軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第96話 慟哭

雨が降っていた。

俺が連結スキルでミサイルに魔力を大量流入させた結果、巨大爆発をおこしキノコ雲が発生した。キノコ雲は泥や塵を含み黒い雨となって降り注いだ。

戦闘で生き残った敵兵は虫の息だったが、全て俺達がとどめを刺した。その流れた血も汚れた黒い雨が覆い隠していった。

兵士の死体は爆散したのを含めて4000体近くあったと思われる。前情報では2000だったのだが、転移魔法でどこからか送り込まれて来ていたらしい。敵兵の死体は急ぎシャーミリアとマキーナにまかせファントムに処理をさせている。3時間もすれば夜が明けるだろう、シャーミリアとマキーナが動けなくなる前に処理を終わらせる。

ルピアには沖に出た船を呼び戻しに行かせた、朝には船を連れて戻ってくるだろう。

他の者はグラドラム市街地にはいり生存者を探していた、すんでのところで正門から出た人間もいたが、ほとんどの人間は逃げる事が出来なかった。

ほとんどが・・死んだ。

「俺は・・あの時と変っていない。弱いまま何も強くなっていない・・」

《サナリアでは俺は小さな子供だった、まだ弱く誰も救う事はできなかった。しかし魔人の仲間たちと力を得た今はどうだ?守る事が出来なかった。なにも変わらずたくさんの人を死なせてしまった。》

しかし・・落ち込んでいる暇などなく、とにかく逃げた人の捜索が優先だった。魔法陣の中にいた人達は絶望的で骨も残っていない。見渡す限りの平地となってしまった・・人影も建物も無い。

魔法の正体はインフェルノという魔法ではないかとクルス神父が推測していた。しかしあれだけ巨大なインフェルノを見た事はないそうだ。あんな巨大な魔法は1万人の魔法使いでも魔力がもたないのではないかとの事だ。間違いなくあの巨大魔石が引き起こした暴威だった。

その魔石は跡形もなくなくなっていた。

ガガッ通信機が鳴った。

「ポール王が目覚めました。」

看病していたマリアから通信が入った。俺が急いでポール王の元へ向かうと、クルス神父がポールに回復魔法をかけていた。

しばらくポール王は朦朧としているのかボーっとしていたが、目に光が戻ってきた。

「わしの・・グラドラムの・・民が、街が・・妻も娘もファートリアに差し出してまで守った民が・・うおおぉぉぉ、うわぁぁぁ!」

なすすべもなく泣きはらしていた。

《奥さんと娘を・・ポール王・・あなたという人は・・》

俺は・・かける言葉もなかった。

通信機に連絡が入った。

ガガッ

「ラウル様、墓地に人がいました。」

ゴーグ、ダラムバ、ジーグに岩壁の上の墓地方面を探索させていたら、どうやら生存者を発見したらしい。

「保護してくれ。」

「それが・・全員喪失状態となってまして‥」

「そうか・・」

「一人は・・デイブです。」

ポール邸から消えたデイブ達がグラドラム墓地に逃げていたらしい。

「なに!?」

ポール王が鬼の形相で俺とガザムの通信に反応した!

「ラウル様!私を・・!わたしを墓地まで連れて行ってもらえませんか?」

「はい。」

俺達はグラドラム墓地に続く石段を登っていた。俺とポール王が先を歩き護衛にルフラ、アナミスがついてきている。高台にあるこの石段からは街中が全て見渡せるのだが、黒い雨が止まずに視界が悪く、建物がなくなってしまったために真っ暗にしか見えなかった。

墓地に着くと、ゴーグ、ダラムバ、ジーグに囲まれてデイブと15人ほどの民がいた。そこらにはマリアとルピア達が始末した、ファートリアの魔導士とバルギウスの騎士の遺体がごろごろ転がっていた。

「ゴーグ、みんなの状況は?」

「もう死なせてくれの一点張りですよ。」

するとポール王がデイブの元に歩いて行く。鬼のような形相だった・・

「デイブ・・おまえ・・なぜこのようなことを・・」

デイブは顔をあげる事も出来ずにいた。他の民もみなすすり泣き、嗚咽がもれていた。

「王よ・・」

デイブがようやく重い口を開いたが、それ以上話す事が出来ないでいた。

「どうしたのだ?」

ポールが促すように聞いた。

「この3年間、あなたは自分の妻と子を人質として捧げてまで民を守ってくださりました。約束ではそれで拉致される者はいなくなる予定でした。しかしファートリアバルギウスは約束を違えその後も人を連れて行きました。拉致され・・たくさんの者が帰らなかったこと・・私は我慢が出来ませんでした。」

「それは全て私の責任だ・・申し訳なかった。しかし・・ならばどうしてファートリアに協力したのだ?」

「ラウル様を差し出せばもしくは殺せば、グラドラムを解放してやると言われました。さらにいままで囚われたグラドラムの民を全て返してくれると!」

「・・・・・」

ポール王は絶句してしまった。しかしすぐに諭すように話を始める。

「ラウル様はあの時、命がけでグラドラムを守りその後も滅ぼされる事のないように、魔人との関係性を流布するように街の人たちに教え、守ってくださった英雄ではないのか?」

「しかし彼らが、ラウル様たちがこの地に来なければファートリアバルギウス連合も、攻め入っては来なかったのではと・・」

「愚かな・・デイブよ。ラシュタル王国やシュラーデン王国の現状をしらんのか?グラドラムよりもさらに迫害を受け人々は飢えをしのぐので精一杯なのだ。我々はグラウス魔人国との国交があるからこそ食料や資材に困らんのではないか?もしラウル様達がこなければこんな辺境の地など、とうに滅びておるわ。」

「はい・・その通りでございました・・。この惨劇が起きるまで私は見失ってしまったのです。」

デイブはこんな人間ではなく聡明で優秀な宰相だった。3年の圧政でこれほどまでに追い詰められてしまったのだろうか。心の弱さにつけこまれ堕ちてしまった。

そしてポール王はデイブ以下使用人たちの裏切りに気がづかずにいたのだ、その悔しさたるや心中察するにあまりある。

「いつからだ?」

「ファートリア神聖国の神官の二人が、シュラーデン王国の神父としてグラドラムに潜り込んだ時からです。」

「2年も前なのか・・」

ポール王は涙していた。自分が見抜けなかった愚かさ、使用人全員に裏切られ続けた2年間・・いまにも崩れ落ちてしまいそうだった。

「それで・・この恐ろしい計画を立てたのか?」

「いえ・・私共はこのような恐ろしい結末になるなどとは思っても見ませんでした。本来はバルギウスから来た使用人たちが毒を盛って、魔人様を殺す手はずとなっておったのです。」

「バルギウスの使用人たちが?」

ポールはなぜそうならなかったのか不思議だった。

「はい。しかし・・その席には人間であるマリア様も座る可能性が出たのです。」

「人間のマリア様?お前たちは魔人を差別しているのか?魔人は殺しても良いのか?」

「それで、人間の民が救われるのであれば。」

「馬鹿な!魔人のガルドジン様達は長い間グラドラムを守って来てくださったのだぞ!」

どうやら・・魔人に対する差別は根強いようだった。人は善悪関係なく魔人達に恐怖や憎しみを持ち畏怖の念を抱いているようだ。たしかに・・前世で東京に魔獣や魔人が現れたら、警察や自衛隊が出て排除するかもしれない。ヴァンパイアや鬼や狼男など前世では、滅ぼさなくてはいけないものとして物語に出てくる。実際にも魔女狩りなんてあった。

「申し訳ありません。人間が生き延びるためなら・・そのように我々全員がそう思ってしまいました。」

「ならばなぜ毒を出す食卓までいかなかったのだ?」

「はい、人間のマリア様が毒を盛る席に座るかもしれないと思い、私がバルギウスのバウムを焚きつけました。 屡巌香(るがんこう) が焚かれて光の結界に捕らえたのであれば、毒を食べさせる必要はないだろうと。バウムと騎士でかかれば殺せると。」

「それが失敗したと?」

「はい。ラウル様が斬られたのですが、なんと真っ二つになりながらも話はじめたのです・・」

《ああ、俺に化けたルフラをバウムが斬ったからな、あれで決着がついたと思ったのか。そういえばその後で本物の俺が駆けつけた時、デイブは滅茶苦茶驚いていたな・・》

「マリア様を助けようとして、そうなったというのだな?」

「はい。」

《そうだったのか・・・むしろマリアがいたおかげで俺達は助かったような形になっていたのか。ただ・・毒を食ってもシャーミリアもマキーナもルフラも死なないんだがな。食べていたらマリアだけが死んでいた。》

「そしてなんと、その後にラウル様は私たちを逃がしてくださったのです。」

「ラウル様は恩人ではないか、そこでやめようとは思わなかったのか?」

「もう・・後戻りはできませんでした。そうしなければ我々全員が殺されると思いました。」

「なにを言っている!結果がこれだ。お前たちは自分の親や伴侶、そして子供や孫を燃やし尽くしてしまったのだ!グラドラムに助けを求めてやってきた難民も、せっかくこの地に生きる場所を見つけたのだ!それを・・この地で・・すべて・・」

すると一斉に苦しむような嗚咽を上げ始めた。

「うううううぅぅぅ」

「おぁぁぁぁぁぁ」

「くぅぅぅぅぅぅ」

「ああぁぁぁぁぁ

デイブが血を吐くように言う。

「まさかこのような恐ろしい計画が進んでいるとは・・聞いてはおりませんでした。」

「魔人様たちを捕らえて差し出せなかった場合!それが失敗した場合!あやつらが何もお前たちに罰を与えないと思ったか?グラドラムに被害が及ぶと思わなかったのか!」

まさにポール王の言うとおりだ。俺達を捕らえて引き渡しても、拉致された人はおそらく戻ってこない、失敗した場合もっと酷いことになる事は予想されたはずだった。

「民が身内を連れていかれる・・子供たちを連れていかれる・・その身を引き裂くような悲しみに、そして連れ去られたもの達を案ずる声に・・その悲しみの声に・・私は耐えることができませんでした。なによりもポール王の!あなたの奥方様とお子様を取り返したかった!」

あまりの事に、俺はつい口をはさまずにいられなかった。

「申し訳ありません。私がもっと早くに魔人達の訓練を終え、強くなって戻っていればこんなことにはならなかったでしょう。私が幼いばかりに・・魔人との訓練をもっと早く進めて戻れば防げたかもしれません。軍隊を強化するのに3年もの年月をかけてしまった・・」

するとポールが俺の言葉を遮るように話す。

「いいえラウル様!違います。お言葉でございますが、あなた様は十分にやってくださいました。むしろたった3年でこれほど強力な兵を引き連れてやって来てくださるとは・・弱冠12歳の出来る事ではございません。感謝のしようもございません。」

「いや・・ちがう・・俺はグラドラムも故郷のサナリアも救えなかった!」

「いえラウル様!責任があるとすれば私です。部下の裏切りにも気がつかず、2年もかけて作られたこんな巨大な罠に気がつかず、グラドラム内に入り込んだ虫どもに気づかず・・」

するとデイブが話し始める

「いえ!王よ!あなたは精一杯やってくださいました!家族を差し出し、民を守るために必死にやってくださいました!悪いのは私達の裏切りだけです・・ただそれだけです。」

使用人たちも一斉に話し始める。

「ポール王どうか!私たちを断罪ください!」

「もうすでに家族も仲間も消え去り、生きている意味はございません!」

「ラウル様も・・決起などとそそのかしてしまいました!」

「許してもらおうなどとは欠片もございません!」

「私の故郷も消え去ってしまいました!殺してください!」

ポール王は皆の声を黙って聞いていた。もう涙を流してはいなかった。そして決心したような顔でデイブと使用人たちに思いを伝えた。

「わかった・・皆がこの惨劇を意図してはいなかった事も十分理解した。しかしもう遅かったのだな・・お前たちが招き入れたこの災いのおかげで、万の民の命がなくなった・・老人も若者も子供も赤子も皆消えてしまった。その命をもってしても償えない罪を背負ったのだ。」

「う、うううう」

「は・・はい・・」

「おおぉぉぉ・・」

「うっ、うっぅぅ」

皆すでに言葉を発することができなかった。

すると、ポール王が一人ひとりに話しかけ始める。

「デイブよ・・長い間、このような無能な王に仕えてくれて、最後にこの仕打ち・・許せ。」

「そしてジュリアよ・・メイド長の仕事・・大変であったろう。よく頑張ってくれた・・」

「ダグよ・・執事長のお前がいたから皆も頑張ってこれたのだ・・礼を言うぞ・・」

「ナディア・・キッチンメイド長のおかげで、味のいい料理を堪能できたぞ。皆が喜んでいた。」

「サラよ・・」

ポール王は一人ひとり、デイブと15人に思いを伝える。

皆がこれ以上ないほどの苦しみをもって嗚咽をあげている。

「皆、大儀であった!」

「ポール王よ!あなたにお仕えできて私たちは幸せでした!」

「ありがとうございます。私は幸せでございました。 」

「あなたのために働くことができ本望でございました!」

みなが口々にポール王に礼を言う。最後にデイブが声を発する。

「どうして・・こんなことになってしまったんでしょう・・私はあなたの何を見ていたんでしょうか?本当に申し訳ありませんでした。そしてこんなバカな私を最後まで信じていてくださってありがとうございました。」

「デイブよ・・俺が幼き頃から一緒にいてくれてありがとう・・」

もうポール王はデイブを振り向くことは無かった。

「あの・・ラウル様。」

ポールが俺に懇願するような顔で願って来る。

「ラウル様と配下様のあの技であれば・・みな苦しまずにすむでしょう。どうか・・お願いできませんでしょうか・・できれば、私の見ていないところで。」

「しかし!俺には・・そんな!」

「私は王として、隣国の王代理に頼んでいるのです。ラウル様、私達は一緒にファートリアバルギウスと戦争をしているのですよ。何卒私の願いを聞き入れては下さいませんか?」

「あ、あの・・」

「お願い・・・お願いいたします!」

ポール王は俺の答えも聞かず、デイブ達を振り向くこともなくそのままグラドラム墓地を降りて行った。背中一杯に悲しさが溢れていた・・

《そうだ・・俺はサバイバルゲームをしているんじゃない・・戦争をしているんだ。》

とうとう断罪の時が来たのだ。

《俺がもっと強ければこんなことにならなかったのに・・サナリアもグラドラムもこんなことには・・くそ!ちくしょう!》

苦しい・・しかし俺は事を進めることにした。

俺はルピアに連絡をする。

「ルピア、船は港についたか?」

「はい、今到着したところです。」

「船から布をとってグラドラム墓地まで飛んできてくれるか?」

「はい。」

しばらく待っていると、ルピアが布をもって飛んでくる。

「ゴーグ、ダラムバ、ジーグ、ルピア、ルフラ、アナミス。布を破いてみんなの目を塞いでやってくれ。」

「わかりました・・」

全員で一人ひとりの目隠しをして、跪かせていく。

1列に並べ目隠しをされたデイブ宰相と15人の使用人たち。黒い雨はいつの間にかやんでいたが、みな真っ黒に汚れきっていた。

俺は一人の後ろに立って後頭部にVP9ハンドガンを突き付けた。

しかし・・銃を持つ手が震えた。

《撃てない・・》

どうしても・・引き金が弾けなかった。

するとデイブが俺に声をかけてきた。

「ラウル様!最後の身勝手をお許しください。皆を・・みなを早く楽にしてやってはいただけませんか?これ以上苦しい思いをさせぬよう何卒!」

デイブに続いて全員が口々に楽にしてほしいと俺に懇願してきた。

するとダラムバが俺に声をかけてきた。

「ラウル様・・我々がやります。このような辛い事をラウル様のお手でやるような事もございません。」

「いや俺がやらなきゃいけない。」

《戦争・・前世でも戦争では普通に行われてる事を・・日本では起こり得ない事を、実際にいま自分がやっている。》

「いいんだよ、ダラムバ。これは俺の罪だ。俺が弱かったからこんなことになったんだ。」

「ラウル様・・」

ゴーグとルピアが心配そうに俺を見ている。俺は一つのお願いをすることにした。

「アナミス・・すまない。お願いを聞いてくれるか?」

「なんなりとお申し付けください。」

「彼らに・・彼らに楽しかった頃の思い出の夢を・・家族との思い出の夢を・・愛した人々の夢を・・見させてやってはくれないか?」

「はい」

アナミスから紫色の息がふうっ!と吹きかけられ全員を包み込んだ。

そこにいた者は膝で立ったまま眠った。

「ああ、ポール王よ・・なんと立派なお姿に・・王になられたのですね・・」

「お前は優しい子だね・・いつも私に花を届けてくれて・・」

「あなた・・まさか双子なんて!あなたに似て凛々しいわ・・」

「お父さん!また一人で山にいってきたの?お父さんの山遊びもほどほどにね・・」

「お前はおねえちゃんなんだから、ちゃんと妹の面倒をみてくれよ。優しいおまえは・・」

「おばあちゃん。いつもやさしいおばあちゃん!ずっと会いたかった・・」

みなが幸せな夢を見ているようだった。本当に幸せそうな雰囲気に包まれていた。

俺は一人目の引き金をひいた。

「すまない。」

パン!

そのまま前のめりに倒れて動かなくなった。

「わるかった・・」

パン!

二人目もそのまま静かに前に倒れて動かなくなる。

《俺は・・もう人間じゃない・・》

俺はこころで慟哭していた。

俺は魔人国の国王の息子で、これが俺が望んだ故郷を取り戻す戦い。非情の世界を生き延びる術。ポール王に言われて初めて自覚したのだ。

散々敵兵を殺しておいて、今更ながら気がつく。

大粒の涙が頬を伝い始めた。

望まない指がまた引き金をひいた。

パン!

パン!

パン!

墓地に乾いた銃の音がなり響くのだった。