軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アロマタケの採取依頼

「さて、今日は何の採取をしようかな……」

掲示板の前にやってきた俺は貼り出された依頼書を眺める。

レディオ火山での採取も魅力的だったが、あそこは如何せん環境が厳しく、魔物も強かった。それに卵の鮮度を落とさないためにもすぐに帰ることになったので、ゆっくりと採取はできていない。

今日はそんな採取不足を解消するために、まったりと思う存分に採取をしたい気分だった。

「シュウさん、少し面白い素材採取の依頼がきていますよ」

「面白い素材ですか?」

掲示板の依頼を眺めていると、ラビスがそう言って一つの指名依頼を持ってくる。

その感じからして何度もこなしている薬草などの類ではなさそうだ。別に指名依頼を受けるつもりはなかったが、面白い素材の採取とくれば別だ。

ラビスから受け取った依頼書を見てみる。

【アロマタケの採取 難易度C】

「この時期になると西の森でアロマタケがたくさん生えるんです。アロマタケはとてもいい香りを放つキノコで、嗅ぐとリラックスできたりするんですよ。女性の中には家庭に小さなアロマタケを置いている方もいます」

「へー、ラビスさんも置いていたりするんですか?」

「はい、仕事で理不尽な目に遭った時は鎮静作用のある小さなアロマタケを買って――じゃなくて、たまに香りを楽しみたくて買いますよ」

コホンと咳払いをして言い直すラビスだったが、色々と台無しだった。

ギルド職員も色々大変なんだろうな。とりあえず、後半の部分には突っ込まずに感心したように頷いておいた。

「依頼主はグランテルでも有名なアロママッサージの店長さんで、報酬にはお金だけでなく、特別にアロマオイルを使ったマッサージもしてくれるそうでオススメです」

「へえ、それは気持ち良さそうですね。よし、決めました。この指名依頼を受けることにします」

アロマタケという素材は採取したことがないので単純に気になるし、報酬のアロママッサージというのも魅力的だ。

そういったお店って女性向けなイメージが強くて、気になりはするものの行きにくいからな。堂々と体験できるいい機会だ。

それに馬車での長旅のせいかここのところ身体が疲れ気味。アロマオイルで身も心もリラックスしたい。

「かしこまりました。それでは受注処理の方を進めさせていただきますね」

受注する旨を伝えると、ラビスが手早く受注処理を進めてくれた。

アロマタケの採取依頼を受けた俺は、アロマタケが生えているという西の森にやってきた。

アロマタケはひとつひとつの大きさや香りも違うらしい。

依頼書を見る限り、多種類の香りのものを採取してくれればいいとのことだが、強いていえばラベンダー、ローズマリー、グレープフルーツ、オレンジの四種類が特に欲しいらしい。

様々な香りで満ちているアロマタケの一つの香りを見極めるのは、それなりに難しいらしいが俺には鑑定スキルがあるので見極めは簡単だろう。

指定された四種類を確保しつつ、他の種類の香りも確保しておこう。

どうせならすべての香りのアロマタケを採取して、コンプリートしておきたいしな。

中々にコレクター魂が疼く依頼だ。

「魔石、調査」

まだ見ぬアロマタケに期待を抱きながらも、しっかりとスキルを使って周囲を警戒。

「……今のところ昆虫系の魔物はいないか」

調査スキルが魔物の存在を輪郭で教えてくれる。

しかし、その中に昆虫系の魔物はいない。

アロマタケを見つけることや採取することはそれほど難しくない。

しかし、その豊かな香りに誘われて昆虫系の魔物が周囲に集まってくる。

それらを跳ね除けながらの採取が難しいために、難易度がCに設定されているのだ。

つまり、探すべきはアロマタケではなく、そこに集まる昆虫系の魔物だ。

昆虫系の魔物が集まっているところに向かって、アロマタケを見つければいい。今までとはちょっと違った素材の探し方だ。

「魔石、調査」

関係ない魔物を迂回しつつ奥に進むことしばらく。

昆虫系らしい魔物の反応を捉えた。

俺の視界では見たことのない輪郭をした魔物が見えていた。

カブトムシ、大きな蝶々、テントウムシのような形をした魔物がいる。

あれだけの昆虫系の魔物が集まっているということは、あの付近にアロマタケが生えているのだろう。

カブトムシは角が三本もあって随分と体格もいい。大きな蝶々は不思議な鱗粉をまき散らしていて危険な気がする。

ここはごく普通のテントウムシっぽい奴の近くを探す方が安全そうだ。

調査スキルで常にテントウムシの動向を意識しながら、俺はそろりそろりと歩いてアロマタケを探す。

すると、不意に爽快感のある独特な香りがしてきた。

「……この香りはローズマリーか?」

確かな確証はないが、この独特な匂いからそんな気がする。

匂いにつられるようにして進んでいくと、木の根元にひとつのキノコが生えていた。

薄紫色をしており、まるで薄いカーテンのような柔らかい傘をしたキノコだ。

【アロマタケ(ローズマリー)】

とてもいい香りのするキノコ。その香りは様々であり、その効果もそれぞれ違う。

このアロマタケはローズマリーの香りがし、部屋に置いておくだけで一か月は香りが持続する。精神を高揚させる働きがあり、無気力や鬱などに効果的。

鑑定してみるとやはりアロマタケだった。

しかも、依頼主が求めていたローズマリー。

近くで香りを嗅いでみるとフレッシュな爽快感と独特な匂いがした。

前世で嗅いだことのあるローズマリーと同じ匂いだ。

「キノコなのにローズマリーの香りがするのは不思議だな……」

俺の知っている普通のローズマリーとはまったく外見が違うので新鮮だ。

香りには個人の好き嫌いがあるが、特に苦手な香りでもない。

アロマタケの根元をつまんで引っこ抜くと、素早くマジックバッグに収納する。

アロマタケは採取してから時間が経過するにつれて、どんどんと香りが減っていくからな。

こうしてマジックバッグに入れておけば、時間経過による劣化はないので安心だ。

「おっ、こっちにもあるな」

傍に生えていたアロマタケを三つ採取したが、違う木の根元には緑色のアロマタケが生えていた。

【アロマタケ(ライム)】

ライムの香りがするアロマタケ。

不安な心や鬱を吹き飛ばしてくれるリフレッシュ効果があり、明るく元気な気持ちにしてくれる。

爽やかな柑橘系の中に少し苦さを感じる香り。

鑑定してみるとライムの香りがするアロマタケだった。

「キノコなのに柑橘系の香りがする」

前世の素材じゃ到底考えられない不思議素材だ。本当にこの世界の素材というのは面白い。

依頼主が求めている香りとは違うが、これはこれでアリなので採取しておく。

できるだけたくさんの種類が欲しいと書いてあったし、仮に引き取ってくれなくても自分の部屋に置いたり、お土産として渡すのも良さそうだ。

ラビスとかルミアとか気に入ってくれるかもしれないな。

そんなことを思い浮かべながら採取すると、視界にアロマタケは存在しなくなった。

だけど、周囲にはまだローズマリーやライム以外の香りが漂っている。

多分、まだまだ周囲にはアロマタケが生えているのだろう。

周囲をうろつく魔物を回避しながら探すのは至難であるが、俺には調査スキルがある。

一度、アロマタケをしっかりと目視すれば、検索して探し出すことも簡単だ。

「アロマタケ、調査」

アロマタケで検索し、調査スキルを発動すると視界の中にアロマタケが浮かび上がった。

結構見つかりにくい場所に生えているのもあり、中には木の上や裏側に生えているものもあった。

視界を鮮やかに彩っているたくさんの素材。採取者からすれば幸せな光景だ。

レディオ火山ではこんな風にゆっくりと素材を探して採取する暇はなかったからな。

だが、今日はそこまで急ぐ必要もない。自分のペースでゆっくりと素材と向き合いながら採取を楽しもう。

「よーし、採取するぞ」

俺は意気揚々と群生しているアロマタケに走り寄った。