軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第816話 投獄された理由

両親を亡くした事を聞いて、俺は似た境遇の二人、目の前のシュリエルとフラスリア領のトラメルを重ね合わせる。境遇的にはどちらも領主の娘で、両親が死に親の領地を継いだという点では似ている。だがトラメルは王に任命されたわけではなく、壊滅した領の為に自らその立場に立った。それに対しシュリエルは、モエニタ国の王の寵愛を受けて領主の座に座ったらしい。これは全くの正反対で、ここからはシュリエルを尋問する事でしか真相がわからないが、事実だとすれば志として全く違ってくる。そしてもう一つ、モエニタ王が敵陣営かどうかが分からないため、敵の場合シュリエルへの対応が変わってしまう。

そして今俺達は催眠で操っているシュリエルの後をついて、捕らえられているというお目付け役の所に向かっていた。そいつは敷地内にある塔の最上階に投獄されているらしい。俺は塔の螺旋階段をのぼりながら、これからの対応をずっと考えていた。

先をシュリエルとアリストと騎士のサーヘルが歩いており、俺とモーリス先生が離れてついて行っている。もちろん護衛にファントムとシャーミリア、そしてシュリエルを操るためにアナミスがついて来ていた。時おりサーヘルがちらちらとファントムを見上げているが、その心は恐らく恐怖に支配されている事だろう。

「大変じゃのう」

モーリス先生がこっそり俺に話しかけて来た。

「そうなんですよね。都市の民を助けられれば助けるとアリストに言った手前、どうしようかなと。何とかしたいのはやまやまなんですけどね。もし万が一、敵だった場合は気が重いです」

「敵だったなら、わしらは敵の真っ只中におる事になるのう」

「まあ、潜入している面子が面子ですから。先生もデイジーさんにも指一本触れさせませんよ」

「わしが心配しておるのは、魔人達の攻撃で一般市民が危険にさらされるじゃろうと思うてな」

「…すみません。俺の中では先生が優先順位一位ですので、正直全く気にしておりません」

「っとラウルは言うじゃろうと思っ取ったわい」

「はい」

先生とデイジーの命が最優先で、本当に危険なら洗脳兵も捨て駒にする可能性がある。この都市の民の事を気に掛けるなど、優先順位としては下の下だ。まあここが完全な敵地でない事を祈るしかないだろう。

「こちらです」

塔の最上階には鍵のついた扉があり、そこには二人の番兵が立っていた。するとアリストがサーヘルに向かって言う。

「このような所にモアレム殿を監禁していると?」

少し怒気をはらんだ声だった。それに対しサーヘルが答えた。

「すみません。ですが、この度シュリエル様のお許しで釈放される事になりましたので」

だが、なぜシュリエルがそうなったかの事情を知っているアリストが口ごもる。

「あ、ああ。そうだったな」

そしてサーヘルが番兵に言った。

「開けろ」

「は!」

その扉に番兵がカギを差し込み、ガチャリと音を立てて扉を引いた。

「うおおおおおおおおおお」

するといきなり中から、ロマンスグレーの眼鏡のおっさんが椅子を前にして突っこんで来た。そしてその目にシュリエルの姿を捕えて、急ブレーキをかけて前につんのめって転がった。

ドガ! ゴロンゴロン!

そしてロマンスグレーのおっさんは、床に尻餅をつきながらも見上げて声を出す。

「お、お嬢様!」

すぐにアナミスに念話を繋げる。

《アナミス。シュリエルに何か喋らせよう》

《はい》

「シュリエル様。モアレム様がお呼びになっています。お声がけを」

するとシュリエルは若干の虚ろな目で、ロマンスグレーのおっさんを見て言った。

「釈放します」

「へっ?」

「釈放します」

「…」

ロマンスグレーのおっさんの脳内で数秒の思考がなされる。そしてそのおっさんの目が、シュリエルの後ろに立っているアリストへと注がれた。

「おお! アリスト辺境伯様でしたか! お久しゅうございます! シュリエル様を説得しに来ていただいたのですね!」

「モアレム殿! お元気でしたか!」

「なんとか、こうして生きておりました。すみませぬ、このような状態の所に来ていただいて」

「実はお話をしにまいったのです。一体、何事かと思いまして」

「えっと、シュリエル様から顛末は聞いておらないのですか?」

「今しがた来たばかりでして」

「わかり申した」

そしてシュリエルが見当はずれの事を言った。

「アリスト様がいらっしゃいました」

するとモアレムがハテナマークを浮かべてシュリエルを見る。

「え、ええ。見れば分かります」

やべ! ちょっとまだ催眠と洗脳が中途半端だから、まともに受けごたえ出来ていない…。誤魔化すためにもちょっと俺が挨拶してみよう。

「失礼いたします」

「あなた方は?」

「お初にお目にかかります。北の大陸から参りましたラウルと申します」

モアレムは少し訝しい顔をしたが、すぐにアリストがフォローを入れてくれる。

「ああ、こちらはいわば客人ですね。これからその事を話そうと思っております」

それを聞いてモアレムは一旦、サーヘルに向けて指示を出した。

「分かりました。それでは、サーヘルよ! 皆様を応接の間に!」

「はい」

俺達はモアレムを連れて応接の間に戻るのだった。モアレムは比較的きちんとした身なりをしていて、髪の毛も短髪でさっぱりしていた。恐らくは下の者達の中にも、モアレムの処遇を不服としている者が居たのかもしれない。

俺達が応接の間に戻ると、廊下に待機していた騎士達や俺の直属を見てモアレムが驚いている。

「こ、これは何事だ?」

するとサーヘルがモアレムを廊下の端に連れていき説明をしている。だが良い説明をしているかどうかは分からない。もしかしたら俺達の事を良く思っていない可能性は大だ。そして俺達の所に戻って来たモアレムがアリスト辺境伯に尋ねて来る。

「恐れ入りますが辺境伯、お連れの騎士達の鎧がウルブスの物では無いように見えます」

するとアリストが言った。

「それも含めご説明差し上げましょう」

「分かり申した」

そして俺達が再び応接の間に入り、各人が席に座る。サーヘルが外に出ようとしたが、モアレムがそれを呼び止めて言った。

「ケルビンはどこへ?」

「は! 団長は視察に出ておりまして、お帰りは明日になるかと」

「なるほど。それではお前が同席しなさい」

「は!」

シュリエルの隣りにモアレムが座りその隣にサーヘルが座った。その対面にアリストが座って俺が隣に、そしてモーリス先生の順に座る。俺の後ろにシャーミリアとファントムとアナミスが立った。

一番最初に口を開いたのはアリストだった。

「モアレム殿にお聞きしたい! なぜあなたは投獄されなければならなかったのです?」

「聞いておらぬのですかな?」

そう言ってモレアムがチラリとシュリエルを見た。だがシュリエルはどこか一点を見つめているだけ。洗脳の時間をかけていないため、上手くセット出来ておらず何とかしないといけない。と思っていたらシュリエルが口を開いた。

「あなたから説明なさい」

「は、はい。分かりました…がよろしいのですか? 私は許されたのでしょうか?」

「許します」

「わかりました」

そしてモレアムがアリストに向かって話し出した。

「実は…このような事を言うと不敬だと思われるかもしれません。もしかすると今度は辺境伯様に投獄されてしまうやもしれません」

「まず言ってみてくれ」

「…わかりました。実はここの所、中央がおかしいと感じておるのです」

「中央。王宮と言いたいのかな?」

「申し訳ございません! 不敬を承知でお話しております。ですがおかしいものはおかしいのです」

「続けて」

「は! まずは王宮との公的な交流が途絶えました。商業的な一般市民の繋がりはあるのですが、税の徴収や軍に対する要請、そしてこちらから送った書簡の返答も無くなりました」

「なるほど」

「そして一方的に兵士が送られてきて、このシュラスコの都市ではその兵士たちが我が物顔でうろついているのです」

「私達の出迎えはサーヘル殿だったが?」

「その通りです。領兵はきちんと仕事をこなしているのです。ようはその兵士たちが仕事をせんのですよ。まるで不要になった兵士を送り付けられてきているような。サーヘルたちが真面目に仕事をしているのにです」

「そうなのか?」

アリストがサーヘルに尋ねると、サーヘルが深くうなずいた。

「状況は?」

アリストがサーヘルにもう一度尋ねるが、サーヘルはシュリエルを見て黙ってしまった。

「恐れ入ります辺境伯様。サーヘルはシュリエル様の指示に従うのみ、むしろシュリエル様が何か気変わりされたのでは? そのおかげで私は釈放されたのではありませんか?」

「実はな、モアレム殿。そうではないのだ」

「そうではない?」

「私がここへ来たのは、モアレム殿と同じ理由なのだよ。王宮と音信不通になり、異常が起きているのではないかと推測しているのだ」

「辺境伯様も?」

「そうだ」

‥‥‥

室内に沈黙が訪れる。そして、沈黙ののちにモアレムが言う。

「やはり何かがおかしいのですね?」

「そうだ。私は恐らくこの国は機能していない状態にあると思っている」

「やはり…」

「もしかすると、モアレム殿はその事をシュリエルに進言したと言う事かな?」

「左様です。すぐに使節団を送るなり、調査をするなりすべきではないかと。ですが王には何か考えがあるのだとおっしゃり、そして王宮から送られて来た兵もきちんと仕事をしているというのです」

なるほど。モアレムも違和感を感じているんだ。それにモアレムはいち早く気が付いてシュリエルに進言したのだろう。

「王都から来た兵らはどこに?」

「西の砦に陣取っており、好き勝手やっているようです」

「そいつは良くない。なぜシュリエルはそれを放っておいたのだろう?」

するとモアレムはまたチラリとシュリエルの方を向いて言った。

「あの、私からはそれ以上は申し上げられません」

するとシュリエルの口から次の言葉が発せられる。

「あなたから説明してください」

「いいのですか? お嬢様の聞きたくない話ですよ?」

「いいです」

‥‥‥

モアレムはシュリエルの異変に微妙に気づき始めているのか、少しシュリエルをじっと見つめていた。だがシュリエルはそれを無視するようにまっすぐ前を見ている。諦めたようにモアレムが話す。

「私からお嬢様に忠告したのは、働かない兵なら王都へ突っ返してやればよいと申しました」

「だが、そうはしなかった?」

「はい。それをやれば…」

モアレムがチラリとシュリエルを見るが何の反応もない。

「それをやれば?」

「それをやれば、王に嫌われてしまうと。そうすれば自分はこの領の領主ではいられなくなると、だから事を荒立てたくないのだとおっしゃいました」

シュリエルは無表情でじっと前を見つめている。どこか怒ったような表情にも見えて、それを見たモアレムはすぐに訂正して謝った。

「申し訳ございません! お嬢様! もちろんお嬢様の気持ちは察しております!」

モアレムはまた投獄されてしまうのを避けたいらしい。だがシュリエルは何も言わなかった。そしてそのやり取りをみたアリストが何かを察したように言った。

「シュリエルが私を都市に入れたくなかったのは、その為か…」

するとそれを耳にしたモアレムが驚いた顔をする。

「辺境伯様を都市に入れなかった?」

「そうだ。私は一度拒まれている。だが…」

今度はアリストが俺をチラリと見ながら、モアレムに言った。

「シュリエルが、どうやら気変わりをしたようなので入れたのだ」

「それは大変なご無礼を! 辺境伯様に対してそのような事を!」

「いいんだ。どうやらそれより事は深刻なようだな。まずはその王都から来た騎士達の事を確認せねばなるまい」

「そのようですな…」

アリストとモアレムの話がある程度まとまった。もちろん他国の俺達の前でそんなことを話す違和感はあるだろうが、モアレムは地位のあるアリストがいる事で話をしてくれたらしい。既にアリストはこちら陣営に加わっているのだが、今はまだその事を話さない方が良いと思ったのだろう。ならば俺もそれにのって話を進めて行こうと思うのだった。