軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異世界転移

俺の名は蘇材集。二十六歳、独身。

ふと、気が付くと俺は空を歩いていた。

いや、空を歩くだなんて意味がわからないというのはわかる。人間が生身で空に浮くことはできないし、そもそも宙を歩くようなこともできない。

しかし、上も下も青い空と白い雲の漂う景色が広がっており、今自分が何をしているかといえば空の上を歩いているとしか形容することができなかったのだ。

澄み渡る青い空に悠々と泳ぐ雲。見ているだけで心が穏やかになる。

不思議空間を眺めながら一歩進むと、その度に足元から波紋が広がる。

まるで、水の中を進んでいるかのよう。でも、床に見えるのも空なのだ。

「一体、ここはどこなんだろう?」

先程までの行動を思い出す。

会社から帰った俺は、楽しみにしていたモンモンハンターをやった。

「素材採取クエストを受けて、薬草やらキノコやらを採っていたら、モンスターに襲われて、やむを得ず交戦して討伐したら激レア素材が手に入って……あれ? そこから先の記憶がない?」

「テンション上がって外に出て、階段から転げ落ちて死んだんだよ」

首を傾げていると不意に誰かの声がした。

振り返ると、古代ギリシャ人が着ていたキトンのようなものを身に纏った人がいる。

恐ろしいほどに端正な顔立ちをした金髪碧眼の男性であり、モデルや俳優なんかとは比べられないほどの造形美だ。

「誰……です?」

「君に理解できるように言うと異世界の神様だよ」

異世界の神? だとしたら、この人の人間離れした容姿にも納得だ。

「なるほど。それでさっき神様がおっしゃった言葉は……」

「さっきも言った通り、君は階段から転げ落ちて死んだんだ」

「嘘でしょう……? まだすべての素材をコンプリートしてなかったのに!」

「死んだと言われて、最初に言う台詞がそれなのかい?」

嘆き悲しむ俺を見て、どこか呆れた顔をする神様。

俺は何かを集めることが大好きだ。

子供の頃から綺麗な形をした石や、道で見つけた何かの部品、玩具、ビー玉などと、とにかく自分の気に入ったものを集めることが好きだった。

そんな収集癖のある俺は現実だけでなく、ゲームにある素材なんかも集めるのが大好きで、たとえ次の街に進めようとも、素材をコンプリートしていないが故に留まってひたすら採取をするタイプ。

ただ単に色々な素材を集めるのが好きだし、開発者が作り上げた素材には、思いもよらないテキストが書かれていたりして、ゲームの世界観を広げてくれる。

たった数文字、たった数行だけど俺はそれが大好きだ。

だからこそ、自分のハマったゲームの素材をコンプリートできなかったことは非常に心残りだった。

そのことを伝えると、神様は実に軽い調子で言う。

「じゃあ、異世界に転移して素材採取でもしてみる?」

「え? それってどういう……?」

「君をここに呼び寄せたのは、異世界に転移させるためなんだ」

「……異世界に?」

「僕が管理している世界に魔力を送る必要があってね。でも、神である僕が直接注ぎ込むと色々と影響が出てマズいから、転移者を媒体にして魔力をゆっくりと世界に馴染ませるんだ」

神様の言う事には色々と疑問があるが、要は神様の魔力を注入した俺を異世界に放り込むことによって、世界が平和に保たれるのだとか。

後は異世界人を送ることによって、世界や人間に刺激を与える効果もあるらしい。

別に俺は世界に影響を与える人物なんかにならないだろうし、そこはあまり期待できないと思うけどね。

「でも、どうしてここに俺が?」

「人は死亡したら魂がすぐに摩耗するか、消失することが多くてね。でも、君の魂は摩耗することなく綺麗な状態で残っていた。よっぽど、素材をコンプリートしたいって意思が強かったんだろうね」

どこか苦笑しながら俺がここにやってきた理由を語る神様。

なんか変な未練を抱いて、ここにやってきてすいません。

「そういうわけで君を異世界に転移させたい。それでもいいかな?」

死んでしまった命。もう一度、続けられるものなら続けたいに決まっている。

それを選ばなかったら蘇材集としての魂は消えるのか、地球に転生するのかわからない。

このまま消滅する可能性だってあり得る。

だったら、今の自分のまま異世界で生きてみたい。

「……わかりました。異世界転移をお願いします」

「了承してくれて助かる。神である僕の都合だけで利用するのは悪いから、異世界で生きやすくする能力を授けるよ。何か望みはある?」

神様に問われて俺は少しだけ考え込む。

「そこはどんな世界なんですか?」

「君が死ぬ間際にやっていたゲームのような世界かな。文明レベルはそれほど高くないけど、魔法とかがあって、凶悪な魔物もいる。だけど、不思議な素材もたくさんあるよ」

おお、ゲームのような剣と魔法のあるファンタジー世界ということか。

不思議な素材で満ち溢れているという神様の言葉に、胸が熱くなる。

だけど、気になるのはそんな世界で俺が生き残れるのかということ。

だとすれば、俺が願うのはこんな感じかな。

「――異世界でのんびり素材採取ができるだけの力が欲しいです」

俺のやりたいことは決まっている。素材採取をしながらのんびり暮らすこと。

かつてプレイしていたようなゲームのような生活を俺は送ってみたい。

だけど、素材採取をしている最中に危険な動植物や魔物に襲われて、すぐに異世界生活が終わりというのはできれば避けたい。

どんな魔物でも倒せるような力は望まないから、せめて魔物から逃げられる程度の力は欲しい。

「わかった。のんびりと素材を採取できるだけの力があればいいんだね?」

「はい、すぐに死なない程度の力があれば十分です」

「あはは、豪胆な願いを言う割に言葉は謙虚なんだね?」

うん? 俺の願いはそれほどまでに豪胆だっただろうか? ただ、素材採取しながらのんびり暮らす力が欲しいと言っただけなのだが。

なにかボタンをひとつかけ間違えたかのような違和感があるが、気のせいだろうか?

でも、いいか。神様はそれでも問題ないって言ってくれているし。

不思議な素材が溢れる異世界か……楽しみだな。

まだ見ぬ異世界の光景を想像して、俺はハッと我に返る。

「あっ、ちょっと待ってください。異世界の言葉や文字って……」

「大丈夫。僕の魔力を込める際に身体を一から作り直すから、そこら辺も問題ないよ」

慌てて尋ねると、神様はにっこりと笑って言う。

よかった。異世界に行ったはいいが、相手の言葉や文字もわからないと生活にかなり困るからな。

「それじゃあ、蘇材集。君に僕の魔力を込めて異世界に転移させるよ」

「はい、よろしくお願いします」

俺が返事をした瞬間、神様から眩い光が広がって視界が真っ白に塗り上げられた。

そして、俺の身体に何かが流れ込んでくる。

それはとても温かくて力強い波動。

俺はそんな優しい波動に抱かれながら意識を手放した。