軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

95 王との面会その一

準備の三日はあっという間に経ち、王都へ出発する日がやって来た。

ズーグは既に、昨日の内に里帰りに出発している。

カトレアも基礎訓練のため留守番なので、同行者はトビー一人だ。

「シータはまた寂しがってたな」

「昔は俺が出張で居なくてもなんともなかったんですけど……最近の生活がアレだったもんで、すっかり寂しん坊に戻っちまったみたいっすね」

「アレとか言うなっての。……まあ最近は賑やかだったしな」

「主な原因はご主人っすけどね。突然一か月も居なくなるから」

それはホント悪かった。

別に謝るようなことでもないが、心配かけたのは事実だからな。

そんな風に雑談を交わしながら、領主館へと辿り着く。

受付で名前を出して通されたのは、仰々しい扉の先にある『転移用の部屋』であった。

「おや、来られましたか」

「すみません、少し遅くなりましたか?」

「いえいえ、大丈夫ですよ。それでは閣下、参りましょうか」

公爵と護衛、転移魔法使い、そして追加の同行者であるクロウさんは先に来ていたようで、さっそく転移の準備を始める。

「じゃあ、補助を掛けますね」

「私からは、用意した魔道具を」

転移の際に起こる酷い酩酊感、つまり転移酔いの対策として、貴族が使うような魔道具(魔法耐性を上げるもの)をクロウさんに用意してもらったのである。代金は ツケ(・・) といてくれるらしいので、ありがたく貰っておく。

「リョウさんの分は本当にいいのですか? 私も何度か転移に同行しましたが、魔道具があっても酷い気分でしたよ。術者の方も必要なくらいなのに」

「なんでか俺はあんまり影響でないんですよね。キンケイルからデンタールに向かった時に、見える範囲に何度も転移して移動したんですけど、全然問題無かったですし」

トビー用の魔道具を受け取りながらそう言うと、別の場所から「えっ!」という声が聞こえた。

声の主はどうやら準備を待っていた転移魔法使いらしい。

驚いた表情でこちらを向いている。

「ゆ、有視界転移で長距離移動ですか!? 一体何回転移すればキンケイルからデンタールなんて……」

「えーと……覚えて無いですけど、多分ニ十回は超えたと思いますよ」

「に、にじゅ……」

絶句されるほど驚かれてしまったが、確かにあの移動力は、我がことながらドン引きできるものだったからな。然もありなんといったところだろう。

魔法使いが魔道具ありでも消しきれない酩酊感、そして転移に必要な魔力量。

両方克服できる俺じゃないとできないことのようである。

「ご主人がやべえ能力者なのは今に始まったことじゃないっすけど、とうとう周知され始めちまいましたね」

「言うなよ、これでも気にしてるんだ」

トビーのコメントに突っ込みつつ、各自に補助を掛けて俺達は転移を行った。

転移の先は白を基調とした十畳ほどの部屋である。

部屋には明かりの魔道具と重厚な扉がひとつ。壁は石造りで無骨だが、扉には彫刻と装飾が施されていて、格式高そうな雰囲気を醸し出している。

それもそのはずで、転移先であるここは王城の中なのである。王城は流石に建物からして魔法的防御が備わっているのだが、その影響が無いこの部屋のみ、転移ができるということだ。

「では、少々お待ちを」

言って、公爵が扉のドアノッカーを二回打ち鳴らす。

すると外でガチャガチャと音が鳴り、扉の鍵が開けられた。

「部屋の中から鍵が開くのを見るってのは、なんか不思議な感じだな」

「まあ閉じ込められでもしないかぎり普通は無いっすからね」

下らない会話をしていると、扉が開かれて見るからに高いと分かる服を身に纏った人物が、姿を見せる。

長い金髪を後ろで一つ括りにした青年だ。付き人を伴って部屋に入り、公爵を認めてニコリとほほ笑む。

「ようこそお越しくださいました、アルセイド公爵」

「お出迎え感謝します、王子殿下」

王子様なのか。

流石というかなんというか、鼻筋の通った物凄いイケメンである。

髪型が似通っているからかもしれないが、ちょっと公爵に雰囲気が似ている。血筋は近いから当然と言えば当然か。

「……」

王子は笑みを崩さないままこちらにちらりと視線を寄こしたが、特に声を掛けてくることはなかった。

俺達は案内されるがままにぞろぞろと部屋を出て、王城の中を移動し始める。

王との面会に関係しないメンバーとは途中でお別れだ。

転移魔法使いの人は公爵家の別邸へ。クロウさんは商会の拠点に行くらしい。

王城は流石に豪奢な内装で、天井も高いし廊下も長い。先までずっと続いている、なんてのは言い過ぎだが、スケール感は正直そのくらいだ。

俺達は幾つかの筋を曲がり、階段を上り、進んで行く。

正直なところ、立場はともかく俺とトビーの風体は、完全に場違い感があるよな。あと移動経路が迷路じみていて、もはや現在地を見失ったような気もする。

まあ、斥候スキルがある限り迷うことは無いんだが。

気持ち的にはそんな感じだった。

「王子殿下は今日は同席を?」

「ええ、そのように仰せつかっております。まあ発言することはないでしょう。私のことはお気になさらず」

公爵は王子とそんな会話をしている。

そして案内の先で、到着したのは謁見の間ではなかった。

どうやら、執務室のようなところらしい。

「では、どうぞ」

ことここに至っては、トビーもガチガチに緊張している。

俺も王に会うとなって緊張が高まっている。

意を決して、俺は部屋の中に足を踏み入れた。

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「ようこそ参られた」

部屋に入ると、執務机から立ち上がった人物に歓迎の言葉を掛けられる。

裾を引きずるような長さの、金の刺繍が入った白いマント。公爵と顔立ちは似ているが、銀の長髪は無造作に後ろに流し、口髭を蓄えた壮年の男である。

「私はフェルナンド・オーフェリア。この国の王をやっているものだ。リョウ殿でお間違いないかな?」

少ししわがれた低い声で、彼はそう言った。

口調は柔らかく威圧感など欠片も無いが、この人がこの国の王様か……。

と、少し呆けてしまったが、まずはクロウさんに聞いた通りの礼儀で、こちらも挨拶を返さなければならないだろう。

「お初にお目にかかります、陛下。探索者のリョウと申します」

「膝をつく必要は無い。私は君を国の客人として扱うつもりでいるのだ。ルイス……アルセイド公爵に伝えるよう言ったはずだが」

俺が頭を下げたその上で言っているので、ちょっと分かりづらいが王は公爵に視線を送ったようだ。

「陛下、リョウ殿は重要な立場のお方ではありますが、王侯貴族と言うわけではありません。私から 謙(へりくだ) る必要は無いと伝えたところで、不安は消えますまい。であれば直接、陛下からその旨を伝える方が良いと考えたのです」

「そう言うことか。まあいいが、相変わらず人使いの荒いやつだな」

「そこはまあ、陛下と私の間柄でありますれば」

「自分でそれを言ってどうする」

頭の上で、そんな気安い会話が交わされている。

俺のことで最近何度か話し合いを持っていたようだし、この様子だと仲は良いのだろう。

とにかく事情はなんとか飲み込めてきたので、俺は顔を上げ立ち上がることにした。

「うむ、それでよい」

「恐縮です。客人扱いの理由については、これからお話しいただけると思ってよろしいでしょうか」

「もちろんだとも。そのためにこの場を設けたのだ。実のところ、今回は非公式の面会でな。それゆえ出迎えも王子に頼まざるをえなんだのだよ」

掛けたまえ、と王に席を勧められる。

同じ席に着くのかよ……。王はかなり対等に近い立場で話しているが、客人と言われてもいまいちピンと来ないから、本当に座ってもいいのか不安である。

というか座るのは正面でいいのか? と視線で公爵に助けを求めると、頷きが返ってきたので、腹を括って王の対面に腰を下ろす。

豪華な一人用の椅子が四つ丸いテーブルを囲んでいて、王の対面に俺、右手に公爵、左手に王子という配置になった。

トビーは俺の後ろで待機。給仕をやる人も、茶を配り終えたら部屋の隅に待機である。

「ではまず何から話そうか……リョウ殿はどこまで聞いておられるか」

「迷宮に封印された邪神との戦いに、軍をお借りできるというところまで聞いております。本日はその件を正式にご依頼するために参ったのと、追加でご協力を賜りたい事柄について、ご説明にあがりました」

俺の言葉に、うむうむと王は得心げに頷いている。

リアクションがいちいち人が良さげだ。これが王の求心力というものか、なんか惹き付けられるところのある人である。

「リョウ殿も、これほど早くに軍を貸し出す判断をしたこと、不思議に思っておられるだろう。実は我が国としても、今回の件は他人事ではないのだ。それをまずは説明させてほしい」

やっぱり来たか。新しいびっくり情報が。

覚悟を決めて、俺は王の言葉に耳を傾けた。