軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第845話 最前線でのルーティーン

ドランから念話が来た。どうやらオージェといる都市に変化があったらしく、警戒したほうが良いと助言をしてきたのだ。俺がドランに答える。

《想定通りだ。こっちでかなり派手にやったからな》

《左様でございましたか》

《兵が動いたんだろ?》

《はい。ただ兵だけではなく、都市に居た兵士全員と市民が半分以上いなくなりました。恐らくは転移魔法陣を使ったものかと、都市内には転移魔法陣は見つけられなかったのですが…》

《こっちもだよ、転移魔法陣は都市の外にあった。敵はデモンやゼクスペルを送り込んでこないし、恐らくは市民を殺したくないんだ》

《敵の力が削られるから、と言う事ですか?》

《他にも目的はあるかもしれないけど、恐らくは自分らに有益な人間を連れてったんだろ》

《かしこまりました。周囲の転移魔法陣を全て確認するには、もうすこし時間がかかりそうです》

《そっちは四人しかいないから仕方ない。逆に敵はお前達の侵入に気付いてないぞ》

《なるほど。それは面白い事が出来そうですね》

《オージェと話をしてみてくれ》

《は!》

どうやらオージェ達は無事で、敵の意識を完全に俺達にひきつける事に成功したようだ。俺と直属の配下達は月夜のベランダに出て話をしていた。

「恐らく膠着状態になるだろう。敵は本拠地の防衛固めに入った。デモンや火神だけではなく、新たな敵の可能性も否定できない。俺達はそれを確認する必要がある」

「「「「「「「「「「「は!」」」」」」」」」」

「そこでだ。俺はある作戦をやろうと思う」

「ある作戦でございますか?」

ギレザムが聞いて来る。

「ヒットアンドアウェイ作戦だよ、ギレザム」

「航空戦力で、ですか?」

「そうだ。しかも俺とシャーミリアだけで行く」

「危険では?」

「問題ない。とりあえずみんなは敵との戦いに備えていてくれ」

「かしこまりました」

俺はシャーミリアに言う。

「砂漠の空母落としを覚えているか?」

「もちろんでございます。あれをやるのでございますか?」

「いやいや。いきなり数百万の人間を殺したくはない、だがあれの応用だ」

「かしこまりました」

そしてグレースをでヴァルキリーをバーニアキットを含めて出してもらう。そしてミーシャに向かって言った。

「空気の薄い場所まで上がるけど、飛行に問題ないかな?」

「問題ございません。元より燃焼系の動力ではありません」

「わかった。じゃ、ちょっと行って来る」

「かしこまりました」

そして俺はヴァルキリーに入った。

《ヴァルキリー、飛ぶよ》

《よろこんで》

飲み屋の注文のような答えを貰って、俺とシャーミリアが夜空に飛んだ。星が降り注ぐ綺麗な夜空に、二つの影が浮かび上がる。

「シャーミリア! 方角はこっちだな」

「はい♪」

二人で飛ぶ事にシャーミリアがめっちゃ喜んでいる。まるで夜空のデートだ。俺達は急加速しつつ想定した方角へ飛び、高度を上げて雲を突き抜けた。五分も飛ぶと遥か下に光の粒が見えて来た。

「あれだな」

案外近かった。

「まるで星空が陸にあるようです」

確かにかなりデカい都市だ。栄えているというのは間違いなさそうだ。

「シャーミリア。どこが良いと思う?」

「光の密集しているところには、地位の高いものが住んでいるかと思われます」

「了解」

俺はそこでクラスター型M30ロケット弾を召喚した。これは爆発しないタングステン球を撒き散らすクラスター兵器だ。俺が召喚したクラスター型M30ロケット弾をシャーミリアが掴んでぶん投げる。クラスター型M30ロケット弾は途中で、タングステン球にばらけて都市の中心部分に飛んで行った。

都市の中心部に穴が空いたように黒い部分が出来る。恐らくは家屋が倒壊したり、ランプが消えたりしたのだろう。俺達はしばらく空からそれを見つめていると、ちらちらと陰になったあたりから火が上がり始める。壊れたランプの火が何かに燃え移ったのかもしれない。

「じゃ、帰ろう」

「かしこまりました」

俺達はくるりと後ろを向いて、高度を上げ帰路につくのだった。

拠点にしているアジトのベランダに降り立つと、皆が出迎えてくれた。ギレザムが言う。

「おかえりなさいませ」

「とりあえず嫌がらせして来た」

「左様でございますか」

俺はヴァルキリーを脱いで外に出た。そしてミーシャに声をかける。

「いい感じだ。調整してくれた?」

「はい。更にラウル様の思い通りに飛べるようになっているかと」

「なってる」

「よかったです」

俺がそのまま建物に入ると、モーリス先生とイオナがいた。モーリス先生が俺に聞いて来る。

「ベランダで作戦会議でもしとったかの?」

「まあそんなところです」

「わしは、今宵も酒なんぞを飲んでいていいのか?」

「問題ありません。動きがあればお伝えします」

「わかったのじゃ」

イオナも俺に聞いて来る。

「進軍したりは?」

「まだだよ母さん。とりあえずいろいろとやることがあってね」

「そうなのね」

その日はそれで終わった。とりあえず敵に動きは無いようで、俺はぐっすりと眠る事が出来た。そして次の日の昼間になり、アウロラを連れて都市部へとでていく。シャーミリアとファントムとちびファントムが護衛で、他のメンバーは都市内の冒険者の様子を見て報告してくれていた。

「そろそろ効いて来るはずだ」

俺が言うとアウロラが不安そうに俺をちらちらと見る。

「これを読むの?」

「そうそう。みんなで考えたんだ」

「わかった」

中央に噴水のある広場に出て、そこに長距離音響発生装置LRADを召喚した。そしてボリュームを上げてマイクをアウロラに渡す。

「じゃ、堂々とね」

「あー、うん。わかった」

そしてアウロラはマイクに向かって話し始める。

「私はみんなの本当の神様です! 遠い場所からやってきたのです! みんなの幸せを願い、無病息災長生きしてほしいと思っています。不幸な出来事から遠ざけて、笑顔溢れる町づくりをモットーにがんばります! 私の名前はアトム神! みんなの愛する神様です!」

アウロラが不安そうに俺の顔を見る。可愛い顔だが俺は続けるように促す。

「続けて」

「う、うん」

そしてまた原稿を見ながら話し出す。

「毎晩、皆様の善と悪の心に呼びかける声を知っています。そろそろ楽になりたくはありませんか? もし楽になりたいのなら私の元へいらっしゃい」

よし。バッチリだ! ちょっと運動会の子供の放送のような感じではあるが完璧だ。俺達がその場所で待っていると、ぞろぞろと町から人々が目の下にクマを作って歩いて来た。

毎晩の脳内放送に参っているようだな。まずはじっくりと責めていくか。

アウロラの側に来た老人が跪いた。

「お助け下さい。毎晩おかしな声が聞こえてくるのです。私の心に直接」

アウロラがチラリと原稿を見て、老人に向かって言う。

「あなたは真実を知ったのです。そしてこれからは私に祈りをささげ続けなさい、さすればいずれその苦しみから解放される事でしょう。いいですか? 毎日毎晩、アトム神に祈りを捧げるのです」

「は、はい!」

そしてアウロラが自分のバックから錠剤の入った小さな箱を取り出した。それを老人に渡してニッコリと微笑む。

「これを飲めばたちまち楽になって眠れるでしょう」

「ありがとうございます!」

その錠剤はミーシャが作った強力な睡眠薬だった。これによって深く眠り込んだ脳に、直接マイクロ波兵器の照射が浸透していく事だろう。自分は眠れていると思い、救われたと勘違いするはず。

「さあ、次の方」

次は年老いたおばあちゃんだった。やはり年寄りは信心深い。

「本当に救われるのでしょうか?」

「もちろんです。アトム神、この名を忘れぬよう。そして毎日毎晩祈りを捧げるのです」

「わ、わかりました」

そして再び鞄から小さな箱を取り出し、強力睡眠薬を渡すのだった。一通り薬の箱を配り終わってしまったので、俺が集まった市民に言う。

「さあ。アトム神様の今日の神託は終わりです。アトム神様をお見送りいたしましょう~」

「「「「「「「「はいー」」」」」」」」

アウロラはシャーミリアに抱かれ、そのまま空の彼方へと飛んでいく。残った俺は信者予備軍たちに声をかける。

「アトム神様の信仰を怠った者達がここにおります。その者をお見せいたしましょう」

《おい、ちびファントム。一人フードを取れ》

俺の指示で、ちびファントムがフードを取ると、ハイグールの恐ろしい顔がそこに現れる。

「ひっ!」

「ひいぃぃぃぃぃ」

「あ、でも、見たことが…」

そう。元はこいつはこの街の騎士。見覚えのあるやつがいるだろうと思った。

「そうです。彼はアトム神様を信じなかった…変わり果てた姿になってやっと気が付いたのです。アトム神様の偉大さに! こうなりたくなければとにかく祈りを捧げなさい。アトム神様は寛大です」

「「「「「「「「「「ははー!!」」」」」」」」」

そう言って俺達はそこから消えた。瞬発力を生かして一気に皆の視界から消えただけだけど。きっちりファントムがLRADを撤収してくれている。俺がアジトへ着くとアウロラが出迎えてくれた。

「お兄ちゃん。どうだった?」

「どうかね? こういうのは毎日が肝心だからね。明日はまた違う場所でやるよ、大変だけど頑張るんだよ」

アウロラはあまりいい気分ではなさそうだが、こうして信者を増やさないとアトム神の力がつかない。とにかく毎日コツコツやるしかない。

「わかった」

「じゃあ、今日はもう終わり! 適当に遊んでていいからね」

「はーい」

アウロラに甘い俺なのだった。そしてそのままエミルの所に行く。エミルはケイナにケーキをあーん、されているところだった。

「見せつけてくれんじゃん」

俺が呆れたように言うと、エミルが慌てて返す。

「い、いや。これは…」

するとケイナが腕を絡めて言った。

「あらぁ? いいじゃなーい! ラウル様がくれた時間なんだから」

「や、やめろって」

二人はイチャイチャしている。俺は関係なくエミルに言った。

「精霊を飛ばしてくれてありがとう。市民に変化はありそう?」

「都市のどこもかしこも、アトム神の話でもちきりだよ。毎晩聞こえる声にうなされてるみたいだ」

「よし。いい感じ!」

「ラウルの方はどうだった?」

「市民が救いを求めて来たよ。明日は西でやってみる」

「こう言う事はマメだよなあ」

「なんだよ、こう言う事って」

「アウロラちゃんや仲間の為には徹底するって事」

「褒めてる?」

「褒めてる」

「ならいい」

そして俺はエミル達と別れ、カトリーヌと聖女リシェルの所に向かった。

実はこれがちょっと苦痛。

そこにはカトリーヌと聖女リシェル二人とエドハイラやキチョウカナデ、ホウジョウマコも居た。どうやら女子トークに花を咲かせていたらしい。

すると慌ててキチョウカナデとホウジョウマコが立ち上がる。

「これはラウル様」

二人は魂核を変えているので、どうしてもこんな反応になってしまう。

「楽にして」

「「は!」」

そして俺は椅子に座って、女達と話を始めるのだった。俺は女を知らなさすぎると言われ、デメールの提案によって彼女らとのコミュニケーションの時間を取るように言われたのだ。実際のところ、女性に対してコミュ障の俺にとっての特訓の場だ。

だが俺は黙っていた。なぜならば武器や戦闘についての話は禁止だからだ。俺からそれを取り上げてしまうと、ほとんど話す事がない事に気が付く。

「ラウル様。固まってます?」

カトリーヌが口火を切ってくれた。

「実際、何を話したらいい?」

「それでは、ハイラさん達と前の世界のお話でもお聞かせくださいますか?」

うわ。前の世界でも俺は武器三昧だったんだけど…。

そこからひたすら俺の相槌タイムが始まるのだった。その過酷な時間を終えて俺は自室へと戻る。

するとギレザムが声をかけて来た。

「お疲れの様子ですね。大丈夫ですか?」

「いや。俺も訓練が必要って事さ」

「無理はなさらずに」

俺は気持ちを切り替えて言う。

「今宵もシャーミリアと一緒にヒットアンドアウェイ作戦を行う! 敵に豆鉄砲を喰らわせてやるぞ」

「「「「「「「「は!」」」」」」」」

うん。やっぱり配下との戦争の話がめっちゃ楽しい。女子トークと比べれば天と地の差があった。

だが自分がどれだけ戦争中毒になっているのかも自覚した。戦争が俺のライフワークになっており、戦争が終わったら自分がどうなってしまうのかと思う。だが俺はそれを頭から振り払い、部下達に指示を出していくのだった。