軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11 奴隷館

奴隷を買う決心をしてからおよそ二週間が経った。

現在のレベルはこんな感じだ。

【ステータス画面】

名前:サイトウ・リョウ

年齢:25

性別:男

職業:才能の器(29)

スキル:斥候(4)、片手武器(3)、理力魔法(4)、鑑定(5)、神聖魔法(3)、魂魄魔法(3)、看破(5)、体術(2)(SP残0)

看破のレベルが5になり、新たに体術スキルを取得した。

鑑定と同じくいとも簡単に看破のレベルが上がったのは、ステータス画面を併用した恩恵だろう。

体術は凹凸のある地面でちょくちょくすっ転ぶのが中々改善されなかったので取得した。レベルはまだ2だが効果は上々。ついでにアイスバットの礫の回避率も上がっている。

次に、頭打ちだった理力魔法と斥候のレベルが4になった。

看破によって一人前のレベルが大体5~6(魔術学園卒業生でも理力魔法4~5)だったので、大体それに一歩譲るくらいの技量は得たという事だ。

頭打ちとか何だとか考察していたが、普通に考えるとまだ三か月くらいなんだよな。

それを考えると異様に習得が早いと言える。

これはやはり才能の器の恩恵によるものなんだろう。

促成栽培な訳だし、あまり調子に乗らないように気を付けないとな。

ちなみに理力魔法レベル4では「 鎧強化(アーマープロテクション) 」「 盾強化(シールドプロテクション) 」「 魔法誘導(ホーミングマジック) 」「 魔法拡大(エクステンドマジック) 」「 炎槍(フレイムランス) 」が習得できた。

相も変わらず理力魔法だけやたら覚える魔法の数が多い。恐らく理力魔法の総数自体が他と比べて多いとかそういう理由だろう。

それより初期に考えていた魔法をホーミングするための魔法がついに登場した。俺の予想は合っていたという事である。

後エクステンドマジックは拡大と銘打っているが、アイスランスで試したところ、氷槍を巨大化する事も複数化する事もできる非常に融通の利くものだった。ある程度の威力がある魔法は今の俺では並列処理できなかったので、火力増大に貢献する魔法である。

各種プロテクションは地味な感じだが多重補助の追加になるので役には立つだろう。フレイムランスはアイスランスの互換のような威力だが、貫通した後に爆発すると恐ろしく威力が上がるので相手によっては非常に有効な魔法になると考えられる。

……さて、こうした成長を得ながらも、二週間の探索で俺の貯金は約一万ゴルドになっている。一ゴルド大体十円くらいなので、十万円程の貯金を作った事になる訳だ。

無一文スタートである事を考えると、頑張ったと言って良いんではないだろうか。俺の場合、ソロ探索で収入を独占している訳だし、そもそも危険労働だからそんな凄い訳ではないかもしれないが。

とにかく、まとまったと言えばまとまったお金が貯まったという事だ。

なので俺はとうとう奴隷商の所に赴く事にしたのである。

人生捧げた終身奴隷を十万程度で買えるとは露程も思っていないが、金額を確認するくらいはしてもいいだろう。

もちろん買えるなら買うし。

「確かこっち……だよな。だんだん人通りが減ってきたんだが……」

マルティナさんに書いてもらった地図をもとに進んでいるが、明らかに裏通りに入っていくルートである。あまり褒められた商売でもないので当然と言えば当然だが、現実に直面すると少し気後れが生じてくる。

「……」

都市区画にはスラムみたいなアウトローな場所は存在しない。

道はちゃんと整備されており、立ち並ぶ建物も小奇麗だ。

しかし道幅が狭くなり、やや薄暗い雰囲気が濃くなってきて、更に人通りがほぼ皆無となるとちょっと不気味な感じだ。

「ここ、か……?」

そして幾つかの曲がり角を経て、俺は奴隷商の店へと辿り着いた。

入口周りや扉の様子は高級感があって微妙に入りづらい。

しかし虎穴に入らざればと意を決して、扉を開く。

「た、たのもー」

我ながら、何を言っとるんだ俺は。

自身の発言にそんな感想を抱いたのも束の間、応じて動く気配がある。

「いらっしゃいませ。ようこそマンチェスター商会へ」

奥から現れたのは白いブラウスに黒のベスト、黒のスラックスと言ったいでたちの、執事っぽい口髭を蓄えた壮年の男であった。

「当商会の窓口を務めさせていただいております、ハンスと申します。お見知り置きを」

「リョウです。よろしく」

自己紹介と共に一礼され、商談の気配に元の世界での事を思い出して背筋が伸びる。名刺は無いので手を差し出し、俺はハンスと名乗る男性と握手を交わした。

「それで本日はどういったご用件で?」

「奴隷を……終身奴隷を購入しようと思いまして」

「左様でございますか。幸い本日は夕刻まで商談がございません。時間まででよろしければ商品をご紹介させていただきましょう」

これはつまり、普通は門前払いと言う事か。

まあ奴隷商とか考えてみたらノーアポで来るような所じゃないよな。

奴隷商だけやってる訳じゃないだろうし、元の世界で言えば大企業のような場所のはずだ。

って言うかマルティナさんに紹介された時そんな事何も言われなかったんだけど?

俺もしかして意地悪されてる? ……いや、知ってると思われてたのか。

「急で申し訳ありません。では時間まで奴隷を見させていただいても?」

マルティナさんへの疑心に囚われかけつつも、俺はハンス氏にそう返答した。

彼は一つ頷いて「ではこちらへ」と案内を始めた。

通された部屋には背の低い机が一つと、それを挟むように二人掛けのソファーが二つ。たぶん応接室だろう。そこに座るよう促され、再びハンス氏が口を開いた。

「それでは、ひとまずお客様のご要望と予算をお伺いいたしましょう。その後、条件に近い商品をこの部屋に連れて参ります」

「分かりました。ではまず要望から……」

俺は考えていた奴隷の条件をハンスに伝えた。

必須の条件は「戦える状態にある」の一点のみである。

種族や性別はもちろん、技能や体格は全く不問。あればそれに越した事は無いが、どちらかと言えばネックは予算だろう。条件を全く付けない場合の終身奴隷の値段を知りたいと言うのが本音のところである。

「恥ずかしながら、と言うよりも既にお気付きとは思いますが、手持ちの予算はそれほど多くはありません。ですが私は探索者として、今後メンバーに奴隷を据えるつもりでいます。購入は恐らく先の話になりますが、貯蓄の目安を立てるためにもいくつか奴隷を紹介いただけませんか?」

「なるほど……」

ハンスは口髭を触りながら、値踏みするような視線をこちらに向ける。

探索者は底辺職ではあるが、一山当てて短期でがっぽり儲けるには最適の職業だ。

俺がその「一山当てられる」探索者であるかを知りたいのだろう。

次に彼が発した言葉もそれに即したものであった。

「探索者の方が奴隷を必要とするのはあまり聞く話ではございませんが、必要とされたからには何か事情がおありなのでしょう。そこは当方も詮索はいたしません。ですが、貴方が今後商談をできる相手であるか、証明する事はできますか? 差し支えなければ探索者としての技能などご教示いただければと思うのですが……」

探索者の技能の内容は、メシのタネである。

実績を積んだ、有名になった探索者であれば公表して実績により箔をつけると言う事もあるかもしれないが、基本は公表しない(したがらない)ものだ。

それを配慮してハンスさんは遠慮がちに言っているが、特に実績も何も無い俺にとってはそれくらいしか「商談できる相手」であると証明する手段が無いのも事実。才能の器の事があるので公表には多少の恐怖があるが、ここらで俺の技能構成について普通の人の感想を聞いておくのも良いかもしれない。

しかし……スキルレベルが云々とか言っても理解できる訳が無いし、どう伝えるかは悩むところだな。

さて……。

「えー、そうですね。私の技能ですが……まず見て分かるように剣を扱えます。これはある程度ですが。そして単独で迷宮探索をするために斥候技能も習得しました」

「なるほど」

習得しました、とか言ってるが、俺の場合ステータス画面で選んでそれっぽい感じで使ってるだけだ。スキルに関連する行動を通じて、技能の習得を確認してるに過ぎない。

なので普通に鍛錬して習得しているこの世界の人に向かって言うのはちょっと恥ずかしいな。

とりあえず、鑑定と看破はステータス画面とかが関係して説明がしづらいのでパス。体術も具体的に何に当たる技術なのか分からないので説明は無しだ。

魔法技能を伝えて、最終的に五つの技能を習得していると言う事で話を終える事にしよう。

「後は理力魔法、神聖魔法、魂魄魔法をある程度……と言ったところです」

「は? 魔法技能を……三つですか?」

「はい」

「全部使えると?」

「そうです」

あれ、この反応は……?

もしかして俺、またなんかやっちゃいました、ってやつか?

「それを証明できますか? ああいえ、一つ聞きましょう。貴方は身体欠損を治癒できますか?」

身体欠損の治癒か。魔法技能との関係は知らないが、予備知識には……あるな。

どうやら高ランクの神聖魔法と魂魄魔法が扱えるとできるらしい。

普通は神聖魔法使いと魂魄魔法使いが協力して行う事なのだとか。

……なるほど、それでこの質問と言う訳か。

彼の反応を見るに、どうやら神聖魔法と魂魄魔法(とついでに言えば理力魔法)を同時に扱えるのは貴重らしい。

ハンスさんの目の色も変わったし、ここで少しはったりを利かせてみるか。

この商談の流れも変わるかもしれない。

「今の私では不可能です。ですが適性がある事は分かっていますし、いずれできるようにはなってみせますよ」

「ふうむ、ですが言葉だけでは何とも……。実践で証明してもらう事は?」

「 精神撃(ショック) と 超力(フォース) は使えますので、体験してみますか?」

「い、いえ、それには及びません。奴隷を連れてきましょう。怪我をしている者も居るので……」

信用してなさそうだったので冗談のつもりで言ってみたら、ハンスさんはさっと表情を変えて素早く退散していった。

そんなビビらせるつもりは無かったんだが、失敗したかもしれない。

そんな事を考えながら少し待っていると、ハンスさんが人を連れて戻ってきた。

一人は一目で高級と分かるスーツっぽい服を着た男性である。

誰だろうか。

「お待たせいたしました、お客様」

「貴方は?」

「当商会の代表を務めております、クロウと申します。お見知り置きを」

「リョウです。よろしく」

代表かよ。

突然話が大きくなったが、この件はそこまで重要な事なのか。

「ハンスが自身の手には負えぬと情けない事を申しますので伺った次第です。……聞けば魔法技能を三つ扱えるとか。それが本当なら、こちらのズーグで試してもらってもよろしいですか?」

クロウ氏が示した先には、竜の頭をした亜人がむっつりと立っている。いや、竜頭の表情とか読み取れないけど。

予備知識によれば、竜頭の亜人は竜人と呼ばれる少数種族で、特に国家を持たず所属もせず、水辺に集落を作って生活しているらしい。

この奴隷の竜人は、二メートル近い長身と筋肉の盛り上がった見事な体格をしていた。

容姿の美醜は流石に判断はつかないが、見るからに戦士と言った風貌である。

ただ、彼は右腕が欠損していた。右目も刀傷で潰れている。

戦士の勲章とも言うべき傷なのかもしれないが、このボロボロの彼に魔法を使えと言うのか。

「旦那、俺の事は気にしなくてもいい。痛みには慣れているし、他の者が実験台になる方が余程酷と言うものだ」

俺が躊躇していると、竜人がそう言った。

見抜かれたか。

しかし他人の盾になろうとは、かっこいいやつだな。

「じゃあ、俺はこれからあんたに 麻痺(パラライズ) と、後はヒールをかけよう。効果は分かりやすい方が良いだろうしな」

「分かった。ではクロウ、俺の腕にナイフで傷をつけろ」

「ああ」

奴隷商会の代表クロウとその奴隷ズーグだが、何か知り合いみたいな雰囲気だな。お互いの事をよく知っている、みたいな。

まあいいか。とりあえずいきなりだったが、俺はそれぞれの魔法を発動させる。

過(あやま) たず魔法は効果を発揮し、パラライズは短時間の痺れを、ヒールは傷の回復をズーグにもたらした。

「本当に……扱えるのか……」

クロウ氏が呆然とした様子で感想を漏らす。

この反応を見ると、魔法技能を三種全て扱えると言うのは相当な事のようだ。

俺はこれに対してどう反応すべきか。

全く知らないていで行くか、それとも知ってたけど知らない振りしてましたという感じで行くか……。

「これで証明できたという事でいいですか? クロウさん」

「ええ。平然としてらっしゃいますが、貴方はどうやら自身の価値に気付かれていないらしい」

「自分の才能の事はよく知っていますよ。奴隷商にとってそこまで価値があるとは、寡聞にして知りませんでしたが」

とりあえずこのくらいで。

下手に何でも知ってます感だして色々面倒になるのは嫌だからな。

「まあ、そうでしょう。それも併せて少しお話ししましょう。……ズーグは一旦下がれ。ハンスはズーグを戻した後、お茶を用意してくれ」

「承知いたしました」

ズーグとハンスが退出し、俺はクロウさんの話を聞く事になった。