軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エピローグ:10年目の日常と7年目の恋心

タルーセルによる 最高級娼館(アラビアンナイト) 、聖王都ギルド、王城襲撃及び国王暗殺の報は俺達が寝て起きた頃には聖王都隅々まで知られる事となっていた。

「結局のところ原因は、タルーセル伯爵がネファキュルと共謀して国王の暗殺を目論んだ、という事で落としどころにしたよ。そして、娼館とギルドが襲撃されたのは逆賊を討った金等級冒険者が懇意にしていた場所だからと、王家から発表されたね」

寝起きにギルマスが訪ねてきて、とんでもないことを教えてくれた。

「……それって、著しく俺の名誉が傷ついてません? 特に娼館に通い詰めてる金等級冒険者みたいになってるし……」

俺が少し不満気に言うと、あははと笑うギルマス。

「仕方ないよ、君達……特にお嫁さん二人の素性を隠す事の方が重要なんだから」

それはそうなのだが……まぁ、この街の大半の人は俺の顔を知ってる訳じゃないし良いんだけどさ。

「それで、聞いて無かったんですけど。アラビアンナイトの方の被害は?」

タルーセル襲撃の際にお客さんも居たであろうアラビアンナイト、大旦那とサリアの機転で直ぐに脱出できたのだが、被害がどのくらいになったのか二人もわからないとの事だ。

「そうだね、報告で聞いたのはお客さんと店の護衛に死者が出たのと、タルーセルの目的が娼姫達だったのもあり娼姫達に死者は居ないよ。お店の方は2~3カ月くらい復旧にかかってしまうそうだ」

ギルマスが淡々と告げる、護衛と聞いて顔と名前が浮かぶ。それぞれ俺が鍛えた事もある奴等なので気分が重くなる。

(大旦那の方にも顔を出さないとな……)

あの人の事だ、滅茶苦茶ショックを受けてるだろうし、話せる範囲で色々と事情を話さないといけない。

「ギルドの方は、ネモフィラ君が治療してくれたおかげで肉体的には全員無事なんだけど、受付嬢の何人かが男性に酷い拒否反応を見せるようになっちゃってね。女性の治療士を派遣してもらっている所だよ。だから自由連合にある本部から今人を派遣してもらっている所さ」

ギルドの受付嬢は基本的に見た目も良い子が多く、あのタルーセルが見逃さない訳が無いもんな……。

(男性がトラウマになるって事は、相当に酷いことをされたみたいだな……うーん、様子を見に行きたいけど難しいよな……)

「とまぁ、報告はこんな所かな。あ、そうそう……第一・第二王子が王都に帰って来て、国王様の国葬が終わったら、再度君に褒賞を与えるそうだよ」

「へっ? それって……」

「まぁ、恐らく爵位だろうねぇ……なんせ、王様を暗殺した逆賊を倒して国を救った英雄だからね」

笑いながら軽い足取りで出て行ったギルマス、これから本部に出向くらしい。

「爵位かぁ……参ったなぁ……」

「そうですわね……爵位を貰うとなるとどうしても動きが制限されますものね……」

「まぁ、日本に戻れなくても地位が保証されるのは良かったんじゃない?」

いや、一度返すつもりだからね? ちゃんと親御さんと話してもらわないといけないし……。

「まぁ、一代貴族だろうし。正直いらないんだけど……」

(何か代わりになる物があれば良んだけどなぁ……)

暫くは、頭を悩ませそうな事が決まってしまった。

「さて……とりあえずアラビアンナイトに向かうか……片付けも手伝いたいし」

「そうね、私も手伝うわ」

「私は、怪我をしてる人が居れば、治療をしようと思いますわ」

それから身だしなみを整えて娼館へ向けて出発するのだった。

◇◆◇◆

「これは……」

「酷いですね……」

最高級娼館(アラビアンナイト) に着いた俺達目に飛び込んで来たのは大きく拉げた扉と、血があちこちに飛んでいるロビーだった。

「おや、英雄様のお出ましかい?」

瓦礫の影からシテュリ婆さんがひょこっと顔を出す。

「英雄って止めてくれよシテュリ婆さん……」

正直、気が重くなる惨状を目にして、そう茶化されても、返しに困るだけだ。

「はぁ……何か勘違いして無いかい? ここの皆にとってはお前さんは本当の英雄だ。見て見ぃこの散々たる状態を……」

指差すのは荒れに荒れた娼館、いつもの煌びやかな姿とは真反対の姿、よく見ると燃えた部分もある為か煤けている部分もある。

「わかってるさ、俺が護れなかったって事だろ?」

思わず口に出た悪態、それを聞いたシテュリ婆さんは大きく溜め息を吐く。

「違うわい、本当ならば荒らされ、壊され、汚され、尊厳も、命も奪われた。しかも相手は貴族……揉み消されれば復讐の機会も与えられない、そんな憎らしい相手をお前さんが討った……違うか?」

「で、でも俺が居なきゃ……あいでっ!?」

持っていた杖で頭を叩かれた、思ってたより結構痛いんだけど……。

「全く……。それならばお主、今回の件が起きない様に、その嫁二人をあの貴族に差し出しておったか?」

そう言われ振り向く、二人と目を合わせてから向き直る。

「そんな事は絶対にしない、もし手を出してくるなら全力で抵抗したさ」

「そうじゃろ? それに、あの貴族は随分とカトレアにもご執心だった様だしのぉ……お陰であの子以外は大した被害を受けておらんよ」

「えっ……、カト……レア……?」

想定外の名前に自分の声が遠く聞こえる……。

「——っつ!!」

気付けば勝手に足が前に進んでいた。

「なんじゃ、あ奴……。そんな顔するなら、ちゃんと捕まえとけばよいものを……」

「あはは……ウチの旦那様物凄く鈍感ですから……」

「すみませんシテュリお婆様、カトレア様のお怪我、詳しくお聞かせいただいても?」

◇◆◇◆

フラフラと足が前に出る……。

希望を求めるように勝手に進む……。

安心を求めるように、そんなはずはないと思う様に……。

様々な彼女の顔が頭に浮かび、一番多い〝笑顔〟だけが残っていく……。

「あっ、ホウショウさん……」

彼女がいつも使う部屋、その部屋の前には沢山の娼姫達が集まっていた……。

扉に手を掛ける、かける言葉も思いつかないのに、考えようとしている間に扉を開く……。

「あ、ホウショウ……」

「カト……レア……」

ベッドに寝かされた彼女の姿は酷く痛々しくて、微笑んでくれている彼女の顔すら無理をしているとしか思えない……。

「何て顔してるのよ……こっちに来なさいな……」

「あ、あぁ……」

促されるまま室内へ入る、それと同時に皆が扉の前から消える。

「全く、本当に辛気臭い顔してるのねヒヨウ、折角の男前が台無しよ?」

いつもと変わらない、少しからかう様な含みを持ったその声に涙が零れる……。

「はぁ……頭を出しなさいよ……」

彼女の指示に従い、罰を受けようと頭を下げた状態で前に差し出す。

「……はぁ、顔上げなさい顔を」

呆れている様な声に顔を上げると、彼女に引かれ前に倒れる。

それと同時に唇を重ねて来た……。

「——っつ、ぷはぁ! えへへ、してやったり。って、何で泣いてるのよ!?」

「え、あっ……、ごめっ……」

「もう、謝らないの……というか、何に謝ってるのよ?」

頬を膨らませ、不機嫌になる。

「え、いや……俺が原因で君に酷い怪我を……」

「はぁ……それは私が自分で選んだことよ? 娼館の皆を守るために私が選択した事。まぁ、あのあのお客に対しては、普段の仕事も気持ち悪過ぎて。魔法で誤魔化してたからツケが回って来たのよね……」

あはは……と笑うカトレア、仕事の時には見せない少女の様な顔に目が離せない。

「でも、怪我をした事には変わりないじゃ無いか……」

「だーかーらーそれは私の自業自得よ。ヒヨウが悩んだり気にする事じゃないわ。それとも何? 女として働けない娼姫を身請けしようっての?」

いつものようにしな垂れかかって来るカトレア、そんな彼女に向き直りしっかりと頷く。

「…………あぁ、カトレア……君を身請けするよ」

「………………えっ?」

顔を真っ赤にして呆けるカトレア、何か俺変な事言ったかな?

「いやいやいや、お情けならいらないわよ!?」

「いや、その……カトレアが被害に遭ったって聞いて、色んな思いが頭を巡ったんだ、それでその……カトレアが居なくなったら凄く胸が締め付けられるっていうか……嫌な思いがしたんだ」

「…………先に身請けした二人に悪いわよ」

「二人には俺から説明する」

「大旦那には? 私には誓約があるのよ?」

「それは……何とかする」

「全く……ねぇ、私の事好きなの?」

「好きとか言う感情は、よくわからないけど……大事にしたいとは思う……」

「あの二人よりも?」

「それは……」

あの二人の事は大事に思ってるし、だからこそちゃんとしたいと思ってるのは確かだ。それは、カトレアも同じ気持ちである……。

「はぁ……仕方ないわよねぇ……私の気持ちも何年も気付かない大馬鹿だし……」

胸に顔を埋めて来る、そんな彼女を慈しく思いながら抱きしめると、幸せな気持ちになって来る。

「とりあえず、今日はこれで許してあげるわ……」

強く握られた手を握り返し、二人が押し入って来るまでの僅かな時間を楽しむのだった。