軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第72話 ゴブリン先輩

ゴブリンとの戦闘訓練が始まってから7日が過ぎた。

いまだに、ティラに棒の先をかすらせることすらできていない。どうしようもないくらい俊敏で、目で追っていてはダメだった。

休憩中に俺がギレザムに聞いてみた。

「ギル、ゴブリンってこんなに素早くて強いんだけど、どうして大陸では弱い魔物に属されているんだい?」

「ああ、ラウル様。この者たちが特殊だからですよ。他の強い魔人達に鍛えられてこんな風になっただけです。」

「そうなんだ。」

「あと本来、大陸のゴブリンの怖さは群れをなして人をさらい、喰らったり犯したりすることですから、こんな心根のいいゴブリンはいないかもしれません。」

「そうなんだ。やはり環境が大事ってことだな・・」

「大陸のゴブリンはケダモノ以下です。」

「まあ、人間に見つかればすぐ殺されるしな。」

ゴブリンは本来はもっと下卑た存在らしい。しかし、そうなったのは人間からの迫害のせいとも考えられる。

「そもそも群れて人を襲わなければ、生きていけない弱い種族なのだろうね」

「そうですね。人間の元で生きるにはそうせざるを得ないでしょう。」

ギレザムも俺と同じことを考えているようだ。

前世は平和な日本に住んでいたため、紛争地帯の事などはニュースでしか知りえなかった。ミリタリーマニアだったこともあって、武器や兵器にばかり目を奪われていたが、難民の事、攻撃した側の理由、攻撃されて報復する側の理由など深く考えた事はなかったかもしれない。その環境や人間関係が人格を形成し、その人々が集まってできたのが町であり国だ。そこに住んでいる以上、環境に影響されてしまうのは仕方のないことだった。

「ティラやマカ、ナタ、タピ、クレ、と話をしていると純粋で全く世を恨んだりもしていない。このグラウス国での常識が全てなのだろうね。ルゼミア王がどんな素晴らしい導きをしているのかを知りたいものだよ。」

「ええ、そうですね。我らは義の為にガルドジン様について行きましたが、ルゼミア王と話してみると、とても素晴らしい人でした。ラウル様を狙っていたのは自分の元に連れてきて、ガルドジン様と一緒に暮らすためという・・子供のような発想でしたけどね。」

「まったくだ・・そんな理由ならそうと最初から分かっていれば、もう少し苦労することなくここまでこれたかもしれないのに。」

「おかげでシャーミリアから、我らが倒されかけました。」

「しかし、ギル。俺達はシャーミリアの眷属を何千人も殺したぞ・・」

「そうですね。それについては申し訳なく思います。」

うーん、これも難しい問題だ。だって自分のしもべを数千人も殺されたんだからシャーミリアだって怒って当然なんだけど・・いきなり俺の従順なしもべになっちまった。本来はヴァンパイアが、街人をゾンビに変えた事は許されない事だと思うが、逆に俺達がシャーミリアのしもべをその何十倍も滅ぼしてしまった事で、それを責める事もできなくなってしまった。

「俺がこれからやろうとしている、自分の住んでいた世界を取り戻すって事は、正しい事なんだろうか?」

「わかりません。分かりませんが我らはラウル様について行くだけです。」

「いばらの道になりそうだ。」

「そうですね。」

「それにしても・・俺は弱いな。」

「そんなことは・・」

「いや、ここまでの道のりではもう少し戦えたと思うんだが・・」

「まあ、確かにそうかもしれません。」

俺は魔人と訓練を始めてから気づいた事がある。オークとの雪中行軍やゴブリンとの戦闘訓練では、俺は少し発達した人間の子供くらいの能力しかないという事だ。まあ・・人間の年相応ってところだ。これまでの戦闘経験からもう少しいけると思っていたが、まったく使い物にならなかった。おそらく俺の元始の魔人の能力が発揮されるには、何か条件があるようだった。

「えっと・・」

異常な身体能力の向上が発動したときの事を考えてみる。

敵兵に待ち伏せされて土砂降りの中戦った時。レッドベアーと死闘を繰り広げた時。追手が来た町を脱出する時に兵士を殺害した時。大量のヴァンパイアとの死闘を繰り広げた時。レッドヴェノムバイパーと戦った時。そして最近ではグラドラム戦の時。

いままでの事を考えてみると、その条件がおぼろげに見えてくる。

「ギレザム、どうやら俺は敵と認識した相手との殺し合いのときに、魔人の力が発動されていると思うんだ。」

「殺し合いですか?」

「ああ、さらに召喚した兵器を扱っているときは、さらに著しい身体強化がなされるような気がするんだよ。」

「そうでした。強力な武器を使ってヴァンパイアと戦った時に、元始の魔人として目覚められました。レッドヴェノムバイパーの森では、ものすごい破壊力で車を壊した後、我らについてこれる速さで走っておりました。グラドラム戦で暗殺行動をしている時は、我々と同じような隠密行動が出来ていましたし。人間離れした動きであったと思います。」

「そうなんだよ。武器を召喚して使った後にすごい力が使えていた。」

「確かに、すべてラウル様がお出しになった武器で、破壊行動をした時に身体が強化されているようですね。」

「しかし、そんなあとでもあの強力な大男の騎士には、全く歯が立たなかったけどな。」

「やはり体技が何も備わっていないからでしょうね。」

「となればやはり身体強化が図られるときに備えて、技を磨いておくべきだと思うんだよ。」

「その通りかと思われます。」

「まずはティラに1回でも棒を当てなくちゃ。」

「はい、それではそろそろ行きますか?」

休憩を終えてティラと向かい合う。ゴブリンは俺より背丈が小さい。的が小さい分当てづらいというのもあるが、スピードが俺の数倍のスピードだ。動きを目で追っていては全く捉えられる気がしない。

「では来てください!」

ティラに掛け声をかけられ、棒を振り回して追い回す。

「ふっ」

「くっ!」

「ほっ!」

半刻以上ティラを追い続けた。しかしこの7日間、毎日10時間くらい追い回しているが、まったくかすらないのだ。フェイントを使ってもみた、不意打ちのような作戦も取った、足を踏んで当てようとしたが足をそらされた。なんだか・・俺の動きがすべて読まれているような気がするのだ。

「休憩しよう。」

また半刻がたったあたりでギレザムが組手を止める。

「ふうふう。」

「アルガルド様」

「なんだ?」

ティラが俺に話しかけてくる。

「このままだとかなりの時間を要してしまうと思います。私から少しの教えをよろしいですか?」

「ああ頼む。」

「これまでの練習で、反射的に動くことが出来るようになってきているようです。」

「うん・・」

「私たちは体が小さく力が弱いぶん、相手の力を利用していますが、もう一つやっている事があります。」

「それは?」

「相手をよく見る事です。」

「よく見る?」

いや・・よく見て当てているつもりなんだがな。見ているところに振り下ろすと、すでにいなくなってるんだもの・・

「はい、相手の肉の動き、目の動き、どちらの音を集中して聞いているか、そして動きのクセなどです。」

「えっ!ティラはそんなことを見て戦っているのかい?」

「はい。」

「そんなこと、見れるものなのかい?」

「修練のおかげですが、自分の速さをあげる事で少しの余力が生まれます。その時に相手の全てをよく見るのです。」

「魔人はそんなことやってるのか?」

「いえ・・オーガや、ミノスなどはもっと凄い事をやっています。もちろん相手の動きも見ますが、気配や、気の向き・・意識が向かっている方向すらも見ています。」

「ギル?そうなのか?」

「はい。」

「それじゃ、普通に目で追っていては無理ってことだな。」

そうか・・俺の動きは全て読まれていたのか。それじゃ当たるわけがないよな、後だしじゃんけんで負け続けているようなもんだもんな。

「私の動きを見て、次の行動を予測してみてはいかがでしょうか?」

「予測か・・やってみよう。」

「ではやってみましょう!」

俺はまたティラとの追いかけっこを始めた。棒を振り回しながらも相手をよく観察するように心がけてみる。ブンブンと振り回しながらも、誰もいないところにスッと棒を振り下ろす。全く見当違いの方向に棒を振り降ろしていた。またブンブンと追いかけまわし予測して、スッと棒を振り下ろしてみる・・しかしまた全く見当違いの方向に棒を降ろしていた。おかしい!予測しているつもりなんだけど全く見当違いの方向にいっているようだ。

「いいですね。」

「ええっ??よかった?見当違いのところに打ってるみたいだけど・・」

するごギレザムが横から補足するように言う。

「相手にあたるようには打ち込めていませんが、動きを封じています。」

「そうなの?」

「はい。」

ティラもそうだと肯定する。そうか・・予測して行動を抑制していたのか・・という事はこの延長で努力していけばいいという事なのか?

「ラウル様が打つ速度が早ければ、間違いなくかすっていますよ。」

ギレザムが言う。

そうか・・やはり体技がダメなんだな。もっと体を鍛えないとこれより早く動くことは出来ない、さらに棒を振り下ろす事もできない。きっとティラには俺の振る棒がスローモーションに見えているのだろう。

「あの・・アルガルド様。もう少し棒のふりを早くできませんか?」

「すまない・・これで精いっぱいなんだ。」

「そうですか。ならば棒をもっと短くしましょう。」

カラン

俺が渡されたのは40センチに満たない棒だった。

「これでやりましょう。」

「わかった。」

またさっきのようにブンブン振り回す作業が続く、もう7日目だそろそろ当たってくれるとうれしいんだがな・・相手の動きをよく観察し打ち込み作業をくりかえす。しかしこれは練習で・・相手が攻撃を当ててこない事が前提の攻撃だ。普通の戦闘ならこんな戦い方はあり得ない。真剣勝負ならおれは1000回は死んでる。サバゲのように死ぬことはない訓練だからこんな練習になっているが、ミノスとゴーグの練習死合いは本当の武器で戦っていた。

死合いのつもりで!!

「ふっ!!」

集中力を最大限に高め、相手を観察し打ち込んだ時だった。

コン!

ティラが左腕で俺の棒を受けていた。やっとだ!やっと受け身を取らせることができた!

「アルガルド様!やりましたよ!」

「ラウル様、お見事です!」

ティラとギレザムにめっちゃ褒められたが・・なんか出来の悪いお坊ちゃんみたいで嫌だな。

しかしだ!7日毎日10時間かけて振り続けやっととらえた。俺の中では大収穫だった。

「グラムともっと剣術の練習をしておけばよかったなあ・・」

しみじみと思った。

魔人の体術はなにげに理論的だったりする。グラドラムで遭遇したあの騎士たちのようなものに勝つためにも魔人の武技、体術を身につけねばならない。

ただ、ゴブリンのティラが的確に、俺が出来ない事を掌握して指導してくれるため、昨日出来なかった事が、今日できるようになっているのはありがたかった。

師匠と呼ばせていただこう。心の中で。