軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第847話 マリアの想い

毎日、敵の本拠地攻撃を続けているのに全然動きが無い。不気味と言うより俺自身がこのルーティーンに飽きて来た。だから俺は夜の爆撃以外のルーティーンを変える。一旦、戦いから離れて、それぞれにしたい事をすることにした。

そして英気を養うという理由で、毎日豪華な暮らしをしている。というか豊穣神のデメールがそうしろって言ったから、してるみたいなところがある。

見知らぬ国を侵略しに来て、豪華な暮らしを続けている俺達はどう考えても悪人だ。いい服を買い、町の高級レストランでフルコースを食った。しかし服を買ったり食事をするにあたっては、きちんと金を払うようにしている。もちろんモエニタの貨幣なんか持っている訳も無く、商人の金庫に大量にあった金を使っていた。それで惜しみなく豚や牛を買い、グリフォンやセルマ熊たちにも食わせている。

しかも商人の倉庫にあった物資は全て、グレースの保管庫に収納した。北に帰った時のお土産にするつもりだ。モーリス先生はこの都市にある本を回収し、ひたすら読書にふけっており夜はその反動なのか毎日酒を飲んでいた。日中から飲まないのは偉いと思う。

ポリポリ

「美味しいですか?」

マリアが俺のお茶を注ぎながら聞いて来た。俺は二人きりでマリアと一緒にくつろいでいた。

「なんかね。止まらない」

俺は豪華な部屋で皿に盛られた、あれやこれやのお菓子を食っていた。この都市はとにかく食材が豊富で、野菜や果物や肉と魚介まであらゆるものがそろっていた。恐らくだがこちらでは海産物が出回っているらしい。とにかくお菓子が特徴的で、一般家庭にまで出回るような安いお菓子があった。それがなぜか美味かったのだ。

「珍しいですよね?」

「これはたぶん魚の骨をカラッカラに揚げて、美味いタレを絡めたものだ。そしてこっちのふわっふわで生クリームが乗ってるのは、シフォンケーキと言うやつだよ。あとこの触感のずっしりしたタルトみたいなの、チーズケーキとプリンの中間って感じで美味いんだ。それと、この棒みたいな菓子の触感が良くてね。一体何なんだろう?」

「何らかの野菜を揚げている物だと思うのですが、北には無い物です」

「このお菓子の屋台は行列だったね。まあうちには定時で届けてくれるようにしてもらったから、俺達はすぐに食えるけどね。人々が並ぶのも分かるわ」

とにかくお菓子はゴーグがハマっているようで、結構多めに取り寄せていた。

「ゴーグは?」

「モーリス先生の読書の横で、ラウル様と同じお菓子を食べ続けています」

「ずっとおやつ食ってるけど大丈夫かね?」

「どうでしょう? でも、ご飯も大量に食べますので問題ないかと」

「全く太ったりしないのが凄いよね?」

「魔人たちの体はどうなっているのでしょう? 羨ましいです」

トポトポ。とマリアが俺のカップにお茶をついでくれた。

周辺の警護や偵察は全てナンバーズと街の冒険者がやっている。

俺は魔人達にも自由にするように言っていた。魔人達の行動はそれぞれだが、ギレザム、ガザム、ミノス、はカーライルに付き合って戦闘訓練をしていた。シャーミリアとマキーナはファントムと共に、ちびファントム達の強化に明け暮れており、カララとルフラは周辺の森にお食事しに行った。アナミスは夜な夜などこかに消え、ルピアとティラは今日もショッピングを楽しんでいる。スラガはエミルからヘリの操縦を徹底して仕込まれており、なぜかラーズはカナデとドラゴンを連れて近隣の魔獣の調査に行っている。

人間達はと言えば、イオナとデイジーは豊穣神デメールと一緒にアウロラと遊んでいた。カトリーヌと聖女リシェルは、エドハイラとホウジョウマコと女子トークを楽しんでいる。ミーシャはひたすらグレースと共にヴァルキリーと装備のメンテに明け暮れ、ミゼッタはいつも通りモーリス先生の側にいるゴーグと一緒に居る。

「しかし自由にしろと言ったとたんに、十人十色というか本当に個性が出るもんだね」

「私が面白いなと思ったのは、アンジュさんでしょうか。デメール様の指示ではありますが、何故かルピアとティラに付き合わせてショッピングに行っています。素直に言う事を聞くんだなって思いました」

「デメールの言う事は聞くんだよ。そんでデメールは、アンジュに楽しんでもらいたいみたい。ずっと引きこもっていたから、楽しい事を知ってもらいたいんだろうね」

「親心みたいなものですね」

「だろうね。なんかさ、デメールの言う事って俺達も聞いちゃわない?」

「そうですね」

「アトム神の時にもそんな現象あったけど、神託と言うのはそういうものなのかもね?」

「かもしれません」

「前の虹蛇がなるべくしてそうなるって言ってたんだよ。偶然じゃなくて全部必然だって。つー事はさ、デメールもそれを知ってて言ってるんじゃないかと思ってる」

「確かにそうかもしれません」

「最終決戦に向けての準備ってところなのかな? だとしたら、やりたいことをうんとやっておいた方が良いよな?」

「はい」

マリアがすっごく楽しそうに笑う。なんでだろ?

「あの、マリアもやりたい事やって良いんだよ?」

「やっております」

「毎日、俺の世話しかしてないじゃん」

「だからそれです」

「俺の世話?」

「はい。ラウル様がやりたいことをやって良いとおっしゃいましたので」

「確かにそう言ったけど、俺の世話が楽しい?」

「いっちばん楽しいです!」

マリアが満面の笑みで言った。まあそれならそれで俺は何も言う事はない。

「じゃあさ! 近くの森に行かない? 久々に射撃訓練しようよ」

「えっ? ここを離れても良いんですか?」

「問題ない。有事の時はすぐに戻ってこればいいから」

「わかりました」

「ま、念のためファントムを借りていくか」

「はい」

早速、俺達はシャーミリアの所に行く。そして森に行くと伝えた。

「ご主人様、それではこのハイグール達も一緒に。試験運転の為にお連れ頂けませんか?」

「いいよ」

「お心遣い誠にありがとうございます」

俺達は出かける事をモーリス先生に伝え、近くの森に出かける事にした。歩きながらシャーミリアに行った。

「こいつらの武器はどうする?」

「恐れ入りますが武器は必要ございません。標的にしていただければと」

「あ、こいつらを?」

「はい」

俺達は都市を出て近隣の森に行った。ここには敵の転移魔法陣があったらしく、増援はこの森から出てきたのだった。俺はちびファントムたちを並べて言う。

「お前達。俺達の弾が当たったら、三十秒止まれ」

もちろん返事はないし真っすぐ見据えているだけだが、ファントムも最初の頃はそうだった。シャーミリアとマキーナが、ちびファントムたちに何かを施している。

「それ、何してるの?」

「一時的な強化を。どうか性能を試してやってください」

「わかった」

そして俺はマリアにP320ハンドガンとベレッタ92ハンドガンを召喚した。俺はコルトガバメントを二丁持つ。そしてちびファントムたちに言った。

「俺達から逃げろ!」

ダシュッ! と三体が目の前から消える。流石はハイグール、ファントムほどではないがかなりの性能だった。俺はマリアに振り向いて言う。

「追える?」

流石に普通の人間にハイグールが捉えられないと思うが、マリアはニッコリ笑って言った。

「出来るところまでやってみます」

「今の見えた?」

「まあ…」

「じゃあ、一時間! 一時間でどっちが多く弾をあてるか競おう」

「はい」

やはりマリアもかなりの成長をしている。あのスピードが追えるならば、もう人間の域を超えているだろう。俺とマリアはちびファントムを追って、森の中を走った。少し行くと一体のちびファントムが木の後ろに隠れている。

一気にダッシュして、ちびファントムの居る木の所まで近づいた。

パン! と至近距離から撃ったが避けやがった。ファントムならば避けずに弾を受けるが、ちびファントムは弾を避けた。

「避けんのかよ」

すると俺の側にシャーミリアが現れて言った。

「耐久力が無いのです。魂の吸収が圧倒的に足りないのもありますが、素体がそれほど優秀ではありませんでした」

「そう言う事か。だと敵に壊される可能性が高いって事ね」

俺とシャーミリアが話をしている時だった。シャーミリアがピクリと反応する。

「ご主人様。一体が撃たれました」

「マジ?」

シャーミリアに連れられて行くと、俺の指示通り弾の当たったちびファントムが止まっていた。しかしマリアはもうそこにはいなかった。マリアはどうやら俺が逃がしたちびファントムにあてたらしい。

「ヤベ、負けちゃう」

俺はまた森の中へと走り出した。そして気配を辿りもう一体のちびファントムを見つける。俺は木の上に登り飛びながらちびファントムを追い詰めた。木から飛び降りながら、ちびファントムめがけて撃つ。

パン!

するとまた避けた。だが…

パン!

俺の弾を避けたちびファントムをマリアが撃ちぬく。すると、ちびファントムが俺の言う事を聞いてピタッと止まった。マリアは既に次のちびファントムを追い始めていた。

「よし! 俺も!」

ちびファントムを回り込んで、俺は予測しながら追い詰めていく。しかしそのスピードは速く、俺がやっと追いついて至近距離から三発撃ち込んだ。

ビシィ!

「やった!」

一発当たって、ちびファントムが止まる。俺は実弾を使ったサバゲに、めっちゃテンションが上がって来た。

「次!」

俺は再び、ちびファントムを探し始めるのだった。

それから一時間後。俺はマリアの側で息をついていた。

「ふうふう。勝ったんじゃね? 俺は十六回あてたぞ!」

「はあはあ。そうかもしれません。私は回数を数えておりませんでした」

「そうか…一生懸命だったけどな」

「はい」

するとそこにシャーミリアが現れた。そして何か気まずそうにしていた。俺がシャーミリアに聞く。

「シャーミリアはマリアが何回あてたか分かるんだよな?」

「え、はい。まあそうでございますね」

そう言ってシャーミリアはチラリとマリアを見た。だがマリアはシャーミリアを見て首を振っている。それを見た俺は、シャーミリアにきつく命令を下した。

「シャーミリア! 本当の事を言え!」

「はい。マリアは、二十一回あてております」

「やっぱり。俺は負けていたか…」

「はい」

「凄いよ! マリア! いつの間にそんなに」

「実は訓練を怠っておりませんでした。隙を見ては射撃訓練は欠かさずやっていたのです」

「恐れ入ったよ」

「私は前線でラウル様のおそばに居たいのです。とにかくそれだけの想いでやってまいりました」

マリアの思いはずっと変わっていなかった。俺はそんなマリアに感動して泣きそうになる。ここまでの技術を身につけるには、それこそカーライルみたいな修練が必要だった。マリアは人知れず訓練してここまで来たのである。

「最後まで付き合ってくれ」

「はい」

パチパチパチ。

マリアにシャーミリアとマキーナが拍手を送るのだった。俺が気が付かないうちに、俺と戦うために修練を続けて来たマリア。もう二十代後半に差し掛かるが、そのスタイルは未だ衰えていない。最初の頃に射撃訓練してた頃とはもう次元が違う。

「じゃ、みんなが心配するといけないから帰ろう」

「はい」

俺達は射撃訓練を終えて拠点へと戻るのだった。