軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第790話 新たな存在の気配

「どうなさるおつもりですか?」

ギレザムが俺に聞いてくる。いつもはただ俺に従っているギレザムが、珍しく聞いて来たのには 理由(ワケ) があった。なぜならば俺達はこれまで極力、都市の人間を救う事を優先しつつ戦って来た。だが今回、俺は普通に正面から迫って、降伏勧告を出す作戦を打ち出したからだ。

「正面突破で良いかと思っている」

今、俺達がいるのは、湖の先にある湿地帯のマングローブ林のような所。夜の間に都市ウルブスの周辺は全て調査済みで、シャーミリアとギレザムが都市を調査した結果、デモンの気配はしなかった。朝になってから近隣に忍び俺がドローンを飛ばして都市を調査したが、民は普通の暮らしを営んでいた。アラリリスにいたようなドゥムヤ人形のような奴もいない。市民が普通に暮らし、どうやら流通も普通に行われているようだ。

「私奴も、それでよろしいかと思っております」

シャーミリアが肯定するとギレザムが言った。

「我もそれで良いとは思うのですが、ラウル様のこれまでの作戦から考えると…少し方向性が違うのかと思っものですから」

確かにギレザムが疑問に思うのもおかしくはない。俺は無関係だったアラリリス国をも少ない犠牲で救ってみせた。今回もそのようにすると思ったのだろう。

「アラリリス国を少ない犠牲で救ったのには訳があるが、モエニタの小都市ウルブスを救うに足る理由が俺には無いからだ」

「そうですか、ではやりましょう」

ギレザムは特に理由を聞かなかった。恐らく俺の理由には特に興味を示していないのだ。俺がそうすると決めたらそれに従う男だ。

「拠点に戻って話したら、皆も賛成するだろうか?」

「ご主人様のお決めになった事は、間違いなどございません」

「それは我も同じ気持ちですね。ラウル様がそう決めたのならすぐに実行すべきかと」

「わかった。それじゃあいったん拠点に戻って夜を待つことにする」

「「は!」」

《ハイ!》

俺とシャーミリアとギレザム、そしてファントムはマングローブの湿地帯を平地を走るように走り抜けていく。ここは人目に付くことなく行動出来る場所だった。

「しかし、ここは水生生物が多いな」

「はい。ラウル様、恐らくはこの水面から生えた細木が影響しているのでしょう」

「小さい魚や動物が隠れやすい環境だからな。それを餌にする魔獣も多く生息しているようだし」

「ゴーグが、美味そう美味そう言ってましたよ」

「ははは。ウルブスを手に入れたら、漁でもしてみるか?」

「セイラが居れば効率が良さそうです」

「だな」

そして俺達はマングローブ林のような所を抜けて、湿地帯を駆け抜けて仲間達がいる拠点に戻って来たのだった。既にテントから人間達も魔人も出ていて、俺達の帰りを待っていたようだ。

「カティ、マリア。よく眠れたかい?」

「ありがとうございます。魔力も回復しております」

「私も問題ございません」

「それは良かった。リュウインシオンとヘオジュエはどうかな?」

「私達も問題ございません。しっかりとお休みさせていただきました」

「十分です」

「よし。それじゃあこれから作戦を話す。皆集まってくれ!」

「「「「「はい!」」」」」

そうして俺達は焚火跡の周りに集まった。俺は水のペットボトルを召喚し全員に配っていく。それを開けて皆が口をつけた後、俺はゆっくりと話し出すのだった。

「今回は正面突破を試みてみる」

「そうなのですか?」

一番最初にそこにひっかかったのは、カトリーヌだった。恐らくこれまで通りに慎重にやっていくと思っていたのだろう。

「そうだ」

「ウルブスには転移魔法陣やインフェルノ、デモン召喚魔法陣などは無かったと言う事ですか?」

「いや、調べていない」

「調べていない? それでは発動してしまうのでございませんか?」

「その可能性もある」

「それでは…」

カトリーヌが少々言葉を失ってしまったようだ。俺はその返事を聞き終わる前に話し出した。

「リュウインシオンとヘオジュエがいるところで言うのはなんなんだが、アラリリス国は俺の打算で救った」

するとリュウインシオンとヘオジュエが、少しだけピクリと反応したようだった。だが俺達が全面的に支援して救ってきたので、特に文句を言うわけではないようだ。

「打算でございますか?」

カトリーヌがチラリと、リュウインシオンとヘオジュエを見てから言う。彼女なりに気を使っているのだろう。俺はそれも構わずに続けた。

「俺がアラリリス国を救ったのは、シン国の隣りだからだよ」

「なるほどそう言う事でしたか」

カトリーヌは今の一言で納得したようだ。ここがナスタリア家の凄い所だ。恐らくは政治的な判断も含めて納得したのだろう。

「俺はシン国にお世話になった。一宿一飯の恩義がある。そして彼らは我が魔人国と同盟関係にある。同盟国の脅威になるものは排除するのは当然の事だ。アラリリス国に魔が居れば、もちろんそれを討伐はするが、それ以上の事をやったのは戦後を見据えての事だよ」

「承知しております」

カトリーヌは一言だけそう言った。そしてアラリリス国のリュウインシオンとヘオジュエ以外は、今の言葉で納得したらしい。いや…もともと納得していたと言ったほうが良いだろう。そしてリュウインシオンもヘオジュエも納得せざるを得ないはずだ。

「モエニタ国は我が魔人国の利にはならない。それはこの広大な世界の正反対の地にあるからだ。恐らく戦後の貿易や交流などはほとんどないだろう。それに我々にこの国を救う義理立ては無い」

皆が静かに聞いている。俺はさらに続けた。

「そしてもう一つ理由がある。それはこちらの国では民が普通に生きていたからだ。恐らくは北の大陸の民を大量に殺して、こちらの民を生かしているのには理由があると考えた」

「それはどうしてですか?」

堪らずリュウインシオンが俺に尋ねて来る。流石に過去に貿易などの交流のある国の事を、合理的に処理されるのは抵抗があるようだ。

「恐らくだが、信仰だよ」

「信仰でございますか?」

「そうだ。北の大陸ではアトム神への信仰が、シン国やアラリリス国では虹蛇への信仰、魔人国では魔神に対する信仰があり、二カルス大森林にすむ者達には精霊神への信仰がある。遥か北の龍国では龍神への信仰があるんだよ」

「それとこの国との関係は?」

「恐らくこの国にも、俺達と似た存在がいるんじゃないかと思っている。デモンではなく何か信仰の対象があるんじゃないか? それはリュウインシオン達が分かっているだろう?」

実はここまでの仮説は、モーリス先生の受け売りだった。モーリス先生とじっくり話し合い、俺はこの結論に導いてもらったのだ。それをここに来て街を見て確証した。モーリス先生の仮説通りだったので、俺はもう疑う事は無かった。

「神…」

「そうだ。実はアラリリスの生き残った書庫を見つけたモーリス先生が、その内容を確認し我々以外の神の存在をいる事を突き止めた」

「それがどう関係してくるのです?」

「我々は、自分の種族からの信仰によって力を得ていると考えている。俺が魔人達から力をもらうようにね」

俺がそう言うと、シャーミリアとギレザム、ガザム、ゴーグ、ルフラ、マキーナがとても誇らしい顔をした。俺の力になっている事を喜んでいるのだ。そして彼らの心がそれを強く思うと、俺にさらに強い魔力が注ぎ込むのが分かる。

「その信仰してくれる対象が居なくなると、力が無くなると?」

「そう言う事だ。まあこの話…ほとんどモーリス先生の受け売りなんだけどね。だけど全部、辻褄があってくるんだよ」

「そう言う事でしたか…」

「そうだ」

リュウインシオンもヘオジュエもそれ以上は何も言ってこなかった。砂漠の周辺国家では、虹蛇を崇拝しておりその意識は高い。そのおかげでグレースの力は強いのだ。龍国の龍たちも全面的に、オージェを信じでこちらに送り込んできているし、エミルはエルフの里が完全バックアップしている。だが、北の大陸では弱って来た人の信仰により、アトム神の力が弱くなってしまった。更にそこに付け込んだアブドゥルが率いるデモン軍によって、人間を大量に削減されてしまった。

「そしてこちらの神の尻尾が見えて来たんだ」

「そう言う事でしたか」

「ああ。そしてモーリス先生が見つけた神は。火神だ」

「…それは聞いた事がございます」

「そうなのか? 教えてくれ」

「幼いころに聞いたお話ですが、モエニタには火の国に通ずる道があると。そこには神が住んでおり、その神は一万年に一度姿を現すのだそうです」

「一万年に…一度ね…」

どこかで聞いた話だ。一万年に一度の周期で、俺達も全員が受体する事となった。恐らくは同じタイミングで、火神とやらも受体したのかもしれなかった。北では五大神と言われていたが、それは北での言い伝えであり、それ以上神が居ないとは言われていない。

前世でも、大量に神様はいた。この世界にも多くの神が存在していても不思議では無かった。むしろ、この世界の方がいろんな神がいそうな雰囲気だ。

「それで、モエニタ国の人間を生かしていると?」

「そうだ。恐らくはアラリリスも、虹蛇から火神への信仰を取り込む為に生かされていたのだと思う」

「…そうですか…」

リュウインシオンとヘオジュエは、あまりに突拍子もない話に唖然としている。だがこれは恐らく、確信をついていると思って良い。そしてモーリス先生が火神から結びつけたのが、火の一族だ。俺達を襲った火の一族は、恐らく火神を守るための守護者だと推測される。

「恐らく自分の信者を無駄に殺す事は無いだろう。そして北の殺戮は意図して行われた可能性がある。それは神々の力を削るための企みだったように思えるんだ」

「はい」

「だから、今回は正攻法で行ってみるのさ。もしかしたら間違いかもしれないけど、のんびり構えていたら、敵を捕まえ損ねるかもしれない。今回の作戦に踏み切るのは立地にも関係しているんだ。ヘオジュエが書いてくれた地図によって、この作戦を発動する事となったのさ」

「私のですか?」

「そうだ。いろいろな情報をくれたおかげで、攻略方法が思いついた。それをこれから実行しようと思っている」

「わかりました」

そして俺は、今日の夜。太陽が落ちてからの作戦を皆に伝えるのだった。