない。

これについては触れないようにしよう。

というか、素材としての価値が金色だ。サフィーは一体どれだけの素材をつぎ込んだのやら。

「ひとまず、この魔力釜に魔力を注げばいいんですね?」

「はい、そのまま注いでもらえればと」

ルミアに言われて、俺は魔力釜へと手をかざして魔力を流す。

すると、魔力釜がグングンと魔力を吸収していく。それに伴い魔力釜が僅かに発光していくが、まだ光は弱い。まだまだ満タンには程遠いのだろう。

その様子を見て、注ぎ込む魔力の量を増やす。魔力釜の光が強くなっていき、ドンドンと俺の魔力を吸収していく。

なんか海守の腕輪並の魔力が吸われているが、まだ満タンにならないのか。

魔力釜というのはすごいな。

ルミアも声をかけてこないしもっと注いでほしいということだろう。

俺はさらに出力を上げて魔力を送り込む。

すると、魔力釜が強い光を放ち明滅し出した。

あれ? なんかこれはヤバいやつじゃないか?

「シュウさん! 魔力を止めてください!」

なんて思っていると、ルミアが静止の声を上げたので俺はその通りにした。

「すごい。師匠の魔力釜が満タンになったのは初めてです」

「ええ? いつも満タンにして使っているんじゃないんですか?」

「師匠の作った魔力釜は特別なせいか魔力量が底無しなんです」

なにせ最高品質の魔力釜だからな。

マスタークラスの錬金術師が作った魔力釜だ。きっとすべてが最高品質のものでできているのだろう。バカみたいな魔力が必要になっても当然か。

「宮廷魔法使いの方が一か月注ぎ続けても満タンにならなかったんですけどね。それを一回で満タンにしてしまったので驚きました」

「そ、そうだったんですね」

宮廷魔法使いって、王城で働くくらいの魔法使いのエリートだよな? 当然、魔力量もそこらの魔法使いよりも多いわけで。

そんな人が一か月かけても満タンにできなかったものを、一瞬でやってしまったのか。

神様から貰った身体なので魔力は多い方だと思っていたが、自分の想像よりも遥かに多い気がする。

「これだけ底無しだと動かすのが大変そうですね」

「いつもは師匠や私が余った魔力を小まめに注いでやり繰りしているんですけど、どうやら師匠が酔っぱらって補充を忘れてしまって……」

「それで魔力が切れて、うんともすんとも言わなくなったんですね」

うん、原因はそんな感じじゃないかと思っていた。

「一度切らしてしまうと、起動させるのに必要な魔力が莫大なんですよ。私の魔力じゃ足りないのに師匠は起きてくれなくて大変でした」

「そんなところにちょうど俺がやってきたと」

「はい、頼みに行こうと思っていたところに来て頂いて、本当に助かりました! ありがとうございます!」

ぺこりと頭を下げるルミア。

「どういたしまして」

友人の役に立てたようでこちらも嬉しい。

俺とルミアが笑い合っていると、魔力釜を動けなくした原因がやってくる。

時刻も昼に近いというのに、眠そうに瞼を擦っている。

「なんだなんだ? 朝から賑やかじゃないか」

「サフィーさん、こんにちは――って、なんて格好してるんですか!?」

視線を向けた先には黒い下着姿のサフィーが。真っ白な肌とスタイルのいい肢体が惜しげもなく晒されている。

サフィーは俺と視線が合うと目を見開き、

「おおおおおおおお! あたしの魔力釜が満タンになっている! これはどういうことだ!?」

叫ぶことなくスルーして魔力釜へと飛びついた。

あれれ? こういう時、普通は女性が悲鳴を上げたりする場面だよね?

「どういうことだじゃありませんよ、師匠ー! それよりも、その格好を何とかしてください! 今はシュウさんはいるんですから!」

「おお、そうか! シュウ君が魔力を注いでくれたのか! シュウ君ならもしやと思っていたが、もしや一回で満タンにしたのか!?」

なんてルミアが叫ぶもサフィーは魔力釜に興奮して聞きやしない。

まるでそれが平時のように下着姿のままで詰め寄ってくる。豊満な胸やらくびれた腰やら見えてすごい。

「すみません、シュウさん! とりあえず、部屋から出てください!」

「あっ、はい」

サフィーのあられもない姿にドギマギしていると、慌てた様子のルミアに部屋を押し出された。

「おい、ルミア。どうしてあたしの邪魔をする。あたしの魔力釜が満タンになるなど初めてだ。経緯を知りたい」

「いくらでも教えてあげますから自分の格好を何とかしてください」

「ただの下着ではないか。シュウ君はリンドブルムであたしの水着姿も見ている。そう変わらないだろう?」

「変わりますから! 水着と下着は全然違います!」

時折、聞こえてくる声を耳に入れないようにしながら、俺は店舗スペースで心を落ち着かせた。