軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第712話 基地の視察

俺とギレザムが魔人軍基地内を視察していた。ファートリア聖都での防衛戦を経験し、俺は基地の防衛機能に対していろいろと考えるようになったのだ。この基地に不備が無いか?規模は適切か?などの細かいチェックを繰り返している。

「ギレザム。未だ敵は攻めて来てはいないんだよな?」

「そうですね、斥候も出しておりますが敵の気配はございません。アラリリスまで足を伸ばしますか?」

「それはまだ先だな」

「わかりました」

この基地を設営する際に指揮をしていたのはギレザムだった。俺はギレザムにいろいろと質問をしながら歩く。歩けばあちこちで魔人から声をかけられるので、基地に対しての不安や要望などを、その都度聞いているが今一ついい改善案は出てこない。

「城壁はある程度は有効なんだがな、敵は空から攻めて来るか、何らかの手段を使って城壁をものともせずに侵入してくるんだ」

「そうなのですね?」

「ああ、防衛戦は初めてだったからな。転移魔法を使うやつが居たのもあって、易々と侵入を許してしまったんだよ」

「それは聞き及んでおります。転移魔法は厄介だったようですね」

「ああ。もし同じ能力の奴が出現した時、何か対策は無いかと思ってな。あとは翼竜にのって空から侵入してきやがった。航空戦力は俺達だけの十八番というわけではなさそうだ」

「空ですか…」

俺とギレザムが城壁に囲まれた基地の空を見上げる。ギラギラした太陽が、これでもかっと言わんばかりに基地の石畳を焼いてくる。陽炎が立って遠くがゆらゆらとしていた。

「暑いな」

俺が額の汗をぬぐいながら言う。

「そうですか?」

ギレザムは涼しげな顔をしている。コイツは寒くても暑くても全く関係がないみたいだ。とにかくタフで、極限の状況でも大きな怪我をしないのだった。

「たしか、ファートリア聖都の東にある都市に騎士や魔法使いが立てこもった時、巨大な結界を都市全体に張り巡らせていたんだよ。だがあれには魔法使いが数千人と必要になる」

「ここに魔法使いはおりません」

「だな。俺の身内くらいのもんだ」

「はい」

身内とはモーリス先生やイオナたちの事だった。この基地にはイオナを含め俺の身内を全員連れてきている。ファートリア聖都へ敵の侵入を許したことを考えれば、同じ要領でグラドラムも攻め込まれる可能性がある。それならば俺の近くに置いておいたほうが安全だと判断したのだった。

「彼女らをここに置くなら、防衛に関しては完璧を期したいと思っているんだよ」

「重々承知しております」

「後方でシン国への滞在も考えたが、むしろシン国の首都よりこの基地の方が彼女らには安全だろう」

「その通りかと思います」

ここには俺の直属が多く滞在している。ファートリアに置いて来たマカ、クレ、ナタと、シン国に滞在させているタピを除いた全員を集めていた。更に二カルス大森林基地を経由して来た、二次進化を経た魔人も大勢駐留している。今の所、ここより安全な所は無いんじゃないかと思えた。

その為、基地内には居住区がたくさんあり、食堂なども完備しているのだった。シン国から『まかないさん』と呼ばれる食事を作る人たちが派遣されており、十分な環境が作られていた。

そんな話をしていると、建物の向こう側から何やら話し声が聞こえてくる。

「なんだ?」

「補給の時間ですね」

「飯か。皆足りてるのかな?」

「はい。シン国からは防衛をする代わりとして、かなりの物資を補給していただいているのと、森からは多くの魔獣が取れるのです。それも北大陸の森とは比較にならないほどです」

「魔獣が?」

「はい。砂漠へのラウル様の攻撃によって瘴気の大地となってから、そこを追われた凶悪な魔獣が森や山岳地帯へと流れるようになりました。そこを追われた魔獣が押し出されて、こちらに流れてきたのを我々が捕獲しているのです」

「それ…俺のせいじゃないか…」

「まあ…そうかもしれません」

ギレザムは嘘がつけないので正直に報告してくる。俺のせいで森や山岳地帯の魔獣たちが脅かされているらしい。完全に環境破壊をしてしまったようだ。

「他に弊害は?」

「進化魔人が東西の森に簡易の拠点を作り、見張らねばならなくなりました。そうしなければシン国内に魔獣が大量に侵入してくるでしょう」

「あちゃちゃちゃ…カゲヨシ将軍に何と言ったらいいのか…」

「いえ。まだ気が付いていません。我々が対処しておりますので」

「ということは、ずっと守り続けなければならないという事になるな」

「そうなります。シン国の大ババ様のお話では、虹蛇様が真のお力を発揮すると砂漠との境の結界と同じものが作れるそうなのですが、それを東西線に設置していただければ…」

「あの結界は虹蛇の作ったものだったな。グレースが思い出せば作れるだろうけど、その記憶の戻りは百年もかかるんだっけ?それまではずっと守り続ける必要があるか…もしくは根本を解決するか…」

「はい。ただし良い点もございまして、押し出されてくる魔獣はシン国に卸しているので外貨は稼げると思います」

ギレザムが国営の利になるような事も考えてくれているらしい。

「じゃあずっと守ってた方が得策かもな。魔人で対処しきれない事はあるか?」

「ラウル様の兵器をもってすれば、造作もありません」

「了解だ」

建物の角を曲がるとそこには大勢の魔人たちがおり、これから食事を摂るために並んでいるらしい。皆が建物のカウンターみたいなところで食事を受け取って、その辺に座って食べているようだった。

ガヤガヤとしていたが、俺とギレザムが来ると一人が食事をやめて直立で挨拶をしてくる。

「ラウル様!ギレザム様!何か御用でございますか!」

一人が挨拶をした事で、そこにいた数百人が一斉に食器を置いて立ち上がり俺達に向いて挨拶をする。

「ああすまん!何か不自由が無いかと思って、視察をしているところだ」

俺が言う。

「は!それでは…」

魔人達が俺の前に整列をしそうになったので、俺は手を上げてそれを止める。わざわざ食事を中断してまで聞くような事は無い。

「食事を続けてくれ!君らは時間で動いているのだろう?無駄な時間を割く必要はない!」

俺がそう言うと、皆が集まるのを途中で止めて直立で答える。

「「「「「「は!」」」」」」

一斉に元居た場所まで戻って食事を始めるのだった。

「ギレザム。こいつら何で外で食ってんだ?」

この人数では食堂に入りきらないからだろうか…

「はい。有事が起きた時すぐに戦闘態勢に入れるようにしてます」

「えっと。常に全員がその状態?食事の時も?」

「はい、夜間も同じようにしております。二十四時間途切れることなく全員がそのように」

「睡眠はとれているんだよな?」

「もちろんです。元より人間とは体の在り方が違いますので、一日ごとではありませんが交代制で眠らせています。有事の際はすぐに動けるように訓練をしております」

うーん。ブラックすぎないか?それだと全く気の休まる時が無い気がする。

「休みってあるの?」

「休み?」

「一日何もしなくていい日とか」

「ございません」

それはどうなんだ?魔人は人間とは違うから何とも言えないが、休みを取らなくて百パーセント力を発揮できるものなのだろうか?

「休み入れた方がいいんじゃない?」

「お言葉ですが、必要ないかと思われます」

「どうして?」

「元よりここの魔人は、ルゼミア魔人軍の正規兵が多いのです。彼らは極寒の土地や洞窟内でずっとこのような生活をしていました。この爽快な天候のもとで生活できるだけでも、物凄く嬉しいようなのです。そして彼らは系譜でラウル様を常に感じております。それだけで気持ちは癒されており、活力を得ているからです」

宗教じゃん…

てか…そうか。アトム神だって信仰がたくさん集まると力が増すと言っていたしな。魔人達の俺への絶対的な信仰があるから、俺の魔力は無尽蔵に湧いてくるんだもんな。やはり戦争が終わるまではこの状態をキープで良さそうだ。

「まかないさん達に、挨拶をしていきたいんだがいいか?」

「よろしいかと思います」

俺は魔人たちの列を抜けて厨房内に入って行くのだった。するとそこには忙しそうに料理人たちが走り回っていた。あちこちで怒声のような活気のある声が聞こえ、ひっきりなしに調理の音が聞こえてくる。もわりと熱気があり、外よりもかなり暑いようだった。よくこんなところで料理をし続けていられるもんだ。

「凄いな」

「彼らはよくやっております」

「まかないさんってのは、住み込みか?」

「それはそうなのですが、百名が常に駐留しておりまして、十日に一度交代要員の入れ替えが来ます。そうして彼らはシン国へ戻って普通の生活をし、また十日後にここに戻ってくるを繰り返しているのです」

「ギレザムが、そうさせているのか?」

「いえ。カゲヨシ将軍がそのようにと提案をしてきました」

どうやらカゲヨシ将軍は、よほど俺に恩を売りたいらしい。

「近いうちに、礼をしに行かなきゃならないな」

「はい」

すると一人の恰幅のいい、優しそうなおばちゃんが声をかけて来た。

「総大将!お昼かい!」

総大将とはギレザムの事だ。

「いや視察だ」

「そうかいそうかい。その人は誰だい?」

「こちらは我の主、魔王軍の総司令官であるラウル様だ」

「え!えええええええ!」

おばちゃんがめっちゃ驚いているが、俺はその事で厨房に迷惑をかけたくなかった。

「しー!しー!いいんですよ。おばちゃん!せっかくみんな一生懸命やっているんだから、内緒にしてください!」

「そういうわけには!」

「本当にそーっとしてください!」

「で、ですが…」

「いいんですいいんです。俺達はもう行きますんで」

「は、はあ…」

「それにしてもいい匂いがしますね。本当に美味しそうな匂いだ」

どちらかというと北大陸の西洋風な食事の匂いではなく、醤油のような和の煮込みのような臭いが漂っていた。半日ずっと視察していたので、腹が減って来た。

「いえいえいえいえ!魔人の王子様にご用意するような飯ではございませんよ!」

おばちゃんは恐縮したように言った。俺の事を物凄く偉い人だと思い込んでいるらしい。

「そんなことはないよ。こんなうまそうな飯を食っている魔人達は幸せです。本当にありがとう」

俺がおばちゃんに頭を下げた。

「だめですだめです!こんな下賤の者に頭なんか下げちゃあ!」

おばちゃんがめっちゃ恐縮している。

「トメさん。ラウル様はこういう御方なんですよ」

ギレザムが笑いながら、トメと呼ばれたまかないのおばちゃんに言う。するとおばちゃんは驚いたような顔をして俺を見つめる。

「とっても偉い人なのに、珍しいねえ」

「ホントに気を使わないでくれ。そして俺はお世辞言わない、本当に美味そうだから美味そうだと言ったんだ」

「…ありがとうございます…」

ペコリとトメが頭を下げた。

「じゃあ…」

俺がそう言って、話を終わらせて外に出ようとするとトメが俺を引き留める。

「まってください!それじゃあ、ぜひここの料理を食べてみて!」

「え?」

「そして味に何か問題があれば言っていただきたいんです。だってここの連中と来たら、何を食べても美味いという。本当に口に合わない物はないかと思うんですよ!」

なるほど。それも視察の一環と言えば一環だ。魔人達の食事がどういうものか、掌握しておく必要はありそうだ。

「じゃあ…並んでる魔人たちの後ろに並ぶよ」

「えっ?」

「先に並んでいる人がいるんだからその後さ」

トメは更にポカンとする。

「いやいやいや、魔人の王子様をお待たせしちゃいけない。すぐに用意させます!」

「だめだめ。それこそだめ!それに俺は並んでいる魔人達に話を聞きたいしね」

ボケっとしているおばちゃんにギレザムが言う。

「そういうわけだ。我とラウル様は外で待たせてもらうよ」

「なんてえ王子様だろう…まったく偉そうじゃない」

「だから偉くないんだって。一生懸命料理を作ってる皆さんと同じ立場だよ」

「魔人さん達があなたに従う理由が分かる気がするねぇ…」

魔人は系譜の傘下に入っているから俺に従っているだけなのだが…決して俺の素行が良いから従っているわけじゃない。と思う。

「じゃ、楽しみにしてる」

俺とギレザムはおばちゃんにそう告げて、魔人達が並ぶ一番後方へと歩いて行くのだった。

「あの人は?」

「ここを取り仕切っているトメさんです。カゲヨシ将軍御用達の料理人とかで、わざわざ遣わしてくださっているようです」

「うっわ。魔人贅沢してんねぇー」

「ありがたいです」

さっそく一番後ろに並ぶと魔人達が俺達に直立で挨拶をするが、俺はそれをしないようにジェスチャーをする。そして俺は近くの魔人にさっそく話しかけるのだった。

基地の防衛も大切だが、いざという時は魔人の力が最重要となる。その魔人がいつも臨戦態勢でいられるためには、皆の健康も重要だ。俺は魔人たちがこの生活に不満が無いかなどの状況を調べる為に、有意義な雑談を始めるのだった。