軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34 再生

香の行による成果の報告が終わった。

語った成果の内容は、習得した魔法や才能の器に関しては伏せ、神威を感じなくなった(正確には脅威と考えなくて良い事を知った)事とそう思った経緯についてである。

魂の位階が上がった俺の言葉であるため、非常に信憑性も高くヘックス教授は非常に興味深そうに聞いていた。同じような事を意識し自分でも再度香の行に取り組んでみるつもりのようである。

またヘックス教授に対しては、香の行を紹介してもらった報酬、つまり苦痛の少ない解呪の方法についても伝達済みである。流石に「魂魄魔法を併用しました」だけだと悪いので、どういう魔法を併用したか、どのように用いて苦痛の低減を図ったかも添えて伝えた。

ヘックス教授はその情報にも興味をそそられたようで「ふむ」とか「ほう」とか感嘆符交じりの声を上げていた。

「エルメイル先生に怒られるのは大変だったけど、中々面白い話だったよ。神聖魔法に興味があったらぜひ私の所に来ると良い。色々と話をしようじゃないか」

最後にそう言って、ヘックス教授は去っていった。

「ふう……ようやく終わったね」

「ええ、いきなり来て色々ありましたが、ようやく落ち着きました」

再会し神威の説明をしてから香の行の成果がでるまで、言葉にすれば僅かだが色々あったものである。

師匠の感慨深げな溜息に、俺もしみじみとしながら言葉を返した。

「師匠、改めてありがとうございました。それと手間を掛けさせてすみません」

「いや、構わないさ。それよりようやく本題に入れるね」

「ああっと……実はその」

「おや、まだ何かあるのかい?」

実はこの後、俺はズーグの腕の再生をする予定なのである。

これはヘックス教授に見せてあげても良かったのだが、俺は師匠の弟子になって彼女にまだ何も返せていない。にもかかわらずどんどん他の人間に魔法の情報を流していくのは、師匠にしてみれば良い気はしないだろう。

そういう訳で、俺はヘックス教授には今回の事を秘密にしたのである。

まあ先ほど彼が言ったように、神聖魔法について何か専門的な事が聞きたくなったら彼の所に行く事もあるだろう。その時に見せるのでも問題は無いはずだ。交渉材料にもなるだろうしな。

「師匠、俺は新たに魔法が使えるようになったんですよ」

そう言ってズーグの方に視線をやれば、師匠も気付いたのだろう。すぐに「再生か」と呟きを漏らした。

「確かに君は 世界記憶(アカシックレコード) 型の魔法使いだ。神威の克服は上位の神聖魔法を使用する下準備であるし、魂魄魔法を扱えるなら、できるようになってもおかしくはない」

久々の推理劇場だな。「迷」が付いていないのが残念だが、もしかすると魔法に関しては外さないのかもしれない。

「まあそういう訳です。これは部外秘にしたいので、どこか鍵のかかる部屋でやりたいんですが、良い所はないですかね?」

「鍵の掛かる部屋が必要ならここでやればいい。見せてくれるんだろう?」

「ええ、もちろん」

師匠の了承を得て、俺はズーグに向き直る。

「ズーグ、そういう訳だが、心の準備は良いか?」

「準備はあまり……ですが、お願いします」

いきなりだが、もしかすると才能の器の事を知っているズーグには薄々分かっていたのかもしれない。少し不安は感じているようだが、彼は俺の問いに決然と頷いた。

「よし。……じゃあトビーは悪いが、荷物から手拭いを幾つか持ってきてくれ。シータは師匠に聞いて水の入る桶か何かを。師匠、汚れても良い椅子はありますか? ズーグは俺と応接用の机とソファをどかすぞ、邪魔になるからな」

俺が一気に指示を出し、各々行動を開始する。

欠損部位の治癒魔法がどのような結果をもたらすのかは、流石に予備知識にも無い事だ。

肉を突き破って骨が生えるかもしれず、俺は血が出ても良いように、広く場所を取って椅子を置き、汚れを拭くための手拭いや水を用意する事にしたのだ。

そして十分ほどで準備が完了する。

俺は丸椅子の上に腰かけたズーグの右側に立った。

俺がひとつ深呼吸をすると、部屋の中に緊張が満ちる。

コンディションは問題無し。

つい一時間くらい前に目覚めたところだが、体はもとより意識もはっきりしている。

精神状態も魂の位階の上昇の効果か、非常に落ち着いていると言っていいだろう。

高位の呪文の組み合わせ、それに加えて苦痛を減らす身体・精神系バフやクリアマインドと、行使する術はかなり高度になるが緊張は僅かばかりだ。

と言うか周囲の緊張の方が強くて少し笑ってしまいそうだ。

「じゃあ、行きます」

体を巡る魔力に意識を向け、俺は宣言して身体欠損治癒の術式を開始した。

「 精神防壁(マインドプロテクション) 、 身体増強(フィジカルアップ) 、 魔法抵抗(レジストマジック) 、 防護(プロテクション) 、 魔法防護(マナプロテクション) 」

俺はズーグの対面からやや右腕側にずれた辺りに立ち、彼の頭に右手を当てて、バフを掛ける。

今回は呪いのような魔法的敵性存在が居る訳ではないので、レジストマジックやプロテクション系は無駄となる可能性もある。しかし治癒魔法に干渉しない事は分かっているので、意味は無くともとりあえず使ってみる事にしたのだ。

「 明晰(クリアマインド) 」

次はクリアマインド。

奴隷館で使用を試みてからというもの麻酔代わりに多用している魔法だが、この魔法は第二思考で維持する必要がある。なぜならこれから使うのが本番、欠損治癒のメインとなる魔法だからだ。

以前は最初から第二以降の思考を使う事などできなかったが、神威にやられて第二以下でしか物事を考えられなくなっていた時期の経験が生きたのだろう。

俺は第二思考でクリアマインドを維持する事に成功する。

「…… 魂回復(ソウルヒーリング) 、 再生(リジェネレーション) 」

そしてズーグの右肩に左手を添えて呪文を唱えると、予想通り途端に負荷が増大した。

辛さにうめく暇すらないほどの情報量に思考が圧迫される。

が、俺はこれもクリアした。

レベル上昇によって精神力が大きく強化されたのか、前では考えられない強大な魔法の行使にも何とか思考から魔法が逸脱せずに済んでいる。

これまでもそうだったが、自分の思考能力を超えて魔法を使おうとすると、だんだん魔法が制御から外れてくるのだ。射撃魔法で例えると分かりやすいが、まっすぐ飛ぶはずの魔法が発射の段階で方向が逸れてしまうのである。

そうならないという事は、魔法を制御下に置けているという事であり、すなわち魔法が十全な効果を発揮できるという事なのである。

「ぐっ、ぐううう……」

魔法の光に包まれたズーグが少しして呻き声を上げ始める。

そしてバリッと音が鳴ったかと思うと、彼の右腕から鮮血が 迸(ほとばし) った。

縫合された傷口が開いたのだろう。彼の腕の先端では、赤く濡れた肉が再生に伴って蠢く。

そして同時に、クリアマインドを掛けている右手の方でも反応があった。

ズーグの潰れた目が開き、その眼窩からドロリとした血と体液が混ざったようなものが流れ出てきたのだ。

目の再生は別個に行うつもりだった俺は、リジェネの予想外の効果範囲に若干の動揺を覚えた。

術が不安定になりかけるが、精神力を込めて何とか耐え抜く。

……危ないところだったが、なんとか乗り切ることができたか。

魔法の行使に苦心しながらも、再生は続いていく。

リジェネの効果によるものか腕も目も出血はすぐに止まったようだが、血に 塗(まみ) れ肉が再生する 様(さま) は酷く痛々しく、見ていて気持ちの良いものではない。

シータが口に手を当てて悲鳴を抑えているのが視界の端に見えた。

そらそんな反応にもなるわな。

第三くらいの下位の思考では相変わらずそんな下らない感想が浮かんだ。

しかし……ズーグが声を上げるほどの痛みがあるという事は、クリアマインドにスペルエンハンスかエクステンドマジックを重ねるべきだったか。

悔やんでも仕方ないが、ここから追加の魔法は流石の俺にもしんどいものがあるので、申し訳ないがズーグには耐えてもらうしかない。

「ぐがああああ……!」

辛い術式の維持は、俺の主観ではまるで状況の膠着や停滞のように感じられたが、再生は間違いなく進んでいる。

そしてとうとう、ズーグの眼窩には眼球らしきものが見え始め、肘の関節が形作られ始めた。

その頃にはズーグの痛みも佳境に差し掛かったのか、彼は呻き声ではなく咆哮に近い声をあげていた。

「もう、少しだ……!」

少ない思考力で言葉をひねり出し声を掛ける。

すると目が合った彼は眉間にしわを寄せながら口元に笑みを浮かべ……痛みを噛み殺した。

「……ぐうっ……ぅぅ……」

すげえなこいつ。

ミチミチペキペキ言いながら伸びる肉と骨は、見てるだけで死ぬほど痛そうなんだが。

歴戦の戦士は伊達じゃないという事だな。

そして瞳が見え、手首と掌が再生し、最後に指が五本とも揃って、

「術式……終了……」

盛大な溜息と共に俺がそう宣言し、とうとうズーグの目と右腕が再生したのであった。

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「あー、つっかれたー!」

俺は水で絞った手拭いをシータから受け取り、付着した血を拭い取った後、外聞も無くソファにダイブした。

うーん、と伸びをして集中した後にありがちな凝りを解す。

ズーグを見ればあ〇たのジョーのラストシーンみたいな感じで椅子に座っている。

ホントお疲れさんだな。

俺より絶対あいつの方がしんどかっただろう。

その後、ひとしきり弛緩して俺が体を起こす頃には、トビーとシータが掃除と片付けを済ませてくれていた。

俺が寝転がっていたソファだけがそのままだったので、それを動かして元の状態に戻す。

「お疲れさん、ズーグ」

「旦那……ありがとうございます」

ズーグは丸椅子が片付けられる時に立って脇にどいていたのだが、俺が声を掛けると感無量といった感じで右手を差し出してきた。

俺は何も言わず手を取り握手する。

その手はズーグらしくない、戦士の傷跡も無く年齢を感じさせる皴も鱗も無いものだ。

俺は彼と視線を交わし、右目の再生も確認する。

それらは紛れもなく、俺が無から再生させたものである。

身体欠損治癒の魔法は、欠損後時間が経過し状態が定着した部位を回復させるものだ。欠損状態の定常化は魂の欠損にも繋がるため、その回復には魂魄魔法「 魂回復(ソウルヒーリング) 」が必要になるのである。

俺は魂の「目」と「腕」に当たる部分を再生し、それに合致した肉体を再生させたという訳だ。

改めて考えてみても、相当な事だと思う。

元の世界でも(再生医療とかは確立され始めていたが)不可能な治療を、俺自身の手で成功させたのである。

俺の方こそ感無量だった。

相手が初期から一緒のズーグだから余計だな。

ずっと片腕片目だった彼はこれで万全になり、探索も大きく進捗するだろう。

一区切りついた、と俺が感じてしまうのも無理はないほどの結果が得られた。

それは間違いないはずである。

「完全体ズーグ復活だな」

「ええ、この右腕で、これまで以上に役に立ってみせますよ」

そう言ってぐっと握り返される新品の手、そして視線から、俺は今まで以上の力強さと頼もしさを感じるのであった。