軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第688話 敵の方から近づいて来る

サイナス枢機卿の申し出に俺はすぐ答えが出せなかった。守るべき人間の優先順位を考えるならNOだが勝率を高めるならGOだ。念話が使えず連携が出来ない事が、かなり不利に働いている。

異世界から転移してくる人間を全て無視すれば、外からの殲滅戦となるだけなんだが…さすがにそんなことはできない…だが放置すれば、転移してくる人間が敵に獲られ、これからの戦いに大きな影を落とすだろう。自軍に更なる甚大な被害を及ぼす事はまちがいない。

「枢機卿、この都市内にはどんな敵が紛れ込んでいるかわかりません。デモンならずとも、異世界の魔法使いは脅威なのです。やはり隠れていて頂いた方がよろしいかと」

「こちらにも魔法使いはおるが?」

まあ確かにそうなんだが圧倒的に質が違う。恐らくは情報量の差によるイメージの違いが原因だ。

「異世界人はこちらで確認されていないような力を使う者がおります。こちらの魔法使いでは対応しきれません。出来るとしたらモーリス先生くらいのものです」

「まったく!あのジジイはラウル君の大変な時に何をやっとるのじゃ!」

「私の指示で向こうに居てもらってます。アウロラを守ってもらわないと」

「あ、そうか…そりゃすまんかった」

「いえ、枢機卿の言いたいこともわかりますから」

「ラウル君は本当に物分かりが良くて可愛いのう」

サイナス枢機卿がとても優しそうな顔で笑う。どうやら俺はおじいちゃんウケするらしい、モーリス先生にも言われた事がある。

「では…」

俺が心を決めて伝えようとした時、サイナス枢機卿が遮るように言う。

「なら尚の事じゃ!ジジイがおらんのなら、ワシが命を賭してラウル君を守らねばならん」

「いえ!そのようなことは!」

「いいや、ラウル君はジジイの大切な孫じゃ。孫に何かあったらわしゃジジイに顔向けできんわい!わしが死んだ時は、お前の大事な孫を守ってやったとあの世から威張ってやるのじゃ!」

「枢機卿…」

「そしてこう伝えておくれ『大事な孫の窮地にそばにおらんでどうする?おしりぺーんぺん』とな」

戦闘では一番非力なサイナス枢機卿の言葉に涙が出そうになった。この人は本気で俺を助けたいと思っている。

「ラウル様、サイナス様の申し出を何卒お受け下さい」

カーライルがいつもよりさらにキリリとした表情で言う。

「カーライル…」

「大丈夫ですよ、ほら!」

カーライルが鎧の下から取り出したのは、竜人化薬と推進剤筒だった。

「いや。これはだめだ、人間の連続使用なんて試験してない。使ったら一発であの世行きかもしれないんだ」

「自分の主が命を賭して守りたい少年がいるんですから、従者が命を賭けない訳にはまいりませんよ」

「……」

なんてやつらだ。こんな得体の知れない魔人の王子の為にここまで言ってくれるとは…どうする…

「わかりました。その申し出をお受けいたしましょう。ですがひとつ約束していただけないでしょうか?」

「なんじゃ?」

「死にそうになる前に逃げてほしい」

「うーむ。わしらが先にか?」

「はい」

「それは出来ん相談じゃ、ラウル君も一緒に逃げるならお供しよう」

「…わかりました、ではよろしくお願いします。この周りの岩壁を爆破しますので、一度潜水艦の中へお入り下さい」

俺が潜水艦を指して言う。

「ふふっ、わかりやすいのう。お主は」

「まったくですね」

サイナス枢機卿とカーライルが顔を見合わせて笑う。

「…何がです?」

「お主、わしらをあの中に閉じ込める気じゃろ?」

バレてる…

「ラウル様。一度決めた騎士の覚悟を踏みにじってはいけません。私は私の誇りにかけてあなたを守るのです」

参った。この人達は本気で俺を守ろうとしている。デモンにでも出くわしたら瞬殺されるかもしれないのに…だが、これ以上この二人の顔に泥を塗る訳にはいかなかった。

「すみませんでした。枢機卿様、聖騎士様それでは一緒に戦って頂けますか?」

俺が手を差し伸べると二人が俺の手を掴む。

「もちろんじゃ!」

「他に選択肢などありません」

「わかりました」

「じゃが心残りは、ラウル君の顔が透明で見えんことよな」

「まったくです。最後にあの人懐っこい顔を見たかった」

今は顔を見せる訳にはいかない。俺の目頭が熱くなっているのがバレるじゃないか。透明でよかった。地獄のような戦いばかり見てきた乾き切った心に、水が染み渡るような気分だった。

「カーライル!これが最後ではないよ。枢機卿も必ず生き延びますので、その時いくらでも見てください」

「カールよその通りじゃぞ縁起でもない!」

「もうしわけございません」

カーライルが頭を下げた。すると潜水艦のハッチの方から声がかかる。

「ラウル様!この者はいかがなさいましょう!」

潜水艦の中から出てきたのは、意識の無い礼一郎に肩を貸した二人の騎士だった。

「コイツを置いて行くのは危険だ。俺たちが連れて行く」

「「は!」」

騎士はぐったりしている礼一郎をその場に寝かせた。

「全員を集めろ!」

「「は!」」

俺は潜水艦の中から出てきた魔人と人間兵達に、号令をかける。

「いいかお前たち!この都市内には次々と異世界人が召喚されて来ている。俺たちはそれを野放しには出来ない!いずれこの世界の脅威となるからだ!出現した異世界人に敵が接触する前に俺たちが保護するんだ!この枢機卿とカーライルが指揮をとって下さる。そしてこの二人を絶対に死なせるな!わかったか!」

「「「「「はい!」」」」」

「ではお二人とも準備はよろしいですか?」

「いつでも良い」

「ええ」

「まず都市内では光柱が輝き始めました、それが収まると異世界人が出現します。その異世界人らを敵より早く保護してほしいのです。彼らを敵に獲られればかなりの障害となるでしょう。また異世界人は良い者ばかりとは限りません。保護の際は十分注意するようにしてください。騎士たちはカーライルが指揮を、枢機卿は魔法使いを指揮して下さい」

「わかったのじゃ」

「わかりました」

「おそらく全員は保護出来ないかも知れません。異世界人でもダメなら『見切り』をつけて下さい」

二人が頷いた。

「では」

俺はさっき壁をぶち破る時に使った、M777榴弾砲に装填する砲弾を呼び出した。ルピアと一緒に装填作業をする。一気にトリガーとなるロープを引っ張った。ズドンという音と共に再び壁に穴が空いた。

「急いで!」

俺とルピアが穴のそばに立って、壁に空いた穴を出て行く枢機卿達を見送った。

「魔人たち!くれぐれも二人を頼んだぞ!」

「「「「「は!」」」」」

次々に都市内に出てゆく魔人と人間兵。

「大丈夫でしょうか?」

ルピアが言う。いつのまにかルピアの顔と体が浮き上がってきた。どうやら鏡面薬の効果が切れてしまったらしい。惜しかった、もう少し遅ければ二人に顔を見せることが出来たのに…

いや、生きてまた会えば良い。

俺が礼一郎を背に乗せて最後に壁穴をぬける。だがさっきのような新しい岩壁は出来なかった。あの時は、どうやら上空から狙われていたらしい。エミルが敵の気をひいてくれてるおかげで、地上への攻撃は止んだようだった。

「これで地上部隊の危険性が軽減されてくれるといいが」

「はい」

「まずはコイツだな」

体をかたむけて礼一郎を見る。

「ラウル様はなぜその者を捨て置かないのですか?」

「なんでだろうな、俺にもよくわかんない」

「ふふっ、ラウル様らしいですよね!」

ルピアがキラキラの笑顔で笑う。

「俺らしいか…。自分でもよくわからないよ、でもルピアが笑えば俺は俺でいられるような気がするな」

「私が笑えば?変なラウル様!」

ルピアは本来はこういう子だ。殺戮天使などという異名は似合わない。早くこんな戦争なんか終わらせて平和な社会にしてやりたい。俺達が穴を出て歩いているとマキーナとファントムがやって来た。

「ご主人様!」

「マキーナ!その子は?」

マキーナとファントムも鏡面薬の効果が切れており、ファントムが一人の少女を抱えていた。

「転移者です。敵の転移者に犯されそうになったところを助けました。また敵は不可視化の魔法を使っており、都市内に潜伏しておるようです。我々を攻撃した者は殺害しファントムに吸収させました」

マキーナが一気に報告をしてくる。

「よくやった」

「ありがとうございます。さらにではございますが、このままでは都市内の多くの光柱が発動するかと思われます」

「分かってる…。恐らく敵に魅了を使う者がいる、先にこちらが転移者に接触するように人間と魔人を総動員したんだが枢機卿達が心配だ」

「それならば早く終わらせるためにも、敵の本丸を叩かねばなりません」

「主犯格はいったいどこに…」

バグゥン!と何かが壊れたような音が響いてきた。

「なんだ?」

俺たちが一斉に音のする方を見て愕然とした。

「エミルが!」

空を飛ぶアパッチロングボウ戦闘ヘリが姿を現し、煙を噴いて回転しながら落下していくところだった。数匹のワイバーンが周りを取り囲んでいる。

「私が助けに!」

とマキーナが叫ぶ。だが墜落するはずのアパッチロングボウ戦闘ヘリに異変がおきる。ぼっふぅぅぅん!とその空に何かが飛び出てきた。まるで呼ばれて飛び出てジャジャーンって感じで。

「あれは…」

マキーナが驚いて呟いた。空に浮かんでいたのは超巨大な巨人だった。精霊神の分体が飛び出してきたのだ。

「あれはジンだ!」

ジンはエミルとケイナを手に空に浮いていた。中からジンの巨体が膨れ上がり、ヘリは粉々に飛び散って四散した。さらに驚いたことにジンの前には炎の人間が浮かんでいる。それは炎の精霊イフリートだった。

ボッボッボッと、ワイバーンに向けて火を放った。二匹のワイバーンが火に包まれ落ちていく。

「よし!これで挽回だ!」

ジンとイフリートなら敵を一掃してくれる!と俺が思ったのも束の間。ふあーあ!とジンが大きなあくびをした。

「えっ?」

ジンが少し退屈そうにきょろきょろとみている。

「そういえばあいつは…」

パピュン!という音を立ててイフリートもろともジンが消え去ってしまった。俺が慌てて双眼鏡を召喚して見てみる。すると銀のヤカンを持ったチビのジンが飛んでいた。どうやらエミルとケイナ、イフリートごと銀のヤカンに閉じ込めたようだ。最後に自分がそろりとヤカンに入って行く。

そして…シューンと流れ星のように、ヤカンはどこかへ飛び散ってしまったのだった。

「引きこもりだった…そして逃げた」

なんとなく戦いとは縁が無さそうな平和なヤツだとは思ったが、戦いが嫌いなのだろう。

いやいやいや!なのだろう…じゃない!あんなのエアバック代わりにしかならんじゃないか!てかエミルはどこ行った?

急な出来事に俺たちは唖然とした。

「まだ数匹います!」

マキーナがその周辺に飛んでいるワイバーンを指して言う。

「でも透明じゃないし!剥き出しですよ!」

ルピアの言う通り、聖都の上空には数匹のワイバーンがはっきり見えている。どうやらイフリートの攻撃で不可視化魔法を使うやつが落ちたらしい。

「見えるなら勝機はある!」

俺はすぐさま、M270A1 MLRS多連装ロケットシステム自走砲を召喚した。急いで狙いを定める。ウィィィィという機械音をあげながら、空中にいるワイバーンに狙いを定めた。バシュバシュバシュバシュと227mmロケット弾を、ワイバーンめがけて12弾全弾射出する。

ボン!ボボン!と数匹のワイバーンに命中して、ワイバーンが墜落していった。だがミサイルを撃った事でこちらの存在に気が付きワイバーンが飛翔してきた。双眼鏡で覗くと背に数人の人間を乗せているのが分かる。

「見つかりました」

「問題ない。この車両を捨てて建物に潜るぞ」

俺たちは建物から建物へと移動をはじめた。俺が置いてきた車両のあたりから爆発音が聞こえる。M270A1 MLRS多連装ロケットシステム自走砲を攻撃しているらしい。

「あいつらをなんとかする。敵の位置が分かれば迎撃は可能だ」

数匹のワイバーンが俺たちがいた車両のあたりを旋回していた。恐らく生き残りを探しているのだろう。俺は再びM270A1 MLRS多連装ロケットシステム自走砲を召喚し、ワイバーン達の側面にミサイルを一斉掃射した。ミサイルの集中砲火にたまらず落下していくワイバーン、乗っている魔法使い達も恐らく助かるまい。

「これなら地上の、人間と魔人混成部隊もなんとかなるんじゃないか?」

「ご主人様、あれを…」

マキーナが指差す方角の空を見て俺は愕然とする。

「マジか…くそだな」

その方角の空からはワイバーンの大群が押し寄せて来ていたのだった。あれに空中から魔法爆撃されたら、人間と魔人達は全滅してしまうだろう。

俺は急いで、M270A1 MLRS多連装ロケットシステム自走砲を数台召喚したのだった。

「マキーナ!ルピア!照準を合わせろ!急げよ!」

「「は!」」

俺も一台に飛びついてミサイルの照準を合わせ始める。照準を合わせているあいだに、だいぶ近づかれてしまった。三人で砲台をワイバーンの群れに向け終えた。

「撃て!」

三台のロケットランチャーが一斉に火を吹いた。ワイバーンに着弾して数匹が落ちて行くが、すり抜けた奴らが都市に到達した。それと同時に都市内に魔法攻撃を仕掛け始める。

「ちっ!」

舌打ちをして再び車両を召喚しようとした時だった。

バグン!俺の隣にいたファントムが飛んできた巨大な氷の槍を砕いた。その瞬間あたりに電気が走る。俺とルピアが感電してその場に倒れる。死ぬことは無かったが少し体が麻痺してしまった。恐らくは氷魔法に電撃を忍ばせていたのだろう。まったく器用なものだ。

「ファントム!」

ファントムが抱いていた、少女と礼一郎を地面に落とし俺に覆いかぶさった。どうやら少女もいまの電気で意識を無くしたらしい。

「ポーショ、ンを、かけ、ろ」

ビリビリ痺れてるが、何とか指示を出せた。ファントムがポーションを取り出して俺にかける。

「ご主人様!」

マキーナが俺のそばにしゃがむ。

「ま、マキーナ!攻撃して来たて、敵の…い、位置をわりだし、て、消せ!兵器の入れ替えだ!持っていたM240は廃棄しろ」

口が、麻痺してカタコトになるが、話しているうちに麻痺が取れて来た。

「は!」

そして俺が新たにM240中機関銃を召喚し、マキーナがバックパックごと装備した。

「俺は大丈夫だ!行け!」

シュ!とマキーナが消えた。

「ル、ルピア大丈夫か?」

「まだ少し痺れてます」

俺がルピアに這って近寄るが、俺たちを影が覆い尽くした。空を見ると、ひときわ大きなワイバーンがいた。

「みーつけたああ!」

ワイバーンの背に乗っていたのは、少女風デモンのバティンだった。そしてもう一人さらにみたことのないデモンらしきものもいた。

「お前が見つけたという敵はコレか?」

もう一人のデモンがバティンに訊ねている。

「はい!フー様!間違いないと思います!」

「先ほど走っていた者に似ておる」

「たぶんそれは偽物です!」

「まあ良い、コレを彼の方に献上すれば良いのだ。マルヴァズールなどに頼むから取り逃がす」

「ボクはお手柄ですか?」

「まあ、とり立ててやらんでもない」

「出来ればマルヴァズールより上に!」

なーにをごちゃごちゃ言ってんだ?おかげで痺れが取れたぜ。

俺は仰向けになり、ワイバーンの土手っ腹に召喚したFIM-92 スティンガーでミサイルを撃ち込むのだった。