軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第851話 オウルベア達

ラーズ達と行進してくる魔獣の姿を見て、俺は既視感を覚えていた。梟のような顔に熊のような強靭な体、つい最近あれと似た者を見た事がある気がする。その恐ろしい魔獣の群れを前にして、ギルド員が腰を抜かし尻餅をついた。

俺が慌てるギルド員を落ち着かせるために、ラーズの所に駆けつけて話をする。それを見たキチョウカナデがくるりと振り向いて、デカい魔獣軍団に止まるよう指示をした。魔獣軍団は見事に整列し、まるで軍隊のように統率がとれている。

俺はラーズをギルド員の所に連れて来る。見るからに普通のおっさんで何のとりえもなさそうなラーズではあるが、魔人軍の中で一番防御力が高い。オークが進化しつくした結果こうなった。

「えっと、彼は僕の部下で、あっちの彼女は同じ故郷の人間だったりして」

尻餅をついたギルド員は、ラーズとカナデに目を移し魔獣軍団を見る。

「あ、あの魔獣たちはいったい?」

俺の話が理解できないようで、とにかくギルド員の目は魔獣に釘付けだ。

「あれはたぶん、あそこに立っている彼女が使役してるんだと思う」

「し、使役? 彼女も使役が出来るのですか?」

「あ、彼女もって事は、使役できる人はいるんだ?」

「魔獣を使役するのはとても珍しいですが、おります」

「どこにいるの?」

「知っているという程度ですので、詳しくは知らないのです」

俺はギルド員に手を差し伸べて立ち上がらせた。

「詳しく話を聞かせてもらえる?」

「はい。この領にいた騎士達も、使役された魔獣を使っていたのを知っていますよね? あれは王都に居るお偉いさんが使役したのだと言われております」

王都にいるお偉いさん…なるほどね。やっぱ魔獣を使役して運用している奴がいるんだ。

「使役って珍しいの?」

「テイマー自体が珍しいです。小鳥やリスを使役出来る者はおります」

「どこにいるのかな?」

「その力を持っているのを知られれば、大抵は軍隊から勧誘されます」

「どうして?」

「間者として使えるからです」

「なるほど」

ギルド員も少し落ち着いてきたようで、冷静に話を始めた。

「この国で魔獣を使役しているお方は、王の側近とも言われております。ですが、我々はその御方を見たことが御座いません」

「王は見た事あるの?」

「それも、ございません」

「そうなの?」

「現王は、です。前王は、もちろん見たことはございます。良き王でございました」

「そっか」

こんなところで、情報がとれるとは思っていなかった。敵の魔獣を使役していた奴は、王の側近として仕えているらしい。今まで俺達の行動は、そいつに見られていたのかもしれない。

「魔獣を使役するというのは難しい?」

「いない、と言った方が正確かもしれませんね」

「そうなんだ」

「はい」

俺は改めてカナデの力の凄さを再認識する。日本人の転移組は皆チートだし、ホウジョウマコなんかは魔獣じゃなくて人間を使役できる。剣を使うハルトや土魔法を使うキリヤが可愛く見えて来る。

だがギルド員はそれ以上の情報は知らなかった。俺は改めてギルド員に聞いた。

「それはさておき、僕らは冒険者登録できるのかな? 合格?」

「もちろんにございます。ですが規定により鉄等級からになります」

「問題ない」

そしてギルド員は魔獣軍団を見て腕組みをする。

「どうかした?」

「あの…あれらを都市内に入れるのですか?」

「ん? まずい?」

「騒ぎが起きるかと思われます。冒険者の一部が騒ぐかと」

「なるほど…、あいつらか。とにかく近隣まで連れていく事は?」

「領主様の許可が」

うわ。領主様は逃げちゃったんだよね。今なら領主の家には商人が住み着いている。まあ別にいくらでも誤魔化す事は出来そうではあるが。

俺とギルド員が話していると唐突に声がかかった。

「ご主人様」

振り向くとシャーミリアがいた。

「どうした?」

「アンジュがこちらに来たいというのですが、お連れしてもよろしかったでしょうか?」

「かまわないよ」

「では」

シュッ! とシャーミリアが消え、ギルド員が目を白黒させる。そしてすぐにまた現れた。シャーミリアの隣には気を失っているアンジュがいる。死んでるのかと思ったが、シャーミリアの高速移動で気を失っているだけのようだ。俺はアンジュにポーションをかけた。

「あ、うう」

「アンジュ。どうした」

「あ! ここは?」

「アンジュが、シャーミリアに連れて来てって言ったんだろ?」

バッと立ち上がったアンジュが、視線を魔獣軍団に向けた。

「なんで! こんなところに!」

アンジュは魔獣軍団に一目散に走り寄って行った。そこで俺はようやく気が付いた、梟の頭に熊の体といえばアンジュが変身した姿だ。それの大小の様々な奴が大量に居る。

「アンジュ!」

魔獣が突然しゃべった。

「なんで、こんなところに来たの?」

「わからん。気がついたらここに居た」

「はあっ?」

詳しい状況がわからなかったので、俺がアンジュに聞いてみる。

「知り合い?」

「あたしの一族! しばらく会ってなかったけど!」

「マジ?」

だがアンジュは俯いた。

「…なんでいまさら」

何か訳アリのようだった。アンジュが面白くなさそうにプイっと顔をそむける。というかアンジュと同じと言う事は、もしかしたら人間になれるんじゃないの?

「あの、アンジュ。彼らはこのままじゃ都市に入れないんだ。アンジュみたいに人になれる?」

「なれるよ」

俺はカナデに言った。

「みんなには人になってもらおう」

「はい」

カナデが手をあげて魔獣軍団に言った。

「人になれ!」

魔獣たちが一斉に人に変わる。だがそこで問題が出て来た。何と魔獣たちは男も女も子供も、皆が全裸になってしまったのだ。そう言えば元々服を着ていないのだから仕方がない。皆が胸や股間に手を当てて隠している。

魔獣の時は隠さなくても良いんだ…。ゴーグなんか人間形態になっても恥ずかしくないみたいだったけど…。

ギルド員がテンパりながら言う。

「こ…これは! あの! で、伝説の…」

「ん? なんて?」

「伝説の種族です。オウルベア…古代ではよく見られたようですが、本当に居たとは」

なるほど。伝説がいきなり大量にきて、突然マッパになって並んでいるという訳か。そりゃもう訳が分からんわな。荒れ地に風が吹いて来たので、もしかしたら裸は辛いかもしれん。

俺が大声でオウルベアの集団に言った。

「みなさん! 初めまして! アンジュにはお世話になっております! 私がこれから服を支給しますので一列にお並び下さい!」

彼らは俺の言う事を聞かなかった。だがカナデがもう一度同じことを言うと、オウルベア達は一列に並ぶ。前に立つ人のサイズを見ながら、俺はアメリカ海軍の迷彩服を召喚し始める。なぜアメリカ海軍にしたかと言うと、ナンバーズの自衛隊の服と差をつけるためだ。誰が誰だかわからなくなってしまう。召喚しながらアンジュに声をかけた。

「えーと、アンジュ。彼らを連れていくけど問題ある?」

「あるわ! デメール様を見限った奴らよ」

やはり、なんか事情がありそうだ。そうはいっても連れていくけど、人じゃなく魔獣の分類になっているようでカナデの言う事を聞くし。こりゃいい。

「一族が来る事を分かってたの?」

「感じたのよ」

「でもさ、これだけ居ればデメール様の力も復活するんじゃない?」

「彼らは信仰を捨てたのよ」

アンジュがそう言うと、一人のオウルベアが言った。

「アンジュ! 違う! 信仰を捨てたわけではない!」

「でもデメール様の力は弱くなった。あんたらのせいだ」

「違う…」

オウルベアの一人はそれ以上声をあげなかった。いろいろ複雑な事情があるようだが、とりあえず一旦受け入れるべきだろう。情報量が多すぎて俺も掌握しきれていないし。

「カナデ、とりあえず皆に来てもらおう」

「はい」

全員がアメリカ海軍の戦闘迷彩服に着替えた。まるでネイビーシールズがここにいるようだ。

「カナデ? ドラゴンは?」

「上空に」

「同時に使役してるんだ?」

「今のところは全て出来ています」

「どうやら、カナデの力は珍しいらしいぞ」

「そうなのですね」

俺達は都市に向かって荒地を進み始める。ギルド員が挙動不審になって、ちらちらとオウルベアをチラ見していた。伝説の存在が目の前にいるのだから、そりゃそうなるだろう。アンジュは不貞腐れたような顔で、そっぽを向きながらもついて来る。

俺は念話でアナミスを呼んだ。

《アナミス、ちょっと来てくれ》

《はい》

俺達の視線の先に、都市の市壁が見えてきたころ空からアナミスが下りてくる。それを見たギルド員とオウルベア達がざわざわとざわついた。

「そ、空をお飛びに?」

「ああ、彼女は飛べるんです」

「魔法?」

「ま、そんなところです」

俺がギルド員にそうつげる。オウルベアたちも珍しい物を見たような顔で言う。

「今…羽、生えていたよな?」

「俺達みたいな種族なんじゃないか?」

「にしても美人だ」

「確かに、あんな美人…みたことない」

「ちょいと! あんたら! 私たちがいるじゃない!」

「いやいや、最初に現れたそこの人もそうだけど、作り物みたいに美しい」

「確かにな。それに突然現れたし、女神とかそういうんじゃないのか?」

「ちょっと! あたいらを差し置いて!」

オウルベア達が揉めている。アナミスの美貌と、更に美しいシャーミリアの美貌に男達がざわめいているのだ。オウルベアの女達がそれを聞いてキーキーと怒っている。

だが彼らは、彼女らを知らないからそんな事を言っていられるのだ。うちのシャーミリアとアナミスを知ったら、そんな大それたことを目の前で言えない。今、俺がここに居るから彼女らは抑えているだけだ。

俺がそんな懸念をしていると、カナデがオウルベア達に言う。

「おまえたち! アナミス様とシャーミリア様に何と言う口をきくのか! 黙りなさい!」

それを懸念したカナデが先に怒鳴った。

するとオウルベアが一斉にシーンとした。それをアンジュが複雑な表情で眺めている。いくら仲たがいしていたとはいえ、同族が人間に叱られている様は気分が悪いのだろう。それでも擁護する事は無く、プイっとそっぽを向いた。

「はは。カナデ、いいじゃないか。アナミスもシャーミリアも美人に変わりはない」

俺がそう言うと、アナミスがめっちゃ顔を赤く染めて声をあげる。

「まあ! そんな! ラウル様! 私など!」

それ以上に反応したのがシャーミリアだ。ぺたんとしゃがみ込んで、股の間に手を置いて下をうつ向いている。恐らく顔をあげない方が良い。相当だらしない顔をしていると思うから。

「あ、いや。とにかく、アナミスにやってもらいたいことがある」

「はい」

俺はアナミスに耳打ちをした。するとアナミスがギルド員の側に行って、赤紫の靄を発生させた。ギルド員はトローンとした顔になり立ち尽くしている。アナミスが俺に聞いて来た。

「それで、いかような記憶に?」

「えっと、このオウルベアの人達が難民で、俺たち魔人軍が保護したのだと」

「かしこまりました」

アナミスが靄を解くと、ギルド員がくるりと振り向いて俺に言う。

「気の毒なこの方達を、引き取ってくださるとはラウル様は本当に寛大だ」

「ああ。そうだね」

「とにかく、その旨を都市の皆に伝える事といたしましょう!」

「よろしく」

それから俺達は何事も無く門を潜り、騒がれる事も無くオウルベア達を都市に入れるのだった。アンジュは相変わらず面白くなさそうだが、俺は既に彼らの使い道を見出していた。洗脳も必要無く、カナデの言う事を聞く軍隊。魔人の人手不足をこれで補う事が出来そうだった。