軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

40.始まりは君のそばで①

「嫌だ!!」

不機嫌なアランが叔父様に向かって叫ぶ。

「そんなことを言わずに、頼むよ、皇帝からのお願いなんだよ~。」

「俺は、シルヴィの護衛だ。そばは離れない。」

頑なに断るアラン。

「いや、君、以前は半年以上離れていただろ?シルヴィからも言ってくれよ。」

困った顔の叔父様が、こちらを振り向く。養子になったのだからとお父様と呼ぼうとしたのだが、君は「お父様」という単語に抵抗があるだろ?いいんだよ、叔父様で。と、優しく微笑まれた。

小さな紛争が大きな紛争になりそうで、”狂乱の死神”と呼ばれるアランへ依頼がきた。なんでも最小限の被害で、一時休戦させたいとか。そうね、アランだったら敵将をすぱっで、兵の戦意喪失に持っていけるわね。

「だめだ、俺たちはこの国に来たばかりだ。まだまだ危険が多い。」

「この侯爵家は、安心だよ。」

しょうがないわね、助け舟を出そう。叔父様に味方をするとアランが拗ねてあとあと大変なんだけど。

「ねえ、アラン、早く帰ってきてね。」

「…おい、本気か?」

「そうよ、皇帝のお願いを断ったらこの国にいられなくなるわ。」

「そんな器の小さい人間が治める国なんか出て行けばいいじゃないか。」

渋るわね。

「お願いよ、アラン。私も一緒に行ってもいいわよ。」

苦々しい顔で、大きなため息をつく。

「……わかった。俺一人で行ってくる。いいか!絶対邸から出るな。いつもと違うものは口にするな。商会も呼ぶな。寝酒も駄目だ。ナタリーを絶対そばから離すな。こいつは、お前を守れる程度には訓練してある。いいかナタリー、刺客が来たら確実に目を狙え。」

「ええ、お任せください。刺し違えてもシルヴィお嬢様は私が守ります。」

あなた、ナタリーにいったい何を教えたの?

「シルヴィ、約束したからな!今言ったことは守れよ。絶対だ。いいな。じゃあ、今すぐ行ってさっさと終わらせてくる。」

扉のそばまで行ったアランが、思い出したかのように振り向く。

「…俺は毎日、お前が約束を守っているか考えるからな。」

「ふふ、嬉しいわ」

********************

一週間後、アランが帰ってきた。

「おかえり、ずいぶん早かったのね。娼館には行ってきたの?」

「は?いったい何のことだ?」

「ほら、騎士の方々は、戦いの後、昂るって聞いたから。」

アランの髪が一瞬、逆立ったような…気のせいね。

「…おい、余計な話をお前に教えた奴の名前を言え…今すぐ殺す!!」

「あら、違うのね。石鹸のいい匂いがしたから、てっきり」

「はぁぁ、血まみれで帰ってこられるわけがないだろ!まったく。‥‥‥お前は変わりなかったか?」

「ええ、変わりないわ。早く街へ行きたくてうずうずしていただけよ。心配してくれてありがとう。さあ、一緒に叔父様のところへ行きましょう。」

しつこく『早く名前を教えろ』と言うアランを引き連れ、叔父様の元へと向かう。

********************

「……君、もう帰ってきたんだね…。」

「あ?貴族的な言い回しか?帰ってきちゃ悪いのかよ。」

そうよね、1週間ですもの。移動を考えるとすごいわね。

「そうではないのだけど…いや、無事でよかった。流石の活躍、うん、私も鼻が高いよ。でも、君がいない間に…あー、何でもない。…シルヴィ、実はね、君に縁談がたくさん来ていて…これなんだけど。」

あらあら、すごい量ね。

「まだ、気が乗らないかもしれないけど、一応見てみないかい?まず、こちらのスミス伯爵令息。この方はね、嫡男であと2年で伯爵を継ぐ予定なんだ。領地経営もうまくいっている家でね…」

「ああ、こいつは駄目だ、ママにべったりなのを知らないのか?シルヴィが姑との関係で苦しんだらどうする。」

それはお断りね。…あの人たちを思い出して、気分が悪い。

「じゃあ、次は、シェーベリ侯爵家次男、爵位は継げないが王宮の書記官として優秀で…」

「はあ?部下の手柄を自分の物にしている男が優秀?そんなわけあるか。」

能力の搾取。また、いやなことを思い出したわ。死ねばいいのに。

「‥‥‥ねえ、アラン。当然のように、シルヴィの隣に座って一緒に見ているが、護衛は、普通後ろに立つものだよ。」

呆れ顔で、叔父様が言う。

「馬鹿にするな。公の場では、きちんとそうしている。」

そうよね。

「…それは偉いね。いや、そうではなく、えーと、まあいいや。それにしても君、この国の令息について詳しすぎやしないか?」

確かに言われてみれば、詳しいわ。

「当然だろ?俺の次の就職先だ。シルヴィに合う年頃の令息たちは、だいたい調査済みに決まってんだろ。むしろ姪の婚約者だというのに正確な情報をつかんでいないとはどういう了見だ。」

「え!!!君、ついていくつもりなのかい!?」

叔父様がたじたじだ。

「はっ?シルヴィが俺を置いて行くわけがないだろう?な?」

「そういうことらしいですので、セットで引き受けてくれる方がいると嬉しいのですが」

話を聞いていたナタリーが、こちらに駆け寄る。

「はいはいはい、勿論私も行きます!!」

「ふふ、3人セットになりましたわ。」

叔父様が頭を抱え、ぶつぶつ言いだす。

「侍女はともかく。え?狂乱の死神を?受け入れてくれる家…ああ、ここにある家ほとんど、いや全滅だろうな」

「俺一人を恐れる家がシルヴィを守れると?そんな家、こっちからお断りだ。」

ふんぞり返るアラン。

「だからなぜ君が断る…はぁ」

「まあまあ、叔父様、私こちらに来たばかりですし、のんびり探しますわ。」