軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

42 王立資源探索隊の探索者たち

出発は二日後となった。

その間俺達はヒール、キュア、マナポーションの買い足しと装備の追加、それから理力魔法ベースの戦術訓練を行った。

装備は毒のある攻撃を受けないよう、露出部分を覆う感じのものを追加した訳だな。

細々と数が多くポーション類と合計するとまあまあの出費になった。

ポーションを使わなければ良い話ではあるが、今回は縛りがあるので難しいところだ。依頼の報酬についても、傭兵達の能力調査と俺の能力の一部公開だけが成果となりそうなくらいで、あまり期待はできない。

赤字になる事も覚悟しておかないといけないだろう。

理力魔法縛りの戦闘については、バフは武具に対してのものしかないが、攻撃魔法はフルで使えるのであまり問題は無い。

その方が俺の能力を示す事にもなるし、戦闘の方針としてはいつもとさほど変わりない感じだ。

あるとすればクリエイトウェポンを近接戦闘にではなく完全に障害物として利用するくらいか。

魔法主体で行くなら後衛になる訳だし、戦闘のオプションとしては悪くない。

あまり試す事はできなかったが多分大丈夫だろう。

「お、馬車が来たようだぜ」

出発の当日、馬車の停留所で待っていると、エイトが指さした方から傭兵組合のエンブレムが付いた馬車が向かってくるのが見えた。

森の外縁部にあるベースキャンプまでは馬車で向かい、そこから森での捜索に移るという流れなのである。

俺達が乗り込んですぐに馬車は走り出す。

中は傭兵組合と同じく汗と酒の臭いが充満していた。

こいつら……ちゃんと風呂入ったりしてるのだろうか?

仕事中むさくるしくなるのは仕方ないとしても街に居る間くらいは清潔にしろよと思う。

探索者は一日が街と迷宮の往復に終始し、仕事と生活が完全に線引きされているので、あまりそういう事はないんだけどな。

「さて、落ち着いたしこっちのメンバーも紹介しとくか」

「ああそうだな」

腰を落ち着けたところでエイトからそんな申し出があった。

停留所で落ち合ってすぐに馬車が来たからな。

連れ立ってきていたエイトのチームメンバーらしき人達とは顔を合わせただけである。

彼らとしてもこっちの事は知らないだろうし、今回の討伐作戦がどの程度各人の連携を必要とするものか知らないが、自己紹介は必要だろう。

「じゃあいつも譲ってもらってるしこっちから紹介しよう。……俺はリョウ、魔法を使う。こっちの竜人はズーグで後ろのがトビー。トビーは斥候もこなすが両方前衛だ」

「俺はエイト、このチームのリーダーをやってる。それからそこの女戦士がキーラ、黒ローブが理力魔法使いロミノ、白ローブが神官ニーニャだ。後ろの斧戦士はボルドフ、スカーフ付けてるのが斥候のシュミットだな」

それぞれ紹介されて手を振ったり、近い者とは握手を交わした。

馬車の中は狭いが、座席は二列の対面状になっているので顔はよく見える。

「なんつーか、華やかなパーティだな」

「女多いだろ? 国としては女でも有能なのは雇う方針なんだ。軍なんかだと作戦の邪魔になる事があったりするけど、迷宮探索のパーティ単位なら調整は可能、って事らしい」

「へえ、色々考えられてんだな」

「まあその調整は現場に丸投げなんだけどな。キンケイルの探索隊でも女が居んのはウチとあと一つくらいだ。男所帯に女一人ってのも外聞悪いし」

外聞とは、流石王国の探索隊という事か。色々配慮しないといけないらしい。

「なんか大変そうだなあ。……魔法使いは結構いるのか? 六人ってのも普通より多い感じだし」

基本的に魔法使いは、毎日あくせく働いて保障も僅か報酬も危険度に応じる迷宮探索者にはならない。軍に入り、必要な仕事をこなして定収入を得る方が効率的だからだ。軍人になれば怪我や死亡の補償もあるし、勤め上げれば多少の退職手当もあるらしいしな。

また探索人数については取れる魔石の量(収入)と敵の強さによって変動する。基本的に探索深度と人数は比例するが、深く潜る=危険を冒しても収入が増えないと意味が無いという事で、ある一定以上の人数にはならない。それが大体四~五人という人数なのである。

もちろん八、九、十階と深く潜って行けば行くほど収入も増えるので、どこかで六人以上のパーティになる事も考えられる。しかしそうなれば当然各自の収入は減る、ないしは頭打ちになるので、稼ぎ目当ての迷宮探索者は「それなら五人で危険の無い浅い階層に行こう」となるのが普通なのだ。

「ウチは国がやってるだけあって定収だからな。もちろん探索深度ごとに補正はあるけど、全体の魔石収益から報酬が割り出されるから下の底上げにも熱心になるし、よく考えられてるよ」

彼の言を聞くによく組織化・効率化された探索を行ってるみたいだな。

ある程度の収入が保障される分、深い所に潜るメンバーを多くしても問題無いというシステムは、危険度の低下にも迷宮全体から採れる魔石の最大化にもなるだろう。流石国家事業である。

「あと魔法使いはちょっと特殊でな。軍と神殿から出向って形になる。そういう訳で“お客様”なんだよ」

なるほど。

無茶はさせられないけど実績は挙げさせたい、すなわちまとめて上位のチームに放り込んで……という事か。

エイトは組織系統の上の方に居ると思われるが、その苦労が忍ばれるな。

「ちょっと、今のは聞き捨てならないわよ。私が接待されてるって言うの? 十階で探索できてるのは誰のお陰か分かってないのかしら」

と、そこで声を上げたのは黒ローブの理力魔法使いロミノである。

豊かな黒髪を後ろでお下げにして、眼鏡をかけている。意志の強そうな鳶色の瞳をした、魔法使い然とした印象の可愛らしいお嬢さんだが、この言い様からするに性格はキツそうだ。

「あー、ごめんごめん。君の働きは分かってるよ。上にもちゃんと報告してるし、今のは外向けの謙遜だから、な?」

エイト氏、悲哀の中間管理職だったか。

ロミノちゃんに取り成す姿はまさにと言う感じだ。

今度から応対する時は優しくしてやろう。

エイトの言葉にロミノは矛を収めたのかフンと鼻息を一つ。その後俺の方に向き直って片眉を吊り上げる。

「それにあんたがこんな弱そうなのに気を使ってるのが癪なのよね。なんなのよこいつ」

「それは以前から説明してるだろう。下部のやつらが狩り漏らしてるやっかいなのを、率先して片付けてくれてるフリーの探索者だよ」

「率先してやってる訳ないでしょ。フリーなんて王立探索隊に志願してもダメだった落ちこぼれなんだから。狩場の取り合いに割り込む努力もしないで、残ったのを仕方なく狩ってるだけよきっと」

ロミノが俺を指さして言い切り、エイトがドでかい溜息を吐く。

それに対し俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

まあ彼女がこれだけの大言を吐く理由も理解できなくはないんだけどな。

彼女のスキル的な部分も俺は分かっている訳だし。

ここで、看破した彼らのステータスを再確認しておこう。

【ステータス画面】

名前:エイト・タンバー

年齢:30

性別:男

職業:戦士(19)

スキル:両手武器(6)、理力魔法(2)、剣使い(7)、指揮(4)(SP残0)

【ステータス画面】

名前:キーラ・セレット

年齢:28

性別:女

職業:戦士(18)

スキル:片手武器(5)、剣使い(5)、盾使い(5)、斥候(3)(SP残0)

【ステータス画面】

名前:ロミノ・レーネック

年齢:17

性別:女

職業:魔法使い(9)

スキル:理力魔法(6)、並列思考(2)、射撃(1)(SP残0)

【ステータス画面】

名前:ニーニャ・アップル

年齢:24

性別:女

職業:神官(11)

スキル:農業(3)、神聖魔法(5)、情報処理(2)、医術(1)(SP残0)

【ステータス画面】

名前:ボルドフ・オリエンテラ

年齢:37

性別:男

職業:貴族(25)

スキル:経営(5)、政治/治水(4)、騎乗(4)、両手武器(7)、斧使い(5)(SP残0)

【ステータス画面】

名前:シュミット・クローズ

年齢:24

性別:男

職業:斥候(17)

スキル:片手武器(4)、斥候(6)、弓使い(4)、料理(3)(SP残0)

明らかに一人貴族が混じっているんだが、それは置いておこう。

全体的に有能なチームだが、中でもロミノは現時点での能力も伸び代も高い。

天狗とまでは言わないが鼻っ柱が高くなるのは仕方ない事だろう。

その物言いをいちいちエイトにフォローさせるのはいかがなものかとも思うが。

「すまんな、リョウ」

「いいさ。誰にでもこういう時期はあるもんだからな」

「そういや、お前さん今どこらへんを探索してるんだ? 最近浅い階層の狩り漏らしが残ってるって聞いてるから、先に進んだんだろ?」

ちらっとロミノに視線を向けてエイトが言ってきたので、多分これは彼女に俺の実力を説明する流れだな。

若いロミノちゃんがこのまま増長し続けるのを見過ごすのも大人げないし、ここはエイトの教育に付き合う事にしよう。

「今は九階だな。このズーグが両腕になって、かなり進んだ感じだ」

「それも気になってたんだよ。どうやったんだ?」

「まあ、知り合いの伝手でな。かなり無理を言ったんでもう二度と無いだろうけど、俺にしてみりゃこいつが万全になっただけで十分だ」

「そりゃそうだ。……ほらロミノ、九階だってよ。弱くなんかねえだろうが」

エイトが話を向ければ、ロミノは口をとがらせる。

「フン、どうせこの竜人さんの力でしょ? こいつに気を使う必要なんてないのよ。伝手だとか言って怪しいし」

怪しいのは大正解。流石天才ロミノちゃんだ。

まあ、この流れじゃあんまり鼻っ柱を折る事にはならないだろう。

仕方ないが、やりたくない事をやるしかないか。

「怪しくはないさ。伝手ってのはこないだ学会発表で王都に来ていたエルメイル教授にお願いしたんだ。あの人は俺の師匠なんだよ」

「え? ……うそでしょ!? エルメイル教授って、あの魔法史上初の変数術式を組んだエルメイル教授!?」

まずは虎の威を借る狐作戦だ。

すみません師匠、勝手に名前使いました。今度直接謝ります。

しかし流石、師匠のネームバリューは凄い。

この間の学会発表の大騒ぎの中心人物だしな。

師匠の開発した魔法については……俺もまだ仕組みを完全に理解できてないので説明しづらいが、込める魔力で威力が変動する術式を初めて生み出したのだ。

これまでは世界の法則的なもので、目的の形態に応じて固定の威力しか出せなかった訳だしな。魔法学における術式構築は、同系統においても色んな威力の魔法を構築する事が、長らく命題の一つとなっていた。

師匠はそれに一石を投じた事で一躍有名になったのである。

「し、信じられないわよ!」

「確認してもらってもいいよ。リョウ・サイトウは貴方の弟子ですか、って」

「ぐ、ぐぬぬ……。で、でもあんたが強い理由にはならないでしょ、他人の名声で誤魔化そうなんて卑怯よ!」

お、丸め込まれないか。流石に有能なのか? いやこれくらいは普通か。

「それはその通りだな。じゃあ俺の能力を説明しようか」

自慢話みたいで心底やりたくないが、ロミノちゃんに見た目で人を判断しない、他人を侮った言動をしないと理解させないといけないしな。

エイトを見れば、俺とロミノのやり取りに苦笑いを浮かべている。

俺の心情を理解してくれていそうな感じなので、後で何か埋め合わせを要求してもいいかもしれない。

「まず、俺は学園卒業生くらいの理力魔法を扱える。後は近接戦闘も多少はこなすぞ。魔法と合わせてだが八階の魔物を倒した事もあるし。それにメインはそっちのトビーだが斥候もできる。チームの火力兼便利屋って感じかな? ……これでもまだ俺が弱いと?」

「そ、それは……見てみないと分からないわ」

「見てみないと分からないんだろう。分からないのに、君は俺の事をこき下ろしたのか? 先入観で判断しろと君は誰かに教わったのか。誰に教わったんだ、学園の教師か。学問に先入観はいらないはずだ。そう言った教師がいるなら俺に教えてくれ。エルメイル教授から抗議文を送ってもらうから。不必要な考え方を生徒に教えないでくださいってな」

俺がまくし立てると、ロミノは俯いて顔を真っ赤にし、ポツリと「悪かったわよ」と呟いた。

「え、なんだって?」

「わ、悪かったって言ったのよ! 先入観で弱いとか言って悪かった! これで良いんでしょもうっ!」

俺が聞き返すと涙目になってそうわめき散らし、ロミノはそっぽを向いてしまった。子供らしい可愛い反応である。

……しかし、嫌われてしまったか。然もありなん。

その分彼女が教訓を得てくれればいいんだが。

まあ実際のところ、彼女が突っかかってきた理由の大半は尊敬するエイトが知らない探索者に気を使ってるのが気に食わなかっただけだろう。

十七歳という事は卒業直後だろうが、それで理力魔法レベル6という事はかなりの才媛だ。賢い子だろうしさっき説教した先入観だのなんだのは理解している事だと思う。

ただこれまで周囲のほとんどが同年代で格下だった学園とは違い、外で感情に任せて言い散らせば手痛いしっぺ返しを食らうと学んでくれた事だろう。

後輩を叱る時、我ながら何様なんだと自問する事は元の世界でもあった事だが、そうして今回もやや自己嫌悪に陥りつつ馬車での一幕は幕を下ろした。

とりあえず、エイトには戻ったら飯を奢ってもらえる事になったので、色々良しという事にしておこう。