軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第875話 新しい神の器は

ベニーは年季の入った椅子に腰をかけて、軽く髭を撫で目を細めてブリッツを見つめる。その顔には年輪のように皺が刻まれ、煤で汚れた頬が職人である事を物語っていた。ブリッツを見るその顔はとても優しく慈愛に満ちている。手に持った酒をクビリと一口やりホッと一息ついて、棚に目を向けた。

「ブリッツや、それを取っておくれ」

そう言われてブリッツが棚から取ったものは、模様が刻まれた金属製の何かだった。それをベニーに渡すと、ベニーはそのままテーブルにそれをゴトリと置いた。

オージェがそれを見て聞く。

「これは?」

「ブリッツが赤ん坊の時に一緒に託されたものだ。見ての通りブリッツはわしの子ではない」

肌の色が違うからそれは分かっていた。だが託されたというのはどういう事だろう?

「いきさつを聞いても?」

「もちろんじゃ」

そう言ってコップの酒を飲み干す。するとオージェが酒瓶を取ってベニーのコップに注いだ。ベニーはもう一口飲んで話し出す。

「出来れば、ブリッツにはここで平和に一生を過ごしてもらいたかった」

するとブリッツがキョトンとした顔で言い返す。

「ん? 俺はここを出て行くつもりはないよ?」

ブリッツはどこ吹く風だが、ベニーはブリッツを諭すように言った。

「たぶんそれは無理じゃな。こうして迎えが来た以上は、お前は旅立たねばならん?」

「わけわかんない。何で俺が出て行くんだよ?」

ベニーがテーブルの上の鉄製の彫り物を持ち上げて、しみじみと見つめる。それを見ながら過去に思いを馳せているようなそんな表情だ。しばらく沈黙してから笑顔を浮かべて言った。

「運命じゃろう」

「なんだよそれ」

「お前をわしに託した人も、ここで一生平和に暮らせるならそれでいいと言っておった。このまま争いごとに巻き込まれずに、ここで一生を終える事が出来るならそうしてくれと」

「だから、俺はそうするつもりだって」

「じゃが、こうして迎えが来てしまった。そうなってしまった以上ブリッツは旅立たねばならん」

するとブリッツがベニーの手を掴んで言う。

「ベニーの面倒は誰が見るんだよ。独り身だし年とったらどうやって生きてくんだ?」

「わしはコツコツ鍛冶を続けていくわい。小僧に心配されんでもな」

「鉄を打ち始めたら周りが見えなくなるのにか?」

「問題ない」

「酒を飲んでべろべろになったら、誰がベッドまで運ぶんだよ」

「これからは不摂生をしないと誓う」

「仕入れや商人との交渉は?」

「元々やっとったわい」

「でも…」

するとベニーはブリッツの頭にポンっと手を乗せて、優しく微笑んで言う。

「優しいのう。じゃがこれは運命なのじゃよ。お前をここで旅立たせぬのは世の理に背く事なのじゃ」

「この世の理ってなんだよ」

「それは恐らくオージェ、もしくはここに居るお方が知っておるんじゃろ?」

ベニーに言われオージェが俺を見るので、俺がベニーとブリッツの目を見て話す。

「信じられないかもしれないんですが。オージェと俺は神なんですよ」

それを聞いたベニーはポカンとして、ブリッツが更に素っ頓狂な顔で目を見開いている。しばらく沈黙し、ブリッツが声を上げた。

「神って神様?」

「そう」

「どういう事ですか?」

「さっきも話したけど俺達は地球からの転生者、そしてこの世界の神の一角を担う存在らしい。更に三人の神も同様に地球からの転生者なんだ」

「……」

転生に関しては心当たりがあるので、ブリッツは静かになってしまう。ベニーは目をつぶってただその話を聞くだけで、特に口を挟んでくる事はないようだ。

「君もそうだろう? 共通点から考えても君は間違いなく神の継子だよ」

「俺が…神? 何を言ってるんだ?」

だが、それにはベニーが答える。

「ブリッツや。お前をわしに託した人は、神の守護者だと言っておった。だがその人らは、自分達がブリッツを匿っていれば、見つけられて殺されてしまうだろうと言っていた。そこで、縁もゆかりもないわしに託したのじゃ。そうすればどこにいるかバレないだろうと、そして一生を平和に過ごせるのならそうしてあげて欲しいと」

「嘘だろ」

「本当じゃ」

そしてブリッツが俺達を見て言う。

「えっと、まさかですが、オージェさん達は俺を殺しに来たんですか?」

俺もオージェも首を振る。そしてオージェがブリッツに言った。

「そんな訳ないだろう。お前が神を継ぐまで、俺達と一緒に行動していた方が良いだろうという事だ」

「そうなんだ…」

「実際に神が狙われた実例もある。その方も我々が保護しているがな」

「神が? ところで神って死ぬの?」

「分からん。だが神が滅びればとんでもないことが起きるらしい」

「なに?」

「その神様を信仰する人たちが滅亡する」

「…嘘だろ…」

少しずつ自分が置かれた立場を理解しつつあるようだ。ベニーは酒を飲み黙って聞いており、オージェも付き合うように飲んでいた。俺達は優しく微笑むベニーの表情の奥底に、寂しさや悲しさを感じ取っている。恐らくは酒でも飲まねば、寂しさに負けてブリッツを引き留めてしまうのだろう。

ベニーはブリッツに彫金された鉄の塊を渡した。

「これを持っていけ。なぜかは分からんが、これはお前と一緒にあるものらしい」

ブリッツはそれを手に取ってじっと見つめた。実際にそれが何かは俺達も分からないが、きっと何か理由があるのだろう。しばらく見つめたブリッツが、椅子の背もたれにグッと背を預けて天井を見る。天井の梁は煤で真っ黒に黒光りしていた。鉄を打つときにこちらにも煙が流れてこびりついたのだろう。長年やってなければこうはならない。

すると徐にブリッツが俺達に聞いて来る。

「なんで軍用ヘリがあるんだい? あれはこの世界の物ではないだろう?

ブリッツの言葉遣いが微妙に変わった。今までは少年のような感じだったが、突然大人びた言葉遣いになる。どうやらこれが本来のブリッツの話方なのかもしれない。

だが真実を答えるのは、機密保持の観点上すこしためらわれる。

「あれは魔人国のもので、もちろんこの世界の物じゃない。言って見れば俺が持ち込んだものだ」

「まさかね。この世界に来て軍用ヘリを見る事になるとは思わなかった」

「聞いても良いかな?」

「ああ」

「君は前世、何者だったんだい?」

「……」

ブリッツはしばらく黙り込み、俺達を見上げて聞いて来た。

「あなた達は?」

「日本人だ。俺は普通のサラリーマンだった」

そしてブリッツはオージェを見る。

「俺は自衛官だよ。日本のジエイタイだ」

「おお。自衛隊か!」

「ブリッツは?」

「FBIだ。FBI捜査官だよ」

「すげっ!」

「と言う事はアメリカ人か?」

「そうだ」

不思議なものだ。前の世界では国籍の違う者同士だが、こうして言葉が通じている。更にブリッツはオージェと同じようにプロフェッショナルな職業の人だった。俺みたいに、ただひたすら武器を愛しサバゲに死ぬほど打ち込んだオタクとは違う。

俺は真っすぐにブリッツを見て言う。

「一緒に来てほしい。この世界の種族のバランスを壊したくないんだ」

そう言うとブリッツはベニーを見る。そしてぼそりと話し出した。

「この人は、鉄を打つ事しかできない不器用な人なんですよ。でもその実直な姿勢に惚れて、俺はずっとここにこのまま居ようと思っていた。だがそれが俺のエゴで、俺のせいで滅びる種族が出て来てしまうというのは容認できない。だが突然きてそう言われても納得できない自分がいる」

「わかった。それじゃあここまでの経緯を話そう」

「ああ」

そして俺は、敵が北大陸に攻めてきたことから順に、神々の継子を見つけていった事、力をつけて挽回して北大陸を取り戻した事、南に逃げた敵を追ってここまで来た事、あと残りの神を見つけて決戦に挑もうとしている事を話す。

「俺の知らないところで、戦争が起きていたなんてね。この世界ではそんなことは無いと思っていた」

するとベニーが言う。

「そんな物騒な話は、ブリッツに話したことがない。この土地は戦争とは無縁の土地なんじゃ」

「そうだったのか」

「ブリッツに、そんな大それた運命が待ち構えているとは思わなんだ。ただただ運命と信じ迎えが来たら出してやる、それしか考えておらんかった」

するとブリッツが立ち上がってベニーに手を差し伸べた。

「ここまで育ててくれてありがとう、ベニー」

「ふん。ガラじゃないわい」

「ほら!」

するとベニーがブリッツの手を掴んだ。するとブリッツはグイっとベニーを立たせて、唐突にハグをする。するとベニーもブリッツに手を回して抱きしめた。

「いつの間にかこんなに成長しおって」

「ベニーのおかげさ」

二人は泣いていた。もしかすると今生の別れになる可能性もあるし、次に会う時は神として会う事になる。だが俺達はブリッツに言う。

「言っておくけど、神になってもこのままさ。力はつくかもしれないけどブリッツはブリッツのまま」

「ああ。俺もそうだったようにな」

それを聞いたブリッツがオージェに言う。

「えっ? 変わらない?」

「ああ、記憶もあるし」

「そうなんだ?」

「ああ」

ブリッツはグイっとベニーを引き離して言う。

「泣いて損した。じゃあまた会いに来ればいいだけの話じゃないか」

「ん? わ、わしもそう思っとったぞ!」

二人はバツ悪そうに頭をかく。しかししばらく会えなくなる事は事実、俺は二人の手を取ってまた重ねて言った。

「生きているうちに会いに来たらいい。だけどしばらくは会えなくなるから」

「わかった」

「ああ」

そしてベニーがブリッツをくるりと回れ右させた。そしてトンと背中を押してやる。

「ほれ。わしの気が変わらんうちにとっとと行け」

やはり相当寂しいのだろう。

「わかったよ」

ブリッツは俺達と一緒に外に出る。ベニーはもう外には出てこなかった。恐らく寂しくて仕方ないのだろうが、ブリッツももう振り向く事はない。そして村を歩いて行くと村人が声をかけて来た。

「なんだい? もう出て来たのかい? 寄っていきなよ」

それにオージェが答える。

「悪いがまた今度な。ちょっとブリッツと一緒に出掛けて来る」

「あ、ああ。分かったよ、絶対来てくれよな」

「もちろんだ」

都市内を歩いて行くと、オージェとブリッツに声をかけて来る市民たち。それらに愛想よく返事をしながらも、門を出て郊外に来た。郊外に待機していたチヌークヘリを前にしてブリッツが言う。

「マジかよ。寸分の狂いも無く軍用ヘリじゃないか」

「そうだ。チヌークヘリだよ。乗ってくれ」

「わかった」

そして俺達は、元FBI捜査官のブリッツを乗せて大空に飛び立つ。ブリッツが村を見て寂しそうにしていると、オージェがポンと肩に手を置いて言う。

「また会える」

「ああ」

そしてオージェがグレースとエミルに、ブリッツを紹介した。グレースが気さくに手を差し伸べると、ブリッツは笑ってその手を握りしめる。するとグレースは得意の英語でブリッツに話かける。

「英語が上手いな」

「外国人と仕事をすることも多かったんです」

「懐かしいよ」

どうやらグレースとブリッツは馬が合いそうだ。そこにオージェも混ざり前世の話を始めるので、俺も混ざりブリッツとの共通点を探り始めるのだった。