軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第715話 アウロラの秘め事

俺はイオナたちがいる宿舎に入り、すぐにアウロラの部屋に向かった。

コンコン!

……

部屋のドアをノックするが返事は無かった。どうやらアウロラは留守のようだ。外は熱いので、この屋敷のどこかにいるとは思うが一体どこに行ったのだろう?

宿舎内は涼しく快適だが、それには理由があった。

「これもドワーフの技術なんだよな…恐れ入るよ」

ドワーフが外壁に細工をしており、熱気が内部に入らないようになっているのだとか。北のグラドラムの建物は防寒処理がなされているらしいが、ここの外壁は防熱対策が施されているらしい。

「静かだな」

廊下を歩いているが誰ともすれ違わない。

「こっちか」

俺が廊下を曲がって進んでいくと、奥の方から話し声が聞こえた。どうやらバタバタと何かをしているらしい。

「あ、ラウル様」

扉が開いている部屋を覗くと、中からカトリーヌが声をかけて来る。

「あ、カティ!アウロラ知らないかい?」

「すみません。先ほどまで叔母様と居たのですが、どこかに行ってしまいました」

部屋の奥ではイオナが洗濯をしていた。貴族だというのに昔から洗濯が好きで、よくグラム父さんの服も自分で洗っていた。普通の貴族ならばメイドに任せるものだが、イオナは全部自分でやるのだった。

「ラウルどうしたの」

「母さん、邪魔してごめんね」

「いいのよ。それより、これ見てちょうだい!」

イオナが壁から出た取っ手を引くと、その下にある筒から水が出て来た。取っ手を戻すと水が止まる。水道のような仕組みが出来ているようだ。

「便利だね!」

「井戸が無い分、この壁の裏に貯水槽があってそこから出るそうよ。グレース君が時おり水を補給してくれるわ」

「そうなんですね。ドワーフが作ったんですね?」

「そうみたいね」

魔人国の生活水準は日増しに高まっているようだ。この世界のどこよりも近代的だろう。

「ところで、アウロラを探しているんですが知りませんか?」

「それなら、異世界の方々と一緒にいるんじゃないかしら?ファートリアからこのかた、ずっと彼女らといるわ。特にハイラさんといる事が多いみたい」

「そうなんですね。この館内ですかね?」

「ええ。たぶん二階の西のハイラさんの部屋よ」

「わかりました」

俺は階段を上がり二階の西側へ向かった。この宿舎はかなり広くて部屋数もあり、本来は兵舎として使う予定らしいのだが、今はイオナや異世界人たちの貸し切りとなっている。

コンコン!

「はい」

部屋の中からはホウジョウマコが出て来た。

「アウロラはいる?」

「おります」

「じゃまするよ」

「はい」

俺が部屋の中に入って行くと、奥のテーブルにアウロラとエドハイラ、キチョウカナデが座っている。テーブルの上にティーカップが並んでおり、どうやら女子会を開いているようだった。

「お兄ちゃん」

アウロラが走って俺の胸元へと飛び込んで来た。

「ごめんなぁ、お兄ちゃん忙しくてなかなか会ってやれなくて」

「ううん!邪魔しちゃいけないと思って我慢してるよ」

「そうかそうか!偉いな!みんなでお茶会をしていたのか?」

「うん」

俺が来たことで、エドハイラとキチョウカナデも立ち上がって礼をする。

「アウロラの相手をしてくれてありがとう」

「いえ。アウロラちゃんにグラドラムの事をいろいろ聞いてたんですよ!海とかもあるって!」

ハイラが楽しそうに話してくる。

「そういえば、ハイラをグラドラムに連れて行くって言ってたやつ叶ってないな。ファートリアからそのままこっちに来ちゃったからな」

「早く行ってみたいです」

「早く戦いを終わらせないとな」

「そうですね」

とりあえず皆に座るように促す。すると俺の前にもティーカップが用意されて、女子会に参加する事になってしまった。実際何を話したらいいのか話題に困る。

「えっと、何でこんなところに?」

ハイラが俺に尋ねて来た。俺はアウロラを見て言う。

「アウロラに会いにね。でも女子会の邪魔をしたようだ」

「そんなことないよね?アウロラちゃん」

「うん…」

アウロラの表情が少し陰った。女子たちには分からないようだが、俺には分かる!アウロラは何らかの想いを抱いている。今まで気づいてやれなくてごめん!お兄ちゃんは悪い奴だ!

「えっと、アウロラ。この会が終わったあとで、お兄ちゃんとお話ししようか?」

「あら。アウロラちゃん!せっかくお兄ちゃんが来てくれたんだし、お話したらいいんじゃない?また今度お話ししましょう」

エドハイラが気を使ってくれた。アウロラはエドハイラを見つめてニッコリ笑い返す。

「そうだね!また今度!」

「そうね!」

「みんなも!」

「ええ、そうね」

「また遊びましょ」

キチョウカナデとホウジョウマコも声をそろえる。ハイラがアウロラの頭を撫でて微笑んだ。

「良かったな!アウロラ、お姉ちゃんたちに遊んでもらって」

「う、うん!」

「じゃあまた遊んでやってくれ!」

そう言って俺はお茶を一気に飲み干した。三人の異世界人に見送られ俺とアウロラが部屋を出る。扉を出たところで振り向くと、アウロラが三人の女子に手を振った。すると異世界人の三人はアウロラに手を振り返して言う。

「「「バイバーイ」」」

「バイバイ」

俺とアウロラが手を繋いで廊下を歩いて行く。

「どこでお話ししようか?」

「お部屋で!」

「わかった」

俺はそのままアウロラの部屋に来た。魔人が作っただけあって殺風景な部屋だった。イオナとアウロラが寝所としても使っているらしい。ベットの他に、テーブルがあり椅子も置いてあった。

「座るか?」

コクリとアウロラが頷いた。二人でテーブルをはさんで向かい合って座る。

「ギレザムから聞いたんだよ。なんか俺に話があるんだろ?」

静かにコクリと頷いた。そしてアウロラは、じっと俺の目を見る。

うん。可愛い。

「お兄ちゃん」

「ん?」

「お兄ちゃんに相談があるの」

「なんでも言ってごらん」

「これから、敵と戦うんだよね?」

えっと想定外の質問だ。

「そうだよ。恐らくは逃げた敵と戦う事になる。デモンはこの大陸のどこにいるかは分かっていないが、想定されるのは更に南じゃないかって」

「それは…間違ってないよ」

「え?」

いきなりアウロラは俺が言った事を肯定してきた。アウロラの眼差しからも分かるが、確信をもって話している。

「あの…天啓だよ」

「敵の居場所が分かるって言うのかい?」

「そう。天がそう告げてきたの、お兄ちゃんが戦うべき相手は南にいる」

これは…アトム神の能力なのだろうか?

「そうなんだな。アウロラはアトム神を受体したからな、そういう事が分かっても不思議じゃない。具体的にどんな事か分かるか?」

「ごめんなさい。少ししかわからないのだけど、真の敵は南にいるの。そしてそれを倒すためには…」

アウロラが何かをためらうように言葉を切った。

「倒すためには?」

「私を連れて行って」

「ダメだ」

つい食い気味に言ってしまった。頭ごなしに言った事で、アウロラの表情が曇った。

「ごめん。…戦場はとても危険なんだ。アウロラに万が一の事があったら大変だろ?だからここで待っていて欲しい」

「お兄ちゃん。それは違うの、私が行かないとお兄ちゃんたちは勝てないわ」

「?」

アウロラが戦力になるとは思えない。むしろ俺はアウロラがいる事で、全力が出せない可能性だってある。

「お兄ちゃんはきっと、『私が来たら全力が出せない』…そう思っているのよね?」

俺の心が分かるとでも言うのだろうか?

「まあ、そんなところだ」

「やっぱり」

「アウロラは分かるのか?俺が考えている事を?」

「ううん、違うわ。いずれそんなことを言うんじゃないかって、そう言う気がするの」

「予知…みたいなものか?」

「わからない。でも受体する前はそんなことは無かった。いきなり言葉が私の中に入って来たって言うか…自分では考えていないのに気が付くようになったって言うか…」

「なるほどな、それを話したかったのか?」

「うん」

どうやらアウロラは、アトム神の能力が覚醒しつつあるようだ。前のアトム神も危険を察知したり予測して動くことが多かったようだが、どうやらアウロラにもその兆候が表れてきたようだ。そしてそのアウロラが、敵は南にいるという。また一緒に行かないと俺達は敵に勝てないと言った。

「なぜアウロラが一緒じゃないと勝てないんだ?」

「わからない。ただそう思うだけなの」

「そうか…」

アウロラが言う事を踏まえ、神の四人を含めて話す必要がありそうだ。アウロラはまだ何かを言いたそうにしている。

「言ってくれ」

「あのね…」

「なんだ」

「あの異世界の人達に、私が異世界から転生した事を知られたくないの」

「彼女らに何かがあるのか?まさかデモンに魅了されているとか?」

「ううん!違うの!そうじゃない!ただ、伝えて欲しくないだけ。お母さんにもマリアにもカトリーヌにもそう言ってるわ、だからお兄ちゃんも黙っててほしい」

「分かった。理由を聞かない方がいいか?」

「…お兄ちゃんになら…ううん。今は言わない、時が来たら教えてあげる」

「わかった」

どうやらアウロラには、なにか話したくない事があるようだった。ならば俺は無理に聞く事はしない。

「ありがとうお兄ちゃん」

「話したくなったらいつでも話してくれ」

「わかった」

転生したことを秘密にしたい理由は分からないが、話をした事でアウロラは少し気楽になったようだ。もしかしたら、ファートリア神聖国からずっと胸につかえていたのかもしれない。

「あと、何かあるかい?」

「ううん。お願いしたいのはそれだけよ。でも戦いに行くときは、絶対に私を連れて行かなければならないわ。それだけは間違いなく言える」

「わかった。とにかく、オージェ達と話をさせてくれ」

「うん」

「気が済んだか?」

アウロラはにっこりと笑って俺の手を握る。小さな手からは強い意志が伝わって来た。

「じゃあ、お兄ちゃんは仕事に行くよ」

「わかった。頑張ってね」

「お兄ちゃんと話したい時は、直属の魔人誰に伝えても、すぐに伝わるようになっているからね」

「うん」

「よし!」

俺はアウロラを抱きかかえて部屋を出た。

「お姉ちゃんたちの所にもどるかい?」

「ううん」

アウロラは首を振った。

「なら母さん達の所に行こう」

「うん」

俺はアウロラを抱きかかえたまま、イオナたちが居た部屋へと向かうのだった。部屋に戻るとイオナとカトリーヌが洗濯物を籠にいれて運び出すところだった。

「あら、アウロラ。お兄ちゃんに抱っこされていいわね」

「うん!」

俺がアウロラを床に下ろすと、アウロラがイオナのもとへと走っていく。前世の記憶が蘇ったとはいえ、血のつながった母親はやはり母なのだ。バフッとイオナのスカートに顔をうずめさせた。

「母さん。それ俺が持つよ」

「え?重いわよ」

「大丈夫だ」

イオナとカトリーヌが持っていた籠を床に置いたので、俺はその籠を担いだ。イオナが重いと言っていたので、勢いよく担いだが思ったより軽かった。やはりイオナもカトリーヌもか弱い女性なのだ。

「悪いわね」

「物を運ぶときくらい、魔人兵に頼んだらいいのに」

「いいのよ。皆、出兵に向けて大変なのだから」

「すまないね」

「何を謝ってるの?当たり前の事じゃない」

「うん」

そして俺は洗濯物がいっぱい詰まった籠を持ち、イオナたちについて行く。イオナは階段を上り二階の部屋へと向かった。南側にあるその部屋は特殊な部屋だった。どうやら洗濯物を干すための部屋になっているようだ。

「外に出しておくと砂だらけになるでしょ」

そう言ってイオナが部屋の真ん中に行く。俺もついて中に入ると、そこはかなり気温が高かった。明るいので天井を見あげると空が見えた。

「天井が…」

「あれは、グラスよ。透明になっていて光を取り込むことができるの。この部屋は暑いでしょう?壁から空気を取り込むのだけど砂は入らない構造になっているそうよ。とにかく洗濯物がすぐに乾くわ」

恐るべしドワーフの技術。俺の現代兵器からヒントを得て、いろんなものを作り出しているようだ。この南の地でも快適に生きていける機能が満載の館だった。イオナとカトリーヌが洗濯物を干し始めた。

「カトリーヌも手伝ってるんだね」

「教えていただいているの。私も将来ラウル様のお洋服を洗ってあげたいの」

そうっすか…それはありがたいっす。

「じゃ、俺は仕事に戻るよ」

「頑張ってね」

「無理をなさらずに」

イオナとカトリーヌが手を振る。するとアウロラが俺に近づいてきて言う。

「お兄ちゃん!くれぐれも彼女らには内緒にね!特にハイラには!」

念を押された。どうしても異世界から転生したことを知られたくはないらしい。俺は深くうなずいてアウロラの頭をポンポンと撫でる。

「わかってる」

そう言って俺は部屋を出るのだった。