軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

98 魂魄魔法使いの討伐その二

「へえ……ここから届くんですね」

「ええ、エクステンドマジックを乗せれば十分に。もともと砲撃用に開発された魔法ですからね」

双眼鏡から目を離したリョウに、王国軍混成討伐隊長であるカークス・オルブライトはそう返した。

「閉所でばかり使ってるせいで、全然知りませんでしたよ」

「ははは、人間必要でない知識には中々食指が動かないものですからね」

目的地である砦を臨む、丘の上である。

和やかな会話は、戦闘の直前とは思えないものだ。

しかしこの関係性は、討伐任務の準備から移動、そして目的地への到着に至るまで、さまざまな訓練や議論を交わした末のものであった。

(不思議なものだ。当初は軋轢の予感しかしなかったものだが)

言葉を交わしながら、カークスの心の中にはそんな感想が浮かんだ。

予定されていた魂魄魔法使いの討伐任務。

そこに突如組み込まれた二人の探索者。

しかも一人は魂魄魔法を扱うという。

魂魄魔法は魂魄魔法への対抗手段の最たるものとは言え、そして王の肝入りでのこととは言え、魂魄魔法使いの気難しさが特級であることは、カークス自身よく知るところである。

強襲を掛ける部隊の編制には悪影響が出る、迷惑な話だと、彼は最初そう思っていた。

しかし、蓋を開けてみれば話は変わった。

王より直々に紹介を受けた時から、カークスを含めた部隊の面々は驚きの連続となった。

例えばリョウ・サイトウは、魔法を三技能、全てほぼ最上位まで扱える。

二技能ですらほとんどいない現状で、これは前代未聞のことであった。

更には斥候や近接戦闘もこなすことが、その後の訓練で判明した。

しかも混成討伐隊の前衛メンバーと遜色無い強さで、である。

混成討伐隊は敵の強さ、そして強襲を掛けることを考慮して、少数精鋭が各部署から選抜されている。ゆえに魔法を最上位近くまで扱える魔法使いが、近接技能でも遜色無い技量というのは恐るべきことであった。

総じて、素晴らしい戦闘技能だと言えるだろう。

しかしそれを差し置いても、彼の性質の中で特筆すべき点が一つある。

それは性格が穏やかで、誠実であるということだ。

でなければこの短時間で、彼を組み込んだ適切な戦術は構築しえなかっただろう。

リョウの戦闘能力は特級である。

そもそも魂魄魔法使いが難物揃いということもあるが、一般的に見ても優秀な能力を持つ者は、関係を構築するのに時間が掛かることが多い。ゆえに彼がごく普通の性格であることで得られる恩恵は、限りなく大きい。

精鋭である混成討伐隊が異物としてでなく彼を扱えるなら、この任務の憂いはほとんど無くなると言って過言ではないと、多くの兵士は考えていた。

砦の攻略はまず、魔法による遠距離砲撃から開始する予定となっている。

外壁の上に立つ物見と弓兵をこれで牽制。

こちらの弓兵の援護射撃を背景に、工兵が取り付いて外壁の破壊を行う。

その後剣兵がなだれ込み、傭兵達を押さえたのち、剣兵・弓兵・魔法兵・工兵混成の強襲部隊で、魂魄魔法使いを討ち取るというのが基本的な流れだ。

一方敵の戦力は想定しきれない部分がある。

魂魄魔法使いはアンデッドを召喚し使役することができるからだ。

傭兵崩れの他に、戦力がどの程度整えられているのか。態勢を整える時間を与えないために、混成討伐隊は少数精鋭で迅速に移動を行い今に至る。

実際に遠見の魔法で確認は行っているが、姿が見えるアンデッドはそう多くない。

しかし土より這い出でたり、 死霊(レイス) のようなアンデッドは実体を持たないため姿を隠すことは容易である。

本来、その対処を想定するならば、貴重な神聖魔法使いを多く割く必要がある。

そしてそのうえで敵の親玉を強襲するのは、戦力的に非常に危険な任務だと言えるだろう。

しかし、今回はそこにリョウとその従者を加えることができる。

彼らの戦闘能力、そして閉所で少数の強敵と戦うことに長けた探索者という出自を考えれば、相当な戦力になることは間違いないのだ。

「では、始めましょうか」

「了解しました。先導はお任せしますよ」

「もちろんです。貴方を敵の親玉にぶつけることが、今回の作戦の要旨ですから」

そんなやり取りをして、リョウは準備のためその場を去った。

カークスは再び双眼鏡で砦を覗き込んだ後、隊員の集まる場所へ赴いて、作戦の開始を宣言したのであった。

==========

オルブライト隊長の号令のもと、作戦が開始された。

精鋭が集められたという王国軍混成討伐部隊の隊員たちは、一糸乱れぬ動きで行動を始め、瞬く間に初撃の魔法が投射され始めた。

「おー、壮観っすねえ」

軽い感想を口にするトビーだが、表情には緊張が見て取れる。

俺も恐らく同様の顔をしていることだろう。

なるべく気にしないようにしているが、どう取り繕っても今回は対人戦……すなわち人殺しを含む作戦だ。死骸が消滅する生命感の無い迷宮の魔物とは訳が違う。今更この程度の覚悟で足を止めることはないだろうが、いい気分でないのは間違いない。

ドドドド……、と放物線を描いて飛んでいった 魔法弾(ファイアボール) が外壁に着弾していく。

二十人からなる魔法兵は全員が理力魔法レべル7を超えている。彼らが文字通り集中砲火を行えば、尋常でない破壊力が実現するのだが、今回は五月雨式放射法という戦術を用いているらしい。爆発が間断なく降ることで、味方が敵構造物に接近する隙を生み出すというものである。

「よし、そろそろ隊列のほうに移動するぞ」

「了解」

弓兵の遠射が始まり、工兵が盾を傘のようにして走り出す。

彼らが外壁に取りついて破壊すれば、そこからは剣兵隊と俺達強襲部隊の仕事になる。

出発を待つ時間、どうにも緊張するな。

何度も確認しているが、今一度ステータス画面で能力の確認をしておくか。

【ステータス画面】

名前:サイトウ・リョウ

年齢:25

性別:男

職業:才能の器(97)

スキル:斥候(5)、片手武器(6)、理力魔法(8)、鑑定(5)、神聖魔法(10)、魂魄魔法(8)、看破(6)、体術(7)、並列思考(7)、射撃(6)、空間把握(6)、盾使い(7)、情報処理(7)、剣使い(6)、錬金術(3)(SP残0)

【ステータス画面】

名前:トビー・ステイン

年齢:24

性別:男

職業:戦士(33)

スキル:片手武器(7)、斥候(6)、盾使い(7)、剣使い(7)、体術(6)(SP残1)

俺の能力はあの迷宮の底で百回くらいは見ているが、白竜戦前と大きく違うのは近接技能だろう。空間把握や情報処理と併せてみれば、ワンマンアーミー化が進んだとも言い換えられる。

一人で迷宮最奥の魔物と戦ったのだから、然もありなん。

文字通り飽きるほど戦ったから戦闘行為そのものに緊張は無いが、相手は魂魄魔法使いだ。気を引き締めて掛かることにしよう。

次にトビーは、白竜戦で剣使い以外の技能がひとつずつ上昇したようだ。

SPも得ているが今は保留にしている。彼としては今ある技能を極めたいのと、次に得る技能は少し毛色の違うものを欲しているらしい。具体的には魔法系の技能で、エンチャントだけでも習得したいと言っている。魔法的防御がキモになった白竜戦での経験に基づいたものだろう。大変だとは思うが、理想的な強化だとは俺も思うので、頑張って欲しい所である。

さて。

俺達二人の現在の能力はこんな感じなわけだが。

参加する強襲部隊の他のメンバーも最精鋭、相当に高い技量を持っている。

技能レベル的に言えば主技能の最低ラインが7、時折8が混じるという感じで、そのほかもレベル6とかそんなんである。

人員は俺達を抜いて十二名。剣兵六名、魔法兵三名(理力二、神聖一)、弓兵二名、工兵一名の構成である。同様の十二名一組の予備隊を加えて、合計二十六名が強襲部隊の全容となる。

正直なところ、あまり負ける気のしない構成ではある。

経験的にはともかく、技量的にはズーグクラスがゴロゴロいて、補助てんこ盛りで突っ込んでいくんだからな。

「けど……なんなんだろうな」

ひとりごちると、トビーが怪訝そうな表情を浮かべる。

彼に苦笑いを返すが、どうにも警戒感が薄れてくれない。

拭い去れない 靄(もや) のような感覚を残しながら、俺達強襲部隊は行軍を開始することになった。