軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75 突入と開戦

突入の日がやってきた。

整えた武器防具に身を包み、ホルダーに試験管型のポーション瓶を差し込んで準備は万端。

自宅の玄関でレイアとシータ、そしてわざわざ来てくれた師匠に見送られ、組合ではバーランド師範とマルティナさんに見送られ、俺達は迷宮の入り口を目指した。

そして見慣れた入り口で、見慣れぬ光景を目にすることになった。

「よお、挑戦者諸君」

俺達に声を掛けてくる、迷宮の入り口を見張る兵士。それと周りの……多分兵士たち。

多分というのは武器防具を身に着けておらず、しかも街で見かけるような普通の服を着た者ばかりであったため、判断がつき兼ねたのである。

見張りの兵とは挨拶くらいはするが顔を覚えるほどではないからな。

中に老兵士グラウマンさんが居なかったら「誰だこいつら」という印象だっただろう。

かの老兵士は一人の時に見るとあまり分からないのだが、こうして他の兵士たちと並ぶと英雄的雰囲気があって目立つ。まあ年齢が一人突出しているのも目立つ要因ではあるが。

「皆さんお揃いで、わざわざお見送りに?」

彼らが雁首揃えている理由は最初に掛けてきた言葉通りだろう。

俺の言葉に兵士たちが頷き、笑顔を返してくる。

「おう。噂にはなってたが、具体的な日取りを聞いたからな。グラウマンさんからマルティナ嬢に聞き込みすりゃイチコロよ」

何やってんだあの人。

マイトリス大好き同士のホットラインでもあるってのか。

彼女だって話が広まり過ぎたら面倒なことになるのは分かっていそうなものだが。

「お許しくだされ。無作法とは思いつつも、どうしても知りたかったのですよ」

と、俺の内心の疑問に答えてくれたのはグラウマンさんである。

どうやらマルティナさんは守秘義務ということで拒否していたようだが、グラウマンさんの方が一枚上手で、師範と組合長を抱き込んで無理矢理聞き出したらしい。

多分硬軟織り交ぜて色々説得したんだろう。貴族達と折衝を繰り返し国を守ってきた彼の経歴を思い出せば、単なる一都市の組合長、武術師範、そして受付嬢が対抗できるとも思えないよな。

「どうしてそこまで?」

「バーランドの奴が白竜を討伐した時は、組合総出で盛り上げましたからな。事情があるとは言え、新たな英雄候補の出立が注目されぬのも寂しいでしょう」

「……ぽっと出の英雄なんてそんなものでしょう」

グラウマンさんの言葉にあえて「英雄」という言葉を返す。

俺個人がどうとか以前に、白竜討伐というエピソードが英雄的であることに違いはないしな。それに俺だって自分の力がどういうものか、いくらなんでも自覚している。白竜討伐後に待っているのは間違いなく英雄と言う評価だろう。

そんな俺の内心を知らず、彼は俺の言葉を聞いて笑みを深めながら、一歩進み出て拳を胸に打ち付ける。

ざっ、と後ろの兵士たちも動きを揃え、整列して同じように拳を胸に。

「探索者リョウ殿、そしてその仲間の方々。貴殿らの偉業への挑戦とその勇気を讃え、我らマイトリス守護兵一同、その勝利をお祈り申し上げる。貴殿らの戦いに武運のあらんことを! ……まあ、一同と言っても全員は居りませんがね」

良く通る勇壮な声でグラウマンさんは口上を述べ、最後にウインクをしてそう言った。茶目っ気のある爺さんである。

「見送りの言葉、誠にありがたく! ……と、堅いのはあんまり言葉が浮かびませんね」

俺も同じように芝居がかった返答と、茶化すようなことを併せて言えば「これで堅いと言っていたら貴族社会ではやっていけませんぞ」とグラウマンさんは声を上げて笑った。

「さて、ではそろそろ出発します」

「そうですな。引き留めてしまって申し訳ない。頑張って下されよ、このマイトリスのためにも」

そう交わして、背後から兵士たちの激励を受けながら、俺達は迷宮へと突入した。

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迷宮内での移動は問題無く、極力魔物を避けながら進んで行く。

広大化する地下七、八階を挟むため今日中に戦闘を開始するのは難しいだろう。

万全を期すために寝起きで戦うのではなく、一度くらい戦闘を行ってからあの扉を開きたい。

進行速度を調節しなくとも到達は大体それくらいになる予定なのが幸いか。

「ご主人サマ、そろそろ休憩するかい?」

「そうだな」

「じゃ、オレは周り見てきます。ご主人は先に休んでてください。ズーグは警戒を頼むぜ」

「任された」

そんな感じで俺の魔力は温存されている。

糖分補給用の飴をカトレアがしきりに食べさせようとしてくるのは、元の世界のオバチャンを想起させて笑ってしまいそうになる。話したらぶん殴られるから絶対言わないが。

まあリラックスして進めているのは良いことだろう。

そして探索は進み、休息と起床、ウォーミングアップのための一戦が終わる。

ポーションを使った回復の後、俺達は精緻な文様の刻まれた巨大な扉を開いた。

ズズズ、と重苦しい音と共にゆっくりと扉が開いていく。

中に一歩足を踏み入れれば、冷気とはまた異なる寒々しい感覚が背筋に走る。

広い空間。他で見られるような鍾乳石のような突起は、部屋の隅には見られるが、中央部分は何もない。地ならしされたかのような平坦な地面が広がっている。

そしてその地面を這うようにして視線を奥に移していけば、そこには一頭の竜が鎮座していた。

なぜ、最初にそこに目が行かなかったのだろう。

そう思うほど、気付いてしまえばその存在感は圧倒的なものだった。

乳白色の迷宮の壁にすら映えるほどの純白の鱗。巨大な翼。

体長は十五メートルほどだろうか。今は両手足を地に下ろし首を 撓(たわ) めて横たえ、寝ているかのような姿勢であるため正確には分からない。

俺達が部屋の中ほどへと足を進めるとこちらに気付いたのか、竜はちらりと、瞑っていた 瞼(まぶた) を見開いた。

『久方ぶりだな、戦士の来訪は』

脳に響くような言葉だった。

いや、実際に直接言語が送り込まれているのかもしれない。

その証拠に竜は身じろぎもしていない。であるのに向けられた視線と瞳から見て取れる知性の光から、その声が竜から発せられていると理解できる。

知恵があり言葉を解する魔物とは聞いていたが、やはり少し驚きはある。

しかし俺は気を取り直すようにひとつの問いを発した。

「あんたが、 門番(ゲートキーパー) か?」

『左様。我が名はアルテリウス。この迷宮の門番として、存在を許されている者だ。それで貴様は何故 此処(ここ) に参った、理由を述べるがよい』

首だけを動かして頭を持ち上げ、こちらを見据えながら白竜……アルテリウスが言う。

すんなりと会話が始まって安堵した。であれば挨拶には挨拶を、そして用意していた言葉を白竜に告げることで問題無いだろう。

「俺はリョウ、後ろにいるのは俺の仲間だ。目的はこの先、迷宮の奥に進むこと。それとあんたには個人的に聞きたいこともある」

『戦士よ、この先には大いなる脅威が待ち受けている。容易く通す事は適わぬ故、我は門番として此処に在る。此処を通りたくば自身の力を我に示すがよい。さもなくば大人しく立ち去る事だ。……して、我に聞きたい事とはいかに』

白竜は定型文のような警告を口にした後、興味深そうな声でそう聞いてきた。

「俺は突然この世界にやってきたんだ。そしてその時与えられた知識が示唆した迷宮を、その時与えられた力を鍛えて進み、ここまできた」

声を抑えて俺は質問を口にしていく。

白竜アルテリウスの口調に引っ張られてか、少し仰々しくなってる感じがするが気にしない。

俺の言葉に、白竜がぴくりと表情を動かすのが見えた。

「この階層に足を踏み入れた時、俺は知識と力を手に入れた時と同じ感覚を得た。間違いなくここに俺が示唆されたもの、俺がこの世界に来た理由の手がかりがあると理解した。……つまりはそう、あれだ。あんたは、才能の器という力について知っているか?」

最後少し言葉がつかえたのは、緊張によるものではない。

話している途中で白竜が体を起こし、四足で立ち上がったからだ。

体高は五メートルくらい。この近距離で見下ろされると凄まじい威圧感がある。

体長は尾まで合わせると二十メートルは下らなさそうだ。初見での目測は誤っていたというわけだな。

いや、そんなことを考えている暇はない。

巨大な竜の、強い視線が今も俺に突き刺さっている。

口の端は吊り上がり、牙が見えている。これは……笑っているのか?

『……ふ、ふふ……』

地鳴りのような低く響く声。

白竜はおかしそうに身を震わせる。

『クク、ククク……ハーッハッハッハッハ!』

そしてついには声を抑えきれないかのように笑いはじめ、最後には顔を天に向けて大笑する。

おかしげな笑い声が脳内に響き渡る。実際にその口から洩れているのは咆哮か。

脳内を揺さぶる声、肌を震わせる咆哮の圧力。それ以上に、その体に満ちていく戦意を感じ取れないほど、俺も素人ではない。

危機感が急激に増していく。

それに伴って俺を含めた全員が戦闘態勢に移行する。

俺が数歩下がってズーグが前に。トビーは俺の右斜め前、盾が俺を隠す位置を取る。カトレアは大きく下がって荷物を探り、盾を持っていない右手にポーション瓶を構えたようだ。

『なるほど、ようやく現れたか、器を持つ者よ! 待ちくたびれたぞ、同胞よ! 貴様の求めるものは迷宮の奥に在る、それは我が保証しよう! しかしこの先にはただでは通さん! 我は門番、主殿に創造されし、白竜アルテリウスなり!』

謳い上げるように白竜が声を張りあげる。

上体を起こし、二足で立ちあがる。そして大きく翼を広げ、威容を見せつけるように宣言した。

『求むるものを得たくば我を倒して先へと進め! 器を持つ者よ! いざ、尋常に!』

勝負だ、という声が五つ、重なった。

戦闘開始だ。