軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

77 白竜との戦い その二

光を纏ったズーグが躍動する。

その動きは、身体強化を発動させた白竜すら圧倒しているように見える。

あの戦闘スピードの中に魔法で支援を加えるのは不可能に近い。

パーフェクトキャンセレーションなどもっての外だろう。

であればもう俺にできることはないのか?

いいや、そんなことはない。

「……そんなに一気に飲んで大丈夫なのかい?」

「魔力が回復した後で吐くから。大丈夫だ」

「それは大丈夫って言わないんだよっ!」

俺は戦場から少し離れた場所で、カトレアに叱られながら、魔力ポーションでの回復を図っていた。

急激な回復……というか低下もそうだが、体内魔力量の乱高下はかなり体に悪い。

それでもこの状況で、ズーグに戦闘を委ね切ってしまうほど俺は無責任ではない。

「トビー、準備は……うっぷ……」

「こっちは問題無しっすよ」

俺がやろうとしているのは二発目の 神息(ブレス) である。

戦闘スピードに魔法行使が追いつかないならば、追いつける者を送り込めばいい。

流石に二発目のブレス使用によって、魔力は二割を切るだろう。

回復魔法に置いておく分を考えれば、必然戦闘を行うのはトビーとなる。

「 神息(ブレス) 」

唱えた瞬間、ざっ、と血の気が引く音を聞いた。

気絶しそうになるが何とか気合で踏みとどまる。

トビーは俺を見て一瞬気遣わしげな顔をしたが、すぐにズーグの加勢に飛び出していった。

「リ、リョウ……大丈夫なのかい?」

大丈夫。まだいける。あいつらの支援ができる位置に行かないと。

そんなことを考えながら、俺は胃の中のものを一気に吐き出した。

苦しさにうめき声がもれる。耐えられず、地に膝をついてしまう。

「……カトレア、水くれ。それとポーション」

回復薬と胃液の混じった液体を出し切った後、俺は唾を吐き捨てて再び立ち上がる。

「いけるのかい?」

「いくさ」

万全の体調とは言えない。

しかし戦いは終わっていないのだ。

俺は水で口をゆすいだ後、ポーションを強引に飲み下した。

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戦場では、身体強化の掛かった白竜アルテリウスを、 神息(ブレス) を受けたズーグとトビーが追い詰めていた。

『ガアアァァッ!』

もはや魔法を発動する余裕も無いらしく、二人の連携した攻撃を、爪や翼を使って凌ぐばかりだ。

「ぜあっ!」

「うりゃああぁっ!」

武器が振るわれるたび、破壊された鱗が飛び散る。

刃が皮膚を切り裂き、赤い斬線が刻まれていく。

そして一瞬白竜の意識がトビーに逸れた隙をつき、ズーグが白竜の右手首を跳ね飛ばした。

『グオォアアアアァァァ!』

痛みに呻く白竜に二人は追撃を仕掛ける。

しかしそれは、勢いよく広げられた翼によって遮られた。

白竜は広げた翼を大きく一つ羽ばたかせると、空中へと身を躍らせる。

今まで無かった飛行行動。

十分な広さがあるにも関わらず、そして師範が警告するほど強力な防御行動であるにも関わらず、今になってなぜ。

『まだやられはせんぞっ!』

雨のようにドラゴンボルトが降り注ぐ。

俺は咄嗟にエアハンマーを唱える。

しかしダウンバーストを受けても飛行は続く。

『クハハ! その魔法は知っておるぞ! 我を他の迷宮の魔物のように見くびらぬことだな!』

つまり……師範たちとの戦いで得た経験と言うことか?

魔物が成長するなんて聞いていない。

飛行にはエアハンマーで問題無いと判断していた。

師範からもそれに指摘は無かった。

それ以上のことを自身で考える頭が無かった。

後悔は湧き上がるが、そんなことを考えている時間は無い。

ブレスの効果時間が切れれば、俺達に勝ち目はないのだ。

ズーグが跳躍する。

だが流石のブレスでも飛行能力は付与されない。

空中の無防備な状態を、白竜の腕が叩き落とした。

攻め手が無い。

魔力も残り僅か。

俺が取れる行動はあと一度か二度。

判断が迫られた。

思考が 奔(はし) る。

そして俺は決断し、最後の魔法を行使した。

「 魔法誘導(ホーミングマジック) 、 魔法拡大(エクステンドマジック) 、 呪文強化(スペルエンハンス) 、 完全熱量転換(パーフェクトコンバージョン) ッ!」

初手の魔法構成に、魔法誘導を組み合わせたもの。

何故それを選んだのかと問われたら、俺は答えることができないだろう。

しかし不思議な確信があった。

この場面で、撃ち落とす選択で、これ以外の魔法が思いつかなかった。

光球が生み出され、複雑な軌道を描いて飛び、白竜に着弾する。

そして……、

『グガアアアアアァァァァッ!』

咆哮をあげながら、白竜は地に落ちた。

初めにぶつけた時と同じく白光を纏っているが、もがき苦しむようにのたうち、少しして複数の個所から炎を上げ始める。

白熱の後に燃え上がるのは、普段パーフェクトコンバージョンで敵を倒した時と同じだ。

なぜ開幕時と今とで効果が変わるのか。

白竜の体を見ればそれは一目瞭然であった。

すなわち、ズーグ達に刻まれた傷跡から炎が生まれているのである。

そして燃え上がる炎は次第に白竜の全身を包み込み、最後には皮膚を黒焦げにした白竜が、そこに残った。

『ク、ククク……見事、見事よのう』

「お前……最初ハッタリかましやがったのか?」

いまだ意識を残す白竜に驚愕しながらも、俺は自身の疑問をぶつけた。

『左様。いかに火の眷属と言えど、魔法への耐性ではどうにもならんものもある。我とて火口に飛び込めば死は免れん。そう言う事よ』

「じゃあ最初から飛行しなかったのは」

『あの魔法と打ち合いをするのは分が悪いと踏んだまでよ。魔法で押し切れると感じたなら、即座に切り替えたやも知れぬがな……』

なるほど。

こちらの回復薬や耐性装備の準備は十分役に立っていたと言うことか。

だが俺に二発目のパーフェクトコンバージョンを使わせず、近接戦闘に持ち込ませたのだから、戦術では完全に負けていたことになる。

ブレスという切り札が無ければ勝利はあり得なかっただろう。

「そうか……。さて、話も済んだし、降参するならここで戦いは終わりだ。どうする?」

俺は迷宮の先に進めればいい。

白竜アルテリウスが尊敬できる敵手であることは、矛を交えた俺自身が良く知っている。

死んでも再構成される迷宮の魔物とはいえ、あえて殺すのも忍びない。

そう考えての提案だったが、白竜はその言葉を聞くと口角を上げ、煤で黒ずんだ牙をむき出しにして笑った。

『情け深いことよ……だが器を持つ者よ、我は、まだ負けておらん』

「そうか」

降伏をしないというのが白竜の選択だと言うのなら、異論はない。

俺はズーグに視線を向けて介錯を指示する。

そしてズーグの槍が大きく振るわれ、白竜の首が宙を舞った。

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「ふう……終わった……のか?」

「ええ、終わりました」

ゴロリと転がった白竜の首を避けて、ズーグが戻ってくる。

「流石に首を落とされれば、生きてはおられぬでしょう。バーランド殿もこれで倒したと言っておりましたし」

確かにその通りだな。

かなりしんどい戦いだったが、終わったのだ。

終わってみればダメージは負ったものの、致命傷もなく勝利を収めることができた。もし観戦している人間がいたとしたら、危なげない勝利と評価するかもしれない。それほど俺達の被害は少なかった。まあ、ポーション類の消費は多かったけどな。

ただ主観的には、何度も危うい判断を迫られた。

精神的疲労が大きい戦いだったと思う。

反省点も色々あるだろう。

「……ま、でも勝ちは勝ちだな」

「もちろんです。我々の勝利に違いはありません」

「そーっすよ! これでオレらも 竜殺し(ドラゴンスレイヤー) の仲間入りっすねぇ!」

ため息をつきながら言うと、ズーグが笑みを浮かべ、トビーも剣を納めながら喜びの声をあげた。

「いや、この戦いは全てブレスの力によるものだ。 竜殺し(ドラゴンスレイヤー) と言う英雄の称号は、旦那にこそふさわしいだろう」

「いやいや、ブレスありで一緒に戦って分かったけど、ズーグの技量がなきゃ、あんだけブレスの力を引き出せねえって。誰か一人ってんならトドメを刺したズーグじゃねえか?」

「そうだぞズーグ。というか俺はトビーの後ろに隠れて魔法使ってただけだからな。自分だけ胸張って竜殺しを名乗らされるとか、罰ゲームか何かかよ」

俺達は白竜の生首を前に、お互いの健闘を讃え合いながら言葉を交わす。

そうして少しずつ実感が湧いてきて、テンションが上がってくる。

労いの言葉を掛けながら水や飴を配るカトレアも、笑顔を浮かべている。

そうだ。

俺達は勝ったんだ。

お互いの肩を叩きあい、弾んだ声で笑いあう。

もう我慢できないと、俺達は快哉を叫ぶために息を吸い込んだ、

その時である。

視界の外で「ぶしゅっ」と、何かが噴出するような、柔らかい肉を突き破るような音が聞こえた。

音のした方向に気付いて耳を疑う。

その次に視線を向けて、目を疑う。

首から上を失った白竜の胴体。

もはや動かないはずのそれは、首の断面から尖った赤い水晶体を生やして、体を起こそうと動いていた。

『ギギィッ! ギギギイィィィッ!』

水晶は先細りの形状で、ちょうど首から多角錐を生やしたような状態だ。

その耳障りな音は脳内に響き、つまりはそれが声であることを意味している。

「死んで……なかったっていうのかよ」

俺の呟きに反応するように、尖頭の赤水晶がぐにゃりと曲がり、 こちらを向いた(・・・・・・・) 。

『言ったであろう。我はまだ負けておらんとな。……いや、これは負け惜しみだな。忘れてくれ』

口調とその内容から、恐らく白竜アルテリウスであることは間違いなさそうだ。

しかし先ほど聞いていたものとはまるで違う、ざらざらとした不快な音で竜は言う。

『しかし驚いたぞ……よもや、あの女の術をここまで扱えるとはな。流石は 見出(みいだ) されし者……我は同胞として誇らしい』

体は焼け焦げ、黒く変じている。

右手首は先が無く、落下で翼も折れている。

しかし赤水晶に秘められた魔力が、その姿をいまだ強大に見せていた。

『さて、器を持つ者よ。残念ながら、試練はまだ終わってはおらぬ。このような醜い姿に変じても、敵手が貴様であるのなら、文字通り我も死力をつくさねばならぬのだ』

水晶が赤い光を纏い始める。

俺達はそれに合わせて、再び戦闘態勢に移行する。

一旦切れた緊張。異形への恐れ。疲労からくる不安。

そんなものたちが脳裏を巡る。

『――――――――――ッ!』

しかし状況は否応なく。

発声器官を失った白竜の、至極不快な咆哮と共に、再び戦いが幕を開けるのであった。