軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第871話 バランスブレイカー

ダンジョンから帰った俺達は、そのまま真っすぐに魔人基地建設地へと来た。基地建設は順調に進んでいるようで来るたびに新しい建物が建っている。転移魔法陣を設置する建屋の前で、持って来た魔石を並べてモーリス先生に見せた。

「なんと! これほどの数の魔石を短期間に回収してくるとはのう! 開発がはかどるのじゃ!」

「ダンジョンを制覇して来たんですよ」

「なに! もうダンジョンを制覇して来たのか?」

「そうです」

俺とモーリス先生が話していると、ダンジョンから連れて来た渋いおっさんが後ろからやって来た。

「かなりの難易度にしたつもりじゃったが、一日程度であっさりと攻略されてしもた」

モーリス先生がぺこりと頭を下げ、俺に聞いて来る。

「えーっと、この方はどなたじゃったかの?」

「シダーシェンの一神ですよ」

「神様! こ、これは高い所から申し訳なかったです」

そうしてモーリス先生が慌てて深々と頭を下げる。

「頭を上げよ。人間にしては相当の魔力の持ち主よ」

「滅相もないですじゃ」

「我も魔神が相手とあれば、もっと手の込んだダンジョンにするべきじゃったよ。人間なら到底不可能な作りにしたつもりなんじゃが」

「そうでしたか…。しかし、これほどの魔石を頂いてもよろしかったですじゃろか? そんな反則みたいな攻略をしたと言うのに」

「ええよ。一万年もダンジョンばっかりやっていたら、相当の量が溜まってしもうての。じゃが、魔神につまらんダンジョンじゃといわれ心が折れた」

「なんじゃラウル。神様にそのような事を言ったのかの?」

「でも真実です。忖度してもしかたない」

「ウチのラウルが失礼をしたのじゃ」

面白かったら純粋に評価したけど、如何せん魔獣のバリエーションもなくて攻略の謎が簡単だった。ほぼ力押しでいけたし、お世辞にも面白いとは言えない。だが申し訳ないので一言添えておくことにしよう。

「あのー、それでも虹蛇のダンジョンよりははるかに面白かったですよ」

「ほう! そうかの?」

「虹蛇のダンジョンは、はっきり言ってクソでした」

「そうかそうか!」

少し機嫌がよくなってきた。

「精霊神と龍神のダンジョンなんかダンジョンにもなってなくて、精霊神のダンジョンは入るまでが大変、龍神の海底ダンジョンでやったことは食べ比べをしてゴーレム見学ですよ」

「ふむふむ! まあ、あやつららしいと言えばらしいのう!」

「更に言えば、豊穣神なんかダンジョン運営を放棄してましたし」

「なーんじゃ。真面目にやっとったのは我だけか!」

何かめっちゃ嬉しそうだ。他の神らより真面目にやっていたのは確かなので、そこは評価できるだろう。しかしもっと高みを目指してもらわなきゃならないので、一つだけ真実を教えておく。

「ですが。アトム神だけは人間と交流があった為か、めっちゃ楽しいダンジョンを形成してました」

嬉しそうだった表情が一転して、めっちゃがっかりした顔になる。

「あ奴は一番人間に近い場所にいたからの、それにもまして人間が一番増えたからその力も強かったのであろう…」

さっき許可をもらったので話の途中でも、もらった魔石は魔人たちがどんどん倉庫に運んでいく。気分を損ねれば、気が変わって返せとか言われかねない。そしてその神はエミルを見て言った。

「次世代の精霊神は随分弱まった感があるな」

「そうなのですか?」

「何があったのじゃ?」

「どうなんでしょう? 長い年月の中でエルフがどんどん減ったので、それが原因かと」

「なんじゃと? エルフがそれほど減ってしまったのか?」

「そのようです」

次にグレースを見て言う。

「お主は虹蛇の力は次いでおるようじゃが、分体なのか?」

「実は本体を呼び出せないのです」

「まだ変わったばかりじゃからのう。しかも、おぬしら三人とも同じ匂いがするのう」

どうやら俺達が同じ世界から転生して来た事を察知しているらしい。

「えーと。続きは拠点に戻り、豊穣神も交えて話しませんか?」

「うむ」

「では、先生。魔石は自由に使って良いそうなので、バルムスにもそう伝えてください」

「わかったのじゃ」

そして俺達がチヌークヘリの前に行くと神様が言う。

「これも凄い物じゃ。虹蛇とレヴィアタンを移動手段に使う虹蛇と龍神にはよく自慢されたもんじゃが、今度の魔神は面白い乗り物をだしよる。やはり時代なのかもしれんな」

時代って言うより、現代兵器を召喚しているだけなんだけども。ていうか、この神様は一体何をつかさどる神様なんだろう? なぜかダンジョンには一方ならぬ思いがあったようだが、他はだいぶ疎いような気がする。

とにかくチヌークに乗って都市が見えてくると、上空から都市を見た神様が言う。

「随分と大きな都市のようじゃな」

「あれでも王都ではないのです」

「誰が取りまとめておるのじゃ?」

「今は、オウルベア達に見てもらってますね」

「ほう! オウルベアがあれほどの街を?」

「いえ。元は人間が作ったものです」

「人間か…いったい人間はどれほどの力をもっているのじゃ?」

「世界のほとんどが人間の社会になってますよ」

「随分様変わりしたようじゃな」

そうて俺達はようやく、神をデメールの元へと連れて来た。

だが…神様はデメールを見てあっけに取られていた。

「あれ?」

そう言われたデメールが不服そうに言う。

「なんだ? 何か文句でもあるのか」

「なんでこんな貧相になってるの?」

「貧相とは何だ! お前などただのジジイにしか見えんではないか!」

「まあまあ、いい感じに見えるじゃろう?」

「ふん。どうせこれは分体、本体はどうせ骨のくせに」

「仕方ないじゃろ」

デメールには目の前の渋いおっさんの正体が分かっているようだった。俺達には立派な法衣を着たおっさんにしか見えないが、いったいこいつは何系の神なんだろう?

「そう言えば、どちらの神様になるのでしょう?」

すると渋いおっさんがポンと手を叩いて言う。

「そう言えば、言うとらんかった。すまぬな」

するとデメールが言った。

「こやつはウチの能力とは真逆の位置におる」

豊穣神の真逆って何だろう?

「我は死神じゃな」

大いに納得がいった。ダンジョンはゾンビやスケルトンばっかりだし、自分も骨だったし死神と言われたらそれ以外ないだろう。

「えーと、死を司ると考えていいのでしょうか?」

「違うな。死者の神と言った方が正しいじゃろ」

「死者の神?」

「霊魂を司る神じゃ」

「寿命の来た人の命をもらいに来るとかそう言うのじゃない?」

「ちがう。死者の王のようなものじゃな」

そう言われて俺はシャーミリアとファントムを見る。この二人は生ける死者なので、魔人とは少し系統が違っていた。ひょっとしたら死神は彼らの神なのかもしれない。

だが、俺の想いが伝わったシャーミリアが言う。

「私奴が仕えるのはご主人様以外におりません」

「わかってるよ」

それを聞いた死神が言う。

「なるほどのう…我から死者の使役を奪ったのはそなたか」

「……」

「いいよ。シャーミリア、正直に言っていい」

「はい。その通りでございます」

「死神の力を凌駕するとは驚いたわい。死の力を操るのじゃな」

「はい」

「魔神に心奪われておるようじゃがそれでよい。生まれ出たからには自由にやりたいことをやるがよい」

「ありがとうございます」

なんだろう? 今までの神々の中で一番の人格者のような気がする。やはり死者の神と言う事で達観しているのかもしれない。

するとデメールが笑う。

「お互い、力が弱まっても。自分の系統の存在を見ると嬉しくなるな」

「そうじゃな。豊穣神よ、お主も消えるわけにはいかん」

「そればっかりは時の運だろう」

するとそこに、俺が呼んだ現在のアトム神であるアウロラがやって来た。

「失礼します」

「なんじゃろう…アトム神は当たりを引いたのじゃろうか?」

ん? 今、さらりと失礼な事を言われなかった?

「可愛いだろう? なぜあのアトム神の跡継ぎがこんなに可愛いのかと思うだろう? それはウチも思った」

俺とエミルとグレースが微妙な顔をしている。アウロラの事を褒められるのは嬉しいが、それだと俺達がハズレみたいだ。

アウロラが死神の前に行って挨拶をした。

「初めましてアウロラです」

「ほうほう。前のアトム神とは全く違うのう」

「ウチの跡継ぎもこういうのがいいな」

「それを言うなら我もじゃ」

微妙な空気が流れる中で、アウロラが二人の神に言う。

「神様。平和な世界の為に、お力をお貸しください。いま神々の引継ぎの中で争いが生まれ、勢力争いが始まってしまったのです。発端は火神が北部の大地に宣戦布告して来たのが始まりで、今はその後始末に私達が来ているのです」

アウロラが分かりやすく端的に説明をしてくれた。

「火神が?」

死に神がそう言うとデメールが頷いて言った。

「意外だろう?」

「火神は他の神々と争わぬよう、この南の果てに流れて平和な国を作ったのじゃぞ? その近くに我や豊穣神が平和に暮らすようにと住まわせてもらっていた」

「その火神が発端でな、ウチもしっかりと誘拐されそうになった。恐らくは勢力争いの邪魔になると思うたのだろう。それを諫めるために跡継ぎとなった、魔神と龍神、精霊神、虹蛇、アトム神がこんなところまで来たのだ」

「あの平和な火神がなあ…」

「ウチが考えるに、恐らくは火神の跡継ぎの意思だろう。それ以上の権力を求めたか他に意図があるのか分からんが、おかしな事になっているのは確かだ」

「最近騒がしいのはそのためだったか」

どうやら死神と豊穣神が言うには、火神は既に世代替わりをしているらしい。元の火神は好戦的では無く平和主義で、引き継いだ奴のせいでこんなことになっているんじゃないかと言う事だ。

いずれにせよ決着はつけねばならない。だがそう思う反面、俺はその結末が全く見えていなかった。

「あの。神々が戦った事はあるのですか?」

すると死神が言う。

「我々の代はそういうのは無かった。むしろ生み出した子供たちの勢力争いが激しかったかもしれん」

「それは神々の意思では無く?」

「子供達に争うて欲しいとは思うとらん。だがどうやら時代が変わったのだろう、どんどん子供達が争うようになってしもうた。その流れなのか、跡継ぎの神々も荒々しいような気がする」

「俺達も含めと言う事ですよね?」

「うむ。お主が我のダンジョンで使った武器は、破壊しか生まんだろう? 美しさもへったくれもない、ただ破壊に専念した武器のようじゃ」

身もふたもない。でも俺の中では、銃に対しての美学があるのだが古の神に説明しても分かるまい。そして神の口からはっきりと聞いた。火神の跡継ぎがバランスブレイカーとなって、神々の均衡を崩し始めたという事だ。俺達はまんまとそれに乗った形になったのだろう。

そして俺は気になった事を聞いた。

「恐れ入りますが、お二方の跡継ぎが見つからないとどうなりますかね?」

するとデメールが言う。

「神々の均衡が崩れるだろうことはわかる。あと、その後の事はウチにも全く分からん 」

「それって結構大変な事なんじゃ?」

「さあてね。新たな勢力で均衡を保つのか、このまま戦いを続けて世界が焦土と化すのか」

そして死に神が言った。

「だがこのままではあらゆる種族が消えてしまうだろう」

「ならば、デメール様も死神様も跡継ぎを探さねば」

死神を助けたことでまた新たな真実に一歩近づいた。だがそれで気が付いたのは、火神ですら滅ぼしてはいけないという可能性だ。火神を滅ぼせば何らかの均衡が崩れて、生態系に大きく影響する可能性がある。

そう考えるとルーティンにしている、モエニタ王都爆撃を中止しようかと思い直すのだった。