軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第772話 新時代のはじまり

「凄い事になりましたね」

「そうじゃな」

「これですべての拠点が連結されましたよ」

「よもや、このような事が出来るようになるとはのう」

「各地の武器の補給が、簡単に出来るようになりました」

「ふむ」

砂漠基地の中央に建設された建屋内で、俺とモーリス先生が永久転移魔法陣を見ながら話をしていた。転移魔法陣は全て厳重に管理をし、堅牢な施設の中に数個ずつ設置している。ファートリア西部基地と二カルス大森林基地及び砂漠基地を中心とし、そこからユークリットやグラドラムなど各基地へと転移する事が出来る。元の魔人軍隊長格や副隊長格が魔法陣の管理をし、魔法陣を設置する建物もかなり厳重に構築した。

「魔人軍が管理するからええがのう…普通の人間はろくなことに使わんじゃろうて」

「先生、僕はろくでもない事に使おうと思ってますよ?」

「ろくでもない事とはいえ貿易じゃろ?それは有意義な事じゃと思うぞ」

「そうですかね?」

「ふむ。北の物を南へ南の物を北へ運ぶ事は、恐らく思いっきり関税をかけても各国に大きな利益が出るじゃろうて」

「世界が魔人国を基点として文明が発達していきそうな気がしてます」

「それは想像に容易いのう」

「はい。まあ…節度を持って手綱を引いて行きたいですね」

「そうじゃな」

俺達は量産された魔導エンジンを大陸各地の基地に運び込み、すべての基地に転移魔法陣を設置したのだった。今はまだ俺が武器の補充を容易くするために使われているが、将来的に各国の特産品を基地を通して運び込むことを考えているのだった。

「あと緊急時に魔導エンジンの動力路を切れるのがいいですね。最初は魔導エンジンを止める事は出来ないと聞いていたので、これがあれば緊急時に転移魔法陣を閉じる事が出来ます」

「それについてはバルムスたちのおかげじゃ、元より魔力遮断の素材を研究していたそうじゃ」

「バルムスとデイジーさん、ミーシャの研究チームは本当に恐ろしいです。この世の全てを覆してしまうような能力がありますよね」

「間違いなく、わしより重要な保護対象じゃて」

俺がいつもモーリス先生を最重要人物と言っているので、その矛先を他に向けたいようだった。

「…いえ、まあ順位をつけたいとは思いませんが、モーリス先生の方が重要度は高いと思っていますよ」

「わしなぞ、大したことないのじゃ。ただ大量に知識を蓄えた老いぼれじゃよ」

モーリス先生はいつも謙遜するが、間違いなく最優先保護対象だと思っている。今は無きファートリア王都の最下層にあった、前世と繋がる召喚魔法陣を解析できるのはモーリス先生しかいない。

俺は目の前で白く輝く転移魔法陣を見ながら思う。前世と繋がる道があるとすれば、この世界だけじゃなく向こうの世界も大混乱に陥るだろう。世界が繋がってしまえば、更に大規模な戦争が起きるのは目に見えている。それだけにこちらの世界の資源は、向こうの世界から見れば未知数で、各国は喉から手が出るほど欲しがるだろう。

それとは別にもう一つの目的もある。

「先生、僕は彼らを返してあげたいんですよね」

「そうじゃったな」

「研究が実を結ぶ事を期待しています」

俺が言っているのはエドハイラと他の四人だ。彼らはこの世界からすれば異物なので、いずれ世界が彼らを吐き出すために動き出すのではないかという不安がある。言ってみれば彼らは、歪のようなものなのではないかと思うのだ。前世とのつながりが、この戦争の発端になったような気がしてならないのだった。

「そうじゃな。異端の者がおれば、再び先だってのファートリア神聖国のような事件が起きるじゃろう。それが世界規模となれば、恐らくこの世は滅びるじゃろうて」

さすがに先生も理解しているようだ。そのためにも封印するのではなく使って理解を深め、万が一に備えなければならないのだ。そのためにも日常的に転移魔法陣を使う事には意味がある。

「デモンの召喚についても同じことが言えますよね?」

「そのとおりじゃ。あれはラウル達がおった世界ではなく、また違う世界に通じておるようじゃな。そこから呼び出されたのがデモンと思って間違いないじゃろ」

「原理的にはやはり、前世とつなぐのは魔法陣の二重がけでしょうかね?」

「そういう類の物かもしれんのう。じゃが召喚魔法だからと同じようなものとは限らんのじゃ。三重がけかもしれんし、全く違う法則に基づいたものかもしれん」

「…わかりました。とにかくこの世界を危機に陥れた、前世とつなぐ召喚魔法陣とデモン召喚魔法陣は封印したい所です。禁術とされた理由が分かります」

「うむ。わしが生きている間に、謎が解ければ良いのじゃが」

確かにモーリス先生はいいお年だ。万が一先生が生きている間に解析できなかったら、誰が出来るというのだろう?

「モーリス先生」

「なんじゃ?ラウル」

「先生にお弟子さんはいないのですか?」

「ふむ…、ユークリット王宮魔導士に優秀なやつがおったがのう、そ奴は先の大戦で行方が分からんようになってしもうた。恐らくはファートリアとバルギウス連合が襲来した時に、戦って死んだと見るのが正しいのじゃ」

なるほど。そう言えばユークリット王都の王宮魔導士は全て殺されたんだった。その中にモーリス先生の弟子が居てもおかしくはない。

「優秀だったのですか?」

「そうじゃな、わしに比べたらずっと若いのに凄く魔法に精通しておった。あれを天才というのであろうな」

「そうですか…残念です。すみません、不躾な事を聞いてしまいました」

「全然大丈夫じゃ。その他大勢の魔導士も騎士も死んだのじゃし、今更悔やんだところで帰ってはこんしのう」

「はい…」

待てよ…。もしかしたらファートリア神聖国の魔導士には、モーリス先生の弟子になれるような素質のあるものがいたかもしれない。俺とアナミスで魂核を変えてしまったから、その素質を潰してしまった可能性もある。ひょっとしたら俺は取り返しのつかない事をしたのかも…

俺の返事を区切りとしてモーリス先生が振り向く。

「じゃあ行くかの」

モーリス先生が言い、俺は転移魔法陣のあった部屋を出る。すると外の通路には進化ライカンが立っていた。部屋の外はむき出しコンクリートの無機質な廊下が伸びており、その先にも重厚なドアがある。俺は進化ライカンに声をかける。

「じゃ、鍵をかけてくれ」

「はい」

ガッシャン!ドアを閉めて進化ライカンがカギをかけた。そして俺達は通路の先に行ってもう一つのドアを開ける。すると中の進化ライカンはそのままドアの前で立ち止まり、外には進化ダークエルフが立っていた。

「次を頼む」

「おう」

進化ライカンが進化ダークエルフに申し送りをし、進化ダークエルフがそのドアに鍵をかけた。彼らは交代制で転移魔法陣の見張りについているのだった。進化ダークエルフの後を歩き、もう一つのドアから俺達が外に出ると、今度は進化オーガと進化オークが二人で立っていた。

「次を頼む」

「「おう」」

外の二人が挨拶をし、中に進化ダークエルフを残してドアを閉め鍵を閉めた。

「これだけ厳重にやれば大丈夫じゃろう、さすがはラウルの配下達じゃ。徹底しておる」

「これだけは系譜の力に感謝です」

「一糸乱れぬ行動伝達は凄いものがあるのじゃ」

「はい」

これは俺の教育の賜物でも何でもない。俺が隊長格か副隊長格の魔人に命令を下すと、俺の系譜を伝播してその下の魔人達が規律よく動く事が出来るのだ。確かに人間じゃこうはいかないし、現場に裏切者がでたらすべてが機能しなくなる恐れもある。転移魔法陣にはかなり厳重な管理が必要だと思っているが、魔人こそが番人として最適だろうと思う。

「では我々はここまでで」

俺達が建物の入り口に誘導されて、二人の魔人に外に出された。そして中から鍵をかけられる。

「安心じゃのう」

「まあ僕とモーリス先生だから顔パスのようなものですが、他の者が来たら簡単に開ける事はしないようになってます。僕の指示で直属の配下達が開けるくらいですかね」

「そのくらいの方がええじゃろ」

「はい」

そして俺達が更に廊下を歩いて行くと、通路には数名の番兵が立っていた。俺とモーリス先生が歩いて行くと皆が会釈をして俺達を通す。更に外への入り口付近には数名の魔人がいた。俺達が来たのを確認して、その扉を開けるとまた扉の外に進化ライカンが二人居た。俺達が出てくると二人が会釈をする。そして再び扉が閉められる。

「先生…利便性が…ないですね」

「いや、そのくらいの方がええじゃろうて。慎重なくらいでちょうどええのじゃ」

「ですが、特産を運搬する際は開けっ放しにするとかになりそうですよ」

「うむ…そうじゃな。特産品を通す時が、一番警戒せねばならんようになりそうじゃな」

「はい」

「まあ、手間暇がかかる分、関税をたっぷりとったらええじゃろ」

「ですね」

俺達が外に出ると強い日差しが照り付けていた。基地内には更に増えた魔人達が右往左往している。ここに居た精鋭の大半がアラリリス前線基地に行ってしまったので、ここは一次進化魔人達が多くなった。その為、魔人の要素の濃いものが多い。

「過ごしやすくなったものじゃ」

先生があたりを見回して言う。

「はい。アラリリスの真似をして地下水を流しています」

アラリリスでは地下水を流して都市を冷やしていた。俺はそれにヒントを得て、ドワーフ達に同じ構造を作らせたのだった。それによって多少暑さは感じるものの、乾燥や灼熱地獄からは解放されたのだった。砂漠基地特有の砂ぼこりも上がらなくなり、視界が良くなったのもプラスだ。

「超小型の転移魔法陣で、海から水を転移させていますから。水があったまってきたら小型魔法陣を開閉するだけで、温水を放流する事が出来るのは便利です」

「面白い事を考えたもんじゃ」

「モーリス先生。僕はここに塩田を作って海水から塩を作るつもりなんです。それをシン国とアラリリス国に輸出します」

「確かに!いいことじゃ。…シン国もアラリリスも、味、薄いしの…」

「はい。僕があげた岩塩を流通はさせずに、保管しているそうなんですよ。他国の偉い人が来た時の料理に使うとかで、僕が考えていた状態にはなっていないんです」

「ふむ。美味いもんの為には労力を惜しまずじゃな!わしもそれには同意するのじゃ」

「ですよね!」

そう。未来の国の利益ももちろん大事だが、各国の料理事情も改善したいと思っている。特に塩は未だに貴重で、大陸中で不足していた。そのため俺は海水転移をさせて魔人軍基地で塩を生成する予定だった。

俺とモーリス先生が見ている先で、既に塩田予定地の工事を開始している魔人達が居た。彼らがそれを完成させたらすぐに、塩の生成を行うように指示を出している。

「ご苦労さん」

「は!」

俺とモーリス先生が一つの建物に着くと、その入り口にも番兵がいた。そのまま入り口を通ろうとすると、魔人がドアを開けてくれた。建物の中に入ると想像よりひんやりとしていた。

「涼しいのう」

「モーリス先生のおかげですよ」

「いや、あれはバルムスたちのおかげじゃの。わしは知恵を貸しただけじゃ」

「氷魔法を発生させる杖に、魔導エンジンで魔力を流してあちこちに置いてますからね。魔人達には必要ないかもしれませんが、彼女らにはいるんです」

「うむ」

そして俺達が建物の奥に入る。

「兄さん!」

…いつの間にかお兄ちゃん!が兄さん!になっている悲しさは、ここでは触れないでおこう。

「アウロラ!いい子にしてたか」

「えーっと、デイジーさんとミーシャからお薬の事を教えてもらってた!」

薬の事か…、マッドサイエンティストにならなければいいが。

最近はアウロラの為に皆で勉強を教えているのだが、不思議なものをたくさん教わっている。イオナ母さんからは草木の栽培方法や魔獣の躾と餌やり、マリアからは体術と料理、デイジーとミーシャからは薬品の知識や素材の知識、モーリス先生からは魔法の授業を受けている。極めつけはカトリーヌからの貴族社会での生き方についてだ。

一体みんなはアウロラを何にするつもりなのだろう?

「あら、ラウル。私たちはいつアラリリスに行けるのかしら?」

イオナ母さんが聞いてくる。アラリリス王都奪還から既に二カ月を経て、彼女をまだアラリリスには連れて行っていない。一度ヘリでリュウインシオンとヘオジュエを連れて来て、挨拶を交わしたっきりで、それからイオナはずっとアラリリスに行きたがっている。リュウインシオン達からアラリリスの事を聞いて、ぜひ訪れてみたいと言っていた。

「もう少し先だよ母さん。アラリリス魔人基地もかなり完成に近づいてるし、今は更に南に魔人軍たちが偵察に出てるからね。安全が確保出来たら、ぜひアウロラと一緒に行こう」

「行きたい!」

アウロラが俺の言葉を聞いて飛びついて来る。

「安全になったら行こうな」

「うーん兄さん…そんなに守ってもらわなくても、危ないかどうか私がわかるのに」

アウロラが言う。アウロラには予知能力や神託があり、それがほとんど的中するのだ。

「まあもうすぐさ」

「わかったー!」

アウロラの中身は女子校生のはずだが…元のアトム神の影響なのか天真爛漫さがある。そして、それはアウロラだから可愛い。

うん。

俺は平和になったらマイクロ波兵器を駆使して、アウロラにもっとたくさんの信者を増やしてやろうと思うのだった。