軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4(3)-11

大通りはひどいありさまだった。

「ふざけるな! なにが自警団だ! 後からきてでかい面しやがって!!」

「レルリヒ家の後援のある我らこそが正当だ! ガキのままごとは家でやってろ!」

「うるせえ! 町をめちゃめちゃにしてるのはお前らだ!」

「娯楽なんぞに傾倒した、有害な連中を排除したまで! これこそ真の自警だろうが!」

血気盛んな若者たちと、知より武を選んだ手の早い男たち。二つの自警団がぶつかれば、こうなるのも必然だったのかもしれない。

カミラが大通りへ飛び出たときには、すでにどちらがどちらの自警団ともわからない惨状だった。自警団同士が入り乱れ、声を荒げて殴り合う。周囲の屋台は巻き込まれ、傾ぎ、倒壊しているものまである。料理人たちはほとんど逃げているようだが、中には一緒になって殴り合う、これまた血の気の多い者もちらほら見えた。

「や、やめなさい! やめなさい!!」

カミラが声を張り上げても、大通りの喧騒は止む気配がない。そもそもこの騒ぎの中で、カミラの声が誰かに届いているのだろうか。誰も彼も、カミラの叫びに目を向けることさえない。

叫びながらも周囲を見回せば、不自然に壊れた屋台が見えた。おそらく、もともとはフランツの自警団の方が、屋台を壊していたのだろう。若者たちの自警団は、それを止めようとしていたに違いない。

だが、今となってはどちらも壊して回るばかりだ。店のために用意した看板が割れ、鍋がゆがみ、器が割れる。花が踏みにじられるさまに、カミラは頭の奥が熱くなった。

――なにが、『警備の心当たりができた』よ!

今後、二度とクラウスの言葉を信用するまい。

腹立たしさに頭を掻き、クラウスへの恨みを込め、カミラは荒く息を吐く。それからぎゅっと目を閉じ、頭を振った。

声も届かないこの惨状。もはやカミラ一人の力ではどうすることもできない。止めに入ったところで、非力なカミラでは弾き飛ばされるだけだろう。

――任せるって言われたのに。解決するように頼まれたのに。

カミラには、この場を収める方法がなにも浮かばない。味方の一人もいない今のカミラは、ひどく無力だった。

――アロイス様……。

成功させると言ったのに。楽しいものにすると誓ったのに。

なにもかも、もうめちゃくちゃになってしまった。視線を伏せれば、悔しさがこみ上げる。唇を噛み、両手を握りしめ、カミラは顔をしかめた。

「ぐ……」

噛みしめた口の奥から、声が漏れ出る。押し殺した声は、弱気な泣き声にも似ていた。

「ぐぐぐ……」

地面を踏む足に力がこもる。力を入れないと、その場に崩れ落ちてしまいそうだった。

楽しみにしていた。楽しいと思わせたかった。そのためにずっと準備をしてきた。それさえも楽しかったのに、結末はあまりにも呆気ないものだった。

心が折れてしまいそうだった。

地面を睨み、息を吐き、カミラは息を吸う。

それから、涙の代わりに思い切り吐き出した。

「ぐう、く、く……悔しい――――!」

叫ぶカミラの言葉など、誰に聞こえているわけでもない。けっこう。カミラは誰かに聞かせているわけではない。

「諦めないわよ! 人手! アロイス様は! ヴィクトルたちは!?」

いない。見渡す限りどこにもいない。

アロイスやヴィクトルなら、カミラの言葉を聞くだろう。まずは人を増やして、あとは――暴れまわる連中に、水でも被せていこう。もしかしたらアロイスたちもこの騒動に巻き込まれ、痛い目にあっているかもしれない。それならそれで、助け出す必要もあるだろう。

一人空地に残ったクラウスも心配だが、まずはとにかく目の前のことだ。

ぱちんと自分の頬を叩くと、カミラは見知った顔を探し、大通りを駆けだした。

ヴィクトルが好きだった。

ヴィクトルの幸せを願っていた。嘘ではない。

ヴィクトルが自分を選ばなくても、彼が幸せであれば構わなかった。済ました顔で「おめでとう」と言える、格好良い自分を誇っていた。

でも、ミアが相手ならば、ヴィクトルは幸せになれないかもしれない。

ミアは貧乏な職人の娘だ。育ちが悪く、教養もなく、口ぶりも男みたいに素っ気ない。職人たちは品がないと、もっぱらの評判でもあった。

ヴィクトルの家柄であれば、もっと裕福な家の娘が似合いだろう。その方が、互いの家にとっても幸福だ。裕福であれば家同士で助け合えるし、縁も広がる。商家の息子であるヴィクトルならなおさら。縁はそれだけ価値がある。

ヴィクトルの幸せを願っていた。

だからこれは、ヴィクトルのため。

お前は正しい。

お前はなにも悪くないと、自警団の人たちはみんな、フェアラートに言ってくれた。

広場に作り上げられた、楽団のための小さな舞台。

花よりも鮮やかに舞台を飾るのは、引き裂かれた真っ赤なドレスだ。

ドラムの膜は破られ、スティックは折られている。フルートとオーボエを折るのは難儀した。鉄でできたその二つは、広場の段差に叩きつけ、どうにかこうにか傷がつく程度。だが、キーがいくつか飛んだおかげで、まともに吹くのはもう難しい。

後はバイオリンだけだった。

木製のバイオリンを、叩き折るのは難しくない。女の力でも、地面に叩きつければ簡単に壊すことができる。

これで最後と振り上げて、振り上げて――振り上げたまま下せないでいるうちに、ヴィクトルたちが駆けつけてきた。

「フェアラート! やめてくれ!」

ヴィクトルの叫び声に、思わず手が止まる。だが、そのすぐ横にミアがいるのを見つけてしまった。

「どうしてこんなことをしたんだ!」

嘆くような悲鳴に、フェアラートは顔をゆがめた。どうして。理由は簡単。すべてヴィクトルのためだ。

笑うように息を吐くと、やっと決意が固まった。フェアラートはいっそ穏やかな気持ちで、振り上げたままだったバイオリンを振り下ろし――――。

「やめなさい!」

バイオリンが地面にあたるよりも先に、ヴィクトルの声よりもずっと近くで、鋭い女の怒声を聞いた。

同時に、体が強い衝撃を受ける。

女の体当たりを喰らい、地面に転がされたのだと、少し遅れて気がついた。自分の体に馬乗りになるその女に、フェアラートは覚えがある。

きつい目つきに険しい顔つき。高圧的な視線をフェアラートに寄越すのは、誰もが知っている悪役女――――カミラだ。