軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

46 コカトリス討伐作戦その四

俺達がズーグの下に辿り着くと、彼は丁度戦っていた魔物にとどめを刺すところであった。

「お前、グリーンベアと戦ってたのか。時間稼げとは言ったけどやばかったら呼んで良かったんだぞ。指示出さなかった俺も悪いが」

「いえ、北方で戦っていた時はこのくらいの相手で音を上げたりはしませんでした。今回の補助の薄さは昔を思い出すようで良いリハビリになりましたよ」

そうなのか。

まあ北方領域には両腕のズーグが駐留軍の支援を受けてなお、片腕を失うような相手が居る場所だ。都市近郊の森に居るような相手ではさほどの困難でもないのかもしれない。

「それで、どうしてここに?」

「魔物が途切れなくて全体的にじり貧になりそうだから、コカトリスを先に討つ事になった。悪いがさっさと移動するぞ」

「了解です」

エクストラヒールを掛けながら言った俺の言葉に、ズーグは何かを察したのか何も言わずに従った。

この作戦はエイトの指示によるものだが、歴戦の勇士として彼もその意図を理解したのだろうか。

それを問いただす時間も無く俺達は移動を開始する。

そして道中現れた魔物に攻撃を加えつつ進み、それらの魔物を引き寄せながらコカトリスの下へと辿り着いた。

「オラアアッ!」

「クケエエェェェ!」

そこでは未だにハルバー達が戦闘を続けている。

エイト達は邪魔な魔物を落とし終え、これから参戦するといったところだった。

いったいハルバー達傭兵がコカトリスをこれほどまでに倒しきれない理由は何なのか。

傭兵が弱すぎるのかコカトリスの特殊な能力によるものか、それは分からないが検証している時間はないだろう。

「エイト!」

「来たか! コカトリス以外のやつを殺ってからお前かズーグをこっちによこしてくれ!」

「分かった!」

俺はエイトの指示を受けて周囲を見渡す。

ついてきてたのは二体、既に居たのが二体か。

「魔法の曲射いくぞ。ズーグはその後突撃、トビーは抑えだ。ズーグは一体落としたらそのままコカトリスの方へ行け。……エイト、聞こえたな!」

「ああ!」

エイトに簡潔に伝え、戦闘開始だ。

ズーグが飛び出す構えを見せ、トビーは俺の脇に控える。

そして魔法を放つために声を張り上げる。

「三つ数えたら発射する! 各自対応を!」

これで伝わるのか? と一瞬疑問が浮かんだが、援軍の魔物に相対する傭兵やエイトのチームメンバー達から一瞥が飛んできたので、多分理解してくれたと思う。

俺はそう結論付け、魔法を始動する。

「 魔法拡大(エクステンドマジック) 、 魔法誘導(ホーミングマジック) 、 魔導槍(エナジージャベリン) 」

いつもの三連を唱え、エナジャベを四つに複数化して掌に留め、

「行くぞ! 三、二、一……!」

そしてゼロのタイミングで魔法を発動させた。

この後ろから射撃魔法を撃つ時の掛け声は、ズーグの北方駐留軍時代の経験から来た軍仕込みのやり方である。

ズーグとトビーは慣れているのでカウントが二とか一とかでも状況に応じて対応できるが、それを傭兵にいきなり求めるのは酷だろう。三カウントは久しぶりに数えたのでやや冗長に感じたが、それでも魔法は違わず威力を発揮して、魔物達に打撃を与えたようであった。

「はあっ!」

「おおりゃっ!」

援軍の魔物はフォレストウルフやジャイアントビークみたいな中型の魔物だが、魔法を受けて体勢が崩れたところを傭兵達がしっかりと狙い撃つ。

魔法、弓矢、近接攻撃と言う国軍の理想的な戦術を体現するかのような流れで、次々と魔物が仕留められていった。

そして、コカトリスの方にズーグが参戦する。

これで終わらせられれば良いが、果たしてどうなるか。

魔物の増援はまだ続きそうな気配だが、今この瞬間は少し途切れ気味だ。

……これは、もしかしたら俺もあっちに行けるのか?

「トビー、任せられるか? 行って終わらせられるならその方が良い。こっちは厳しくなると思うが……」

「たのんますっ!」

ひっかきウサギの攻撃を受け止めながらトビーが言い、俺はその返事を受けて走り出した。

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コカトリスと傭兵、エイト達が戦っている場所は、窪地の底にある少し開けた場所だ。

そこで武器と蹴爪が交錯し、時折魔法が弾ける。

弓矢はフレンドリファイアを懸念して飛んではこないが、傍から見ればかなり 押している(・・・・・) ように見える。

しかし、それでなおコカトリスを討伐できないのは何故か。

俺はその主戦場と言うべき領域に足を踏み入れた時、ようやくその意味を知る事になった。

「なんだ……?」

最初は見間違いかと思った。

しかし「それ」が起こるたび、前衛の戦士に戸惑いが走り、押し込んだと思った状況が逆転する。

「クケエエエエェェェ!」

「ぐっ、このおっ!」

今もまた斬り込んだ傭兵の斬撃が空振りに終わり、返しの蹴爪による一撃を盾でまともに受ける羽目になって体勢を崩していた。

そこで何が起こっているのか。

見たままを言うならば、コカトリスの体が「明滅している」のだ。

はっきりと見える状態。

希薄になり半透明に見える状態。

僅かな輪郭を残し消え去ったように見える状態。

完全に消失した状態。

それらを遷移しながら戦う姿……恐らく魔法的な能力だと思うが、スキル名を付けるならば、あれは ちらつき(ブリンク) と呼ぶのが良いだろう。

理力魔法にも同名の魔法があるが、そちらは魔力の身代わりを作る魔法なので少し違う。どちらかと言えばこのコカトリスのこのスキルこそブリンクの名にふさわしいと思う。

そのブリンク能力で奴は近接戦において攻撃を躱し、魔法を避け、戦闘を優位に進めている。

「はああっ!」

「ケエェェッ!?」

と、思っていたが、攻撃に失敗した傭兵と交代するように切り込んだズーグが三連突きを放つと、その一つがコカトリスの体に命中しているのが見えた。

「ズーグ、行けるのか!?」

「行けます! この程度、北方にも居ましたよ!」

啖呵を切るその背中は非常に頼もしい。

歴戦の歴戦たる証拠を見せつけるように、ズーグがコカトリスの前に立ちふさがった。

ブリンクの発動は一瞬。薄っすらとなり始めた瞬間から、当たり判定と言うべきものが希薄になり始める。

基本的な戦闘速度から言っても、これに攻撃を当てるのは至難だろう。連続技を放ったとしても、普通なら当たるも八卦の運試しになってしまう。しかしズーグは戦闘の流れや動作の把握、そして経験からくる勘で、かなりの精度で攻撃を命中させているのである。

姿が見えなくなれば槍の穂先で居場所を探り当てようとするかのように連続攻撃を放ち、槍先が掠めた瞬間に大振りで打撃を加えるという戦術。流石にクリーンヒットは難しいためか直撃はまだだが、このままいけば順当に討伐ができそうであった。

しかし、

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

通常の戦闘よりもはるかに攻撃を放つ回数が多いためか、これまでの戦闘の疲労もあってズーグの息が切れ始めているのだ。

「エイト! ずっとはもたないぞ! 交代だ!」

「分かってる! ズーグ、スイッチするぞ!」

エイトが交代しズーグの戦い方を真似て攻撃を始めるが、やはり体力的にかなりキツそうに見える。

本来のように傭兵だけで作戦を遂行するなら、このまま消耗戦にもつれ込む事になるのは必至。

しかしこの場には魔法使いが居る。

であれば、俺のやる事は一つである。

「援護する! おいロミノ、なにぼさっとしてんだ!」

「で、でもあんな近くで戦ってるのに、魔法なんて撃てないわよ……」

これまではコカトリスが間合いを空けた時に、逃走を防止するように、あるいは開いた間合いを埋めるように魔法を使ってきたようだ。

しかしそれでは肝心の戦闘自体を楽にはできないし、決定的な状況にする事は絶対にできない。

「馬鹿やろう! お前、学園で攻撃魔法しか習わなかったのか?」

「そ、そんな訳ないじゃない! でもバインドフィールドとかジャミングフィールドとかの阻害系だって周りを巻き込んじゃうのよ!」

大声で反論するロミノを横目に、俺は魔法の準備を始める。

暇な時なら俺の考えを教えても良いかもしれないが、消耗戦が始まりそうなこの場でその時間は無い。

俺の行動から何か得てくれれば良いが、ともかく俺はその魔法を発動した。

「 武具生成(クリエイトウェポン) 、 物体操作(テレキネシス) 」

「そ、そんな魔法で……」

ロミノが何かを言っているが返事はできない。

ここからは戦闘が終わるまで魔法を維持する必要があるため、俺も消耗するのだ。

無駄な労力を割く余裕は無いのである。

俺は並列思考で複数化した魔力の盾達を戦域に浮かべる。

間隔を開けて浮かべたそれはぱっと見、意味の無いものに見えるだろう。

しかしズーグは俺の意図を読んだか、すぐに行動を開始した。

「旦那!」

呼ばれて俺も反応する。

盾の間隔を狭めてコカトリスの周囲を取り囲むように、しかし行動を遮るほどではない程度に配置する。

だが、この配置がミソなのだ。

この戦術は、迷宮で一度だけ使用した事があるものだ。

その時はコカトリスのような大型の魔物ではなく、ソニックスワローという超速で飛び回る鳥の魔物が相手であった。

盾を配置できるだけ配置し完全に障害物として扱って、回避動作に対応して撃ち落とす。

飛行と言うのは三次元的機動ができる点で、地面に足を着けている生物よりも回避能力が圧倒的に上回るが、その利点を潰すための戦術であった。

そしてこの戦術を、俺はコカトリスのブリンクによる回避に対しても使用したのである。

三次元機動と魔法。

それぞれ方法は異なるが、驚異的な「移動」方法による回避である事に違いは無い。

これが達人的な技術による回避であれば俺になす術はあまり無いのだが、それが単なる凄い移動というならやりようはある。

ブリンクによる当たり判定の消失……存在が希薄になっているのか何なのか原理は分からない。

しかしズーグの一人槍衾で攻撃がヒットするなら、どこかに消失し切れてない部分があるのは自明だろう。

俺はそれを、魔法の盾と言う「面」で捉えようとしたのである。

そして、結果は早くも成果として現れた。

「グエェッ!?」

ズーグの目の前で、消え失せたはずのコカトリスが盾にぶつかって姿を現したのだ。

「せぇあっ!」

当然それを見逃すズーグではなく、豪風を伴って振りぬかれた槍が、とうとうコカトリスの片翼を切り飛ばしたのであった。

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その後の戦闘は、傷口から血液を喪失してコカトリスの動きが鈍った事もあり、一方的なものとなった。

とどめはちゃんと傭兵達に譲り、コカトリスの鳴き声により狂っていたと見られる増援の魔物達が逃走して、戦闘は終了。

予想よりも遥かに大変な依頼となったが、俺のチームもある程度活躍したし、理力以外の魔法を人前で使わずに済んだのでかなり良い結果なのではないだろうか。

街に戻れば報酬も貰えるし、それもちょっと楽しみではある。

どうやらあのコカトリスは通常とは違う能力を持っている種だったらしく、追加報酬をふんだくるとハルバーが息巻いてたしな。

とにかく、森を抜けたらベースキャンプで一休みだ。

今日中にキンケイルに戻るのは難しいのでそのまま一泊し、明日帰還となる。

戦勝の良い雰囲気が傭兵達と俺達探索者の間で醸成されてるので、今晩はもしかしたら宴会かもしれない。

酒盛りを予感して俄かに上昇したテンションでズーグにうざ絡みし、しれっとあしらわれてトビーがフォローする。そんなやり取りをしながら俺達はベースキャンプへ足を進めた。

こうして、俺達の初の迷宮外戦闘は、懸念事項を全てクリアして上々の結果で幕を閉じたのであった。