軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

希少なアロマタケ

セシエラとの会話にリラックス効果を受けていた俺だが、いつまでものんびりとした会話を続けるわけにはいかない。

俺はこの後に予定がなくても、セシエラは店長としての業務があるだろう。

あまり無駄話するのも申し訳ないので、俺は早速仕事の話をすることにした。

「では、アロマタケの納品をさせていただきますね」

「お願いいたします」

「まずは指名依頼に書かかれていた四種類をお出ししますね」

「四種類とも採取してくださったのですか?」

四種類とも採取したことを告げると、セシエラは驚きで目を見開く。

「念のためセシエラさんの方でもご確認をお願いします」

偽造バッグの中からケースに入れたラベンダー、ローズマリー、グレープフルーツ、オレンジの四種類のアロマタケを提出する。

「確認させていただきます」

セシエラはケースを開けると、丁寧にアロマタケを観察し、匂いを嗅いでいく。

「間違いなく本物です。まさか四種類とも納品してくださるとは思いませんでした。アロマタケは様々な香りがあるので見極めるのは難しいので」

「香りだけで微妙な判断はつきませんが、俺には鑑定スキルがありますので」

「まあ、それは心強いです。アロマタケの細かい種類まで指定して採取してくださる冒険者さんは少ないので、今後も是非ともよろしくお願いしたいです」

香りの中にはローズ、レッドローズ、レイシスローズといった細かな種類のものもある。

それらは似ているようで微妙に色が違い、香りも違う。

アロマを扱うプロフェッショナルであるセシエラであれば、見た目や香りで見極めることができるかもしれないが、慣れない者からすれば困ってしまうだろう。

採取している途中で俺もそういった種類を嗅ぎ分けられるようになったが、今のレベルではスキル無しで見極められるとは言いづらい。

しかし、いずれはスキルを使わなくても見極められるようになりたいものだ。

「ありがとうございます。ちなみに他の種類のアロマタケもあるのですが、欲しい香りのものはありますか? 追加料金さえいただければ、納品いたしますよ」

「本当ですか!? できればあるだけの種類をいただきたいです」

依頼書に書いてあった通り、セシエラはたくさんの種類のアロマタケを欲しているようだ。

「ここに全てを持ってきているわけではないですが、四十種類以上ありますよ? それでも大丈夫ですか?」

「四十種類以上ですかッ!?」

上品な笑みを浮かべたセシエラが素っ頓狂な声を上げた。

「……失礼しました。驚きでつい大声が……」

自分でも大きな声が出たと思ったのだろう、セシエラが顔を赤くしながら咳払い。

「いえ、気にしていませんので。ちなみに言い間違えとかではないですよ」

「ちょ、ちょっと待ってください。欲しい香りを紙に書き出します」

念を押すように言うと、セシエラは慌ててメモ用紙を取り出して、そこに欲しい香りのアロマタケを書き出していった。

さすがに四十種類になるとそれなりの値段となる。

全てを一気に買い取ることはできないので、本当に欲しいものだけを厳選しているのだろう。

「これらの種類のものはありますか?」

しばらく待っていると、セシエラは欲しいアロマタケのリストを渡してくる。

数にして大体十種類程度だろう。

「はい、全てありますよ」

「本当ですか!? では、これらを一種類ずつお願いします!」

「わかりました。こちらもすぐにお持ちしますね」

本当なら後日にしてしまいたいものであるが、アロマタケは時間とともに劣化していくのが基本だ。

マジックバッグで保存している俺からすれば関係のない話であるが、セシエラはそのこと知らないし、教えてもいない。ちょっと面倒だけど仕方がないだろう。

「素材を採りに戻る前に、一つ興味深いアロマタケを採取してきたのですが、見ていただけますか?」

「興味深いアロマタケですか? 拝見させていただければと」

「こちらのアロマタケです」

セシエラが小首を傾げる中、俺は偽造バッグからブラックペッパーの香りのするアロマタケを取り出した。

「こ、これは……っ! 私もまったく知らない種類のアロマタケです!」

「はい、これは――」

「待ってください。自分で香りを当てさせてください」

説明しようと口を開けると、セシエラに止められてしまう。

アロマのプロとして自分で確かめたいのだろう。その気持ちが理解できたので、俺は知っているが情報は出さずに見守ることにした。

セシエラはケースを少し開けて、透き通った鼻梁でスンスンと匂いを嗅ぐ。

「これってもしかして……胡椒?」

推測はついているものの、本当に合っているか自信が持てないのだろう。

セシエラが疑念のこもった声で呟いた。

森で見つけた時は俺も同じ気持ちだったのでとてもよくわかる。

「正解です。正確にはブラックペッパーの香りというそうです」

「まさかこんな香りのアロマタケがあるなんて知りませんでした。この辺りで採れるアロマタケは網羅していたつもりなのですが……」

自分の分野だけあって知らないアロマタケの香りがあることが悔しいのだろう。セシエラが形のいい細い眉をしかめる。

「これはこの辺りで採れたものですよね?」

「詳しい採取法は秘密ですが、この近辺で採れますよ。グランテルではほぼ流通していないそうですね」

まあ、採取法というよりも生えている場所の方が大事であるが、そこまで丁寧に教えるつもりはなかった。

しばらくアロマタケを観察していたセシエラは、表情を引き締めるとこちらを真っすぐに見据える。

「シュウさん、こちらのアロマタケも売っていただけないでしょうか?」

「いいですよ」

「いいんですか!?」

即座に肯定すると、セシエラが肩透かしを食らったかのように突っ込んできた。

希少なアロマタケなのでもっと渋られるかと思ったのだろうな。

「そうおっしゃると思って、三つくらい採取しておきましたから」

俺は素材コレクターではあるものの、無意味にたくさんの素材を保管しておく趣味はない。

その素材が欲しがる人や、何かの役に立てたいという人がいるならば遠慮なく渡すことができる。

勿論、今回のような大人の対応ができるのは、自分が保管する分を確保している場合だけどね。

二つ目のアロマタケを見せるとセシエラは呆然とし、クスリと笑った。

「さすがはグランテル随一の採取人ですね」

ひとまず、指名依頼のアロマタケ四種類を納品した俺は、追加種類のアロマタケを用意するために店を出ることにした。

とはいっても、マジックバッグの中に全て入っているので、人気のないところで詰め替えるだけで準備は完了だ。

わざわざ宿に戻る必要なんてないが、すぐにセシエラのところに戻ってはどこから取ってきたのか怪しまれることになるので時間を潰す必要がある。

ギルドに指名依頼の達成を報告することもできるが、宿の帰り道でギルドには通ることになるので別に急いでやるべきでもない。

「む? お前、帰ってきていたのか」

適当に散歩でもして時間を潰そうかなと考えていると、俺に声をかけてくる人物が。

「あ、クラウス」

声の方に視線をやると、そこにいたのは薬師であり、貴族でもあるクラウスだ。

買い物帰りなのだろう。抱えている紙袋の中には食材が見え隠れしていた。

「レディオ火山の用事は済んだのか?」

「まあね。それが終わって帰ってきたところ」

俺が指名依頼でレディオ火山に行っていたことは知っているらしい。

「それはそうとこんなところで何をしている?」

「近くにあるアロママッサージ店に追加で素材を納品するところ。とはいっても、マジックバッグで詰め替えするだけだからねー」

「なるほど、それで時間を持て余しているというわけか」

俺がマジックバッグ持ちだということを知っているクラウスは、すぐに状況を理解してくれたようだ。

そんな風に説明をしていると俺の胃袋が音を鳴らす。

「……なんだ、お前? 腹が減っているのか?」

俺のお腹の音を聞いて、クラウスが眉をひそめる。

「採取に夢中になって食べ損ねちゃって……」

「それなら空き時間を使って食べに行けばいいではないか」

「アロマの置いてあるお店に食べ物の匂いをさせて戻るのもアレでしょ?」

納品先の相手は嗅覚が優れているだろうセシエラだ。

素材を持ってくるといいながら屋台で買い食いしたような匂いを纏えば、怒られはしないだろうが何をしていたんだと思われそうだ。

「だったら、あまり匂いのしないものを食べればいいだろう。ほれ」

クラウスはそのように言うと、紙袋の中にあるパンを手渡してきた。

丸々としたバターパンで小麦だけでなく、バターの甘い香りがする。

まだできてからそこまで時間が経過していないのか、ほのかに温かい。

「これ、くれるの?」

「そのつもりがなければ渡さんだろう」

何を当然なことをとばかりの表情を浮かべるクラウス。

相変わらずクラウスの言葉は素直じゃないな。

「ありがとう、いただくよ」

確かにパンであれば、そこまで香りがつくわけでもないな。

屋台料理は濃い味付けのものが多いが、こういうパンなどであればつく匂いも控えめだろう。少なくとも牛串なんかの匂いと違って失礼にはならないはずだ。

クラウスから貰ったバターパンを口に含む。

ふんわりとしたパンの生地にバターの香り。一般的なバターパンの味そのものであるが、空腹だったのでとても美味しく感じられた。

「頼みたい素材の採取がある。時間が空いたらまた来い」

「ああ、わかった。とりあえず、話を聞きに行くよ」

俺はバターパンを口に含みながら、背中を向けるクラウスに返事をした。