軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17 門番

朝起きて、まずはお祈り……ってか頭いてぇ。

昨日は少し飲み過ぎたか。

何となく一区切りと思って羽目を外したんだが。

まあブルーデビル五体との戦いは、俺の持つ数々のスキルがちゃんと役割を果たした事で勝てたってのがあるからな。自分の能力を上手く引き出した故の勝利って感じで嬉しかったんだ。

それに対して、ちょっとくらい祝杯じみた事をしても罰は当たらないだろう。

とは言え久方ぶりの二日酔いはキツイものがある。

ギールさんに何か二日酔いに効くものでも……ああいや、先に試すべきものがあるな。

「 治癒(キュア) 」

解毒に使う魔法である。やはりアルデヒドは毒扱いなのか、結構楽になった。

何度か掛ければ問題無くなるだろう。

ファンタジー様様だ。

で、朝飯を食べ終えて(ズーグは平然としていた)、探索者組合である。

今日はバーランドさんの話を聞く予定で、マルティナさんに話をすれば訓練場の方に居るとの事。

最近軍の方に出向していてあんまり居なかったから、彼に会う事自体久々である。

「こんちはー」

「おう、リョウか。よく来た」

訓練場は組合の建物の裏手にあり、運動場みたいに土の地面が露出している。迷宮区画だとどこでも地面は土なのであれだが、ちゃんと整備され石畳が主な都市区画では珍しい場所なのである。

「あ、久しぶり」

そこにはバーランドさんだけではなく、魔術学園卒業生の三人組(リーダーのフレッド、元農家のロラン、商家の娘セラ)が居た。

「あれ、なんでいるんだ?」

「なんでって、訓練場なんだから訓練してもらっているんだよ。地下六階のブルーデビル、と言えば分かるだろう?」

「なるほど、ようく分かった」

地下六階は魔法耐性のある魔物が多めな階ではあるが、ブルーデビルの厄介さはその中でも際立っている。恐らく俺と同じようにヤツの近接戦闘力と魔法耐性に苦しめられた彼らは、近接技能を鍛えるためにバーランドさんに訓練してもらっているという事だろう。

まあ俺の場合もズーグが居るから戦いになってるだけで、ソロだったとしたら相当苦戦するだろう。と言うかその場合はそもそも地下五階で戦うのもやっと、って感じになるだろうけどな。

ズーグと役割分担できていると言えば聞こえは良いが、俺もこうして近接技能を訓練する時が来るのかもしれない。

「リョウが来たんなら、説明始めっか。お前らも七階より下に行くって言ってたし、聞くだろ?」

師範の言葉にフレッド達が三者三様頷き返す。

俺達は邪魔にならないように訓練場の端へ移動して、バーランドさんの説明が始まった。

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「まず確認だが、お前ら触りの部分でも七階は見に行ったか?」

「いや、まだ降りてすらいないです」

フレッドたちも首を振っている。

「そうか。……見てりゃすぐ分かんだが、七階からは尋常じゃないくらい一つの階が広くなる。天井は数倍の高さで、内部を歩き回るだけで丸一日くらいは掛かるんだ」

「そりゃまた極端な」

迷宮の広さは、具体的な例を挙げるとすれば一、二階はでかいアウトレットモール、ただ歩いて一周すると十分~十五分くらいの広さである。三階以降は町内くらいか? 歩いて一周なら一時間くらいで回れる広さという印象だ。

それが急に丸一日掛かるようになると言うのだから驚きである。丸一日を人間の活動時間全部と考えても十倍以上の広さになっている計算である。

「他の迷宮だと十階以上から現れる特徴なんだがな。まあそれくらいになってくると挑戦者も少ないしあんまり知られてないんだが。……とにかく、めちゃめちゃ広くなるってだけで問題が発生する。何かわかるか?」

「水、食料……後は排泄ですね」

答えたのはフレッドだ。

間違いではなかったのか、師範が頷きを返す。

「そうだ。それらをどう準備するかは探索者によって違う事もあるから自分で調べてほしいが、少なくともそのどれもが非常に荷物になると言う事だ」

そして荷物が増えれば戦闘に支障が出る。しかし減らせば満足な探索ができない。

そういう問題が今後はついて回るという事だな。

「お前らは奇しくもこのマイトリス迷宮の探索者の中じゃ、チームメンバーが少ない方だよな。今は問題無いだろうが、今後はそうはいかねえってこった。俺の経験じゃ戦闘要員とは別に荷物持ちが絶対に必要になってくる。分担持ちでもある程度までは行けるが……結局近接戦闘の邪魔になるしな。お前ら魔法使いが居るからなんか方法があるのかも知れんが、新しいメンバー加入も視野に入れとけよ」

「分かりました」

「了解です」

バーランド師範がどうやってこの問題を解決していたかについて聞いてみると、やはり 荷役(ポーター) をチームに置いていたらしい。

八階突破当時はポーター併せて五人パーティだったらしいが、ほぼ全部の荷物をポーターが持ち、弓兵と魔法使いが残りを分担していた様だ。

相当ポーターに負担が掛かっているように思えるが、そこはファンタジーだ。

重量軽減の魔法が掛かったマジックバッグと言う魔道具があるらしい。

理力魔法にもテレキネシスと言う物体操作系の魔法があるので、それ関連かもしれないな。

ただ、ゲームや小説で見かけるようなインベントリ、アイテムバッグ、ストレージ、何でも良いがそういう容量を増やすものは無いらしい。いや一応存在はしているが国宝扱いで、軍事行動等で使われた記録があるくらいとの事である。

「次に地下八階の話だな。……ここには 門番(ゲートキーパー) と言うヤツがいる」

続くバーランド師範の話は八階に居る「壁」に関してのものだった。

なんでも知能を持ち言葉を話す固有の個体で、自分で門番を名乗っているらしい。

「門番って言うくらいだからその先にも迷宮は続いているんだろうが、実はマイトリス迷宮以外では門番が出現した以降の階は探索されていない。第一迷宮なら十六階、第二迷宮なら十二階だな」

ゲートキーパーはどの迷宮でも探索の壁になっている訳だ。

マイトリス迷宮ではそれが八階に居るんだから、真に厄介である。

「国もこれはヤベえと思ったんだろうな。資源回収量が減るのも、それによって探索者たちが得る収入が減るのも経済的にはそこそこ打撃になるらしい。それで、五年位前に討伐のための特別チームが組まれたんだ」

「バーランド師範はそれに参加したんですよね」

フレッドが聞くとバーランドさんは苦笑しながら頷いた。

「まあな。そろそろ引退しようかって時だったんだが……まあ俺はこの街出身だし、剣の腕を買われてな。探索者組合にも世話になったし、最後の奉公も良いかと思って参加したんだよ」

そういう事らしい。

ちなみにバーランドさん以外のメンツも 錚々(そうそう) たる顔ぶれで、第一、第二迷宮で活躍していた戦士、弓使い、魔法使いが一人ずつ招集されたようだ。

マイトリスからは師範と荷役の人だけなので、半分以上は外部の人間で構成されたチームだったんだな。

「ドリームチームって事もあって、多少苦労はしたがゲートキーパーは突破したんだ。けどそこから先に広がる迷宮は別に資源がざっくざく、なんて事も無く、例えば第一迷宮の九階と同じくらいの様子だったんだよな」

それで、その後マイトリスは迷宮都市として少し国から見放され気味なのだと言う。これは余談だとバーランドさんは言っていたが、割と重要な情報だ。

「ゲートキーパーは倒したんですよね? でもまだ八階が壁になってるのは、何故なんですか?」

答えは分かり切ってるようなものだが一応聞いてみる。

そして返ってきた回答は、やはりと言うべき内容だった。

曰く、マイトリス迷宮の門番である白竜は数日で復活するらしい。

知能があるので一度突破した人間は素通りさせてくれるようだが、それには荷役も含まれる。探索者を荷役にして門番の所を通過させ、以降の階を探索させる、みたいな抜け道は無いという事だ。

また基本的に再戦はさせてもらえず、白竜自身も倒したからと言って特別大量の魔石が手に入る存在ではない。

一応師範達とは別に精鋭を集め、荷役として大量の探索者を引き連れてゲートキーパーを突破する、と言う案も検討されたらしい。しかし探索者は時が経てば引退していく訳だし、そこまでして得られるのが地下九階程度の資源回収量となれば、為政者達が労力を惜しむのも当然なのかもしれないな。

何と言うか、割と詰んでいる、と言うのがしっくりくる。

「後、さらっと流して最後になっちまったが、ゲートキーパーの白竜を倒すのは生半可な事じゃないからな? 考えなしに突っ込むんじゃないぞ?」

バーランド師範のそんな結びで、彼からの説明は終了の運びとなった。

白竜に挑む段になったらまた聞きに来いとの事。

フレッド達はこれからまだ稽古をつけてもらう予定らしいのでそのまま残り、俺達は訓練所から退出する事にしたのであった。

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さて、これからどうするか。

訓練所を出て街をぶらつきながら、俺は今後の事について考えていた。

生半可じゃないぞ、と言ったバーランド師範の言葉が耳に残ってリフレインしている。

それは白竜討伐の事だけではなく、七階、八階、それ以降の迷宮探索に対しても言ったかのように、俺の心に印象付けられていた。

「旦那、これからどうするおつもりですか」

それは今日の話か? それとも七階、八階に関する事か?

ズーグにそう聞くと「どちらもです」と言って黙ってしまった。

俺の返答を待っているのだろうが、俺だって考えあぐねているくらいだ。待たれても答える事はできない。

当ても無く歩を進めながら、しばしの沈黙。

「……とりあえず、今日やろうと思ってた事を片付けていくか。って事で、クロウさんの所に向かおう」

やっとの事で踏ん切りがついて、俺は一つ息を吐き踵を返す。

クロウさんの奴隷館は一つ前の筋を曲がらないといけないからな。

「クロウの所ですか。用件は何です?」

「ああ、お前とは関係ない事なんだが、ちょっと金稼ぎにな。それと訓練にもなると思ってる」

想像が付かなかったか、ズーグは首を傾げた。

その後俺は奴隷館でやろうと思っている事について、簡単に説明を行った。

要するに、俺が考えているのはクロウさんの抱えている奴隷の治療をしようという事だ。

売り物だから小奇麗にはしているだろうが、買い付けた直後とか怪我や衰弱をしているかもしれない。俺が治療をすると言えば、クロウさんの方も怪我をした奴隷を買い叩き易いだろうしお互い得するんじゃないかと考えたのだ。

後は怪我の治療について数を熟せれば訓練になるのではという考えもある。ズーグが加入してからも先手先手で数を減らす戦いをしているので、そこまで回復魔法を使う機会が無いんだよな。神聖魔法はほとんどバフにしか使ってないので、レベル上昇がややゆっくりなのはそれが理由なのかもと考えている。

まあ、都合良く怪我した奴隷が居るのかは分からないんだが。

とりあえず行って話をしてみて、当たりを付ければ彼の方から用意してくれるかもしれない。身体欠損治癒術の訓練のためと言えば無下に扱われる事も無いだろう。

そういう打算もあって、俺は奴隷館に行く事にしたのだ。

今日行こうと思ったのはバーランド師範の話で午前中がつぶれる事を見越しての事である。

「今後の話については、そこから帰ってきてからにしよう。お前の意見も聞きたいし」

「戦いの事ならいざしらず、旦那の意見なら俺は反対などしませんが」

「話してみて誰かの承認が欲しい時だってあるんだよ。それに戦いの事も含まれるから、ちゃんと考えてくれよ」

「承知しました、覚悟しておきます」

何をだ、とは思ったが、突っ込むのは止めた。

今もこれからどうするか頭の中で考え続けているし、並列思考スキルがあっても余計な事に脳力を割きたくないのだ。

いつもとは違い、俺達は雑談も無しにクロウの奴隷館へと向かったのであった。