軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

屋敷の朝

領主であるカルロイドに卵を納品した翌朝。

俺はそのままカルロイドの屋敷で朝を迎えた。

本当は日暮れまで時間もあったので、街に戻りたかったのであるがカルロイドたちが帰してくれなかった。

難しい依頼をこなしてやってきてくれたというのに、今から街に戻らせるなんてとんでもない。とのことだったのであるが、庶民である俺からすれば、領主の屋敷に泊まる方がとんでもないのだが、そこは認識の相違というやつなのだろうか? よくわからない。

まあ、そんなわけで今日はいつもと違った寝室での起床だ。

大きなフカフカのベッドから身を起こす。

快適な寝室環境であれば惰眠を貪れる……と思いきや、不思議と目覚めてしまうのは何故なのだろうか。

やはり、多少は環境が悪くても慣れている場所で眠るのが一番なのだろうか。前世でもよく旅行には行っていたが、家ほど熟睡することはできない。不思議だ。

ベッドから起き上がると、ちょうど扉の方から控えめなノックが響く。

「シュウ様、朝食の準備ができております」

「わかりました。身支度を整えたらすぐに向かいます」

「かしこまりました」

そう答えると、外から声をかけたメイドは寝室に入ることなく待機した。

恐らくカルロイドやそのご家族もすぐにダイニングに向かうだろう。

客人とはいえ、できるだけ早く席についておかないとな。

今日はカルロイドだけじゃなく、奥さんやそのお子さんもいるみたいだし。

そそくさと着替えて準備を整えると、部屋から出てメイドに付いていく。

廊下を奧まで突き進んでいくと大きな扉があり、それを開けてもらって中に入る。

ダイニングルームは談話室とは違って、落ち着いたモノトーンの絨毯が敷かれている。

壁や白く、ところどころにクリーム色の上品な印象だ。

天井には小さなシャンデリアが飾られており、その下には長テーブルとイスが並んでいる。

西洋のお城の中にありそうな一室だ。

給仕のメイドや執事であるベルダンが料理や食器を並べている。

どこに座るべきか迷ったが、ベルダンがイスを引いてくれたので、そこに座ることにする。さすがはできる執事、意図を汲み取るのが上手い。

イスに座って大人しく待っていると、扉が開いてカルロイドが入ってきた。

その後ろには見慣れない女性や小さな子供が二人付いてきていた。

恐らく、あの人たちがカルロイドの奥さんと子供たちだろう。

「シュウ殿。おはよう」

「おはようございます、カルロイド様」

「早速、朝食といきたいところだが、まずは妻と息子たちを紹介させてくれ。すれ違いになることが多くて顔を合わせていなかったからな」

「はじめまして、シュウさん。カルロイドの妻のサラサです。いつも夫がお世話になっています」

前に出てきたのは亜麻色の髪をセミロングにしている女性。サラサというらしくとても品があって優しそうな人だ。

「冒険者のシュウと申します。こちらこそ、何度か屋敷を訪ねているのにご挨拶が遅れて申し訳ありません」

「お気になさらないでください。私たちの方が屋敷を空けていただけですから」

どうやら本当に入れ違いになっていたらしい。

まあ、俺もカルロイドも突発的に会うことが多かったからなぁ。

「はじめまして、長女のジェシカといいます」

「長男のトビアスです」

亜麻色の髪をツインテールにした可愛らしい少女と、金髪に爽やかな笑顔を浮かべる少年。

年齢は十二歳と九歳くらいだろうか。とても微笑ましい。

カルロイドとサラサの特徴をよく引き継いでいるな。

「シュウと申します。よろしくお願いします」

「あの、シュウさんは素材を主に採取しているんですよね?」

自己紹介を終えて席につくのかと思いきや、トビアスが尋ねてきた。

「はい、そうです。私は素材を集めるのが大好きなので」

「何か持っている素材があれば見せてもらえませんか?」

キラキラとした瞳でこちらを見上げてくるトビアス。

もしかして、この子も素材が好きなのか? いや、この年代は様々なものに興味がある年頃だ。

素材についてたくさん語りたくなるが、いきなりディープなことを語ってはドン引きされるだけだ。ここは落ち着いた大人の対応をしよう。

「いいですよ。レディオ火山で採取した素材がいくつかありますので食事の後にお見せしますね」

「ありがとうございます!」

「あ、あの、私もご一緒していいですか?」

「勿論です」

どうやらトビアスだけでなく、ジェシカも興味はあるらしい。

「俺も気になるな」

「私もどんな素材が採れたのか興味があります」

おやおや、子供たちだけでなくご両親も。

食事の後は皆で素材の観察会になりそうだ。

領主の屋敷とあって、少し気後れしていたが楽しくなりそうだ。

朝食を食べ終えると早速と素材の観察会となり、いつもの談話室に皆で移動することになった。

皆がそれぞれの席に座ると、ベルダンがテーブルに布を被せてくれたのでバッグから取り出した素材を遠慮なく並べていく。

魔鉄、炎の黒砂、赤輝石、ファイヤーバードの羽根、スライムオイルなどだ。

勿論、マジックバッグについては秘密なのでバッグに入る大きさのものを選定している。

とはいっても、火山ではそれほど大きなものを採取していないので問題ないが。

「これがレディオ火山で採れた素材ですね!」

一番興味津々だったトビアスが前のめりになる。

大人しい印象の少年だったが、不意に見せた子供らしい一面が何とも微笑ましい。

「この赤く光っている石……とても綺麗です! 何という素材なんですか?」

「それは赤輝石です。今も赤く綺麗に光っていますが高熱処理を施すと、もっと鮮やかな色合いになります」

「へー、これらは武器に使ったりするんですか?」

「いえ、そこまでの強度はないので装飾に使われることが多いです。アクセサリーとして加工されたり、武具の装飾に使われます」

鑑定ではそこまで詳しく書かれていなかったが、鉱石類はロスカやドロガンに見せているので大体の用途もわかる。

錬金術に関しては、まだ別の使い道があるのだと思うが、一般的にはそのような認識だ。

トビアスに説明をしていると、ジェシカが素材に手を伸ばそうとしているのが見えた。

「……ジェシカ様。火山の素材には、熱をもっているものも多いので迂闊に触るのは危ないですよ?」

「ひゃっ!」

俺がそのように注意すると、ジェシカが伸ばしていた手をすぐに引っ込めた。

「とはいっても、その素材は永遠燃石といって仄かに温かいだけなんですけどね」

「……シュウさん、脅さないでください」

「ハハハ! だが、シュウ殿の言う事は事実だ。知識もないのに触ろうとしたジェシカの落ち度だな」

カルロイドだけでなく家族に笑われたジェシカがぷくーっと頬を膨らませた。少し悪いことをしたかもしれないが、本当に危ないものもあるのだとわかってもらいたい。

熱石などの一部の鉱石は耐熱性の高いグローブを持っていないと火傷してしまうからな。

「こちらの素材は黒鉱石ですか?」

「いえ、似ていますが魔鉄といいます。魔力との親和性の高い鉱石で武具に使われ、品質の良いものは銀色の部分が多くなるのです」

品質の高い魔鉄を新たに取り出して見せてみる。

最初のものは黒くくすんでおり、少し銀色が混じった程度。

しかし、高品質のものは体積のほとんどが銀色に輝いている。

「似ているようで全く違いますね」

一目瞭然の違いにトビアスは驚いていた。

トビアスは素材が好きなようで、ちょっとした事でも驚いてくれる。このようなタイプは身の回りにはルミアしかいなかったので新鮮で嬉しい。

素材の話を楽しく語れる相手は意外と少ないからな。

トビアスと話していると、つい楽しくて饒舌に素材について語ってしまう。

「あら? この灰色のドロッとした液体は……?」

呼吸を整えて熱くなりすぎないようにしていると、ずっと耳を傾けていたサラサが瓶に興味を示した。

ふむ、女性としての勘が働いたのだろうか。

「ああ、それはレディオ火山の泥です。わかりやすく言い換えるとエルドの泥パックというんですがご存知ですか?」

「エルドの泥パック!?」

女性の美容品なので試しに聞いてみると、サラサが大きな反応を示した。

先程まで大人しく耳を傾けていただけに、その大声にはビックリだ。

これにはカルロイドやトビアス、ジェシカも驚いている。

「失礼しました。中々手に入らないものでしたのでつい……」

恥ずかしさに顔を赤らめながら言うサラサ。

「確かに高級品らしいですからね」

「あの、シュウさん。こちらの品を買い取らせていただけませんか?」

サラサがしっかりとこちらを見据えながら言う。

その瞳はとても真剣だ。この泥パックを何がなんでも手に入れたいというような決意を感じる。

……何だろう。プレッシャーがすごい。

ギルドの職員にモジュラワームの美容液を売った時と同じだな。

美容品とは女性をこのように変えてしまうものなのか。

「え、ええ。いいですよ」

「ありがとうございます」

思わず頷くと、サラサはとても満足そうに笑った。

ラビスたちのお土産に持っていくのがちょっと怖くなってきたな。

サラサの変わりようを見て、俺はちょっと不安に思うのだった。