軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バンデルの依頼

目を覚ました俺はベッドから起き上がり、部屋の窓を開ける。

すると、朝の涼やかな空気と日光が入ってきた。

「うーん、いい朝だ」

通りを行き交う様々な人たちを眺めながら伸びをする。

そのまま腕を回したり、全身の筋肉をほぐすとホッと息を吐く。

寝間着からいつもの平服に着替えると、食堂へと降りて行く。

まだ早いからか食堂内の客の姿はまばらであったが、獣人の従業員たちはきちんと揃っていた。

賑わっている食堂内も好きだが、朝の静かな食堂も割と好きだ。

「おはようにゃ!」

「おはよう、ミーア」

「今日は何にするにゃ?」

席に座ると、早速ミーアが注文をとりにきてくれる。

「うーん、バンデルさんのオススメで!」

「わかったにゃ!」

自分の食べたいものがすぐに浮かばない時は、バンデルさんのオススメを頼めば間違いはない。

たまに凝った料理がでてきて朝食にしては割高な時があるが、通常メニューにないものがでてきたり、試作品を食べさせてもらえるので気に入っている。

今日は何が出てくるのだろうか。

果実水を飲みながらまったりとしていると、厨房からやけに香ばしい匂いがしてきた。

この匂いは肉料理かな?

色々と想像しながら待っていると、ミーアが料理を運んできた。

「お待たせにゃ! ジューシー肉ロールにゃ!」

目の前にあるのはスライスされたロール状のものが二つ。

外側は豚肉で巻かれてあり、中心部分は肉のメンチとチーズ、葉野菜が入っていた。

恐らく肉を層にしてオーブンで焼いたのだろう。

「おお、これは美味しそうだ!」

何種類の調味料やハーブが練り込まれているのか、とてもいい匂いがする。

付け合わせのパンとスープが置かれる中、俺はナイフとフォークで切り分けて口に運んだ。

外側に巻かれてある豚肉はパリッとしており、中にあるミンチ肉はとてもジューシー。

そして、トロリと溶けている濃厚なチーズと葉野菜の相性が絶妙だ。

材料から工程を推測することは容易いが、ちょうどいい火の通りと味付けするにはセンスと経験が必要だろうな。

少し味が濃い目ではあるが、パンと一緒に食べれば程よい味付けになる。

こうやってロール状の肉を食べていると、少しお洒落だな。

あっという間に食べ終わってしまい、一息ついているとバンデルさんがやってきた。

「どうだ? 肉ロールは?」

「すごく美味しかったです」

「そうか。近い内にメニューに追加するつもりだ。具材の研究の時には試食に付き合ってくれ」

「勿論です」

この肉ロールにはまだまだ可能性がある。その探究に付き合えるのなら喜んで頼もう。

「ところで、ちょっと採ってきてもらいたい食材があるんだがいいか?」

「危険な魔物の肉とかであれば考えますが聞きましょう」

「レッドドラゴンを倒した癖に何を言っているんだか」

いや、あれは俺だけの功績でもないし、進んで倒しに行ったわけでもないので過大評価されても困るのだが。

って、このやり取りは散々やった上で今の状態だから、もう諦めて話を聞こう。

「それで、採ってきてほしい食材というのは?」

「西の森にある湖に生息しているサラビって小魚だ。知ってるか?」

「あっ、市場でそういう名前の小魚が売っているのを見たことがあります。小さい割に値段が高いですよね? 美味しいんですか?」

「美味しいにゃ! 淡泊にゃがらも程よい脂がのってて揚げてよし、焼いてよしの魚にゃ!」

突如、興奮した様子で割って入ってくるミーア。

熱の入った語り口調からミーアがただならぬ想いを持っているのは伝わった。

バンデルさんはミーアを邪魔そうに押し退けて説明を再開する。

「美味いのも理由なんだが捕まえるのがちょっと面倒でな。夜にならないと出てこないんだ」

「夜行性ですか?」

「ああ、それ以外はずっと潜っていて餌にも食いつかねえ」

「夜となると当然街の門は閉まっていますし、魔物も活発になっていますよね」

「まあ、そういうことだな。捕まえること自体は楽勝なんだが、労力と危険さで敬遠されがちなんだ」

「そうなのにゃー。昼でも獲れればいいんだけどにゃー」

どこか歯切れが悪そうに返事するバンデルさんと、耳と尻尾をへにゃりとさせるミーア。

なるほど。サラビを捕まえるには危険な夜に外に出て、一夜明けをする必要があるようだ。

それは冒険者も敬遠するだろう。

この街の門は夜になると閉まってしまって、明け方になるまで開かないからな。

一夜明けをすること自体は構わないが、暗くて魔物が活発化している夜に外に出るのが怖い……いや、俺には調査スキルがあるじゃないか。

別に視界が悪かろうが俺にはスキルで丸見えだから問題ないな。多少、魔物が多いかもしれないが、海と違って迂回なり隠れてやり過ごすこともできるし。

「いいですよ。そのサラビっていうのを獲ってきましょう」

「本当かにゃ!?」

「いいのか? 危険な夜に街の外に出ることになるが」

「大丈夫です。その辺りは俺のスキルで何とかできますので」

「そうか。シュウがそう言うのなら期待しよう」

スキルの恩恵があると知ったからか、バンデルさんが安心したように頷く。

「具体的には釣ればいいんですか?」

「いや、網で十分だ。夜は割と浅瀬の湖面を泳いでいるから簡単にすくえる」

「ええ? 本当に網ですくえるんですか?」

「シャッと網を入れれば五匹、十匹くらいはすくえるにゃ!」

「わ、わかったよ。じゃあ、網を持っていくことにするよ」

どうやら本当に環境が面倒なだけで、捕まえること自体は簡単なようだ。

それならこちらも準備が省けて助かる。

「それにしても、どうしてサラビを? もしかして、肉ロールの具材に?」

肉ロールにサラビを練りこんだり、挟んだりするのか? あの料理に魚が合うのだろうか?

「いや、違う。今回は従業員への労いの飯だな。ミーアをはじめ猫系の獣人が大好物でな」

肉ロールに結び付いたことが面白かったのか、バンデルさんがおかしそうに笑う。

いや、だってさっきの言葉を聞いたらそう思っちゃうじゃないか。

「……そういうことでしたか」

「そういうことにゃ! だから、アタシたちのためにいっぱい獲ってきてほしいにゃ!」

「わかりました。任せてください」

猫の尻尾亭の従業員たちの大好物とあれば、お世話になっている身として頑張るしかないな。

肩を叩いてくるミーアの言葉を聞いて、俺は頷くのであった。