軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

海底神殿に到着

船で南の小島にやってきた俺たちは浜辺に降り立った。

「さて、ここから海底神殿まではアイテムを使って向かうか」

サフィーがそう言いながら懐から取り出した腕輪を左腕に装着。

ルミアも同じように腕輪を装着した。

俺は元から左腕に装着していたので問題ないが、気になっていることがある。

「……何かお二人の腕輪だけ随分と細くないですか?」

そう、俺の腕輪は少しごついのであるが、二人の装着している腕輪はすごくスリムだ。

軽くて色も淡くて綺麗で女性用のブレスレットと言われても違和感がないくらいに。

「そりゃ、こっちの方が新しいからな。新しく作るなら改良するのは当然さ」

「ええ、いいなぁ!」

なんということだ。どうやら俺が持っている海守の腕輪は旧式のようだ。

きっとガラケーとスマホくらい性能の差があるのだろう。

「とはいっても、私たちの魔力量ではこちらでも半日も保たないですけど」

「改良したものでも燃費の悪さは変わってないんですね」

「…………」

何気なく発した俺の言葉でサフィーの眉がヒクついた。

「あっ、すいません」

「……別にいいさ。いずれ、もっと魔力効率を良いものを作ってみせるから」

いつもと変わらないように努めているが、サフィーの言葉に悔しさが滲み出ていた。

大人っぽくて飄々としている彼女であるが、作ったアイテムのことになると感情的になるらしい。サフィーの新しい一面を知れたな。

「それじゃあ、行くとしよう」

サフィーが気を取り直すように言い、海守の腕輪に魔力を流して全身を膜で覆った。

それに倣ってルミアと俺も同じように身体を膜で保護する。

皆の準備が整うと、そのまま海の中へと入っていく。

海水の感触は感じながらも水の冷たさは感じない。

ザブザブと波をかき分けて沈んでいくと、あっという間に海の世界。

周囲にはたくさんの魚が泳いでおり、海の中を自由に闊歩している。

「……綺麗ですね」

うっとりとしながらのルミアの言葉が聞こえて俺は驚いた。

どうやらこのアイテムを使っていれば、他人の声でもしっかりと聞き取ることができるようだ。

一人で潜っていた時も音を聞き取ることはできていたが、他人の声まで聞き取ることができるとは思っていなかった。

人間たちのいない別世界。何度見ても美しく、非日常的な景色だ。

だが、そんな世界だからこそ地上とは違った危険が潜んでいる。

視界の端ではやけに身体の長い海蛇のような生き物が這っていた。

【シーサーペント 危険度C】

最大二十メートルほどに成長することもある魔物。海底や岩場をゆるやかに這い、獲物を狙う。

長大な体を使った締め上げと、牙にある神経毒に要注意。食用であり、食べると弾力があって淡泊な旨味。

鑑定してみるとシーサーペントという魔物のようだ。

今はこちらに気付いていないが、このまま進むと接敵する可能性がある。

遠目から見ても動きが速いし、ああいう魔物とは戦いたくないものだ。

「海底神殿はどちらの方角です?」

「このまま真っすぐだ」

「少し迂回しましょう。シーサーペントという厄介そうな魔物がいます」

「……ふむ、その程度の魔物であれば蹴散らせるが、消耗はしないに越したことはないか。シュウ君の言う通りにしよう」

「え? サフィーさんって戦えるんですか?」

サフィーの口から漏れた、魔物を物ともしない言葉に俺は驚く。

「自分で素材採取に行くこともあると言っただろ? Cランクの魔物くらい倒せなければ、錬金術師は務まらん」

俺は思わず確かめるようにルミアに視線を向ける。

「そうなんですか?」

「いえ、師匠は特別です。一般的な錬金術師は、冒険者などに素材を調達してもらう方が多いです」

苦笑いしながら首を横に振るルミア。

そうだよね。錬金術を極めながら戦闘もできるようになるって並大抵のことじゃないよね。

サフィーの言葉を聞いて、錬金術師とはそういうものかと勘違いしそうになったが、普通は違うようだ。

そんな普通じゃない師匠の弟子であるルミアも、一般的な錬金術師からかけ離れているのかもしれないな。

なんて思いながらシーサーペントを迂回して進んでいく。

とはいえ、俺のように膨大な魔力があれば、時間をかけても問題ないがサフィーやルミアはそうはいかない。

先程サフィーが悩んでいたのはそういう考えもあったのだろう。

速く進めるのならば可能な限り、そうした方がいいかもしれない。

「魔法を使えば速く進むことができるのでお二人にかけてもいいですか?」

「魔法で速くですか?」

「ほう、速く進めるならそれに越したことはない。頼めるかな?」

ルミアはピンときていないようだが、サフィーが了承してくれたので俺は二人に水魔法をかける。

足の裏を起点に水流を発生させる。

「わっ! 身体が勝手に持ち上がって――ひゃっ!?」

突然の推進力にルミアは手足をバタバタと振り、海中でくるりと後ろに一回転した。

完全に混乱している様子だったので魔法をやめて、ルミアの身体を支えてあげる。

「すいません、少し水流が強かったみたいですね」

「……もう、シュウさん。笑うなんて酷いです」

ルミアが頬を赤く染めて、拗ねるようにそっぽ向く。

確かに今のは淑女として恥ずかしいものだったかもしれない。

でも、ルミアの慌てっぷりがあまりに面白かったので仕方がない。

「なるほど、水流の力で推進力を得ているのか!」

一方でサフィーは推進力に振り回されながらも海中の中を見事に進んでいた。

運動神経がいいようで推進力に振り回れることなく物にしている。

「この魔法の使い方は面白いな!」

「もう感覚が掴めたんですね。すごいです」

「……シュウさん、もう一度私にもお願いします」

サフィーを素直に称賛すると、ルミアがどこか気迫のこもった表情で言ってくる。

「わかりました。いきますよ?」

「お願いします!」

次の瞬間、ルミアの視界は勢いよく反転した。

魔物を感知して迂回しながら南に進むことしばらく。

海底はドンドンと深くなり、太陽の光がほとんど届かなくなっていた。

結構な時間が経過しているが依然として海底神殿の姿は見えない。

だが、巨大な岩陰が見えるようになって鍾乳洞のような閉鎖された空間になってきた。

それに魔物や魚も奇怪な姿をするものが増えた気がする。

光のほとんど届かない暗闇で生活するのに特化した奴等なのだろう。

「海底神殿はまだ先ですかね?」

水魔法で加速しているので結構な距離を進んでいるはずだが、こうも同じ光景ばかりになると、自分の中の時間感覚がわからなくなってくる。

「もうそろそろ見えるはずさ。アイテムで照らしてみよう」

サフィーが胸元につけているバッチらしきものを押すと、前方に光が照射された。

どうやらあれもアイテムらしい。

ルミアも同じようにアイテムで光を照射していた。

「シュウ君もつけるかい?」

「俺は大丈夫です。魔法で出しますから」

サフィーにバッチを渡されるが、俺は遠慮して周囲にライトボールを浮かすことにした。

「複数の魔法を使うとは器用だね」

「単純な魔法ですから」

精密なコントロールが必要とされる魔法であれば難しいが、今展開している水魔法と光魔法はどちらも簡単なものだからな。

維持するだけであれば、俺でも余裕でできる。

「ん? 今なにか大きな影が……もしかして、あれが海底神殿ですか?」

岩でもなんでもない建物らしきものが見えたので、そこにライトボールの光を当てる。

すると、そこには明らかに人の手で作られたであろう人工建築物が見えた。

特殊な石材でできた柱がいくつもそびえ立っており、人や虎を模した石像がところどころに置かれている。

そして、中央にはパルテノン神殿を想起させるような立派な神殿が鎮座していた。

「ああ、そうさ。ここがあたしたちの調査場所である海底神殿さ」

食い入るように見つめる俺の隣でサフィーがそう告げた。